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第六章 上洛
第百四十七話 検非違使の復活か
しおりを挟む九鬼様たちとの相談では大した成果はなかった。
まあ一応の報告と、今後のことを丸投げできたので良しとするが、問題の解決には全く前進していないので、こればかりは無い知恵を絞るしかない。
とにかく情報が欲しい。
この時代の背景ならばある程度は理解しているのだが、京の政治状況や歴史的なこだわりなど、俺はおいそれと入り込めない事ばかりがたくさんある筈なのだ。
なにせあの京都人相手だぞ。
まあ、そのあたりの評判についてはコメントを差し控えるが、治安を維持するには絶対に住民の協力は不可欠だ。
オピニオンリーダーとなる公家連中の評判も気にしないといけない。
こういった場合に今までだと、まずは何でも知っているグーグ〇先生に聞けばよかったのだが、さすがに無理だ。
仮にスマフォを持って移転してきても、ネットにアクセスできなければ意味もない。
現地調査しようものなら、簡単に追いはぎに遭う自信がある。
なにせ、今の京はヒドイの一言に尽きる。
今まで何でもグー〇ル先生に頼っていたツケが出たと、今更ながらしきりに反省だ。
こんなことならきちんと寄付でもしておけばよかった。
寄付していたなら助けてくれるよね。
そんな訳ないか。
現実逃避の癖がついてしまった。
それにしてもどうしよう。
俺の知恵など無いに等しい。
考えろ、グーグ〇先生が無い場合どうすればいいか
……
……
……
ひらめきを感じた。
まだ俺の知り合いには隠れたチートがいる。
まさにこの時代におけるグーグ〇先生的な存在がいる。
上人様に相談しよう。
そうだよ、この時代までの知識人と言えばお寺の僧侶だよ。
経典の研究だけじゃなく幅広い知識の習得など研鑽に励んでいる存在だ。
もっとも全ての僧侶がそうじゃない。
坂本あたりにいる僧兵崩れなど酷い者も多数いるにはいるのだが、尊敬に値する人も少なからずいる。
もしかしたらグーグ〇先生的な存在の僧侶の方が少ないかもしれないが、この時代にいたのだ。
だいたい大をなした戦国大名には、少なくとも幼少時代には教育をしていたのは僧侶だったはずだ。
その後も、政治顧問や実際に政治に携わった僧侶もいるのだ。
俺の知っているだけでも、今は亡き太原雪斎などはその典型だ。
彼は僧侶と言うより今川の軍師的な存在だったはずだ。
蜀漢における孔明のような存在だったはずだ。
俺にも軍師ではないが良き相談相手は居た。
上人様は、まさにうってつけだ。
そうと決まれば早速俺は大湊を後にして、長島に向かった。
上人様は三蔵寺のご住職に就いてもらっているが、まだ願証寺との役職と兼務だ。
結婚の話もあるので、相談するにはちょうど良かったかもしれない。
俺は船で桑名まで乗せてもらい、願証寺に入った。
本当に久しぶりの願証寺だ。
見覚えのある寺男がいたので上人様との面会を求めた。
すぐに懐かしい上人様の私室に通され、上人様を待った。
しばらくすると上人様お一人で入られ、俺は挨拶を交わした。
「ご無沙汰しております」
「本当に久しぶりだな。
元気そうだな。
で今日は何の用だ」
いきなり本題を切り出してきた。
流石上人様だ。
侮れない。
もっとも侮るつもりなどひとかけらもないのだが。
「いきなりですね」
「お前が用もないのにここに来る訳はないからな。
ここは、まだしばらくは保ちそうだ。
騒いでいる連中は相変わらずだが、信徒たちは比較的落ち着いている。
最近は飢えることが少なくなってきているのが、良い方向に向いているのかもしれないな。
………
今日はその件じゃなさそうだな。
どんな問題だ」
「まずは上人様に報告があります。
どうも私は年内あたりに結婚する羽目になりそうなのです」
「結婚する羽目だと。
なんじゃそりゃ」
そりゃそうだ。
俺でもこんなことを言われれば出来婚かなんて思うが、さすがにこの時代に出来婚なんて概念が無いだろう。
「それがですね。
大和の弾正に嵌められまして、太閤殿下のご息女と結婚することになりました。
もっとも太閤殿下の息女と言っても養子の様ですがそれでも色々とあるようなのです」
「その件での相談か。
悪いがわしはそのあたりには知見はないぞ」
「いや、こまごましたことはすべて私のことを嵌めた弾正と半兵衛さんたちがどうにかするようなので、完全に任せております。
