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第七章 公家の政
第百八十八話 巨椋池の中州
しおりを挟む結局、あの糞少納言といったか糞麻呂とか言ったかの貴族の去った後も、ひっきりなしに貴族連中はやって来る。
ほとんどを助清さんと五宮さんに対応を任せてはいるが、中には俺が会わないといけないような連中も訪ねて来るのだ。
ほとんどの場合に先触れの段階で居留守を使ったりお断りをしているのだが、直接訪ねてくる連中も少なからずいる。
公家の礼儀とはこういうものかと半ばあきれながら対応はするが、来る奴、来る奴例外なく糞だ。
お前らは無心しかできないのか~~と怒鳴りつけたい気持ちをやっとのことで押さえているのが日常だ。
俺はお前らのように暇じゃない。
巨椋池に物流基地を作りたくて、会議を招集しているのだ。
会議前には少なくとも周辺の調査くらいはしておきたい。
俺ができない分、いつもながら頭の上がらないことだが、忍び衆に調査を依頼している。
本当は俺も実地に出向き調査したかったのに、毎日毎日くだらない連中を相手しないといけないとは、只でさえブラック気味なのに、俺のストレスが爆発しそうだ。
そんな俺に朗報が届く。
一次調査の結果が出たようで、調査を頼んでいた忍びの方が簡単な地図を添えて報告に来た。
「主殿、頼まれていた調査ですが、一応の結果を見ましたので、報告に来ました。」
「え、もう調べてくれたの。
ありがとう。
奥でお茶での飲みながら話を聞こうか。
張さん、お願いできますか」
「は~い。
すぐにお持ちしますね」
俺は自室に使っている部屋に忍びさんを連れて行った。
なぜか、この忍びさんはやたらと恐縮しているようだ。
「そんなに固くならないで。
今張さんにお茶を入れてもらうから、待っていてね」
「え?
張殿直々にお茶をふるまってくださるのですか。
そ、そのような……」
「は~い、お茶ですよ」
「張さんの分もあるかな。
調査の結果が出たようなので、報告してくれるって。
一緒に聞こうよ。」
「分かっております。
あら~、どうしましたか」
あの忍びさんは張さんからお茶を受け取って固まっている。
やたら恐縮していたのが、さらに悪化したようだ。
「さ、さ、いいから、まずはのどを潤そうか」
「は、はい。
頂きます。
しかし、それがしにこのような高価な振舞を……」
あ、そういえばまだお茶って贅沢品だった。
俺の処では三蔵寺で始めた栽培も村全体に広がって、今では売り物になるくらいだったので、気にせずに飲んでいたが、常識のずれがまた生じたようだ。
気をつけよう。
「落ち着けたかな。
では、報告してくれないかな。
良い所見つかったかな」
「はい、巨椋池には大小さまざま洲がございました。
洲ですので起伏は無く平坦ですが、いわゆる湿地のようになっております。
すぐその場所に何かを建てるのは難しいかと」
「湿地か。
まあ覚悟はしていたが、でも洲ができているんだよね」
「はい、ほとんどの洲には葦などが多い茂り、土地の様子は外からは分かりにくかったので、上陸して歩いて調べました」
「そこまでしてくれたの。助かるな。
で、その時の場所を記したのがこれだよね」
「はい。
主殿の希望された、賢島位の大きさとなると、流石に数は少なく、淀の近くとなりますと、この洲とこの洲だけでしょうか」
「場所的には、こっちのほうがよさそうだね」
「はい、ここなら橋を掛けるのも容易かなと思いますね」
「張さんもそう思いますか。
となると、忍びさんの言っていた湿地の様子が気になるね」
「そうですね、一度直に確かめませんと後で酷い目に遭いそうですね」
「行くか」
「良いんですか、空さんは、毎日忙しそうですが」
「その忙しくさせているのが糞公家の連中だよ。
もう会いたくはない。
そうと決まれば出かけよう。
張さんは直ぐにここを発てますか」
「はい、でもここの留守番はどうしますか。
まあ、ここには助清さんと五宮さんがいればどうにかなりそうですが、と云うか今まで助清さんだけでもやってきましたしね」
「ああ、俺が近衛になりさえしなければ留守番なんか気にせずに出かけたけど、そうだな。
葵に任せるか。
葵ならこの間のお使いも問題なくできたようだし」
「それは良いお考えで。
