名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百三十五話 実験結果

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「出来た~~~。」

 やっと出来た。
 この時代に来てから、ずっとやりたかった研究の続きだ。
 大学時代に青春をその一点に注いだと言って良いくらいにのめり込んで研究していたセルロースナノファイバーのその物、セルロース(植物繊維)がナノレベルに細かくなった物をやっと作ることができた。

 俺は自身の実験室となっている水車小屋でひとり騒いでいた。
 俺がずっと研究していたものが事故によりこの時代に飛ばされ中断していた研究が、ここに来てやっと続けられたのだ。

 しかし俺のしていた研究はここからなのだが、とりあえず研究素材を用意するところまで出来た段階だ。
 大学時代は電動の石臼に繊維を5時間ばかり掛けていれば完成できるレベルなものだが、この時代ではとにかくここまで作るのでも大変だった。
 本来の研究はこの繊維の実用化だったのだが、この時代では、まずそのものを準備するところから始まった。

 これが、半導体やら高分子やDNAなどの最先端技術の実験では早々に諦めていたのだが、このセルロースナノファイバーというやつは、紙を作ることが出来ればどこでも作れるというものだ。
 ただ非常に手間が掛かるだけで、作るのに難しい技術などいらない。
 ただ石臼で紙を細かくしていけばいいだけだ。
 俺はそのためだけに、この水車小屋を作らせたといってもいいだろう。

「まずは、ここからタイル状の物を作っていこう。
 な~~に、升などにいれ、乾かせばいいだけなのだ。
 タイルを作ってから、とにかく強度だけは知っておきたい。
 的にして弓矢や火縄銃で耐え得るかの実験だけは、直にでもしたい。」

 村に戻り直ぐに村人を捕まえ手頃の大きさの升を貰った。
 それを抱え、嬉しそうにまた水車小屋に戻り、出来上がったばかりのセルロースナノファイバーを升に移した。

 これは、微粉末状にまで細かくなったセルロースが水に溶けている状態のもので、これだけではただサラサラのゲル状に近い物だ。
 これから、水分を飛ばすと、驚くことなかれ、本当に鉄より固くアルミより軽い物に早変わり。

「しかし、升に入れて乾かすとなると一週間はかかるな。
 待つより他は仕方ないか。」

 用意した小ぶりの升は深さも浅く、升いっぱいにまで出来上がった物を入れた。
 これだけ入れても乾かすとタイルくらいにまで薄くなってしまう。
 それだけ密度が凝縮されるのだが、それこそほとんどが水なので乾かすとなると本当に時間がかかる。
 それに急いで雑に乾かそうものなら間に空気が入り、せっかく硬いものを作っているのに空気の入った部分からもろくなってしまう。

 乾かすのも難しい物なのだ。
 俺は大学時代の経験からその辺も心得ているのだが、あいにく大学時代と違って、ここには設備が無い。

 すべてを人力と、工夫によるしかないので、失敗は覚悟した。
 あとは結果を待つだけだが、その結果も1週間は最低でも待たないといけない。
 となると、やることがなくなる。
 失敗前提なら、条件を変えての再実験が必要だ。
 そう思うと、俺は同じ大きさの升をかなりの量を手配するべく、桑名にまで出かけた。

 桑名は以前のような嫌な雰囲気がない。
 勘違いした馬鹿な侍が少なくなっている。
 残念ながら全くいなくはなっていない。
 こればかりはやむを得ないが、そこは藤林さんが治めるようになった街だ。
 治安を守る侍が街中を警備するかのように歩いているし、忍び衆も陰ながら監視している。

 残党や六角あたりからのちょっかいを警戒している。
 なにせ、一斉に追い出したようなものだから、不満を持っている連中は数えたらキリがない。

 でも藤林さんのおかげで、俺のような子供も安心して買い物ができるようにまで治安が良くなっている。
 治安が良くなれば付近から商いのために人が集まり、商いが盛んになる。

 このあたりは街道が集まる物流の起点となっているので、商いが盛んになれば付近の街にも良い影響をもたらし、さらに人が集まり商いが盛んになるといった現象が起き始めていた。
 これには町衆から絶大な支持があり、そのためにこのあたりを治め易くなるといういい意味でのスパイラルになっている。

 藤林さんは街の年寄り衆にある程度の自治を認め、上納金だけを受け取るようにしていきたいようだ。
 今ではまだ試行錯誤の段階だが、地方自治の上に国の政を置いて、細々したことは町衆に任せていく方針だ。
 これがうまくいくようならいずれは紀伊半島全体に広げて行きたい。

