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第七章 公家の政
第百八十七話 関白らの言い分
しおりを挟む結局、賢島に出向けずに5日が経った。
本来は俺がここで忙しい筈がない……筈が無いのにもかかわらず現実には振り回されて忙しくしている。
皆を集めての打ち合わせはどうしても必要なので、張さんに頼み手紙を各所に出してもらった。
せめて大和にだけは出向いて説明しておきたかったのだが、まあ、俺の担当のはずの本多様が訪ねて来た時にでも丁寧に説明をしておこう。
で、なぜ俺が忙しいかと云うと、この糞忙しいのに、こちらの都合など全く考えない公家連中のせいだ。
あいつらときたら自分の都合しか考えていない。
仕事もしていないので暇なのだろう。
何度断っても訪ねてくるのだ。
要件は色々とあるようだが、要は無心だ。
金であったり人であったりの無心しかしてこない。
本当に迷惑な連中なのだ。
それでいて自尊心だけは異常に高い。
で、今日もその対応をさせられている。
今日は関白殿下からの伝言を持ってきたと言って少納言直々に訪ねて来たのだ。
流石に少納言直々に訪ねて来れば、俺が対応せざるを得ない。
先触れがあれば適当に理由をつけ逃げるのだが、いきなり尋ねて来るなんて、いったいこいつらときたらどういう教育されていたんだと言いたいが、関白の先触れだと言い張るので、我慢して会っている。
「麻呂からは、関白殿下と、その手足として働いている高貴なる公家衆の屋敷に護衛を回せとの殿下からのお言葉だ。
当然、近衛少将殿もご配慮いただけますな」
「はい?? 何故ですか。
如何せん私は下賤な庶民な出なもので、まだまだ勉強が足りないようです。
私が学んだ範囲ですと、その高貴なる方々のお屋敷は、お公家衆の抱えている北面の武士なる者たちが守るのだとか。
勅命を頂いて働いております検非違使に連なるものが守るとは知りませんでした。
誠に申し訳ありませんが、どのような文書にそのようなことが書かれておりますかお教え願います」
「な!
失礼な。
近衛少将、そなた、少々我儘が過ぎますぞ」
「へ?
何をですか。
本当に申し訳ありません。
知らないことを聞くことが公家の中では我儘になるとは存じ上げませんでした。
こちらで調べてからお返事いたします」
「な、何を申される。
関白も他の公家衆も我慢が切れますぞ。
近衛少将は、直ぐにでも警護の者を回されよ」
「ですから、私は勅命を頂いて仕事をしております。
いい加減なことは出来かねます」
「麻呂たちの警護がいい加減と申すのか」
「いえ、検非違使の仕事として警護をすることが許されるかどうかが不明なために、それを調べてからお返事したいと申しております。
もしも、検非違使の仕事として、過去に無い事でしたら、ここに前例を、私のような下賤の出の者が作ってしまう訳にはいきますまい。
ですからきちんと調べてからお返事します。
幸い、太閤殿下のご配慮から大学寮から人を紹介してもらいました。
調べるのにさほどの時間は要しません」
「そのようなこと申されて、関白殿下のご希望を無視なさるのか。
関白殿下はこの国の政の要となすお方ですぞ。
その方をお守りするに、何の理由が要りますか」
「私もそう思います。
ですので、政を成す根幹の御所周辺の警備だけは厳重にすべく、頻繁に巡回をしております。
また、政を行う場所でもある御所だけは、巡回の他にも門前に人を配置しております。
今はそれが私どもの限界です」
「さようなことを申されてもごまかされませんぞ。
太閤殿下のお屋敷の前にも警護のものを配置しておるではないか。
なぜ対応で太閤殿下と関白殿下とで差を設ける。
そこを申しておるのです」
本当にこいつらは、何もしないのに文句や無心だけは遠慮が無いな。
ここは一発ガツンと言ってやるか。
「はい、太閤殿下は、私の義父となるお方。
私事ではありますが、婚儀前に何かあったら嫁も悲しむので、私の財産から銭を工面して人を回しております。
検非違使としての仕事ではありません。
私事なのです。
関白殿下に私ごときが私事をもっていくには恐れ多くて、できようもありません。
お許しください」
「そ、そんな詭弁だ」
「先ほど話が出ましたのでついでで申し訳ありませんが、少納言殿にお聞きしたいのですが」
「なんですか」
