216 / 319
第七章 公家の政
第百八十五話 俺のブレイン 参謀役的な
しおりを挟む近々義理の父となる五宮さんを連れて、奥の私室に入った。
この時に張さんや葵たちにも同席させた。
「五宮様、手間を取らせて申し訳ありません。
この者たちは、私とに古くから一緒に苦労を重ねてきたものです。
ご息女を嫁に迎えるにあたり、先に彼女たちを紹介させていただきます。
色々とお互いに立場もあり、公ではできませんで、申し訳ありませんがお許しください」 と最初に断ってから、張さん達を紹介しておいた。
どうせ、俺がいくら頑張っても彼女たちの奥入りは防げない。
なら最初からきちんと説明しておいた方が俺の精神的に良い。
ただそれだけの理由だ。
太閤殿下には弾正から報告も入っているはずなので、五宮さんも知っているかとは思ったのだが、初耳だったようで、少々驚いていた。
しかし、武家での側室などは文化と言ってよいほど一般的であり、別に気にはしていないようだが、俺から紹介された事に戸惑いがあったようだ。
それでも俺の誠意が伝わったようで、これで五宮さんとは仲良くなれたような気がした。
紹介の後、京での仕来りや、文化、最近の様子など、雑談を通してお互いにお互いの理解を深めようとしていた。
場もかなり盛り上がって来た時に、話題が検非違使の話に飛んだ。
そこで五宮さんから聞いた情報で、俺は青くなった。
俺は知らなかったとはいえ、やらかしてしまったようだ。
五宮さんから、俺が検非違使の地位を望んだことを聞いた時に、幕府に変わる政をするおつもりかと聞かれて、俺が戸惑ったのがきっかけで、検非違使について知っている限り教えてくれた。
検非違使について俺の知っていることなど大したことはない。
せいぜい、令外官であり、京の治安を守る組織くらいだ。
だからこそ、京の町の治安を命じられた時に、公家を含む町の人たちにもわかりやすい官職を欲してお願いをしていたのだが、どうもこれがやらかしだったようだ。
五宮さんが、俺の理解との齟齬を感じて、詳しく説明してくれたことによると、以下のようになる。
まず、令外官だが、これはこの国の憲法に当たるような基本的な法律である大宝律令に記載されていない官職のことを言う。
大宝律令の制定は大宝元年と言われても良く分からないが、藤原不比等が関わって作られたというから、相当に古いものだ。
しかし、その大宝律令はいまだに生きており、官位などはこれに由来して定められているという話だ。
ちなみに、関白や征夷大将軍なども令外官に当たるようだが、この検非違使もそのようだった。
関白だって令外官のくせに俺が令外官を欲しただけで何を云うかと言いたい。
逸れてきた話を戻して、そもそも検非違使の制定は、桓武天皇による軍団の廃止から始まる。
武力という力なくして、どうして国を守れるのかと思うが、歴史にあることだから文句を言ってもしょうがない。
要は、当時は国による強制力を無くしたことにより、著しく治安の悪化を招き、その対策として作られた役所だそうだ。
作られた当時は衛門府の役人が宣旨により兼務していたとか。
時代が少し進み、都で唯一最大の軍事力を誇る組織が、そのまま大人しくしている訳は無く、どんどん暴走を始めて行き、司法を担当していた刑部省、警察、監察を担当していた弾正台、都に関わる行政、治安、司法を統括していた京職等の他の官庁の職掌を段々と奪うようになり、大きな権力を振るうようになった。
この流れで、平安の末期に力を持った武家にとってかわられるようになっていったようだ。
この役職の拡大解釈がのちの幕府に繋がるようだとも考えているとも教えてくれた。
さきの近衛関白の俺への対応は、俺の検非違使長官就任を警戒したものが根底にある物だというのだ。
そんな物騒な役職だと知っていたら、新たな役職名でも考えてそれにしておけばよかった。
例えば現代の警察にあやかって京都府警、これは流石にないか、でも警察寮とでも名をつけてそんな役職を創設してもらえばよかったと、今更ながら後悔した。
近衛関白たち一派だけでなく、五宮さんまでもが、俺が京で新たな政を行うために着いたものだと勘違いをしていた。
尤も検非違使に警戒感と嫌悪感を持つものなど、関白のような上級の公家の一部くらいで、庶民などはそんな感情は持っていないとも教えてもらった。
公家もほとんども、そこまでの感情を持ち合わせていない。
そもそも、今の京にいる公家たちには子弟たちに十分な教育をさせる余裕などない。
それも親子数代にわたって余裕などないので、検非違使の過去のやらかしについて知る人はごく一部だそうだ。
確かに、納得できる話だ。
歴史の授業でも受けている訳でない人たちに鎌倉時代以前の話など知る訳もない。
俺を警戒していた関白も、俺の野心よりも俺の持つ経済力と軍事力を恐れている方が断然強い感情だろうが、そもそも、俺には野心など無いのだが、そう思われてもしょうがない。
既に仕出かした後だ。
将来的には分からないが、当分の間は、本来の趣旨に沿って、治安の維持だけに絞って活動をしていくことを五宮さんには説明しておいた。
その上で、関白に異様なまでの警戒を受けていることを説明しておいて、今後の立ち振る舞いについての助言を求めることを話しておいた。
五宮さん曰く、尤もな話だ、どこの出だか分からない俺が持つ経済力と軍事力は敵と思っている人たちからは十分に脅威だという。
しかも、その関白と俺の義父となる太閤殿下との関係もかなり微妙だというのだ。
これで警戒されない訳はない。
結の旦那となる俺に最大限の協力することを約束してもらった。
最後に、大学寮での五宮さんの仕事の話を聞いたが、そもそも、大学寮は今では只の名前だけの存在で、役所など、とっくに無いそうだ。
五宮さんも日々の生活にかなり困窮しているとかで、俺からの誘いには大変ありがたいとも正直に教えてもらった。
そう言う話を聞いたのでは、そのまま放っておけるわけには行かず、この屋敷内に仮の大学寮なる場所を作った。
仕事としては、俺のアドバイザー役だ。
しかし問題はある。
大学寮だけが無いわけじゃ無かろう。
他の役所も同様と考えた方がよさそうだ。
そうなると、政府の持つ文書が心配になる。
令和の時代ですら政府文書の扱いに問題が山積しているのに、政府が機能していない現状なら、散逸する文書が出ても不思議はない、いや、文書だけでなく、文化財全般に言えないか。
令和の時代までに残る文物は相当あるが、それ以上に散逸したものも多い。
できれば早急にそれらについて保護に努めたいのだが、俺の財布とて、その大きさはたかが知れている。
どこかに早く金の生る木でも作らないといけないな。
とにかく当面の仕事は京の治安の回復と、税収の確保だ。
文官としての五宮さんも当てにできそうなので、彼にその辺りを任せてみてもいいかも。
今回の五宮さんとの面談で、俺はかなりの収穫と、課題を得ることができた。
できれば課題は要らなかったのだが、これはすでにお約束になっているようだ。
……
……
……くそ~~!
