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第六章 上洛
第百五十話 なんじゃこりゃ~~~
しおりを挟む「ありがとう張さん。
もう少ししたら賢島に行って、京都で一緒に仕事をする仲間と合流して一度京都に行ってくる。
今の正確な状況を調査してくる。
そこでと言う訳じゃねいけど、お願いがあるんだ。
あ、急ぎじゃないから手すきの時でいいけど頼まれてくれないかな」
「なんでしょうか?」
「子供たちで、教育が終わりそうなのを20人ばかり集めてほしい。
京都に連れていきたい」
俺はこの後京で活動するうえで一番大切な、それでいて我々三蔵の衆の一番の問題である人材の件で、教育の済んでいる子供たちの手配を張さんにお願いをして、仕事をつづけた。
本当に久しぶりだ。
この俺が文机の前で事務仕事なんてするのはいったい何時以来だろう。
………
………
………
ごめんなさい。
またまた見栄を張りました。
正直申しますと、事務仕事なんて生まれて初めてです。
だいたい、前の世界でも社会人の経験のない引きこもり一歩手前の大学生が、事務のアルバイトなんてする訳がない。
この世界に来てからも、事務することなど一度もなかった。
しかし、少し考えればわかりそうなものだが、三蔵の衆も今ではちょっとした規模になっている。
およそ組織と呼べるものには、こういった事務仕事は否が応でも生まれてくるものだ。
ましてや、近畿地方にいくつも拠点を構えている三蔵の衆には、事務仕事が無い訳がない。
となると、俺がしていなかった事務仕事は誰かがやっていた訳で、その誰かと言うのが今目の前にいる張さんをはじめ葵たちだったと言う訳だった。
本当にひっきりなしにやってくる文などを手際よくさばいていく張さん達。
それでいて、俺のところに回ってくるのは本当にわずかだ。
それも案件ごとにメリットとデメリットをわかりやすくまとめられ俺に判断を求めてくる。
しかもだ、その判断もほとんどの場合YesかNoかとか、甲か乙かとかの分かりやすい形で求めてくる。
それも求めてくる案件すべてが組織の戦略や方針と言った意思決定者だけができるものばかりなのだ。
どれだけ優秀なのだ。
それ以外の案件すべては張さんのところで判断され、各部署に戻されていく。
俺のところには最低限俺が知らないといけないものだけ事後報告にやってくる。
もっとも、その事後報告も俺のところでは右から左なので、正直申し訳ない。
組織の運営実態を初めて知った俺は頭が上がらない。
それでも、俺がほとんどここに寄り付かないものだから、緊急のもの以外が溜まりに溜まっていて、俺はその処理にかかっているのだ。
本当はもう少しこの後のことを考えていたかったのに、実態を知ったらた溜まった案件の処理を優先させた。
しかし……
これって、どうなのかってものもかなりある。
賢島の豊田さんからの案件は、う~~む、わかるとしようか。
なにせ九鬼水軍の代将である豊田さんも、今では賢島の代官のような仕事の方が多い。
まあ、賢島は九鬼水軍主力である人たちが移り住んでいるから、彼らの面倒までは豊田さんの仕事だろう。
でも、今ではそれだけでなくなってきている。
城下町には、まだ少ないが商店ができており、また、俺が各地に派遣している船の基地ともなっているので、俺らの玄関口としての機能が追加されたのだ。
その機能関連で俺に判断を求めてきている。
俺が原因なので我慢はできる、我慢するけど、これって政だろう。
本来、政はその地の為政者の仕事だ。
為政者がいなければやむを得ないとも言えるが、為政者がいないわけじゃない。
しかしまあ、豊田さんは良しとしよう。
次に見たのが孫一さんからの軍事編成関連の案件だ。
孫一さんは、今では九鬼さんのところの家老で伊勢志摩の軍事関連のトップだ。
主に陸軍を担当しており、軍事のトップで陸軍担当と言った性格の仕事をしている。
なので、いざ戦ともなると九鬼水軍をまとめている豊田さんも孫一さんの部下として海軍を預かる格好になっていたはずなのだが、その案件の判断も俺のところに来る。
これって、どうなの。
きちんと大名がいる国の軍事と言ったら、この時代では為政者の仕事の大半だろうと言いたい、俺でいいのかと声を大にして言いたい。
う~~~む、孫一さんを引き込んだのは俺なのだから、最後まで面倒を見るのはやぶさかでないと俺自身を納得させる。
しかし、しかしだ。
なんで半兵衛さんまで俺んところに案件を回す。
あの人は、九鬼さんの次席家老で実質政の総括的な人だろう。
そんな人まで、俺に案件を回すのが分からない。
こんなのばかりだから、こんなに仕事が溜まるのだ。
今まで何もやってきてない俺が偉そうに、心の中で散々悪態をつきながら張さんのまとめてくれた情報で判断を下していく。
幸い、組織としてガチガチに固まったものじゃないので、くだらない稟議に判を押すだけの仕事が無いのが救いだ。
俺は、顔に不満を浮かべながら仕事をしていく。
どちらを選んでもそれなりに回っていくようなものばかりだが、それでいて選択によっては我々の今後の在り方そのものが変わってしまいそうなものばかりだ。
さんざん悩みながら、ひとつづつ丁寧に判断していく。
これって俺の仕事か。
未だに、未練がましく心の中で不満たらたらに、仕事をしていたのだが、
『何だこりゃ~~~~』
俺は大声をあげてしまった。
この場にいた三人は驚いて俺のところにやってきた。
「空さんどうしましたか」
張さんが驚きながら俺に聞いてきた。
「だ、だって、この案件見たでしょ」
「あ、それですね。
九鬼さんのところから3人の家老の方連名できた案件ですね。
重要かとは思いましたが、急ぎではないので、そこにいれときましたけど、いつまでも判断しないわけにはいきませんね。
ちょうど良かったです。
良い機会だから、きちんと空さんに方針を示してもらわないといけませんね」
「え?
だって、これって領内の政だよね。
今後の領内の運営の方針でしょ。
俺が決めるものなの。
いや、俺が決めていいものなのか」
「空さんが決めなければならないものでしょ。
でも、お考えは既に決まっているのでしょ」
「う……
確かに、こんな山ばかりの土地じゃ今から開墾してもたかが知れているしね。
こういったの確か重商主義っていうんだっけ。
うちは他とは違い重農主義は取れないから三蔵の衆は初めから生産と販売、工業と商業で行くしかないから進めてきたけど、それって伊勢志摩全体でやるものなの。
これからさらに発展させていくには、増えていく領民を抱えていくにはそれしかないのは分かっているけど、そういった方針を決めるのは大名の仕事でしょ。
俺が決めるものじゃないような」
「はいはい、答えが出ているのなら九鬼さん達にきちんと伝えれば良いだけだったのでは」 と言いながら張さんは自分の仕事に戻っていった。
続いて葵も仕事に戻った。
最後に残った幸が俺に教えてくれた、驚愕的な事実を。
「九鬼さん達からの文はそれこそ毎日のようにここに来ますよ。
そのほとんどは張さんが助言を添えて返していますから、空さんのところにはあまりないのでは」
え!
それって、ここがこの領内の意思決定機関だというのか。
いわば国会いや内閣にあたるのか。
そんなんで、いいのか伊勢志摩は。
確かに占領したばかりの多大な領地の運営には仕事が多い。
ただでさえ人材の不足であるのに、色々と俺がやらかすから九鬼さんのところも大忙しだそうだ。
こんなことまで、ここで決めて大丈夫かよと思ったが、よくよく考えると、やむを得ないことも無くは無いだろう。
なにせ、太閤家との縁結びの件もある。
その案件も丸投げしたばかりだ。
驚きの事実を知って、目の前が暗くなるのを感じた。
俺は、とりあえずそういった感情面でのモヤモヤを心の中から切り離し、残りの仕事にかかった。
幸いそれ以降、俺をこれ以上驚かすものはなかった。
その多くが商売関係での案件ばかりだった。
中で唯一新造船に関してのものがあったのがうれしくあった。
今研究しているキャラック船の建造のめどが立ったので、2隻の建造許可を求めるものだ。
ここ三蔵村と賢島の造船所で同時建造の許可を求めてきている。
俺は問題点などの情報を共有させるために連絡を密に取ることを条件に許可を出した。
割と単純な俺は、自分の好きなことの処理を終えると気分も晴れ、続きの仕事にかかった。
さあやるぞって気合を入れたそばから邪魔が入った。
部屋に半兵衛さんと藤林さんが賢島の豊田さんからの手紙を持って入ってきた。
新たな、それも割と緊急な案件を持ってきたのだ。
「空さん。
豊田から、急ぎで問い合わせが入ってきています」
「え、何々」
「なんでも、あいつが言うには空さんがやりかけの話だそうで、伯さんが博多から年行事の一人を連れてきているようです。
至急対応を願いますって泣きが入ってきております。
なんですかこれって」
「え、あそういえば前に行ったときに伯さん、ほら取引のある唯一の明の商人の伯さんが義父である博多の商人の出店を願い出ていたんだっけ。
忘れていたよ。
でも、領内の商人の出店の許可って大名が出すんじゃなかったっけ」
「空さん……」
「今さらですか。
いいですけど、この件は最後まできちんと処理してくださいね」
「はい……
お二人はそれだけを言いにここまでわざわざ来たのでしょうか」
俺は二人から怒られた。
怒られたので、ここはおとなしく二人の意見に従うことにした。
「それだけじゃありません。
本当は別件、いや、これも関係しますが、領内の商いについての相談しに来ました。
あ、前に挙げたその件は処理済ですね。
ちょうど良かった。
張さんからも最終の判断は空さん待ちだと聞いていましたが、重商主義で進めても大丈夫と言われていたので、その件の相談に上がりました。
領内の商人たちの管理をまとめておきたいと相談に来たのですが、この件の方が先ですね。」
何やら俺のやり残しから非常にややこしい案件に巻き込まれそうな予感がしたところで、新たな事件がやってきた。
港の方から伝令が慌ててやってきたのだ。
「誰かいますか。
張さん、いますか。
大変です。
見慣れない船が、それも大きな船が沖までやってきています」
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