名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百三十三話 本当の接待とは

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「葵ちゃんだけズル~~~い。
 ズルい、ズルい」

 さっきからこの繰り返しだ。
 俺が村に帰って『ただいま』を言えずに、居合わせた幸からのこの攻撃だ。
 確かに今回は張さんも連れずに熱田まで行ったが、それもこれからのことを考えれば、仕事を徐々にできる人たちに振っていくためにはやむを得ない措置だと、誰もが納得するはずなのだが、幸だけは納得していない。
 賢い幸のことだから頭で理解はしているのだろうが、自分だけ除け者にされたように感じているのだろう。

「空さん、葵と二人きりでお泊りなんて絶対にずるい」

 ちょっと待て、二人きりはないだろう。
 大体、俺が一人でうろちょろしたら物凄い剣幕で怒っていただろう『ご自身の立場を考えてください』って怒っていたのは誰だ。

 葵と二人きりで出かけられるわけ無いだろう。
 今回は幸代さんたち御夫婦と一緒に出かけたし、何より藤林様のところの忍び衆が絶対に同行してくる。
 それに何より、お泊りはしていないぞ。
 夜に戻って、翌朝出かけているのだから、とにかく間違えだけは訂正しておかないと余計にこじれる。

「幸、ちょっと待て。
 とにかく落ち着け。
 それから俺の話を聞け」

「あ~~~そうやって、また、ごまかそうとしている」

 『また』とは何だ『また』とは。
 俺は、そう何度もごまかしなんてしていないぞ。
 だいたいお前らごまかしがきかないだろう。

「俺がいつ幸を誤魔化したって言うんだよ。
 いいから話だけを聞いてくれ」

「幸、空さんが困っているよ。
 いつまでも聞き分けがないと、嫌われたって知らないからね」

「葵ちゃんは楽しくお出かけしてきたから言えるんだよ」

 とにかく落ち着かせて今回の件を話して聞かせた。
 特にお泊りはしていないことと、二人きりじゃなかったことだけは何度も言い聞かせた。
 それでも幸の機嫌は治らなかった。
 そんな騒ぎの中、張さんが外からやってきた。

「あらあら、幸ちゃん、どうしたのかな。
 葵ちゃんが羨ましかったのはわかるけど。
 もう少しお姉さんにならないとね。
 でないと空さんと一緒に出かけられないわよ」

 流石に張さんには逆らえないらしく、渋々ながら機嫌を治していった。

「でも、置いて行かれたのが寂しかったのよね。
 なら、明日にでも空さんと一緒に賢島に連れて行ってもらおうか」

 え、え、どういうことなの。

「賢島で何かあったのですか」

「揚さんが賢島に戻っており、空さんに会いたいそうよ。
 頼まれていた船の引き渡しも済んでいるしね、そのお礼がしたいそうなの」

 あ~~あのど派手な船ね。
 完成したんだ、そういえばあれから賢島には行っていないし、それなら幸を連れて行ってもいいかな。
 あ、でも通訳は必要だよね。

「それなら明日にでも行くとしましょうか。
 張さんも一緒に来てくれるんでしょ」

「あ、張さんも来るんだ」

「来なくてもいいが、幸が中国語できるのならね」

「う……」

「私もご一緒します。
 幸もいいわよね」

「う、はい。
 でも、明日はずっと空さんと一緒だよ」

 どうにか完全に幸の機嫌は治ったようだ。
 それにしてもあの中国人とは暫く会っていない。
 唯のお礼だけならいいが、面倒がない事を祈ろう。
 あ、そういえばあのポルトガル船の船長はどうなったのだろうか。
 そろそろ結果を持って来てもいい頃だ。

 まだまだ落ち着けそうにないな。
 信長とも少なくとも不戦同盟の締結もあるし、早く日常に戻して欲しい。
 あれ、俺の日常って、ここにやってきてからこんな感じだったか。
 嫌な日常は変えていこう。

 翌朝、空は幸を連れ、張さんと珊さんにも同行してもらい賢島に向かった。
 賢島の港に入ると、すぐにその足で揚さんの店に向かった。
 そもそも賢島では能登屋や紀伊乃屋の他にはその揚さんの店しかなく、その店も港に隣接するように建てられているので、すぐに着いた。
 俺らを見かけると店主の揚さんは派手なアクションで空たちを出迎えた。

