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第五章 群雄
第百二十三話 信長と初対面
しおりを挟む翌朝になっての女性陣の俺を見る目が冷たい。
昨日の接待は俺が悪いのか?
俺が「いいではないか、いいではないか」
「いえいえ、おやめくださいお代官様
あれ~~~」 て遊びをしたいとでも言ったと思っているのか。
そもそも俺にはそんな願望はない……少しはあるかもしれないとも言えなくもないかもしれないかな~~とは思ったりしたりして………ごめんなさい、俺も健全な男ですし、ここに転生される前なら十分すぎるくらいの願望はありました。
しかし、ここで正直に申しますと、体が子供になってまだ精通前なので転生前ほど性欲はないようです。
過去の記憶があるために全くないわけじゃないですけど、あのような理不尽な扱いを受けるほどじゃないと思います。
断固抗議します。
と声を挙げて抗議できたらなんと最高なのでしょう。
今はただ嵐を過ぎるのを待ちます。
「空よ、どうした。
そんな端で黄昏て。」
俺を見た途端に滝川様は俺に声をかけてきた。
そのあと声を控えて俺にだけ聞こえるような声で聞いてきた。
「何があったのだ。
あちらのご婦人たちの俺を見る目が冷たいのだが、お前なにか悪さでもしたのか。」
「したのは、昨日の皆様です。
だいたい、子供相手の接待で女性をはべらすなんて、何を考えているのですか。
私が希望したように思われているようで、非常に機嫌が悪いのですよ。
滝川様にも原因があるのですから、どうにかしてください。
人生経験豊富な先輩として、お願いします。」
「よしわかった。
こういう時の対処法が、甲賀忍者の諸先輩達たちより受け継がれた秘伝がある。
ほかならぬお前だけに教えよう。
甲賀の秘伝だぞ、ありがたく受け取れ。」
「滝川様、もったいぶらずに教えてください。」
「それは、こちらに耳を貸せ、それはな『触らぬ神に祟りなし』だ。」
「は?」
「だから、こうと言われておる『止まぬ雨はない』とか『明けぬ夜はない』とかだ。
だから、彼女たちの機嫌が直るまではそっとしておくしかないというのだ
これ以外に手はないそうだ。
私もこれ以外は知らない。」
「なんですか~~~。
ダメダメじゃないですか。
も~~分かりましたよ。
それじゃ~仕事をしましょう。
今日、清須に連れて行って下さるはずでしたよね。」
「あ~それか、今朝方急に予定が変更になった。
清須ではなく那古野の政秀寺で丹羽様にお会いすることになった。」
「なんか急な話ですよね。
何かありましたか。」
「その殿が仰るには、斎藤方の動きが活発のようなのだ
小牧山ではなく清洲城下の丹羽様のお屋敷での面会を考えておったのだが、清須は斎藤の忍びがうるさいので、避けたほうが良さそうなのだ。
それなら空も寺関係とはかなり昵懇の間柄だし、宗派は違えど寺でならば周囲の目もごまかせよう
だいたい、お前は目立つのだよ。
子供が配下を従えて重臣の屋敷を訪ねるのなんて、目立ってもしょうがない。
その点、三蔵の衆の連中はとにかく色々な宗派の寺をこだわりなく訪ねているので、那古野の寺を訪ねても、今までの行動から外れていないので、斎藤方をごまかせそうなのだ。
それに、この寺は今は亡き平手殿の菩提を弔うために建立されたのだから、同じ重臣であった丹羽様が訪ねても不思議はない。
急遽、選んだにしては非常に都合が良い寺なのだ。
今日はそこに案内する。
それに那古野の方が清須より近いしな。」
熱田の街にある清須屋から那古野城下にある政秀寺までは、だいたい1里くらいか約4~5kmといった距離しかない。
子供の足でも、2時間あれば余裕で着く距離だ。
清須屋での朝食のあと、急がずに政秀寺に向かった。
尾張領内の道、特に幹線と思われるような道は非常によく整備されていた。
小さな小川などにはきちんと橋がかけられており、また、道も幅5~6mくらいでデコボコもなく非常に歩きやすかった。
信長という人物は、ここでも非常に優秀な人のようで、内政面でもよく行き届いているようだ。
道路を整備して物流の流れを盛んにして、領内に富を落とさせるような政策のようだ。
これは俺の考えと非常によく似ている。
俺は総合商社のようなことをやり始めてしまっているので、物も作るが基本物流を中心に稼いでいきたいとも思っていたのだ。
今は特に堺という最高のツテがある。
それになんといっても、今の日本いや世界中でも、小型艦においては我々の持つ船は最高の水準だ。
その船を使っての水運で商売していくのに、今の信長はある意味最高のお客さんとも言えそうだ。
今の信長は、購買意欲が旺盛で何より金を持っている。
ここで俺の提案を実現できれば、一挙に水運業が確立できそうだ。
これは頑張って丹羽様を口説き落とすしかないな。
そんなくだらないことを考えながら歩いていると、本当にあっという間に目的の政秀寺に着いた。
寺の境内に入ると、俺は非常に驚いた。
なんと山門脇にはお坊様と一緒に一人の身なりの良いお侍様が待っておられた。
「ここで御待ちでしたか、丹羽様。
まさかとは思いますがかなり待たれたのでは。」
「いや、俺のところの足軽大将の一人によく気の回るやつがおってな。
熱田からここまでの街道に物見を出してくれていてな、そちたちが着くほんの少し前に俺のところに報告があった。
ならば、そこの和尚と一緒に出迎えようではないかと待っていただけだ。
その方が三蔵の衆の頭である空殿か。
初めてお目にかかる。
わしはこの尾張の侍で織田弾正忠の家老をしている丹羽と申す。
以後よしなに。」
しまった~~~~。
目上の人に先を越された。
商人としては大失態だ。
しかし、この人腰の軽い人だな。
こんな人が、政の中心にいる尾張の民は幸せかもしれないな。
オッと、俺も挨拶挨拶。
「これは、知らぬとは言え、大変失礼しました。
たかが商人の私めに先にご挨拶を頂き申し訳ありませんでした。
丹羽様のおっしゃるとおり私は、となりの伊勢で商いをさせていただいております三蔵の衆のまとめ役をしております空と申します。
この度は私どものご提案を真摯に受け止めてもらい、丹羽様との面会まで叶うなんて、これ以上にない喜びです。
つきましては、私どもの商いの内容を説明させていただきたくよろしくお願いします。」
「これは驚いた。
本当に面白いお人だと、そこにいる一益に聞いておったのだが、身なりはお子のようだがその中身は侮れませんな。
こんなところでの立ち話もなんですし、何より中で殿が首を長くして待っておられるので、ご案内させてください。」
殿?
殿って誰だ。
丹羽様は織田勢の実質No.2かNo.3の位置を占める重臣だぞ。
その人が殿と呼ぶ人は信長しか思い浮かばないのだが、俺も一度は会いたかったが、まさかね~~~~。
俺は和尚様に連れられて奥に入っていった。
商売の話をすることになっているので、俺の連れとして張さんにはついてきてもらったのだが、残りの人には別室で接待を受けてもらうことになった。
寺の奥のこじんまりとした一室に通されると、あの人が信長様と思しき人が、きちんとした身なりで座っていた。
俺は、正直うつけと呼ばれていた頃の挿絵にある信長を想像していたのだが、ちょっと違ったのだが、よく見る肖像画に似ている人ではあった。
「ほ~~~、そちが空と申すのか。」
俺が部屋に入るとすぐに信長様より声がかかった。
俺は座るなり平伏しながら信長様のお声に応えた。
「お初にお目にかかります。
三蔵の衆の頭を努めております、空と申します。
以後お見知りおきをお願いします。」
よし、これで俺はお目見えを済ませたことになる。
もうこれで信長との面会は終わりかな。
「さて、いちいち礼儀作法のような面倒は省かせてもらうぞ。」
「は?」
俺は信長の話に間抜けな声を上げた。
俺の交渉相手は丹羽様じゃなかったっけ。
大体、丹羽様相手の交渉だって滝川様のご尽力と、織田勢が置かれている苦しい事情があるから実現したようなもので、いきなりありえないでしょう。
これは、あのくそじじいこと弾正様以来だな。
あの時だって本多様あっての異例づくしなのに。
もしかして、俺の勘違いかな。
この時代は、誰でもお偉いさんにも会える風通しの良い時代だったのかな。
令和の時代だって考えられないくらいなのに、後の江戸時代では絶対にないぞ。
しかし、相手が求めてきているのだから、格下になる俺には選択肢はないな。
「お前は、商売の話を俺にしに来たのではないのか。」
「いえ、いや、はい、でも……」
「え~~どっちなんだ。」
「あ、はい。
尾張の大名家に商売の話をしたく、丹羽様と面会を希望しましたが、正直弾正忠様とお会いするとは思ってもいませんでした。」
「そんなの、許可を出すのは俺だ。
いちいち誰かを通すと面倒だからな。
俺が聞いて判断すれば一度で済むだろう。
空は松永とも、そうしておるのではないんか。」
あらやだ、この人怖い。
俺と弾正様との関係を知っている。
だから俺に直接会うことにしたのだな。
この時代の諜報って本当に怖いな。
なんだか筒抜けのような気がしてきたぞ。
「はい、大和の弾正様とは昵懇のお付き合いをさせていただいております。
以前お世話になった本多様のご紹介以来、頻繁に通わせていただいておりました。
弾正忠様には良くご存知で、恐れ入りました。」
「え~~い、七面倒な。
だいたい子供らしくないぞ。
その言い回しはなんとかならないのか。」
「殿、それはいかがかと。」
「エイ、五郎左までもが最近そのような言い回しをしよる。
ま~いいか。
話が進まないから、先に進めるが、空の提案を申してみよ。」
それから俺は信長に堺までの定期船の話をして許可を求めた。
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