今日相談したいのは別件で、いや、別件でもないか」
「エイ、いったいどっちなんだ。
さっぱり要領が掴めん」
「それがですね。
この結婚にはあちこちの思惑が絡んでおりまして、その中で私に直接関係するのが京の治安をどうにかしないといけなくなりそうなのです。
しかし、無知な私がここでやったように、京で色々とやらかすと失敗しか見えてきません。
それも自分の命のかかる失敗が見えるので、お知恵の拝借と言うか、京の政の歴史や、それにまつわる公家や京の民のわだかまりなどを教えてほしいのですが」
「そういう話か。
そうだな、政くらいは教えられるが、まずはそれからだな。
京の政の根幹はやはり律令制じゃな。
これは平安の時代に唐から学んだ政治だそうだ。
………
………
………
………
と言う感じだが、それだけでは政はうまくはいかない。
わかり切ったことだが、そこで古の人たちは律令以外での官職を設け、時代に合うように工夫してきた。
いわば令外官と言うやつだな。
鎌倉以降政を仕切っている幕府や将軍職などもそれにあたる。
聞いた話だと律令制を取り込んだ早々に令外官を作ったとも聞いている。
当たり前だが、この日の本と当時大国の唐とでは政が同じわけではなかろう。
そうそう、お前の心配している京の治安を維持するために設けられた検非違使なんかもこれに当たるそうだ。
もっとも、検非違使は本家の唐でも同じような官職が令外官として設けられていたとも聞くがな」
この時に俺はひらめいた。
検非違使があるじゃないか。
この官職は朝廷直轄、いわば天皇の直属になるわけで、ほかの大名からごちゃごちゃ言われにくい。
言ってくる奴は何をやっても言ってくるが、少なくとも大名家が絡まずに京に治安部隊を置ける利点がある。
欠点としては朝廷直轄なので、下手をするとそこらの公家辺りが利権を振りかざしてくるかもしれないくらいか。
うん、これは太閤案件だな。
とにかく治安維持部隊を京に作って天皇直轄にして、他からの雑音を一切シャットアウトすればどうにかなりそうだ。
その上でごちゃごちゃ言ってくるようなら、綸旨を持って公家を取り締まればいいだけだ。
武力のない公家なら、どうにかなりそうだ。
ましてや嫁の実家からも圧力掛ければ、どうにかなりそうだな。
そうと決まれば、後は事前の準備だ。
役職を貰えるとか言っていたから、もらう役職をこれにしてもらおう。
もっとも、こちらから言わなくとも向こうの要求が治安の維持なのだから、これに近い役職を用意しているだろうけど。
となると、拠点も整備しないといけないな。
いまさらだけど、あの京の惨状では検非違使が詰める役所など無さそうだしな。
やはり一月を待たずに京に上らないとまずいな。
俺は自分の考えをまとめる意味でも上人様にこの考えを披露して、問題点を詰めていった。
大筋では問題なかろうとなるが、最大の問題点が組織の維持のための財源と、拠点の整備だろうとなった。
拠点は御所に近い場所を下賜してもらうように交渉して、建屋については三蔵の衆に頼むしかないな。
残る問題については財源だな。
本当に、この時代の為政者って何をやっているんだ。
民が苦しむくらい年貢を取り上げておいて、それでも自分たちすら食えなくなるというあまりに無能な者ばかりだ。
本来は、そういった連中から税を取り上げればいいのだが、当分は三蔵の衆からの持ち出しだな。
いや待て、俺らだけ損をするのも面白くない。
京の町を使ってシムシティをやるとするか。
町の再開発を行い、再開発地区の治安を維持しながらそこに入る者たちから税を取っていく。
主に再開発地区に入る商人から売り上げに応じて税を取る格好になるだろう。
その税を財源とすればいいか。
となると再開発計画のための調査からだな。
やはり京入りは決定事項になる。
あとは仲間集めだな。
当然、言い出しっぺの弾正は、絶対に巻き込むのは決定だ。
また、商人の町を作るわけだから、商人にも参加してもらわないと。
商人関係として伊勢屋は当たり前として、紀伊乃屋さんと能登屋さんにも参加してもらおう。
清須屋さんにも声だけは掛けておこう。
となると、信長さんにも話は持っていかなければいけないな。
あとは追々考えればいいか。
とにかく計画だけは作らないと。
俺は上人様にお礼を言って、しばらくはこの件にかかりきりになりそうだと話して願証寺を後にした。
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