名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第六章 上洛

第百四十八話 孫悟空

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 俺は願証寺を出るとそのまま三蔵村に向かった。
 今日は村に泊まって今後について考えをまとめようと思っていたのだが、村の手前で大事なことを思い出した。

 村にある俺の家って……どこだ?
 前に使っていた浜の小屋は学校を作るときに引き払った限り、その後は村に寄っていないような。
 俺の家を忘れたというか、もしかしたら村の俺の家を見たことが無い。
 確かに、あの時には俺を訪ねてくる連中が煩わしいと寺を追い出されたので、この際だからと言って家を作ることになったのだが、その後は完全に村に任せきりであちこちをうろついていたように思われる。

 ちょっと待て、俺って住所不定の無職ってやつか。
 いや、もうじき検非違使に就職が決まったようなものだから無職にニートじゃないよな。
 住所不定だけをどうにかすればいいか。
 今のような生活を続けると難しいか。

 でも、結婚すれば奥さんの居る所が俺の住所ってことにならないかな。
 ………
 あ、その奥さんだけど、いきなり複数できそうなんだっけ。
 多分、その奥さんたちもばらばらになりそうだし、住所不定が続きそうか。

 くだらないことを考えながら歩いていると村についてしまった。
 村に入ると見知らぬ、多分村人らしい人がいたので捕まえて
 「俺の家の場所知らないか」って聞いたら途端に怪しげな目を向けられ逃げられた。
 考えたら当たり前だよな。
 自分の家の場所をいきなり知らない人に聞いたのだから、痴呆でなければ絶対怪しい人だよ。
 この時代の治安なんて村ごとに違うからいきなり警戒されてもうなずける。

 どうしようかと途方に暮れていると向こうから先の村人がほかの人を連れてやってきた。
 先の村人もそうだが、ついてくる村人も手に何か武器のようなものを持っている。
 これって俺のことを怪しい人に認定した結果だよな。
 俺のもとにやってくる人たちの多くを俺は知らない。
 最近俺の知らない人が増えたような。
 村に関しては龍造村長に完全に丸投げなので、どれだけ村に人が流入してきているのか年末あたりにまとめて聞くようになるだろうから今知らなくても問題無い。
 ………
 いや駄目だろう。
 今まさに起ころうとしているように、自分の村に帰るのに怪しい人に認定されては、今ここに来ない村人にも仕事に差しさわりが出るし、下手をすると、俺の身が危ない。

 手に武器を持った村人に囲まれて、どうしようかと思案していると、その集まった村人の背後から天の助けか、龍造村長と玄奘様がやってきた。

「なんだ、空か。
 一々帰るたびに騒ぎを起こすなよ」

 玄奘様が酷いことを言ってきた。
 これって俺が悪いのか。
  ……
 俺が悪いんだろうな。

 きちんとここに帰ってこなかったし、村に関して色々と丸投げしていたしな。
 すると龍造村長は、先の村人の頭を強くこづいているのが見えた。

「この馬鹿たれが。
 この方を誰だと思っているのだ。
 空様のことを知らぬとは何事か」

 村長が叱っているのを玄奘様が宥めに入った。

「村長。
 こ奴に悪気はないよ。
 悪いのは騒ぎを起こす空が悪い。
 それくらいにしないか」

「玄奘様が言われるのなら。
 以後気を付けろ」

 最後に大声で怒鳴ると村人たちを解散させた。

「ほら、ここじゃ村人に迷惑が掛かる。
 寺に来い」

 俺は玄奘様に引っ張られるように連れられ、村長と一緒に寺に向かった。
 寺の一室に入ると突然村長が頭を床につけるように見事な土下座を披露した。
 ここでジャンピング3回転土下座ならすごかったのに、とくだらないことを考えている暇はなかった。

「やめてください、龍造さん。
 いきなりどうしたのですか」

「先の若い者の対応は本当にすみませんでした。
 以後このようなことの無いように十分に言い聞かせておきますから、お許しください」

「いや、許すも何もないですよ。
 知らなかったんだからしょうがありません。
 気にしないでください。
 自分も同じ立場ならそうしますし、この後あの人を叱らないでくださいね」

「それより、どうしてそうなったのだ」

 玄奘様が聞いてきた。

「いや何、この村で泊まろうとしたんだけれど、自分の家の位置がわからないんですよ」

「自分の家が分からないだと」

「いや、だって、俺今まで寺に泊まっていたし、それ以外だと浜の小屋にいたかな。
 でも、浜の小屋は学校を作るときに引き払い、浜の作業小屋になったはずだし、それよりも学校を作る前から俺の家をここに作るなんて聞いていたし、その件は与作さん達に丸投げしていたから、いざ自分の家に行こうとしたときに困って、村人なら知っているかもと思って訪ねたんだよね」

「家に帰るだけで、どうしてあんな騒ぎになったのだ。
 空よ、何と言って訪ねたんだ」

「ちょうど村に入った時にあの人がいたのだから、その人に向かって『俺の家を知らないか』ってそのまま聞いたんだよ。
 そうしたらあの騒ぎになって、どうしたものかね」

「「「は~~~~~~」」」

「当たり前だ。
 誰がどう聞いても、その聞き方だと怪しい奴しかいないだろう。
 空を知っているならいざ知らず、知らないものならうなずける話だ。
 あの若者は、空のせいでとんだ災難を受けたものだな」