五宮さんとの面会を終え、一人仕事をしていると、珍しく能登屋さんが訪ねてきた。
能登屋さんのここへの訪問なんか初めてのことで、早速会うことにした。
「ここに来るのなんて珍しいですね、能登屋さん」
俺が正直な感想を口にすると、能登屋の京番頭さんが答えてきた。
「お忙しいところ大変恐縮ですが、空さんにお耳に入れておいた方が良いかと思いましたので。
それに、今では湊を使う都合上、毎日ここには通ってきてますから、手間はありません」
「そうですか、でも今のお話からは、あまりいい話じゃなさそうですね」
「はい、そうですね。
でも悪い話でもないかと、只面倒なだけかもしれませんね」
「で、お話とは何でしょうか」
「そうですね、やたら前置きが長くなり、申し訳ありません。
先ほど、店に烏丸屋さんが見えまして、無理を通してきました。
すぐにお断りを申しましたが、烏丸屋さんは何でも関白の近衛様とも懇意だとかで、空さんに迷惑がかからないうちに情報だけでもとお持ちしました」
「また、関白様がらみですか」
「え?
またとは?」
「いえ、こちらのことで、お気になさることではありませんよ。
それより、なんですか、烏丸屋さんとは」
「ええ、ここ京の町で古くから土蔵を営んでいる、少しばかり評判のよろしくない大店です。
烏丸小路に面した割と大きな店を構えております。
そこの烏丸屋が、うちで営んでいる堺への船便に目をつけ、うちにもやらせろと言ってきたんですわ」
「別に勝手にやればいいだけなのでは」
「違います。
うちで使っている湊を使わせろと言い出すのです。
ここは、近衛少将様のお屋敷内ですから、私ではご返事できませんと云ったのですが、かなりしつこく、最後には関白殿下からのご命令でもそんなことが言えるのかと、捨てセリフを残して去りました。
後で、空さんのところに関白殿下様から無理でも言われたらと思い急ぎ来ました」
「なにやら、川便を任せているためにご迷惑をおかけしたようで、お詫びします。
分かりました、殿下の件についてはこちらで対処します。
まさか頂いた屋敷を追い出されることはされないでしょうし、もしそんな無理を通すのなら、逆にこちらも武力で応じます。
今では私の持つ武力が多分京一番だと思いますので。
しかし、俺らの川便も見て儲かりそうだと思い真似をしたいのでしょうが、真似したければ自分らで船着き場位作って勝手にすればいいのに、人のものを勝手に取り上げようとするのは納得ができませんね。
……っていうより、ここは良いけど、どこと船便を結ぶ気だったのでしょうね」
「堺でしょうね。
そこ以外では旨味は全くありませんから」
「え?
でも、堺って、誰でも船を接岸できましたっけ。
私の場合は紀伊之屋さんから船印をお借りしての接岸でしたが。
烏丸屋も堺商人とお付き合いでもあるのかな」
「確かにそうですね。
まず、南蛮船や明の船でもなければ、只の川船の出入りはできませんね。
でも、まあ、古くから商いをしているようですから堺のどこかの商家とはお取引があるのかもしれませんね。
分かりました。
今後も、湊に着いてはご許可できないということで、返事をします」
「面倒をおかけしますが、その方向で宜しく頼みます。
一応、私の敷地ですので、知らない人を入れたくはありませんしね」
しかし、確かに面倒そうだな。
物流は確かに儲かるし、やりたければ自分でやればいいんだけれどもな。
俺なんかが来る前からできそうなのに、誰かがしても受けられる保証が無いとやらないなんて商人のすることじゃないような気がするのは俺だけだろうか。
これから近江の草津とも船で結ぼうならもっと参入の圧力がありそうだな。
先に対策から考えておく方が良いようだな。
俺はひそかに考えている琵琶湖への船便構想について新たな問題点を認識したのだ。
20
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる