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第七章 公家の政
第百八十四話 明経博士
しおりを挟む宮大工の棟梁である英輔さんに、伊勢での木材の仕入れを提案した翌日には、伊勢に向かうことになった。
道中の手配を俺らがするという約束なので、慌ただしく手配したのだが、相変わらず動きの早い棟梁だ。
しかし、あの棟梁でも、ここ京での木材がなかなか仕入れられないのを見ると、本当に京での仕入れは難しいのだろう。
京の町が荒れてから何年もたっている。
能登屋さんの話じゃないが、ここ数年は特にひどかったとかで、何件もの店がつぶれたりどこかに引っ越したりで、商いがさっぱりの状態が続いていたとのことだ。
日本の都でも、あちこちで必要と思われる木材が入手できないのは多分そのためなのだろう。
俺もここの治安を見るようになって初めて知ったのだが、能登屋さんの言わんとすることが、ここに来てやっと理解できた。
なにせ、押し込みやら放火なんかも幕府の役人やその連中の仲間たちがほとんどだったのには驚いた。
いくら戦国の世とは言え、こんなに治安が悪ければ商いなんかできない。
本来なら商いが盛んな場所でもあるはずの京がこの有様だ。
太閤殿下ではないが、誰でもいいからどうにかしてくれと言いたくなる気持ちも分かる。
で、その誰でもいいのに選ばれたのが俺と言う訳だ。
正直迷惑だとは思っているが、ここはなりゆきと諦め一生懸命に働いている。
最近になり、ここ上京周辺の治安も回復してきたら、付近の商いも徐々にではあるが盛んになりつつある。
しかし、宮大工が使う上質な木材となると、まだまだ無理だったようだ。
そこで、伊勢の俺らの勢力内にある山々から木材を探すことになり、今うちの葵や与作さんと一緒に湊から船に乗って堺に向かった。
与作さんは急な話だったのにもかかわらず、俺の願いを快く引き受けてくれた。
後で、張さんから聞いた話では、久しぶりに上さんに会えると大喜びだったとか。
俺の職場ってブラックか?
しかし、そういわれて考えたのだが、結構単身で仕事をさせていたな。
まあ、治安の問題もあるので、おいそれとは拠点のある三蔵村から女性や子供を連れていける訳じゃないが、せめて家族単位で仕事をさせてあげたい。
でも、できるのかな~~。
少なくとも、商売に関しては与作さんよりも奥さんのお菊さんの方がなんぼも使えるので、今までは与作さんはお菊さんの護衛の役のようになっていた。
あ、でもお菊さんて村に居たっけ?
熱田にいたのでは……あ、勘違いか、熱田は幸代さんだった。
うちの女性たちは、優秀な人が多くて、張さんを筆頭に本当に旦那さんよりも商いに向いた人が多いので勘違いしていた。
お菊さんは、村の女性たちをまとめてもらっていたのだった。
となると、少々京の治安が良くなっても連れて来れないか。
もうしばらく与作さんに我慢してもらおう。
『奥さんに会いたければ、早く仕事を済ませてね』ってどんなにブラックなんだよ、うちは。
まあ、いそいそと出かけて行った人たちの見送りを済ませて、俺は屋敷に戻った。
俺は俺でやる事が沢山ある。
いよいよ検非違使を発足させるので、その事務作業やらなにやら、次から次に仕事が尽きない。
何よりも人手が無いのが致命的だ。
運用面では俺の好きなようにできるよう、貴族連中からの人は受け入れていない。
俺の検非違使就任から自薦他薦の公家衆がひっきりなしに訪ねてくる。
最初は一々あっていたのだが、本当に使えない連中ばかりだった。
まあ、目端の利く連中はとっくに自立しているはずだし、言葉は悪いが、今まで俺の会った中では、出がらしのような連中しかいなかった。
今では、全部保留という扱いで助清さんに任せている。
本当はこの時点で断りたかったのだが、直ぐに断ると、しこりが残るとか何とかで、本当にめんどくさい。
やっぱり早く軌道に乗せて京から脱出することを考えよう。
基本は今の巡回警邏の延長で警戒地域を広げていく方針だ。
その際に、付近から人を集めて教育をし、使えそうな連中を今の警邏組に組み込んで人員の補強を図ることにしている。
5年もあればどうにかなるだろう。
5年の目途についての理由としては、集めた人材にある。
今、集めた人のほとんどが浪人などの武士と公家崩れの連中だ。
少々の教育でどこまで使えるようになるかは、正直期待はしていない。
それよりも、付近にたむろしている孤児などに教育する方がなんぼも使えそうだ。
俺がこの世界に流れ着いてから、集まった孤児などに教育をしていったのだが、最近になり、やっと仕事を任せられるようになった人が出てきた。
その代表格が葵や幸だ。
幸はまだ子供なのだが、葵には仕事を任せられる。
全ては張さんの薫陶のおかげ?