「はい、関白殿下が政の要と申されましたら、検非違使の予算の請求は関白殿下にしたらよいのでしょうね。
都の治安を守ることは政の根幹ですしね」
「な、何を申される」
「ですから、今検非違使の活動にかかる費用は、私からの持ち出しなのです。
私も商人の出ですので、一応、国に貸し出しの格好を取り、帳面をつけております。
ちなみに、ここの建設に関する費用については、ここが私の敷地なので、一切入れておりませんが、毎日の活動にかかる費用が、昨日までに、いくらかかったか、直ぐにでも計算させます。
それを殿下に請求してもらえませんか」
「いい加減になされよ。
よう分かりました。
今日のことはしっかりと関白殿下に報告いたします」
そう言うと少納言は怒って部屋を出て行った。
ざま~って感じで、少しは気分が晴れた。
しかし、代わりに時間が取られたが、あそこまで言えば当分は来ないだろうな。
俺の横で話を聞いていた助清さんが、少々困った顔をしている。
「どうしましたか」
「よろしかったので、あのように怒らせて」
「大丈夫じゃないかな。
だいたい検非違使が公家の門前を警護するなんて話聞いた事が無い。
それをやれと言ってきたんだ。
仮に関白が勅命を捏造してやらせようとしても、費用負担を理由にごまかすさ。
それに勅命を捏造なんかすればそれこそ自身の存在理由を問われることになりそうだけどもね」
「は~」
どうも納得されてないご様子。
まあ、俺のメンタルはこの時代にない。
だいたいあいつらがまともな仕事をしていない歴史の積み重ねが今の現状を招いたのだと俺は言いたいのだがな。
それよりも、打ち合わせの件がどうなったかが気になる。
俺は張さんを呼んで、その辺りを聞いてみた。
「空さん、ちょうど良かった。
その話ですが、来月に賢島ですることでまとまりました。
九鬼さんの方からも藤林様と竹中様が出席なさるとか。
あと、大和の弾正殿からもお返事いただいております。
大和からも人を出すと。
ああ、それと、賢島に店を出しております商人は一堂に出席なさるとかで、新たな町つくりについても喜んで協力させてほしいとの伝言を貰っております」
「そう、それなら楽しみだね」
しかし、来月か。
電話やメールで会議通知を出すのとは違うな。
明日とは言わないが、せめて翌週くらいには会議を持ちたかったのに。
あ、週の概念かまだないか。
でもこの時代には、みんなどうしているのだろう。
どの大名も評定くらいは開いているだろうに、みんな一月くらい前から準備するのかな。
この後張さんから色々と報告を聞いた。
昨日辺りから検非違使のお役所作りも本格化して柱を何本か立て始めたとか。
木材の下処理については前に話を聞いた通り与作さん達が一緒になって技術を習得中だとか。
俺がくだらないところで時間を取られている間に、周りはきちんと仕事を進めている。
正直ありがたい。
翌日に、太閤殿下からお手紙を頂いた。
お前のやりたいようにやればいいが、五宮がいるのだから、もう少し上手にあしらえとのお叱りを頂いた。
確かにあの時は俺も頭に来たので、やってしまったが、正直少々やりすぎたかもとは思った。
しかしなぜこんなにも早く太閤殿下に知れたのだろう。
助清さんから報告でもいったかな。
それとも関白殿下から直に太閤殿下にクレームでも入ったか。
しかし、あいつらは今思い返しても腹が立つな。
仕事をしないのに、要求だけは際限がない。
あの後五宮さんに色々と聞いたが、やはり公家の門前の警備なんかの仕事は検非違使の仕事にはないと、太閤殿下の門前の警護が正直羨ましかったんだろうと言っていた。
なにせ、今の藤原長者は近衛関白だ。
しかし、見栄えは太閤殿下の方にあり、太閤殿下の方に勢いがあるように見られるのが面白くないのだろうという話だった。
見栄えとか、メンツなんかそういうのうちには要らないから。
とにかく仕事をしろよ。
何で俺らだけが京くんだりまで来てブラックしていなければならないんだよ。
それこそ気に入らなければ俺をさっさと罷免しろよ。
俺は前に会った時にもそう言っておいたのだから遠慮無く罷免すれば良いだろうと言いたい。
くそ~~、思い出すだけで腹が立つ。
どうしてくれようか。
絶対どこかで意趣返ししてやるぞ、俺はこの時に心に誓った。
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