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第七章 公家の政
第二百十話 宇治川ルート
しおりを挟む本多様を木津川口で降ろした後、すぐに淀まで戻った。
淀で、葵と別れて、俺たちはそのまま草津ルートの調査に向かう。
葵には、六輔さんに草津ルートの工事について頼んである。
淀で別れて、堺経由で一度三蔵村まで戻る予定だ。
このルートだと、余計な護衛の必要はない。
川船で堺まで行くが、この辺りの治安は既に弾正様により十分に回復されている。
前に三好勢を瀬戸内で完膚なきまでに破ったことが功を奏して、三好の残党はすっかりいなくなった。
また、湖賊の様な海賊、この場合河賊と言い換えた方が良いのか良く分からないが、そう言った連中は既に俺たちがしっかり絞めているので、問題は無い。
なので、最低限の護衛だけで移動できる唯一のルートと言ってもいいかもしれない。
何せ、このルートは信長さんもほとんど護衛を付けずに移動しているのだから、俺としてはあまりそう言うことは避けてほしいが、あの人に言っても無駄なことだろう。
葵は堺で降りたが、俺たちの定期船に乗り、一度三蔵村に戻る。
正直、六輔さんにもあまりに多くのことを頼んでいるので、今どこにいるかはここに居る誰も知らないが、流石俺たちの拠点だけあって、あそこなら、大体の人の動向を追えるのだ。
ごめん、これは皆、藤林さんの部下たちのお陰なので、俺の成果のように言ったが、決してそうではない。
三蔵村には、藤林さんの拠点もあり、あそこには情報が集まるような仕組みになっているのだ。
正直助かる。
本当に早い段階で、藤林さんが俺たちの味方になってくれてよかった。
情けは人の為ならずとは良く言ったものだ。
藤林さんの大けがを治療したことで、仲良くできたのだが、あの時の俺に『よくやった』と褒めておこう。
で、俺たちは、そのまま乗っている船で、草津に向かう。
どうせ巨椋池を出たらすぐに船では上れないだろうが、行けるところまで行って、そこから川筋を歩いて上ろうかと考えている。
案の定、直ぐに川の流れが速くなり、船を降りることにした。
それでも、宇治までは来れることが分かった。
と言っても、この時代の宇治では、あの名物となる玉露なんか作っていない。
どこにでもある田舎町だ。
それでも、京に近いせいか、そこはかとなく都会の香りもしてくるから不思議だ。
それも、多分だが、目の前にある宇治上神社のお陰ともいえる。
願証寺の門前と比べくもないが、それでも由緒ある神社の門前だけあって、それなりに人出がある。
ここも、きちんと整備されればもっと栄えるのにとは思うが、あ、そうか、ここも開発して、茶の栽培を奨励すればそれこそ大きな発展が約束された地だ。
俺はやりたいことばかりで、周りに迷惑ばかりをかけているが、それでも心のメモ帳にしっかりとメモしておいた。
まあ、いつになるかは分からない。
俺の中でも優先順位は相当低いが、宇治川を使った草津ルートが開ければ俺が手を貸さずしても勝手に栄えるのかもしれない。
俺たちは、一旦宇治上神社に入り、宮司さんにこの辺りの地理について聞いてみた。
話を聞いても、どうもこの辺りはどん詰まり、ここから先は難しいらしい。
どん詰まりは言い過ぎか。
でも、ここからだと奈良に抜ける道はあるが、草津方面にいく道が無い。
あるのは唯一宇治川だけだ。
その宇治川も流れが急で、船での行き来は難しい。
草津から下るのは何ら問題ないが、上れないらしい。
あくまで、らしいなので、俺は実際に目で見て確認することにする。
実際に見てみないと分からないので、歩いて川筋を上っていく。
宇治の神社から見た感じはそれほど難しくなさそうには見えたが、それでも歩き始めるとすぐに道は険しくなり、あっという間に道がなくなる。
ここからは、本当に河原を歩くしかない。
その河原も水量が多く、ほとんど無いのも同然の状態だ。
それも直ぐに谷筋になり、相当険しくなってくる。
「空さん」
張さんは不安そうに俺に声を掛けて来る。
「空さん。
これは、この先ちょっと無理そうですぜ」
俺のことを普段は無口に護衛してくれる重治さんが声を掛けて来た。
