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第五章 群雄
第百二十二話 熱田訪問
しおりを挟む俺は寺の一室に入っていった。
こういった集まりはやはり寺を使うしかない。
藤林様のお屋敷を使わせていただくことも考えたことはあったが、どうしても藤林様のお屋敷では張さんや珊さんなどの人が参加しづらくなる。
寺だと俺が最後となってしまったが、藤林様とその配下の忍びの人が一人、張さんに珊さん、当禅寺の主である?玄奘様に寺で子供たちに勉強を見ていた葵と幸もいる。
なんだか久しぶりに昔に戻ったようなメンバーだ。
「殿、滝川様より返事をいただきました」
俺が部屋に入ると早速藤林様が声をかけてきた。
最近藤林様は俺のことを殿と呼ぶようになってしまった。
藤林様が大名家の家老職についたこともあり意識してそう呼ぶのだ。
絶対に半兵衛さんたちの影響を受けてしまったようだ。
困ったものだ。
イヤイヤ脱線してしまった。
すぐに本題に戻ろう。
「すみません。
この村の子供たちが書く字は読めるのですが、あの崩された字は読むのに苦労しますので内容だけでも教えてください」
「は、では私から『空殿、そちの話は大筋で歓迎できるもののため、丹羽殿に紹介することはできよう。
しかし、そちたちをいきなり小牧山城に登城させるわけには行かない。
故に熱田にある商家で清須屋を訪ねてくれ。
俺の方から話は付けておく。
できる限り早い訪問を期待している』とのことです。
いかがなさいますか」
「こちらからの申し出ですから行かない訳にはいきませんよね。
明日にでも訪ねることにしましょう」
「船で行きますか」
「どうしましょうかね。
こちらからの提案が船での商いですから、やはり船で行きますか。
藤林様はどうお考えですか」
「織田領内の街は比較的よそ者に対しても歓迎されることが多いと聞きます。
半兵衛様が武井様を送って船で熱田まで行っておりますから、同じ船なら何ら問題はないと考えます。
何より船ですと、何かあればすぐに逃げ帰ることができますし。
私は賛成です」
「張さんや珊さんはどうですか」
「私は何もないですね。
陸路ですと1日仕事ですから、船の方が楽でいいとは思いますけど」
「俺は別に」
「それでは船で行くことで。
いま港に船ありましたっけ」
「残念ながらすべて出払っています。
賢島には3艘ばかり待機させていたはずですが。
あ、大湊に2艘ありましたね」
「藤林様、済みませんが明日までに大湊の船を一艘出させてもらえますか」
「分かりましたすぐに使いを出しましょう」
「となると訪問する人選ですね。
今回ばかりは藤林様は少々まずいと思いますね」
「そうですね。
九鬼家の外交なら私でも問題はないのでしょうが、一応別の三蔵の衆のお使いですから、しかし殿の護衛は欲しいですからうちから数人は付けますよ」
「構いませんがあまり大人数になるとちょっとね。
商売の話ですから張さんは付いてきて欲しいのですが大丈夫ですか」
「え~私は付いていくつもりでしたから大丈夫ですよ。
それに護衛として珊さんも付いてきてくれるそうです」
「俺は今回行きますよ」
「あ~~~、私も行きたい」
「葵だけずるい。
私も絶対についていくからね」
幸と葵がついていくと騒ぎ出した。
この話し合いに参加していた時に覚悟はしていたからいいけどね。
「わかった、では今回の参加者は俺と張さん、珊さん、それに葵と幸、あと護衛の皆さんということでいいかな」
簡単に訪問メンバーも決まって後は商売の内容だ。
基本熱田と堺を1日で結ぶ船便を7日くらい毎に出すくらいか。
こちらから積極的に何かを作ることはしない。
第一こちらからは売りたくともこれ以上商品を用意できない。
かと言って、堺から仕入れて売る商社のような商売もそれができそうな人材は今のところ張さんしかいないのが現状だ。
今の張さんの仕事は本当に多岐にわたりこれ以上仕事を詰め込むのも躊躇われるしね。
船便だけならなれた航路でもあるし、うちの船は少人数でも操船できるからベテランを少し乗せて、あとは新人の訓練がてらに使えそうだしね。
だいたいこんな内容で話をしてくることで了承された。
翌朝、港には既に船が1艘待機していた。
本当に仕事の早い皆さんだこと。
船には今回護衛として同行してくれる忍びの皆さんも既に乗っている。
いつも俺のそばで控えている百地少年もしっかり付いてくる。
彼は俺の護衛というより、俺の秘書?違うか……伝令役かな。
でもいつも本当に俺のことを助けてくれるので今回もついてくるのは大歓迎だ。
船はすぐに港を出た。
ここから熱田までは内海をまっすぐ行くだけだから難しいことはないし、距離も大したこともない。
2~3時間あれば付いてしまう距離だ。
