名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第百九十六話 京に作られる新たな座

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 結婚したばかりではあるが全力で仕事中だ。
 俺は早速徴税の仕組みを考える。
 当然納税者は、納税するだけの理由が必要と考える。
 ただ、そこで商売するだけでも徴税の理由にできなくもない。
 現に多くの大名家ではそんな感じだとも聞く。
 まあ、商いが盛んな場所では治安がしっかり守られているから、その治安維持の代金だとも言えなくもない。

 当然、ここ上京でも以前から治安維持に全力を挙げて取り組んできたことの成果も出始めている。
 そのためか俺がここに来た当時から比べても商いが盛んになっている。
 今まで何もしないで金をたかっていた幕府の腐れ役人を一掃したので、その心配もない。
 今はここで商いを営んでいる商家は応分の費用を払っていないことになる。

 前の幕府のように、いきなり言いがかりをつけて金をせびっても十分に合法だが、それだと今までの腐れ役人と変わらないようで俺の気持ちがそれを許さない。
 なので、能登屋さんに協力してもらい、とりあえずここ上京で商いをしている主だった商家を集めてもらった。

 楽市楽座をしても良いが、ここ京の統治権を俺が完全に把握しているとはいえないこともあり、徴税の過程で要らない雑音が入る恐れもあるので、この方策は取らない。
 俺は、ここ上京で商いをするための座を作ることにした。

 要は自主的に集まる業界団体のような組織を作ろうと考えている。
 その代わり、治安は俺らが保証する。
 その他に、川船を使う水運の利用も認める。
 座に属さない連中にはここの水運は利用させないし、何より商いを認めない。

 そのつもりで、主だった商家を集め俺から座について提案して意見を求める。

「近衛少将殿。
 いきなり言われても困ります」

 京商人だけあって一筋縄にはいきそうにない。

「しかし、治安を守るには費用が掛かる。
 あなた方は、その費用を負担してはいないでしょう。
 そもそも税を払っていない。
 税を払わずにここで商いをするのが権利とおっしゃるのですか」

「今まで取ってはいなかったでしょうが」

「ええ、ですから治安が悪かったのでしょうね。
 銭が無ければ何もできないことくらいご存じでしょう」

「しかし、あんたらが来てからも」

「ええ、我らは結果を出したからお願いしようかと思っておりましたから。
 それに、そこの能登屋さんには色々としてもらっております」

「ほかの座はどうする。
 油座などの古くからある座はどうなる」

「今まで通りで結構です。
 しかし、今はほとんど活動していませんよね。
 それを今更持ってこられても」

「できなかっただけだ」

 多分油座のお偉いさんなのだろう。
 自分の持っている既得権益を守ろうと必死だ。

「ええ、ですから今まで通りで結構ですよ。
 でも我らの座にも加わってもらいます」

「断ったらどうする気や」

「別に。
 ただ加わってくれる方々からの不公平が出ますから……
 あ、京の市中に座に参加していない商家を我らが一切の取り締まりをしないと告知しましょう。
 それと川船の利用は当然できないですから、物の仕入れなどはご随意に。
 これからは、我らの座に加わっていない方たちにはあの船の利用はさせません。
 それなら不公平は無くなりますよね」

「なら我らは参加せん」

「油座の皆さんは参加しませんか。
 結構です。
 では、今後は伊勢屋が油の販売もしましょう。
 ここまで持ってくるのに一切の関は通しませんからその分お安くできますから皆さんはご安心ください」

「な、そ、そんな暴挙が許される筈が……」

「私が知っている限り、油座は幕府によって守られていたとか。
 ですがここには幕府はもうありませんから、どちらにしても独占はできませんよ」

「そな、わてらも販売してもいいのか」

「ええ、ご自身で仕入れができれば何でも販売してください。
 あ、でも毒薬などの治安を乱すものは遠慮くださいね。
 その辺り座に相談してくれればなんでも構いませんよ」

 今まで京で油の販売で独占権をもって絶大な財と権力を持っていた油座の皆さんは独占ができなくなることに相当のいら立ちを持っていた。
 しかし彼らは気が付いていない。
 もう彼らを守らないと市中に宣言される意味を。
 そう、どろぼうさんにあそこだけは『いくら盗んでも構いませんよ』と宣言したのと同じだということを。
 この時代風に言うと、この座に属さない商家に乱取りの許可を出したのと同じ意味があることを。
 油座に属していたが、顔役などの役職に属さない小規模の商家は早々と油座からの脱退を検討し始めた。

「あの~、一つ聞いてもいいですか」

「ええ、何でしょうか」

「油座に属していましたが、ここを抜けても何ら制裁などは食らいませんのでしょうか」

「私らの座に属してくださる方には全力をもって守ります。
 これはお約束します。
 もし仮に昔属していた座から何らかの嫌がらせがあれば相談ください。
 それは、明らかに治安を乱す行為ですから、検非違使庁がきちんと取り締まりをしましょう。
 でもそんなことはしませんよね」 と俺は先に俺に食って掛かったふてぶてしい顔をしている商人を睨んだ。