この人熊野水軍の長の次男さんだ。
熊野水軍が俺たちに合流した時に、長が俺の傍においてくれと俺に付けてきた人だが、本当に良くしてくれる。
それでいて、海の男って感じで、余計なことは一切言わないタフガイだ。
カッコいい。
その人がこの先に進むのが無理なことを俺に伝えて来た。
「重治さんがそう言うのなら、無理していくつもりもありませんが、この川筋に道を作るとしたらどうしたものですかね」
「え、流石にそれは……」
谷筋も直ぐに深くなるし、山に登って道を作ればいい訳でもないので、どうするか。
「埋め立てるしかないか。
幸い谷も深いが、それでもある程度の幅はある」
「え、でも増水時には」
「ええ、増水時には使えませんが、そんな時には船も通らないでしょ。
張さん、どう考えますか」
「埋め立てるって、どういうことですか」
「ええ、川の端に、石を積んで、道を作ろうかと」
本当なら閘門方式の運河なんかが良いのかもしれないが、そこまで高低差がある訳でないし、何より横に道を作って人や牛にひかせるのだって、ある意味インクライン方式だと言えなくもない。
俺はそうい言ってから、近くにある石を手に取り、端に積み上げていく。
まだ、河原が辛うじてある所なので、直ぐに人一人が歩けるだけの幅を確保できたが、そんな状態を張さんに見せてから、俺は言った。
「こんな感じで、川の端にどんどん積み上げていき、道にしていけたらと考えていますが」
「え、そんな……」
「空さん、かなり難工事になりそうですが」
「ええ、でも、道ができればそれを埋め合わせてもなお有り余るだけの効果は出ますが。
何より叡山の関もありませんし」
どのみち宇治から草津方面に向かう道など存在しない。
京から草津に向かうには、山科を通り、草津に抜けるか、それこそ銀閣寺の横を通り、叡山の傍を抜ける道しかないが、その両方に叡山が関を構えている。
はっきり言ってあいつら邪魔なだけだ。
関のお陰で治安が良くなるのならまだわかるが、肝心の治安を阻害しているのも一部には叡山からの腐れ坊主どもだ。
いずれどかすが、それでも叡山からの邪魔が入らずに草津方面と行き来できることは大きい
それに何より、各地から京に集まる荷は堺を経由するか、日本海ルート、敦賀から街道を使い琵琶湖の塩津を通るルートを経由して、琵琶湖を使い草津か大津からまた陸路で京に入るルートしかない。
特に北日本とはこの琵琶湖ルート一択だ。
なので、重要なルートだが、問題もある。
堺から京までは既に水路で繋がったが、どうしてもこちらの方は陸路が入る。
それでも、敦賀から琵琶湖の塩津までは20㎞もなく、確かに山道を通るが、それでも叡山の様な邪魔は無い。
しかし、南はと言うと、どうしても叡山の邪魔が入るし、距離もそこそこあるので、ネックとなっている。
そこで俺たちが、水路でつなげば叡山の持つ利権を減らして、かつ、物流が盛んとなり、その物流から上がる利権だけでも相当なものになる。
収益が最終的にどれほどにまでなるかは全く計算できないが、それでも少なく見積もっても、ここでの工事の費用は簡単に回収できる。
問題は事故なくこの難工事を完成できるかだけだ。
基本工事は六輔さんに丸投げだが、方針だけは直接話しておいた方が良さそうだと、思い直した。
この日は行けるところまで行って、宇治まで戻り、そこから待たせてある船に乗って堺まで帰った。
それでも、この時代の常識から考えると、とんでもない距離を移動していたことになる。
まあほとんどが船移動なので、疲れはしないが、船移動って、量だけでなく時間も節約できるし、これを活用している俺たちにとって、ものすごいアドバンテージを提供してくれていると、堺に戻った時に改めて気が付いた。
無謀ともいえるヨット作りから始まった水運だが、本当に芸が身を助くじゃないが、俺が令和世界の常識を持っていれたことに感謝しかない。
でも、どうせ転生させてくれるのなら、どこぞの大大名家の御曹司、それも三男くらいに生まれてくれればこんなに苦労はしなかったのにとも、同時に思った。
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