昼前には熱田についた。
熱田の港はそれなりに活気はあったが堺のように入港するのに待たされたり接岸できなかったりのことはなかった。
すぐに港に接岸させてもらい、俺ら一行は清須屋を探した。
目的の清須屋は港の正面に大店を構えていた。
織田家の政商だけはある。
俺は早速、店の中に入り、滝川様の手紙を店の人に見せた。
店の手代は手紙を持っておくに入り、すぐに店主を連れてきた。
「空殿ですね。
滝川様よりお聞きしております。
お待ちしておりました。
それにしてもお早いおつきで。
私どもは早くともあと3~4日は後だろうと思っておりましたから、お迎えする準備が出来ておりません。
何かと不都合もでましょうがお許し下さい」 と言って現れたのがこの清須屋の主人である千秋季信だ。
彼はこの地の有力国人であり熱田神宮の宮司でもある千秋季忠の一族に属し、割と早くから織田勢に与していた商人だ。
彼はすぐに俺らを奥に案内し、滝川様に使いも出してくれた。
「滝川様にはすぐに連絡をつけますのでしばらくはここでおくつろぎ下さい。
時間がかかるようでしたらお知らせしますので名所の熱田神宮でもお参拝されるのをおすすめします。
もし参拝されるのでしたら私どもがご案内もします」
「どうしますかね。
どんなに早くとも今日中にどうこうなるわけにはいかないでしょう」
「私、有名な熱田神宮に行ってみたい」 といつものように遠慮のない幸が言ってきた。
「そうですね。
いい機会だから、参拝しませんか空さん」
「張さんまでが言われるのならお願いしますか。
ご主人。
ではご主人のお言葉に甘えることにします」 と言って奥で一服のお茶を飲んだあとにみんなして熱田神宮に出かけた。
主人が直々に案内してくれたものだから、絶対にはいれないような場所まで案内してくれた。
俺はこの時初めて見たよ、三種の神器である草薙の剣を。
といっても綺麗な布に覆われた状態のものだったが。
でも資料映像で見た皇室の神事で使われていたものとは違っていたような。
そもそもなんでここに草薙の剣があるのだ。
三種の神器ならまだ京都にあるはずなのに。
わからん……わからないがとにかく感動したのを覚えている。
まず普通の人なら絶対に見られないのを待ち時間無しで見られるんだから。
熱田神宮のご利益かどうかわからないが、驚いたことに神宮参拝を済ませて清須屋に戻ってきたら、なんと店の中に滝川様が待っておられた。
仕事の早い人たちって素敵。
「お~~~、空よ。
よく来たな。
それにしても随分早かったな。
俺の返事を書いてまだ2日くらいしか経っていないぞ。
俺の見立てでもあと2日はかかると踏んでいたのだがな」
「商売は早さが命です、滝川様。
相手の予測を上回ってこそ、大きな利益を挙げられると考えておりますから、とにかく素早く行動するようにしております」
「そういう考えか。
ま~いいか。
でだ、空の提案だが、あれか。
あの船がここと堺を行き来するというのか」
「はい、あの船か、あの船と同じ形の別の船が、そうですね月に4回くらいは堺との間を往復させたいですね。
尤も需要があればの話ですけど」
「どういうことだ」
「私たちは運ぶことを仕事とします。
別に堺から何かを仕入れてここで商いをしようとは考えておりません。
ですからいらないと言われれば何もしませんが」
「滝川様。
ぜひこの話を進めて頂けませんか。
月に4回ならば、私どもだけでも堺まで出張って商売したく存じます」
「私には決められぬことゆえ、丹羽様に相談している。
そこでだ、空よ。
明日になるが、俺と一緒に清須まで来てくれ。
清須の寺で、密かに丹羽殿とお会いする手はずを整えてある」
「それは誠ですか。
私のような子供店長……もとい……子供にも丹羽殿はお会いして下さるというのですか。
私には異存はありません。
明日
「では、手前どもが空様達をおもてなしいたしましょう。
今宵はこちらでお泊りください。
滝川様もよろしいでしょうか」
「うむ、既に殿と丹羽様には話がついておる。
俺は明日、空たちをきちんとお連れしろとも指示を受けておるから、今から空と行動を同じにするぞ」
「では早速。
皆様方には今しばらくここでお待ちください」 と言って店主は手代を連れて部屋から出ていった。
その後は宴会となり俺らは接待を受けることになった。
酒と女の出る接待だが……一体子供の俺にどうしろというのだ、この時代の人間たちは。
第一俺は張さんや葵それに幸のいるそばで、女性の接待を受ける勇気など持ち合わせていないぞ。
こういった接待を受けるたびに、彼女たちの機嫌が悪くなるので勘弁して欲しいのだが……とにかく俺は大人しく明日の来るのを待った。
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