「お、お久しぶりだよ、空さん。
 張さんとは、何度もあったけど、空さんとはあれ以来会っていないよね。
 ご無沙汰してます」

「あ、はじめましてじゃなかった、ご無沙汰しています。
 お変わりなくお元気そうで何よりです」

 横で張さんが通訳してくれている。

「ここでは何ですから、奥へ」 と店番としてはちょっと違和感のある女性が空たちを中に案内してくれた。

 早速中で案内をしてくれた女性の紹介があった。
 博多の商人の娘で名を咲と言うそうだ。
 神谷家に連なる商家で南京屋を営んでいる商人の娘だそうだ。
 元々古くから中国との取引をしていた関係で中国語に堪能だったことと、揚さんとの取引が年々多くなってきたことからのご縁で結ばれたそうだ。

 そうなら、通訳は必要なかったか。
 いや、外交の場面で両国とも相手国の言葉に堪能な通訳を連れている。
 騙されないようにと、間違った通訳をされないためだそうだ。

 揚さんとの信頼関係が完全に担保されない限りできるだけ張さんを連れてくる必要があるだろう。
 揚さんは張さんを娶ることは諦めたようだから、これからは安心して連れてこれる。

 どうでもいいけど、揚さんご夫婦と会話を続けた。
 揚さんからは、とにもかくにも注文を受けていた船についてお礼を言われた。
 とにかく船足が早いことと取り扱いが楽なことを強調して褒めてくれた。
 あの大きさの船では考えられないくらいの少ない人数で船を動かせるので、小さめの船だが母国との交易には支障がないとか。
 それよりも船足が早いので、頻繁に母国の寧波と頻繁に行き来していたら、取引のあった博多の商家から嫁をもらえた。

 咲と結婚できたのは空さんのおかげだと、さんざん惚気けられたのは勘弁だ。
 こんな話だったら、何も来る必要がなかったのかと思っていたら、油断した。
 早速案件を投げ込んできた。
 博多の商家で咲の実家もここには注目しており、店を構えたいと紹介できないかと咲の実家から問い合わせがあったと正直に伝えてきた。

「何も、こんな小さな街に店を構えても、大した儲けにならないのでは」

「なになに、商人はそんな目先のことばかりを見ていませんよ。
 それにここを拠点とすれば、堺にも熱田にも何より桑名や大湊、安濃津といった商いの盛んな場所に乗り出せますし、一番重要な情報が入手しやすくなります。」

「情報?」

「博多は商いが盛んですが、この日の本の政からは距離がありすぎます。
 今までは、その政が機能しておらず戦ばかりでしたので、かえって距離があったほうが都合が良かったのですが、そろそろ次の動きがあると博多の商人たちは睨んでいます。
 それに、この話は咲の実家の上からの意向のようです」

「上からの意向って」

「博多の年寄り衆、年行事というのらしいですけど、そこからの意向のようだと言っていました。
 咲の実家は、その年行事のひとりである神谷家に連なる家なので、そういった頼みは断れないのだとか」

「そうですか、こんな狭い街に大店ばかりが何軒もなんてね。
 それこそ商売にならないのではとも思うのですけど、わかりました。
 私には決定権はありませんが、悪さをしない条件で、豊田様に話しておきます。
 うちもここに店を出しますので5軒も店があるようになりますと、そろそろ店同士の集まりが必要ですかね。
 そちらも合わせて考えておきます。
 すぐに返事をしますので、後はお役人と相談して話を進めてください」

「空さん、ありがという。
 ついでに咲の実家もこの船が欲しいと行ってきておりますが」

「それは、今はお断りしておきます。
 安全保障上というのか、正直揚さんに許可を出したのも張さん繋がりだからですよ。
 他にはただの一艘も譲っておりません。
 同盟関係のある熊野水軍のところにも出していませんしね。
 それは先方にきちんとお伝えください」

 あ、そいえばポルトガル船長にかなり阿漕な条件で譲ったな。
 でもあれは小さな船だから間違いじゃないよね。

「わかりました。
 まあ、難しい話はこれにてということで、今夜は私どもにおもてなしをさせてくださいね」

 え、また接待、流石にと思ったが、まだここには綺麗どころを集めた店は無い。
 そろそろ出来そうというか、豊田様からも作って欲しいとも言われているが、そういう接待はここではできないし、何より揚さんは新婚さんだ。
 それはないだろう。

「わかりました。
 張さんや珊さん、それに幸と言いますが彼女も一緒にお世話になります」

「ぜひそうしてください。
 既に料理や酒の準備は済んでおりますので、こちらにどうぞ」 と咲さんに案内されるように店の広間に連れてこられた。

 美味しそうな料理が並んでいる。
 博多名物料理なども並んでいたのは嬉しかった。
 水炊きまであったのだ。

 その夜は本当に接待を楽しんだ。
 本当の接待というのはこれだなとつくづく思った一夜だった。
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