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第六章 上洛
第百五十六話 奴らの思惑
しおりを挟む城の大広間での打ち合わせの後に、みんなを引き連れて、とりあえずの拠点である俺の屋敷に向かった……向かったはずなのだが、いや、向かうことすらできていない。
俺は、この島に屋敷の有ることは知っている。
何せ先日聞いたばかりだ。
そう、屋敷の有無は聞いたのだが、どこにあるとか、どういう屋敷だとかは全く知らない。
何せ誰も教えてくれないのだ。
俺も正直に聞かないのも悪いのだが、今更と言うのもある。
俺は、ウルウルした目(自称)を豊田さんに向けた。
決してにらんでいるわけじゃないのだが、俺のそんな態度を見届けた豊田さんは、あえてこちらを見ている。
絶対に俺に要件を言わそうとしているのだな。
俺が自分の屋敷すら知らない間抜けだということを、あえて皆に知らしめようとしているのだな。
ここで助け舟が出た。
藤林さんが、豊田さんに案内をお願いしたのだ。
「豊田殿、悪いが殿のお屋敷まで案内を願えないだろうか」
「もちろんです。
私が御案内致します」
良かった。
恥をかかずに済んだ。
しかし屋敷の件では、どこに行っても俺は恥をかきそうになるな。
いったい俺の屋敷っていくつあるのだ。
どこもかしこも勝手に作るので、よくわからない。
俺自身が作ったのって、浜の小屋か例の水車小屋くらいだ。
水車小屋は今でも現役だが、浜の小屋は倉庫に格下げとなり、俺のものじゃなくなっている。
その代わりに用意されたのが村での俺の屋敷だった。
最近、俺の屋敷っていうのが、どこに行っても公邸の扱いを受けるようになっているのが気になるが、今回のような場合には助かる。
京都治安対策本部臨時事務所として使えるからだ。
京都内に、正式に拠点を作るまではここに拠点を置き、活動をすることになる。
俺は豊田さんの案内で、島にある俺の屋敷に向かった。
前に村でも感じたことだが、それ以上の驚きをもって俺の屋敷を見た。
とにかく大きく立派な屋敷だ。
さすがに天守閣はないが、これは城と言ってもいいくらいのレベルのものだ。
先ほどまで城で使っていた御殿よりも大きく立派なものを豊田さん達は作っていた。
彼の言い分では、自分たちが日ごろ政務で使っている御殿よりも、殿がお使いになる場所が貧相ではいけないとのことで、これは九鬼の殿様より厳命されたのだそうだ。
最近の俺は、とにかくあちこちにいる以上、いわゆる住所不定の状態なので、せっかく作ってくれた屋敷だって下手をすれば使われない可能性まであったのに、もったいないことをさせる。
今度九鬼さんに会った時には文句の一つでも言っておこう。
この屋敷も城にある御殿と同様の作りで、大広間なるものがある。
とりあえず一行はそこに入り落ち着いた。
案内をしてくれた豊田さんは外にも仕事があるので、早々に城に帰っていったが、孫一さんと藤林さんは残り、それぞれが連れてきたメンバーのペアを作ってもらっている。
前にも言ったが、このペアは大事でもない限りは変更するつもりはないが、ペアを集めて作るチームは色々と変えていくつもりだ。
そのペア作りが済むと、今後について相談を始めた。
俺は、昨日に大和に使いを出している。
弾正に京都での活動についての便宜を図ってもらうようにお願いしているのだ。
その返事をもって、京都に入るが、それまでここで遊んでいるわけにはいかないので、ここで出来る仕事をしていく。
早速できたペアを、孫一さん達にアドバイスを貰いながら、チームに作っていく。
最初の巡回警邏チームを5つ作る。
これらチームを組みと称して運用を考えるわけだが、それぞれに名前がないとさすがに俺の方が区別できないので困る。
第一から第五の数字でもいいが、それだと味気ない。
俺が、それぞれの組での頭となる者の特徴から、ウサギさん、クマさん,ネコさん、イヌさん、ネズミさんと名付けようとしたら全員から反対された。
お公家さんの前でその名前で呼ばれたくないと、泣いて頼まれた。
