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第五章 群雄
第百三十四話 主力船の交換準備
しおりを挟む揚さんに店で接待を受けた後は、揚さんご夫婦に宿泊を勧められたが、あいにく賢島には空の家がある。
ほとんど使っていないのだが、城の前の一等地にそれも豪邸が何故だか準備されている。
俺たちはそのまま歩いてその家まで行き、その日はそこで泊まった。
この家には九鬼様から数人の人間が常に配備されており、空がいつでも泊まれる準備をしているのだ。
その日も遅くに家に着いたのだが、風呂まで準備されていたのには驚いた。
今回はストレスの無い接待に、快適な入浴及び睡眠とかなりリラックスした訪問だった。
翌日は朝から、能登屋と紀伊乃屋に足を伸ばした。
「おはようございます。」
「あ、空さん。
おはようございます。
今日は何用で。」
「いえ、久しぶりに賢島に来たのでその挨拶と、ちょっとした相談かな。」
「相談ですか?」
「さっきも、そこの能登屋さんでも話してきたんだけれど、近々ここに博多から店を出されるそうだ。
そこの揚さんの奥さんの実家がらみだそうなのだが、昨日依頼を受けたので、そのまま豊田様に挙げておいた。
問題なく処理されるだろうから、ここにもう一軒店が出されることになる。
それに我々の伊勢屋も熱田に店を構えたので、そろそろこちらにも出そうかと思う。
そうなると、そろそろ店同士の会合も必要になるかと思っていますので、手すきの時にでも考えておいてくださいね。
博多や堺のようなだいそれたものにはならないけど、そろそろきちんとしたいと思いましたので、よろしくお願いします。」
そんな感じで、博多からの出店の件と商人同士の会合の場について、それとなく伝えておいて、その場を離れ、造船所に向かった。
造船所のある浜は閑散としていた。
ここは漁をしていないので船を造っていなければほとんど人が来ない。
造船用のドック?には船が入っておらず、かろうじてとなりの浜に数隻の漁船が上げられていた。
今造船所では新たな船は作っていなかった。
近隣で使っている漁船の整備を請け負っている暇な状態だ。
「こんにちは、空さん。」
「こんにちは、棟梁。
暇そうですね。」
「はい、揚さんでしたっけ、あそこの船を造ってからは、今まで船の整備をほそぼそとしているようなものです。
新たな造船ありませんかね。」
「ちょうど良かった、こちらから頼みたかったんです。」
「何隻造ればいいですか。」
「いや、ちょっと待ってください。
今まで造っていた船じゃありません。
今1隻目を三蔵村で造ってもらっていますが、前に南蛮人の船を買いましたが、あんな感じの大きめの船を作りたいのです。
そこで棟梁、お願いですが、何人か連れて村まで来てもらえますか。
一度どんな感じの船か向こうの棟梁交えて説明したいのですが。」
「そりゃ~いい。
それであっしはいつ向かえばいいんですか。
空さんはいつまでここにいますか。」
「午後にでも帰ろうかと思っていますよ。
棟梁はできるだけ早い時期に来て下さればいいですよ。」
「それじゃ~、うちの八五郎を連れてご一緒させてもらいます。
お~~い、八はいるか。」
「へ~~い、なんでしょう親方。」
「これから空さんと一緒に村に向かうぞ、直ぐに準備しろ。」
「わかりました。」
そんなんでいいのか。
日帰りにはならないはずだが、ブラック企業じゃあるまいし、直ぐに泊まりの仕事っていいのかな、まあ、あちらが良ければいいのか。
「それじゃ、午後に港でお待ちしてます。」
そう言い残して、空は一旦屋敷に戻っていった。
屋敷にはちょうど城から豊田様が来ていた。
「殿、城にも寄らずにお戻りですか。」
「豊田様、いらっしゃいませ。」
「豊田様は、空さんが城にも寄らずにすぐに戻るのが気に入らないそうですよ。
今ここでさんざん言っていましたから。」
「もう、張さん、ばらさないでください。
でも、そうですよ。