それじゃあ、幸を今度は連れて行きましょう。
幸にも色々と経験させないとどんどん葵との差が開いてしまいますしね」
「ああ、そうだな。
それ以上に置いていくとすねそうで怖い」
「空さん。
幸の前では言わないでくださいよ」
「分かっているよ。
それじゃあ、みんなを呼んで、出発の準備でもしようか。
あ、忍びさんの予定を聞いていなかったけど、一緒に行ってもらえるかな」
「え、それがしも同行させて頂けると。
万難を排して主殿のお役に立ちます」
「そんな、大げさな。
でも、よろしくね。
案内してくれないと簡単に迷いそうなので、あの巨椋池って。
やたらと広いのに大小さまざまな島があったりと、結構めんどくさいよね。
あ、島と云うか洲なんだよね」
そんなたわいもない話をした後に関係者を一堂に集めてお出かけの話をした。
「ということで、悪いけど、葵にはここに残って建築中の世話をよろしく。
与作さんの手伝いをしてくれないか」
「え~、今度も置いていかれるの。」
「もう一人で仕事を任せられるだろう。
だからお願いしているんだよ」
「でへへへ。
分かったわ。
留守番は任せてね」
「五宮殿、申し訳ないがしばらく留守にする」
「近衛少将殿はどちらにお越しか」
「大和の弾正殿を訪ねてから、志摩の賢島で諸侯を集めて会議をする予定だ。
そんなに時間はかからないかとは思うが、伊勢の九鬼殿や大和の弾正殿からもご家来を呼んでいるから戻りは分からない。
会議の結果次第だと思う。
まあ、逐次連絡は取るから、何かあったらそこにいる葵に尋ねてくれ」
「そうですか、よろしくお頼み申します、葵殿」
「ということで、また留守番を頼みます、助清さん」
「ご主人様。
この度は、五宮殿もおりますし、問題は有りません。
連中を上手にあしらって見せます」
「今回は私も空さんと同行しますので、幸も私に付いて来てね」
「え、私を今回は連れて行ってくれるの」
「ええ、あなたも仕事をしてもらいますからね」
「えへへ、任せてね、空さん」
「それじゃあ、皆さん後をよろしく」
みんなを集めて説明した後、直ぐに敷地にある港から船を出した。
川下りなので、あっという間に目星をつけていた洲に到着。
俺が下りる前に、例によって俺に付いてくる護衛たちが先に降りて付近を警戒する。
あんたらSPか。
しかし、本当にめんどくさくなる。
俺のやる事にいちいち護衛が付くなんて、正直勘弁してほしい。
前に同じように九鬼さんの前でこぼしたら、九鬼さんだけでなくその場にいた全員からその言葉を返すと言われた。
勝手に一人であちこちに行かれるのは正直勘弁だと。
そんなくだらないことを考えていると、鈴木重次さんが「降りても良いよ」と言いに来てくれた。
彼、鈴木さんはこの間仲間になった熊野水軍の棟梁の次男さんで俺の護衛の頭をしてくれている。
なので、最近はいつも一緒だ。
そんな彼が、葦で覆われた洲の中を仲間と手分けして、不審者を探して歩き回り、安全が確保できたと教えに来てくれた。
確かにこれほど葦が茂っていると、潜まれると分からない。
ここを開発するのなら、最初は、まず草刈りからだな。
洲に降りて、付近を探索する。
「確かにこのままでは使えそうにありませんね」
「そうだね。
この洲全体を一遍には無理だろうが、人の住むところは嵩上げしてからでないと倉庫も作れないね」
「大仕事になりますね」
「でも、場所は気に入った。
幸、しっかり記録しておいてね」
「空さん。
何を書けばいいの」
「これから俺が記録してねと云った言葉だ。
この地は嵩上げが必要。
1mもあればいいか。
三尺の嵩上げが必要と書いてね」
「はい」
それから色々と見て回ったが、広さも申し分ない。
それに嵩上げなどの改修工事が必要になる地だ。
時が経ち無くなれば埋め立てして使えばいい。
ここは使える。
俺はすっかり気を良くして、船を堺に向けさせた。
対岸の淀で降りて大和に向かっても良かったのだが、護衛の皆さんが船を扱っているので、彼らを置いてはいけなかった。
本当は置いていきたかったが、それをすると、後でどうなるか、ただでさえこれから煩方うるさがたが集まるのだ。
そんな危険は冒せない。
多少は回り道になるが、堺を経由して大和に入った。
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