さすがにお公家さんの前で呼ぶことはないだろうが、報告書などには記録は残るだろう。
呼ばれる側が嫌だというので、この案はすぐに引っ込めた。
となると最初に戻り、どうするかだ。
甲乙丙丁などでもいいが、これだとなんだかそれぞれの組に評価を付けてしまうような感じで俺が納得できない。
何せ昔の成績表を見ているようで、とにかく俺が落ち着かない。
さんざん悩んだ挙句に、江戸の町火消しからお名前を借りてくることにした。
できた組の名前が『い組』『ろ組』『は組』『に組』『ほ組』と名付けた。
あの有名な『め組』は、今は作らなかった。
そのうち気分が乗れば、組の増設時に作るかもしれないが。
できたばかりのチームを集め、警邏についての方法を議論してもらった。
傭兵はともかく忍びの人については、目立たないことを信条としているのだが、事警邏についてはその抑止力効果もあるので、目立つようにしてもらう。
チームとして目立たせるので、今度ばかりは目立つことを許してもらう。
当然、作ったチームから漏れる者たちがいる。
忍び衆で5ペア10人だ。
彼らにもきちんと仕事はある。
当面は彼らの方が忙しいかもしれない。
早速彼らに仕事を頼んだ。
彼らには先行して京都に入ってもらい、まず京都の町の地図を作ってもらう。
その後、その地図を使っての周辺調査だ。
治安上問題となる所や、政治上、経済上、留意しなければいけないところなど、事前調査をしてもらうことにした。
藤林さんから早速指示を出してもらい動いてもらった。
今後は俺が彼らに直接指示を出すことになるのだが、藤林さんがいる前では出し辛いので、そのままお願いをしたのだ。
なんでも京都には古くから伊賀も甲賀もそうだが、忍者の拠点があるのだそうだ。
伊賀を追い出された藤林さんがそのまま無条件でその拠点を利用できるはずがないのだが、どうも今回は甲賀の拠点を利用できるらしい。
当分はそこを利用して調査させるのだそうだ。
ひょっとして望月様の伝手でも利用したのかな。
後は、京都に入るまで出来うる限りの準備をしていく。
まずは組ごとに分かれてもらい、基礎訓練をしてもらう。
チーム内には銃の扱いに長けた傭兵集団の雑賀衆が主力となるが、情報収集や暗殺なども手掛けてきた機動力のある忍び衆も二人もいる。
街中での戦闘など警邏中での役割などの検討もしなければいけない事案だ。
できれば、今後の部隊増設時に参考となるように標準化していきたいが、今はそれぞれの組ごとに特色が出てもいいようにしている。
組ごとを競わせるわけじゃないが、時々対戦などもして、チームとしての能力の向上も図られてはいる。
また、予防的措置として目立つ警邏の訓練もしてもらっている。
これは、各組ごとに分かれて、島にある港周辺の民家の集まった道路を模擬的に巡回してもらって、残りがひそかについて回り、問題点の洗い出しをしてもらう。
そんなこんなで簡単に半月ばかりが過ぎていく。
そうこうしていると、張さんも村での引継ぎを終わらせてやってきた。
予想はしていたが、葵と幸も引継ぎを済ませて一緒にやってきたのだ。
最初は、この賑やかなメンバーで京に入るつもりだ。
しかし、大和からの返事はまだない。
京都での便宜をお願いしているのだが、たとえ弾正と云えども幕府や公家相手ではそう簡単にはいかないようだ。
藤林さんの掴んだ情報では、幕府の方が動きが悪い。
どうも四国の三好家あたりが動いているとも聞いた。
はっきり証拠を掴んだ訳じゃないが、ほぼ間違いなく俺の動きを邪魔したいらしい。
もっとも俺が誰なのかまでは、相手に知られた様子はない。
今までの情報を集めてみると、太閤と弾正が一緒になって京都の改革に乗り出してきそうだと考えているらしい。
彼らは、その改革で一掃されるのを酷く恐れている。
とにかく改革の目玉になりうる正体不明の人間の京入りを、持てる力の全てをもって阻止するべく暗躍しているのだとか。
そのために、現状では完全に幕府は弾正の手から離れた。
しかし、そうなると最悪なのは、京都の治安だ。
