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第五章 群雄
第百二十四話 織田との商談
しおりを挟むそれからの話し合いは本当にサクサク進んだ。
とにかく信長は判断が早い。
良かれと思ったらすぐにOKを出す。
しかし、そうせい翁じゃないが、なんでもYesじゃないのだ。
少しでも疑問が有ると、ほんの些細なことまで質問してきて自身が納得するまで質問をやめない。
しかも同じ質問は絶対に繰り返さない、本当にタフネゴシエーターなのだ。
でも俺は嫌いじゃない。
うちにも同じタフネゴシエーターの張さんがいる。
信長さんは、女性でも権限を持つものとの話し合いを許している。
うちでは商売の件はほとんど張さん任せなので俺が張さんに聞いて交渉をはじめると、信長さんは俺を無視して直接張さんと話し合いを始めた。
ポルトガル船長の時とは違い、両者共にタフネゴシエーター同士の商談だ。
周りで見ていた丹羽様を初めとした織田の家臣達だけでなく、俺も正直青くなりかけた時もあったが、交渉は本当にスムーズに進んだ。
結果、当初の俺らの案に沿った形で月に4回程度の定期船の往来を約束した。
織田勢からは熱田に拠点となる場所として家を与えられ、そこに誰かを常駐させよという条件が付けられ、織田勢の要請がある場合に先の条件の月4回以外にも船をこちらが許す限りできるだけ出すという付帯事項まで付いた。
これは、あくまで大名家である織田家の要請に限るということなのだが、将来的にはどうなるかわからない。
こちらとしても船の方は作ればいいが人員の問題があるので早々には増便はできない。しかし、将来的にはどうなるかはわからない。
俺の知る歴史からは既にずれ始めているが、俺の知る歴史通り信長が京都に進出するようになる頃には毎日便を出すことになるかも知れない。
ま~今でも直通便でなければ三蔵村と賢島を経由させれば毎日でも船は出せるが今はその事実を隠しておこう。
しかし、本当に織田家は銭を持っているな。
俺の急な商談に対して『奇貨居くべし』の喩えじゃないが、俺らを早速無理のない範囲で取り込んできた。
俺らにいきなり家屋を与え、領内に拠点を作らせるなんて早々できることじゃない。
て、オイオイいきなり張さんを口説くんじゃないよ。
お前は曹操か、良き人材を見つけるとあたりかまわず口説くんじゃない。
張さんは俺の大事な恩人だぞ。
……それだけじゃない感情もあるが……
でもさすが張さん、ここでもタフネゴシエーターの本領発揮だ。
男女の関係にはなりませんだと。
これでは信長さんも口説きにくかろう。
しかし一回の商談で張さんの優秀さを見抜くなんて、この時代のチートはやはり歴史に名を残すだけあって、ものすごいな。
でも、この時代でも令和と変わらずにチートばかりがうじゃうじゃ居るはずじゃないのに、俺の周りには本当にチートが多いな。
打ち合わせそのものは細かな条件の相談まで含めても1~2時間で済んだ。
いま、信長さんのところの祐筆が契約の内容を清書している。
それに信長さんの花押が書かれて、俺のサインを入れたら完成だ。
でもこれって、令和まで残ったら国宝ものじゃないのかな。
大事に取っておこう。
全てが終わってもまだ昼を少しばかり過ぎた頃だ。
この時代には昼食をとる習慣が無いそうなのだが、全くとらないわけじゃない。
いきなり信長さんが「全員を本堂にでも呼んで皆でメシを食おう。」と言い出した。
流石にいきなり言って準備などできるはずはないと思っていたのだが、家来の皆さんはよく心得ていたようで食事の準備を直ぐにしてきた。
俺はちょっとだけ期待したのだが、さすがに信長さんお抱えのシェフは出てこなかった。
でも信長さんは本当に気さくな方だ。
俺の連れである珊さんや藤林様の配下の護衛の皆さんにも気さくに声をかけてきている。
まさかこの人たちを引き抜こうとはしてないよね。
あ、丹波少年にも声をかけているぞ。
本当にあのくそじじいより油断がならないな。
食事が終わる頃になって信長さんは丹羽様に「今までどおり領内商いの差配は五郎左に任すぞ。
三蔵の衆もこれからは領内の商人と同じだからな。
あと、商い以外での連絡は、これからもそこにいる一益に任すからな。
空殿もそのおつもりでな。」 と言ってきた。
「は、分かり申した。
熱田経由の堺での取引には今までどおりうちからは藤吉郎に当たらせます。
