名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第六章 上洛

第百五十五話 無礼講

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 紅梅屋さんが帰るのと入れ替わるように藤林さんが、忍び衆を20人ばかり連れてきた。
 広間にはまだ半兵衛さん達がいるので、そのままこの広間で忍び達に会うことにした。

「殿、おはようございます。
 昨日話していた配下の者たちが着きましたので連れてきました」

 藤林さんの後ろからついてきた若者たちは、ここについていきなり城の広間に通されたので、面食らっているようだ。
 藤林さん達上忍と呼ばれる人たちは、城に上がり上級の侍達に面会することもあっただろうから当たり前のように接してきたのだが、実働部隊ともいえるいわゆる下忍と呼ばれる者たちの扱いは、一般的には酷いようだ。
 まともに侍達とも話すこと無く、上忍達からの指示を受け、また、成果である情報を上忍に上げるといった格好を取っているので、いきなりの広間での接見には落ち着かない様子だ。

 連れてこられた忍び達は、全員がまだ若い。
 下は15~6歳くらいから、最年長と思われるものでも20台前半くらいの若さだ。
 それでも、藤林さんの説明によると、全員が全員ともかなりのやり手で、一人でも敵地に潜入して仕事をできるくらいで、また、実際にも、これまでいろいろと俺の知らないところで活動をして来た者たちだ。

 俺は、一人ひとりの紹介を受けて、全員に紹介のたびにここに来てくれたことのお礼と、これから一緒に仕事をするので、お願いする旨を伝えた。
 すると全員が全員、感極まったかのように泣き出すのだ。
 俺が驚いていると、半兵衛さんが説明してくれた。

「殿、彼らは殿にお目見えができ、また丁寧にお声を掛けられたことで感激しております」

「なぜ、俺は平民だよ」

 今は……だけれど。
 どうせ、直に義父になる太閤殿下から役職を無理やり付けられるのだろうが。

「ここにいる全員が、そうは考えてはおりません。
 彼らは、忍なのです。
 我々の特殊な関係を理解しております。
 九鬼の殿様の、さらに上位におられる殿のことは理解しております。
 ですので、九鬼の殿様のお目見えよりもうれしいのでしょう。
 九鬼の殿様にすら会ったことのない者にすれば、破格の待遇と言えます」

 いまだにこの時代の身分の違いによる待遇格差には慣れない。
 藤林さんや九鬼さん達と会った時には、みんなは浪人?状態で、俺も唯の商人でしかなかったので、それほど感激するようなことはなかった。
 藤林さんに至っては、下手をすると俺と初めて会った時には意識すらなかったのかも。

 何せ大怪我を負っていたからね。
 同様に俺の警護兼連絡役を買って出てくれる丹波少年もその時に会っているので、こういう光景は新鮮だが、どうしても慣れない。
 俺と話すたびに泣かれていてはこれからの仕事ができないので、『同じ釜の飯を食う』の喩えじゃないが、一緒に昼飯でも食べてから仕事の話をすることにした。

「少し早いが、昼飯でもみんなで食べようよ。
 張さんも、まだ時間大丈夫だよね」

「はい、船は昼過ぎまで来ませんから、大丈夫です。
 すぐに用意させますね。
 皆様の分は……」

「当然、一緒だよ。
 わざわざ遠いところを来てもらったのだから、慰労も兼ねてだからね」

「それでは、ここで食事をしましょう。
 すぐに用意させます」 と言って、張さんは城の厨に向かった。

 俺たちの話を聞いていた若い忍び達は、さらに驚いた顔をして、唯々固まっていた。
 食事はすぐに運ばれてきた。
 最近ここでの名産品ともなっている干物を焼いたものまで付いており、さらには張さんが気を利かせたのか酒までも運んできた。

