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第七章 公家の政
第百九十五話 側室
しおりを挟む張さんから返事を貰ってからは早かった。
俺の張り切りは周りからかなり不審な目で見られたが、今回ばかりはちょっとばかり張り切った。
つい最近まで童貞だった俺が、美人でもあるが幼さも残る結さんとぎこちなくだが卒業をしたばかりで、はっきり言って経験値が足りない。
俺も忙しくはあったこともあるが、処女を卒業したばかりの結さんにも無理をさせられないのでかなり遠慮していたこともある。
それがこれからは美人の張さんを交えて二人交代で出来るのだ。
二人に配慮しても今までの倍は経験値を稼げるとあっては俺も張り切らざるを得ない。
そんな俺の姿を本当に冷たい目で見る葵と幸。
この二人には、理由も話して納得してもらったはずなのだが、どうも納得しきれていなかったようだ。
そんな冷たい目にも慣れながら、決して二人の冷たい視線を快感に感じてはいないが、どんどん仕事をしていく。
幸いなことに妾ほどではないが、側室の婚儀となるとかなり質素だ。
婚儀前の仕来りとか全部省いた。
結さんとの結婚がこの国の歴史ある有力者の娘となっていることもあってかなり派手になったが、この国に親戚などいない張さんとの婚儀はそういっためんどくさい部分を省けたので準備も捗った。
俺は近衛少将というこの国では上流に属する官位を持たされている関係で、俺の側室というのも公職に類するものになるとか。
そんな関係もあり、俺は関係者に案内を出したら婚儀の席にお祝いに駆けつけてくれた。
あんたら仕事は良いのかと俺は言いたい。
まだ代理なら分かる。
代理なら、何で婚儀が行われる日にあんたらが京にいるんだよ。
なんでも一応の理由として、同盟関係にある大名家が知り合いの縁戚となった太閤殿下を交えての会合を開くという話で集まったと聞いたが、これって絶対に結婚式に参加するためだよな。
なにせ、その集まりがうちに屋敷であると、婚儀の当日に俺は聞かされたのだ。
ということで俺の目の前で酒を飲んでいるのが大和の弾正こと久秀さんと、俺の義父に当たる太閤殿下。
二人は楽しそうに酒を酌み交わしているが、その後ろで、半兵衛さんが接待に勤めているのが信長さんだ。
信長さんと一緒にうちの九鬼さんも豪快に酒を飲んでいる。
実はごく最近になってうちでも清酒の開発に成功したんだ。
本当に優秀な賢島の研究員。
かなり前から賢島を交易の拠点と定めてから商品開発に力を注いできた成果が、最近になって色々と出てきている。
塩の生産もより上質で、大量に作れるようになってきたし、紙の生産も品質も生産量も向上している。
未だに解決できないのが干物の生産だ。
これも、生産基地を三蔵村の他に賢島で作ってはいたが、京まで俺らの商圏が広がったこともあり、全然需要に足りてない。
後から仲間になった熊野水軍の拠点でもある安宅を始め各地でも作っては貰う様になったが、それでも量も品質もこちらの要求には足りていない。
これは正直頭が痛い。
逸れた話を戻して俺の挙式だが、この場に大大名の三人を迎え、義父の太閤をお迎えして挙式を済ますことができた。
張さんの育った大陸では結婚式はかなり賑やかであるとのことだが、商家なら日本もそうなるのか分からないが、その基準では今回はかなり大人しめという感想だった。
尤も太閤殿下の感想ではかなり賑やかで、楽しかったと聞いたので、武家社会や公家衆の習慣からは賑やかだったのだろう。
俺は末端の人たちにまでも作ったばかりの清酒をふるまって結婚の祝いとしたが、みんなも楽しそうに祝ってくれたので結さんの時よりも楽しかったのは事実だ。
あの仕来りに縛られたのはどうしても俺には合わないのだろう。
それに何より太閤殿下を除くとここに集まった大名はうちの張さんと一度はやり合った経験のある人たちばかりだ。
彼女のタフネゴシエーターぶりには定評があり、それを直に体験しているので、張さんを侮る人はここにはいない。
皆張さんには一目を置いているのだ。
そんな人が集まって心からお祝いしてくれたのは俺も心から感謝しかない。
婚儀は1日で終わらせられた。
せっかく集まったのだから一度きちんとこれからのことを話し合おうとなり、新婚の俺までもが会議の席に駆り出された。
当然交渉事もあるので、オブザーバーとして張さんも参加した。