なかなかここに来ないのに、いらしても城にも寄らずに帰るだなんて酷くはありませんか。」
「あれ、何か問題ありましたっけ。
あ、熊野水軍関係で何かありましたか。」
「いえ、これといって問題はありません。
熊野水軍関係はここではなく大湊の本城で扱っております。
しかし、ここには空さんの屋敷もあることだし、もう少し頻繁にいらして城の連中に発破をかけてくださいな。」
「そうですね、最近はここに来られませんでしたね。
お約束はできませんが、これからはもう少し頻繁に来ることになります。
ここに伊勢屋を出しますし、博多の店の出店もありますからね。
……
あ、そう言えば、その博多の店の件ですが、話は聞きましたか。」
「はい、今朝方揚と申す者から上申がありました。
この件は昨日空さんからの伝言を頂いておりましたから、希望者を呼び出して話を聞いた上での判断とさせてもらいました。
そのことはその場で揚には伝えてあります。
その面接にはご一緒しますか。」
「いえ、豊田様のご判断で構いません。
私からもここで騒ぎを起こさないことを条件にしておりますから。」
「そうですか、わかりました。
とにかく動きがあればお知らせします。」
そんな会話を豊田様としたあと簡単に昼食をとって港に向かった。
港では既に八五郎さんと棟梁が船の中で待っており、空達を乗せたらすぐに船は出航した。
ここから村までは多少距離はあるがなれた航路なので、問題無く三蔵村の港に日が沈む前に着いた。
まだ明るいので、空は棟梁たちを連れて、港のそばにある造船所まで向かった。
「棟梁、いますか。」
「お~~、どうしましたか。」
「いま建造中の船についての相談です。」
「どっちの船のことか。」
この三蔵村の棟梁からの質問を聞いた賢島の棟梁がすかざず空に聞いてきた。
「何種類も船を作らせているんですか。」
「いや、これからお願いする大型船のほかは、一番最初に作った小型船を若いものだけで作ってもらっています。」
「若いものだけで?」
「そうです、できるだけ早くに独り立ちできる技術者を作りたかったもので、経験を積むにはちょうど良かった案件があったので、頼みました。」
「そんな面白そうな案件があればこちらにも回して欲しかったな。」
「そうですね、次に機会があれば考えます。」
そんな話をしていると、三蔵村の棟梁がそばまでやってきた。
「お~~、喜六じゃないか。
珍しいな。」
「嘉助か、久しいな。
今日は空さんからのご依頼でお邪魔した。」
「空さん、どういうことですか。」
「いや、今作っている、大型のほうのやつ、あれを賢島でも作ってもらおうかなと思って、打ち合わせに連れてきた。」
「え、まだ一隻もできていませんが。」
「そうだね、でも、失敗するようなところがあれば頻繁に連絡を取り合って、作っていけば2隻とも失敗とはならないでしょ。
私としては、できるだけ早い段階で、今の主力船をこれに入れ替えたいので、早く船が欲しい。
そこで、無理を言って来てもらいました。」
そんな挨拶を合図に宴会が始まった。
こちらドワーフかよと思うくらい騒ぐのが好きだよな。
社内接待のようなものかと諦めたが。
なんでも昔は出張者を饗す社内接待は当たり前だったと聞いたことがあった。
その言われる昔から比べても現在の方がはるかに昔なので、これもありかと納得させたが、いいのかな。
俺はできるだけ早い段階で宴会から逃げ出したが、明日打ち合わせができるのか心配になるくらい豪快に騒いでいる。
こいつら、やっぱりドワーフだった。
翌朝早くから集まって新たに作っている船についてあ~でもない、こ~でもないと持論をぶつけ合っていた。
俺は、途中で希望を伝えただけで、あとは二人の棟梁に任せることにした。
人材不足という不治の病は治っていないが、それでも徐々にではあるが人は育っていた。
ここ造船所も棟梁に完全に任せられる。
俺は、造船所をあとにして自分の研究室にしている水車小屋に向かった。
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