 このあたり、特に伊賀の国や山城の国などは惣なども多くこのような形態の方がまとめやすいといった理由もあるが、この方が商いが盛んになり全体的に豊かになっていく。

 俺は、街に立つ市で直ぐに目的の升を見つけた。

「しまった。
 俺一人では大した量を運べない。
 どうしたものかな。」

「坊主、どうしたね。」

「いえ、升を少し多めに買いたかったのですが、買えば運べないことに気がつきまして、困っておりました。
 知り合いでもいないかと探していたところです。」

「家は遠いのかね、となり村程度なら、ほらあそこに居る人足に頼めば運んでもらえるよ。
 尤も駄賃がかかるがね。」

「え?
 そんなサービスも…違った、そんなこともやっているのですか。 
 桑名では。」

「坊主は桑名の者じゃないな。
 ほれ、前にこのあたりを治めるお侍さんが一斉に代わった時があっただろう。
 あのあと、このあたりで悪さをする連中が急に減ってから一斉に商いが盛んになって、人がかなり入ってきたんだが、そうなると仕事からあぶれる連中も出る。
 年寄り連中がそんなあぶれ者を集めて荷運びをやらせているんだよ。
 他国へとなるとそれこそきちんと馬借に頼まないといけないが隣村程度ならあいつらで十分だ。
 坊主も使ってみるかね。
 それより銭はあるのか。」

「お使いなんで、銭は持たされています。
 それじゃ~、お願いしますか。」

 俺は目的の升を10個買い込んで荷運びに三蔵村にある藤林邸まで運んでもらった。
 平和になると商いが盛んになり、どんどん便利になっていく。
 それに何より、街の年寄り衆が機能し始めていたのが嬉しい誤算だ。
 さすがに商人が集まる街だけあって順応性が高い。
 これが領内で当たり前と考えると失敗するが、成功事例として参考にはなる。

 三蔵の衆がすべてを見ることなんて不可能ならばどんどんできる人たちに任せていけばいい。
 そのいい例だと空は嬉しく思った。

 それからの俺は買ってきた升を使い条件を変えてセルロース製のタイルを作った。
 余った時間はと言っても余る方が多かったのだが、村の造船所に行ったり、熱田まで足を伸ばして熱田の店の様子を伺ったりしながら、セルロースが乾くのを待った。

 暫く時間が経って、やっと乾いたのが出来上がった。
 見事に全部失敗だ。
 とにかく放っておいたのがいけなかったようだ。
 乾いたタイルが見事にゆがんでいる。
 反り返って固まったのだ。
 当然タイルとしては使えないが、強度を調べるには問題なさそうだ。

 半兵衛さんや藤林さんも集まってきたが、村の奥で、反り返ったタイルを使って、火縄銃の的として火縄銃で撃ってみた。
 薄いものは割れたのだが、タイルくらいの厚さのものは見事に火縄銃のたまを弾き返した。
 何度も実験ができるだけの量は持っていない。
 当然検証実験は必要だが、弓程度なら簡単に防げることはわかった。

 となると、これは甲冑の材料としてはかなりのスグレモノだ。
 まだまだ課題は多くあるが実用化を考えて研究を重ねる必要がある。
 藤林さんも半兵衛様も同じように考えている。

「殿、これはどういったものなのですか。」

「殿、これで甲冑を作れれば、無敵の軍隊ができます。」

 半兵衛さんが珍しく興奮している。
 それにしても無敵はやめて。
 絶対に敗れるから。

「もう少し工夫は必要だが、タイル何枚も使えば甲冑のようなものは作れそうだ。
 工夫に時間はかかりそうだけどね。」

「我々も協力しますから急いで作りましょう。」

「そうですね、いつまでも今のような戦のない時間があるとは限りませんし、次の戦までに準備だけはしておきたい。」

「どうでしょうか、賢島にいるあの連中に協力させては。
 弾の研究もあれから捗っていませんし。」

 あの連中、そう、賢島には雑賀党の若者で確か鍛冶職人だったはずなのだが、研究員が居る。
 以前、大筒の命中精度が悪く、その対策の研究をさせていたのだが、ある程度までは目処が立ったが、まさかこの時代にライフリングは出来なく、研究が停滞していた。
 もうすでに帰ったものだと思ったのだが、まだいるらしい。

「そうだね、その方向で考えよう。
 一度賢島に行くか。」

 とりあえず最初の実験は成功と失敗の半々だという結論だった。

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