張さんの姿を見た大名たちは複雑な顔をしていたが直ぐに真剣に話し合った。
長島の一揆も終わり、尾張と伊勢からは当面の危険が去った。
これで、紀伊半島には戦の危険はひとまず無くなった。
集まった人たちを前にかねてからの構想でもある一大商圏の確立を進める。
今のところ水運では熱田から上京まで繋がっているが、そこを伸ばして草津や観音寺までつなげる予定だ。
民間事業として進めて行くが、懸念はある。
あの辺りの有力大名の六角の動きだ。
先代は優秀な人だったらしく、一時は三好長慶と張り合えるくらいまでの力もあった。
現に彼らが存命中は辛うじて京を巻き込んでの大戦は起きていない。
細川辺りの策略も多数あったようだが、それらを防ぎきっていたのだ。
しかし、今は代替わりもあり、六角にはその勢いもない。
武田領にいる細川がまたぞろちょっかいをかけ始めている。
京の治安も回復の兆しが見えてくると、旨味を感じたのか京に乗り込んで来ようとすらしている。
本来ならばその細川と三好、それに六角で三竦みの状況になる筈だが、俺らの協力で弾正が三好勢を完全に近畿から排除したので、六角と細川の戦もありうる状況になっている。
せっかく紀伊半島から戦を遠のけたというのに、あいつらが傍で戦をしようとしているのだ。
あいつらだけがダメージを得るだけならいいが、六角も細川もあわ良くば京まで手に入れようという野心が丸見えだ。
そこに叡山までもが朝廷に色々と云ってきている。
本当にどうしようもない連中だが、それらをどうにかしないことには商売どころじゃない。
それを義父は非常に心配している。
それに朝廷も近衛関白を中心としたグループが俺らを京から追い出して利権を奪おうとしているとも聞く。
彼らには軍事力は当然無いが、浅井や朝倉辺りを京まで連れ込んで来ようとしているとか。
信長さんなんかは、「いっそのこと六角を滅ぼすか」なんて物騒なことを言い始めた。
確かに今の六角ははっきり言って邪魔な存在だ。
三雲あたりのくだらない見栄や欲望で俺らが復活させた街道に関を造ろうとしているし、峠の利権を奪おうともしている。
結局この日の話し合いでは近江で戦が始まれば騒乱を理由に六角を滅ぼしてしまおうという話になった。
俺には、その騒動で京があれないようにより一層の治安を回復するようにとの義父からのありがたいお話を頂いた。
結局、俺と義父で朝廷を守るために叡山と関白一味を抑えることになった。
そのためにより一層検非違使庁の強化を求められた。
必要ならより一層の権限も与えるという話だ。
尤も今の朝廷には力などない。
俺に与えられるのは建前だけの許可だけで、実際にそれら権限の行使は自分の力でもぎ取れということだが、建前もあるだけでもありがたい。
しかし、二度目とはいえ俺は新婚なんだぞ。
新婚旅行もいかずに働かせるとはどんなにブラックな職場か。
まあ、俺も先の長島の件で考え方を変え、腹を据えたのでやる事は躊躇なくやる。
まずは上京の治安を完全に回復させる。
上京を囲う壁を作り、暴徒の侵入を防ぐことから始める。
また、上京にある商家からは税を取る。
その徴税までも俺ら検非違使庁が行う。
幸いなことに俺らには計算のできる子供たちが徐々にそろい始めている。
彼らに帳簿を付けさせて漏れなどの無いようにしていくのはもちろんの事、きちんと情報も公表していく。
これは、近衛たちにはかなりのインパクトはあるだろう。
どうせ俺らが徴税を始めたら、徴税権は自分たちにあるとか何とか云ってきてその権利を取っていくことを始めるだろうが、あいつらにはその能力のないことを、税を支払う側の連中に知らしめる。
治安も守れない連中に、しかも税金の使い道の怪しい連中に税など支払えるかと思わせるのだ。
待っていろよ。
歴史が変わるとか何とか云っていたが、もうそんなのとは関係ない。
俺は躊躇などしない。
俺のできることを全力でしていく。
少なくとも俺の周りでは二度と戦争の被害を出させない。
少なくとも税を真面目に払う庶民が理不尽に被害に遭うようなことにならない社会を作っていく。
それが俺の決心だ。
あ、次世代に未来をつなげる活動もしていくよ。
何を言っているかって、そんなの決まっているじゃないか。
子づくりだよ、子づくり。
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