「しかし、この村もしばらく来ないうちに知らない人たちが増えたね」

 俺のこの場の空気をごまかすための苦し紛れの質問に、玄奘様は笑っていたが龍造さんは真面目に答えてくれた。

「私が村長になってからも、上人様から玄奘様を通して途切れることなく難民がやってきます。
 一応上人様や玄奘様には、難民の方の人となりを見極めてもらいました上ですので、村の決まりを守り、和を乱さないことを条件にすべてを受け入れております。
 幸いと言っては何ですが、この村では人手がいくらあっても足りないくらいですので正直助かっていることもあります」

「そうだよね。
 なぜだかここ三蔵は不治の病よろしく万年人手不足が続くよね。
 どうしたものかな」

「お前が次から次にと手を広げるからだろ。
 いい加減少しは落ち着け」

「しかし空さんの顔を知らないのは問題があると思います」

 流石に龍造さんは問題の根本を理解していた。

「それはある程度しょうがないよ。
 正月には例年通り村総出で祝うからその時にでも顔合わせはするから。
 年に一回だけど、それしかないかな」

「そうですね。
 それしかありませんか」

 龍造さんはややがっかりしたような表情を浮かべていた。

「して、今回もいきなりの訪問だな。
 最近忙しくあちこちに出回っているようだが、何があったのだ。
 そういえば、幸が何やら女子達を集めて騒いでおったが関係があるのか」

 幸はここに帰ってきて大騒ぎをしていたのか。
 状況が目に浮かぶが、ここできちんとこの二人に報告はしておかないといけないな。
 俺は二人に上人様に行ったように結婚の話を報告した。

「それはめでたいですね」

 龍造さんは素直に喜んでいたが、さすがに知識人代表の玄奘様は難しい顔をしながら

「とんでもないことになっているな。
 いくら弾正殿の紹介であっても太閤殿下のご息女とな。
 色々と面倒になりそうだな。
 してどうするのだ」

「どうするも何も無いよ。
 私に拒否権が無いのだから受けるしかない」

「いや、結婚の話だけじゃないが。
 あ~~それで幸たちが騒いでおったのか。
 そっちはどうにかなりそうだな。
 となると氏の問題だけかな」

「氏の問題って?」

「太閤殿下の息女との結婚ともなると無位無官と言うわけにはいくまい。
 まずは、しかるべき官位を頂いてからの婚儀となるだろう。
 しかし、この官位についても氏素性の知れぬものにおいそれと出されるわけにはいくまい。
 まずは空が一家を立てて名乗りを上げねば収まるまい」

「私に苗字を名乗れと。」

「簡単に言うとそうなるな」

「玄奘様。
 私は何を名乗ればいいのでしょうか」

「この際、何でもいいのではないか。
 どうせ婚儀までの繋ぎだ。
 婚儀の際には朝廷からしかるべき姓を賜ることになるのだろうからな。
 そうだな、断絶したばかりの鷹司あたりを賜るかもしれないな。
 なにせ相手は藤原長者の娘だしな」

「そんな話も出ましたが、丁重にお断りをしておきました。
 鷹司が嫌なら二条でも構わないとまで言われたので逃げ帰ってきたくらいですから。
 それより、何か良い名前はありませんか」

「私に聞くな。
 それこそ上人様にでも相談しろよ」

 上人様には別件を相談したばかりだし、何でも良いのなどうとでもなるか。

「空さん。
 それならいっそのこと三蔵を名乗ったらどうでしょうか。
 空さんはこの三蔵の頭なんですし」

「この三蔵と、私の公的な立場は分けておきたい。
 いつ何時どうなるかわからないので。
 最悪、三蔵の衆を連れて逃げださなければならなくなるかもしれないしね。
 なので、どんな役職を賜ろうとも、それと三蔵の衆の頭とは別人ということでお願いします」

「ずいぶん警戒しているな。
 まあ今の京ならもっともな話か。
 ならどうするのだ」

 そう、どうしよう。
 龍造さんの言われるように三蔵を名乗れれば簡単なのだが、今言ったように最悪台湾かフィリピン辺りまで逃げなければならないことを計算に入れておかないと、今の京都で仕事はできない。

 三蔵の衆の頭とは別人で、名のならないといけない。
 しかもその姓は結婚までの繋ぎになりそうだというのなら少々遊んでも構わないよね。
 ここまで西遊記路線で来て、曲がりなりにもうまくいっているのだから、いっそのことこの路線を完結するか。
 俺は今悟った。
 人は諦めたともいうが姓を決めた。

「なら、ここで決めました。
 新たな姓は『孫』、そして名を改め『悟』、字を『空』とします」

 まさに孫悟空の誕生した瞬間だ。
 いや、違うから。
 幼き頃より虐められていた孫悟空、それならいっそのこと悟りを入れて今度はきちんとした孫悟空になることを覚悟した。
 大した覚悟じゃないけど、どうせ繋ぎなのだから。

「孫悟か。
 悪い名じゃないけど、何か訳でもあるのか」

「自分の中でのけじめと言うか、覚悟と言うか、そう言うものです。
 皆さんには全く関係のない私だけのこだわりです」

「なんだかよくわからないが、そう名乗るのだな。
 では村人に通達でも出すか」

「いやいや、待ってください。
 だから、三蔵の空とは別人なのですよ。
 なので三蔵には通達は無しで。
 あとで、上人様と九鬼さん達には伝えておきます」

「そうか、わかった。
 でこの後はどうするかね」

「龍造さん。
 悪いですが、私の家を教えてください」
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