「ダメだったかしら」

「いや、かまわないよ。
 気を利かせてくれてありがとう。
 良かったら張さんも飲んで。
 どうせ今日は移動だけでしょ」

「はい、そうさせてもらいます」 と言って、酒を若い忍び達についで回った。

 忍び達はまだ固まっていたのだが、美人の張さんに酒を注いでもらい、その張さんに勧められるまま酒を飲んでいるようだ。
 少しの酒も入り彼らの硬さも取れ、会話も弾んできた。
 今までの仕事の苦労話や、里での幼馴染の色恋話など、楽しく会話しながら食事を楽しんでいた。

 ゆっくり楽しい食事の時間も終わるころに、堺から雑賀埼経由した船が着いたと港からの連絡が入った。
 この船で張さんは帰る予定なので、忍び衆は城の別室で休んでもらい、俺は張さんを送るために一緒に港に向かった。

 俺らが港に着くと、すでに船は積み荷を降ろしていた。
 その横で、孫一さんが、これも若い衆を20人連れてこちらに向かってくる。

「孫一さん、ご苦労様です。
 今回もお手数をおかけして申し訳ありません」

「空殿。
 お久しぶりです。
 連れてきた若い衆ですが、以前に話してた空殿にお預けします連中です」

「ここで、挨拶するわけにもいきませんので、後程城で紹介してください。
 今は張さんが村にこの船で帰るので、見送らせてください。
 孫一さんは、今日は少々相談したいこともあるので、残って頂けますか」

「わかりました。
 まだ連中の引継ぎも済ませていませんので、今日は連中と一緒にいましょう。
 なら、私も張さんの見送りをしてから城に行きましょう」

「いえいえ、皆さんお忙しいので、私なんかをほっておいて仕事に行ってくださいな」

「そうもいきませんよ。
 どうせ大した時間はかかりませんから」

「そうですよ。
 私なんか、張さんと話すのなんか本当に久しぶりなんですよ。
 本来ならゆっくり食事でもしながら話でもしたかったのに、私なんかよりもお忙しそうですからね、また今度の機会にと云うことで。
 次会う時は、一緒に酒でも付き合ってくださいね」

 孫一さんが、簡単に張さんに別れの挨拶をしていた。
 その後、連れてきた連中に向かって、少し待てと言っていた。

「お前ら、悪いがもう少し付き合ってくれ」

「皆さん、申し訳ありませんね。
 その代わりと言っては何ですが、今夜は皆さんを歓迎しますから、期待してください」

 その後、割と時間を掛けずに船は張さんを乗せて、大湊方面に出港していった。

「お待たせしました。
 とりあえず、皆さんを城に案内しますね」

 俺がみんなを連れて行こうとしたら、遅れてきた豊田さん達があまり良い顔をしていない。
 どうも俺のフレンドリーな態度は豊田さん達にはお気に召さないらしい。

 すぐに、豊田さんが孫一さんを連れて城に向かった。
 俺も後から付いていく。
 城に着くと、先ほど同様に、城の大広間にて、一人ずつ紹介してもらった。
 しかし今回は先ほどとは違い泣き出す人はいなかった。
 俺にとってこれが普通だと思うのだが、人に寄っての対応が異なるらしい。
 傭兵家業はあまりお目見えなどにはこだわらないかのようだった。
 一通り挨拶が済むと、とりあえず先ほど紹介してもらった忍び衆もここに集め、今回集めた目的を説明する。

 幸いというか、同時に集まったので、忍と雑賀衆とも面通しもしてもらい、今後はこの集まった40数名で一緒に活動することを宣言した。

「近い将来、私は京に上ります。
 すみませんが皆さんは私に付いて一緒に京まで来てもらい、その地で仕事をすることになります。
 当面は、私の護衛という形をとりますが、拠点の整備が済み次第、本来の目的である仕事にかかってもらいます」

「空殿、その目的とは、いったい何なのだ」

 孫一さんがみんなを代表して聞いてきた。

「孫一さんに皆さんの件を頼んだ時に話しましたが、私には太閤殿下より京の町の治安の改善を求められることになっている。
 その治安を実際に改善するための戦力として、皆さんのお力をお借りしたい」

「この人数で、京の町全体をか?」

「いえ、できる範囲しかしません。
 当然、仕事が軌道に乗れば増員を考えておりますが、皆さんにはその中核としての働きを期待しております。
 まずは、拠点を持つところからで、その後は、この人数で見回われる範囲、そうですね、せいぜい御所周辺の警備くらいからですかね。
 そんな感じで考えております」

 その後、年長者から各々質問を受けたが、とにかく始めて見なければわからないことばかりなので、うまく説明できたかどうか。
 そんな感じで、今日の目的を済ませることができた。

「せっかく皆さんが遠いところから来て下さったので、皆さんの慰労を兼ねて、この後ささやかですが宴を開きます。
 孫一さんや藤林さんはもちろんですが、半兵衛さんも参加してくださいね」
 俺の話を受けて豊田さんが、俺に聞いてきた。

「宴はこの場所で良いですか」

「そうですね、この人数ですから、ここがいいでしょうね。
 構いませんか」

 この城の主は一応豊田さんになっているので、俺は一応豊田さんに確認を取った。

「はい、その方がいいだろうと、先ほど張さんもおっしゃっておられました。
 また、張さんの指示で厨の方も準備は済んでおります。
 すぐに酒と肴を運ばせます」

 さすが張さんだ。
 俺の考えはお見通しのようだ。

「ありがとうございます。
 この後も迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 この後豊田さんが大きく手をたたくと、城の奥から城詰めの女性たちが酒などを運んできた。
 早速宴会が始まった。

「忍びの皆さんには、昼に食事と一緒に少しばかりの酒をふるまいましたが、遠慮せずに沢山飲んでください。
 また、後からいらした雑賀の衆の皆さんは、後れを取り戻すよう、遠慮なく沢山飲んでください。
 今日は無礼講で楽しみましょう」

 その後割と遅くまで宴会は続いたようだが、俺は早々に引き上げさせてもらった。
 酒も飲めないのに、酔っ払いの相手はしたくない。
 翌日、また全員を広間に集めたが、さすが全員が一人も遅れることもなく集まってきた。

 中には苦しそうにしている人もいるにはいるが、俺の話を聞く限りでは問題ない。
 できるだけ早く京都に入りたいが、ここでチームの絆だけは作っておきたかったのだ。

 当面この島内で訓練を行うとして、彼らの住まいをどうするかだが、何でもこの島にも俺の屋敷があると聞いた。
 それも頑張って作ったようで、かなり広いらしい。

 なにせ、三蔵村の屋敷すら知らなかった俺に、この島にある屋敷なんか知る筈がない。
 昨日初めて聞いたくらいだ。
 しかし、これは良いことを聞いた。
 集まった連中を全員、俺の屋敷に住まわせ、そこから島の中央部にある試射場を兼ねている広い場所で、チーム編成を行い、そのチームで訓練をしてもらう。

 肝心のチームなのだが、最小単位を二人ペアとして、いかなる時もペアで行動をしてもらうことを徹底させる。
 なので、藤林さんや孫一さんのいる前で二人のペアを作ってもらった。
 また、今後京都での治安回復のための警邏する組を作る。

 とりあえず、雑賀衆のペアを二つと忍び衆のペアを一つで組を作り、警邏はこの6人態勢で行うことにして、忍び衆が10人残るが、5ペアを本来の忍び働きのために確保しておくこととした。

 今島内で出来ることは、新たに作った組のチームワークを作ることだ。
 孫一さんや藤林さんに手伝ってもらい、島内で訓練をしてもらう。
 その合間に、俺は、大和の松永さんに連絡を取り、京都に行くときに太閤殿下との面会の手はずを取ってもらった。
 また、当面の京都内での宿泊先の準備にも便宜を図ってもらうようにお願いを出してある。

 この返事を待って、俺は新たにできた配下を引き連れて京に上ることにした。


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