張さんの傍で仕事を覚えていたので、成長が早かったという例外組だが、寺で教育をしていた者たちも、やっと外に出せるレベルまでなっている。
そんな子供たちを今回10名ばかり連れてきているのだ。
彼らがいなかったらと思うと正直ぞっとする。
今の俺が、曲がりなりにも仕事をこなせるのも彼らに仕事を手伝ってもらっているのだからだ。
今も俺の目の前で机を並べて、書類の清書やら計算やら、調べごとのまとめやらをしてもらっている。
張さんや幸も自分の仕事を忙しくしている。
そんなこんなで今日も忙しく働いていると、助清さんが、結さんのお父さんである五宮さんを連れて来た。
「ご主人様。
前に殿下に話しておられました結様の実父である五宮様がいらしております」
「あ、そんな約束していたな。
すぐに会いましょう。
張さん、それに幸も今回は同席してくれ。
できれば今後も一緒に働いてもらいたいとも考えているからね」
俺は忙しくしている張さん達に、少々時間を貰い、かねてからの懸案であった公家の一人でもあり、婚約者の実父でもある五宮さんに会うことにした。
今ではすっかり会見場所となってしまった、この屋敷の一番立派な部屋の一つで面会をした。
一応正式な面会とした形を整えておいた。
でないと近衛たちの一派からどんな茶々を入れられるか分からない。
俺たちには公家たちの仕来りなんかまったく分からないのだ。
そう言った部分の手助けをしてもらいたいがために無い伝手を無理やり使っての面会だ。
「始めまして、近衛少将殿。
大学寮で明経博士をしております五宮です。
本日は太閤殿下からのご紹介により面会がかないありがたく思います」
「初めまして、明経博士殿。
こちらこそ、殿下を通してご無理を言いまして申し訳ありません。
私どもは、ご存じの通り、出自の卑しい者たちばかりで、行儀作法が身についてはおりません。
畏まった席も少々苦手としておりますので、正規の面会はこれをもって終わりとするわけには行きませんか」
「は?
では、もうご用が済みということですか」
「あ、いえいえ。
失礼しました。
先にも申しました通り、結殿の実父でもあられる五宮さまとはもう少し砕けたお付き合いができればと思っております。
今回だけは、関白たちの目もあり、勝手も分からないので、少々回りくどくとも、私の知る武家での習い通りの形式をとらせていただきました。
しかし、今後はもう少し砕けたお付き合いをしたく思います」
「は~、それは」
「先にも申しました通り、殿下のご配慮により、殿上人という高貴なお役に付くことができました。
しかも殿下は、私には時代を変える力として働いてほしいとのお言葉もいただいております。
そのためかどうかは分かりませんが、正直私でも、これでいいのかと言われるくらい殿下とはかなり砕けたお付き合いをさせて頂いております」
「はあ。
私も太閤殿下より、近衛少将殿の力となりて働いてほしいとの要請を受けておりますから、私のもそうせよと」
「え?
殿下から、そのような話もされていたのですか。
それで五宮様は、私どもにご協力いただけると」
「ええ、こちらとしても渡りに船のお話でしたので。
なにせ、このお屋敷に伺いたくとも、門前払いをされるともっぱらのお噂もありますし、太閤殿下からのご紹介を頂いた時には正直ありがたかったです」
「なら、この面会は大成功ですね。
この形式ばった面会を終わらせ、奥で、ゆっくり話をさせてください。
私どもの置かれている現状を説明させていただき、その上で五宮様には色々とご意見を頂きたいのです。
それに、五宮様のお役目についても正直私にはよく理解しておりませんので、そちらについても併せてご説明ください。
こちらで出来る協力はさせて頂きます」
「では、改めて奥にお席を用意しますので、こちらにお願いします」
早速張さんが五宮さんを奥に案内していく。
少なくとも、これでやっと検非違使のお勤めを始められそうだ。
俺は五宮さんを奥に案内する張さんに付いて一緒の部屋に向かった。
しかし、色々とけじめというやつか、面倒ごとの多い時代だ。
俺には社会人としての経験は無いが、それでも大学で、共同研究の企業の人と会うのには会議室や研究室にいきなり通されて、そこで済ませられるのだが、この時代では、いや、公家社会ではなのかは分からないがそうもいかないようだ。
大和の松永さんや、尾張の信長さん達が異常のようだ。
いきなり本題に入れるし、あの人たちは色々と面倒ごとを持ってくるが、こういった話し合いでは驚くほど面倒が少ない。
そう言えば、太閤殿下も同じような気がする。
そうでなければ、俺のような出自の者なんかは会うことすらできなかったはずだ。
尤もこちらから会いたかったかは言わないが、それでも俺の周りにはそういう人が多そうだ。
殿下も、俺の好きなようにすればいいともお言葉を頂いているし、近衛関白に関する時だけ気をつければいいだろう。
そう言った面で五宮さんには早速相談をしたい。
俺は期待をしながら奥の部屋に向かった。
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