「我らの座に入るのには資格があるが、抜けるのは好きにすればいい」

 相当悔しそうに、先の商人は言った。
 彼から言質は取ったのだ。
 これで、油座は抜ける商人に対して公には何もできない。
 まあ、いやがらせはするだろうが、それこそこちらの思うつぼだ。
 もし、何かしようものなら財産全てを没収して京から追い出してやる。

「もう一度言います。
 この座で集めた冥加金は検非違使の活動に使われます。
 ですので、この座を一番で検非違使は守ります」

 これでここ京での資金源の目途は付いた。
 まず、座からの冥加金を活動資金に充てる。
 その冥加金も店の大きさに応じて決まった額を払う方法と、売り上げに対して4割の金額を収めさせる方法に加えて、利益の2割を収めさせる方法の3つを用意した。

 多くの商人は決まった額を選ばざるを得ない。
 これはこの時代の風習のようなものか、読み書きのできる人が少なすぎるのが原因で、一年間で売り上げた総額すら分からないところが多い。
 大店でも、売上総額は掴んでもその利益までは把握しているとは言えない。
 尤も、この時代の商売なんて、ほとんど暴利をむさぼっている様なもので、そんな状態でも何ら問題は出ていない。
 それも治安の悪さに加えて政治の不安定さもありやむを得ないものがある。

 そこで、俺は最後の提案の利益に対しての件だが、これだけは費用面でかなりお安くなるが、条件を出したのだ。
 きちんと算用数字を使った帳簿を提出させるという奴だ。

 当然、京の誰一人としてそんなことは知らない。
 そこで、俺はここでその俺ら基準の帳簿の付けかたを教えることもする。
 また、俺の処から十分に教育の終わった子供たちを貸し出すこともしたのだ。

 貸し出す子供たちの目途は付いている。
 俺は以前から、市中見回りで見つけた孤児なども積極的に保護して三蔵村に送っている。
 あそこで、きちんと教育をさせてから本人の意思を確認してその後を決めさせる。

 当然多くの子供たちの中には読み書きなどに興味のない、いや、そういうものよりも戦働きに向くものも居よう。
 そういうものには足軽として雇うこともするが、逆に地頭の良いものもいる。
 そういう者には積極的に取り込んでいくことにしている。

 読み書きならば1年から遅くとも2年もあればできるようになる。
 子供の年令にもよるが、その後については周りと相談してから徐々に仕事をしてもらう。
 そういう子供たちを商家に貸し出すのだ。

 商家にとって銭の流れは全てを示すようなものだ。
 俺は期ぜずして上京内では商家に優秀な忍びを入れるようなものだ。
 半年に一回の割合で〆させて、翌月までに冥加金を収めることで、座に集う商家から了承を得た。

 座の運営はここ俺の屋敷の敷地内に一棟屋敷を作り、そこで行わせる。
 この集まりは張さんに仕切ってもらい、座の集まりから5人の年寄衆を選出させた。
 できる限り、座は独自で運営していける方向にもっていく。
 将来的にはこの選出された年寄衆で運営させたい。

 まずは資金面でひと段落ができた。
 そんな俺に能登屋さんが聞いてきた。

「空さん。
 一つ聞いてもいいですか」

「ええ、何でしょうか」

「なんで、税にしなかったので。
 検非違使庁があるから、検非違使庁が徴収すれば、だれも反対しないでしょうね」

「ええ、私も気になりました。
 座を作るのなんて手間がかかりませんか」

「ええ、私も初めはそう思いましたが、それだと少々まずいことがあります」

「まずい事ですか」

「ええ、税として集めれば近衛関白が絶対に出てきます。
 集めた税を取り上げるために。
 私の頂いているお役目よりもはるかに上のお役目である関白から税を集めたのならすべて寄こせと言われたら私は何もできないでしょう」

「そんなことは。
 だって関白は……」

「ええ、何もしていませんし、これからも何もしないでしょう。
 それだけでなく、我らに対して活動資金も出さないでしょうね。
 だからなのです。
 三蔵の衆が中心になって立ち上げた座が集める冥加金を、用心棒代わりに使う検非違使庁に渡す構造が必要なのです。
 税でないので、関白が横取りはできないでしょう。
 無理難題を言ってきても、あちらには武力が無く、我々には持っていますのでまずは問題無いでしょう。
 それでも無理なら、こんなところからさっさと逃げ出しますよ。
 淀に拠点ができれば市場としてしか魅力のない、いや、治安が悪くなれば我ら商人にとって全く魅力の無くなる京なんか無視すればいい。
 現に紀伊之屋さんは撤退しましたからね。
 その間に我らは堺と淀、それに草津か観音寺などと船便で結べばはるかに大きな利益が望めるでしょうね。」

 後はどこまで関白が大人しくしているかだ。
 先のやり取りで、油座の連中が関白に泣きつくのも時間の問題だろう。
 俺に冥加金を払うよりもはるかに高くつくというのに、以前のように独占して銭を得られるとでも思っているのだろうか。

 まあ、どちらにしても後はあちらの出方次第だ。

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