空殿には後ほど紹介します。」
「ほ~~、あの猿にか。
それはいい、あ奴はよく機転が利くからな、そこの張さんとやらにも一方的にやられることはないだろう。
他の奴じゃ少し心もとないしな。」
どれだけ張さんのことを買っているんだ。
しかし先ほどの商談は傍で見ていた俺でも少々びびったしな。
ある意味やむを得ないか。
そんなこんなで1時間ばかりの会食が済んで解散となった。
さすがに交戦中の大名が暇なわけはなく直ぐに信長さんは小牧山城に戻っていった。
丹羽様はまだ屋敷の件や藤吉郎殿の紹介などで俺らと一緒に熱田まで来てくれた。
熱田の清須屋まで戻ってきたら、丹羽様は一人の足軽大将を紹介してくれた。
彼は、ここから街道を見張って俺らの動向を丹羽様に伝えていた丹羽様の部下で木下藤吉郎というそうだ。
木下藤吉郎……後の豊臣秀吉じゃないか、尤も歴史がずれてきており、墨俣一夜城などのイベントがなくなってしまったのだから彼の出世が何処まで行くかはわからないが、それでも機転がよく利き信長様や丹羽様には気に入られているようなのである程度までは出世するだろう。
丹羽様は彼を俺に紹介したあと、直ぐに彼に俺らのための家屋の建設に当たらせた。
「あいつなら良くできる奴なので、2月もしないで立派なやつを造りますよ。
それまでは申し訳ないが取次をこの清須屋で行って欲しい。」
「それはわかりました。
ここ清須屋を紹介された時に、清須屋さんが我らとの取次役になるとばかり思っておりましたから何ら問題はありません。
むしろお屋敷を頂くなんて想像すらしていませんでしたから、そちらの準備に少し時間が欲しいくらいですよ。
頂ける二月の時間はむしろ我々にとっては非常にありがたいものです。
それで、船便はいつから運行させますか。」
「我々はできるだけ早くに運行させて欲しい。
できるものならば今日中にでも出せればありがたいとすら思っている。」
「今日中ですか……」
「流石にそれは冗談だが、でも、できるだけ早くにはお願いしたい。」
「船はありますので、今日中にも出せそうですが、昼を過ぎてしまっているために途中で一泊しないといけなくなります。
冗談だとおっしゃっていただけておりますから、明日朝からではどうでしょうか。」
「なに?
明日から出せると。
すぐに明日、誰かを行かせるように準備させよう。」
「ハイでは明日からということで。
取り決め通り明日から7日毎に舟を出すとします。」
「船は堺についたその日には港を出ますので同じ船に乗ることは、商いを考えますと無理じゃないですかね。
堺で次の船を待つことになりますが、それも取り決め通りということなので、よろしいでしょうか。」
「わかっておる。
急ぎの場合には便宜を図ってくれるということも取り決めにはあったが。」
「はい、大丈夫です。
我々の船はほぼ毎日堺には出入りしております。
ほとんどが九鬼様のかつての本拠である賢島と堺の間の船便ですが、大湊や我々の拠点である三蔵村までの便も頻繁に出ております。
急ぎの場合にはそれらの船をご利用ください。
多少割増にはなりますがその点はご了承ください。」
「それはわかった。
では明日の便ではわしも堺に行くとしよう。
その船で帰れば良い訳だしな。
おっと、そうならばここで油を売っている時間はないな。
悪いがわしはここで一旦失礼するが、空殿はいかが致す。」
「我々の拠点ともここは非常に近いので一旦船で戻ります。
あす朝一番でここ清須屋さんにもう一度私もお伺いします。
丹羽様が堺にいらっしゃるとなると、堺の我々の贔屓にしている商人をきちんと紹介したくありますしね。
できればそことの取引もよしなにお願いします。」
「相変わらず抜け目の無い奴よの、空殿は。
では明日はよろしくお願い申す。」
そう言ったかと思うとそそくさと丹羽様は戻って行かれた。
本当にお忙しい方なのだな。
米五郎左は伊達ではないのだな。
「さ~、俺らも一旦は戻ろうか。
正直ここでは落ち着かない。」
ここで俺は清須屋の店主に向かって挨拶をした。
「清須屋さん、明日は朝から来ますのでよろしくお願いします。」
「いや、こちらこそ末永くよろしくお願い申し上げます。」
挨拶も済ませ、俺らは三蔵村にここまで乗ってきた船に乗って帰っていった。
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