今でも悪い京都の治安を、弾正配下の部下たちが必死になって現状に留めているのだ。
それが、そんな彼らを完全排除しては、京の治安がどうなるかは推して知るべし。
早々に京都の町は人の住める状況にならなくなる。
少なくとも公家連中には住めない町となろう。
肝心の三好の残党と言って良い四国の三好の連中は、そんなことは全く考えにも及ばないらしい。
でないと大和の弾正を追い出したのなら、自分らで治安の維持の手はずを整えればいいものを、自分らは安全な四国から出ずに、手のものを使っての暗躍だけだ。
しかも、それには、暗殺という、唯でさえ治安がっていう地域なのに、さらに治安を悪化させるしかない手を多用してくる。
そんな話を聞かされれば俺でなくとも行きたくはなくなるのだろうが、そうもいかないだろう。
結局のところ行かざるを得ない状況に追い込まれるのは目に見えている。
そういうのは半分以上あきらめがあるのだが、許せないのは弾正や太閤たちの俺に対する扱いだ。
京都が危機的な状況になりつつあるのに、太閤も弾正も、そう状況になっている情報を一切俺に流してこない。
のこのこ俺が京に上って来るのを待っている。
いや、京に上らざるを得ない状況を作っているのだ。
それで、俺がのこのこと京に入って来た時に、逃がさないようにする方法でも考えているのだろうが、あいにくうちには過分ともいえる忍者の集団がそれも最初から信頼できる仲間としていくのだ。
俺には逐一悪くなる京の町の様子が手に取るように分かるくらいに情報が入ってくる。
そしてさらに気に食わないのが、俺が状況を完全に理解しているだろうことも分かっているのだ。
そう、あの連中は、俺が状況を完全に理解してもなお、のこのことやって来ると思っていやがる。
いや、そうせざるを得ない状況を作ろうとしているのだろう。
あいつらの思惑に乗るのは癪なのだが、遅くなればなるほど自分の首を絞めるのがわかるだけに、弾正からの返事を待たずに、こちらの準備が整い次第、一度京に行くことにした。
これは張さんの勧めでもある。
待てば待つほど状況が悪くなるのなら、たとえ礼儀にかなわなくとも、こちらから押し掛けるのも有りかと言っていた。
拠点についても、さすが張さん。
信長からの書面を持っていた。
張さんが言うには、信長さんは、空さんが京に上り、しばらくそちらでお仕事をするには餞別代りに持っていけと言って快く紹介状をその場で書いてくれたそうだ。
なんと、その場で書いてくれた紹介状は、織田家が先代からお付き合いしている山科言継卿宛てだ。
確か大納言だったか、今の時代での公家の地位は一時の勢いはないが、それでも京の大物だ。
「空なら必要はないかとは思うが、今の京だ。
なにがあるかわからん。
何があろうと、切り抜けられるよう、少しは協力させてくれ。
別にこれが無駄になっても構わないが、持っていけ」 とも言っておられたとも教えてくれた。
これ、信長の自筆の手紙だよ。
国宝?少なくとも博物館ものだよな。
俺が、感心しながら読めないミミズの這いつくばったような古文書を真剣に眺めていた。
尤も、ちっとも古くはないのだが。
俺がしきりに感心していると、張さんはもう一通の紹介状を出してきた。
妙心寺宛てだというのだ。
これは、信長の命を受けた沢彦宗恩が書いてくれたものだそうだが、どこでどうおねだりすればこれほどの紹介状を貰えるのか非常に驚きだが、その時の信長さんが言うのには、「宿泊先くらいは山科卿が直ぐにで準備するだろうが、何が起こっても不思議のない京だ。
念のためにこれも持っていけ」と言っておられたとか。
感謝しかないが、それにしても、今回の借りは高くつきそうだ。
これなら、なかなか返事をよこさないくそじじいからの返事がなくとも問題ない。
ここまでお膳立てされていれば、行かない訳にはいかないだろう。
今、京に潜伏している忍び達に連絡を取ってから出発することになった。
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