名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百九話 畿内の水運網の開発

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 新婚気分に浸ることを許されない俺は、出世??した翌日からも、平常運転で京の治安を守る。
 こういえば聞こえはいいが、俺が実際見回りなどをしている訳も無く、とにかく雑用が多い。
 今も事務所として使っている部屋で、俺にもよくわからない仕事を片付けている。

「旦那様。
 それ終わったら、これにも目を通してください」

 俺の嫁の一人でもある張さんの多大なる協力があるから、俺でもどうにかなっているが、その張さんは今も隣で、あっちこっちから来る報告書に目を通して、必要と思われるものだけを俺に渡してくる。

 しかし、結婚してからというもの、結さんも張さんも俺のことを旦那様と呼ぶ。
 ちょっと恥ずかしい気持ちと、少しばかりくすぐったい気持ちもあるが、それを聞くたびに悲しそうな顔をしてくる葵や幸を見かける度に、何とかしないととも思う。
 年の瀬もせまり、年明け早々に葵たちとも結婚することに決めているが、正直市さんとの結婚は想定外だった。

 その内、信長さんの身内でも送り込んでは来るとは思っていたが、信長さんの親族って、まだ沢山いたはずで、一番かわいがっていたと言われる市さんを俺に娶せるとは思ってもみなかった。
 確か俺の記憶が正しければ浅井長政と結婚したはずなのだが、その浅井家も今も健在だが、信長さんは同盟すら考えていないようだ。

 尤も、俺が信長さんの立場なら同盟する必要性をあまり感じないが、あの超合理的な考えをする信長さんだから、さもありなん。
 となると、俺の知る歴史から考えると、今の俺は長政と同じ立ち位置となるか。

 イヤイヤ、全く違う。

 俺は京にいるし、今の京と信長さんの本拠地との間には六角が滅んだこともあり、信長さんが京に上るのに障害なんか全く何もない。
 強いて不安を上げるのなら、それこそ浅井領が街道の直ぐ傍を通るくらいか。
 あれ?
 今の信長さんの本拠って稲葉山城だよな。
 でも、京を目指していた信長さんだからどんどん京に近い所に拠点を移していたようだが、それだったら次は観音寺近くの安土か。
 まあ、安土あたりに拠点は欲しいとは思うのだが、果たして拠点を移す必要性はあるのか。

 その辺りは信長さんが考えれば良い事なのだが、俺たちにとって、次なる脅威となると、近衛関白は政治的だからこの際置いておいて、戦国大名だけで考えると、やはり浅井は敵となると嫌な位置にある。
 味方にできないことは無いだろうが、それでも完全に信じられるかと言うと俺は不安だ。

 俺の知る歴史でも最後は裏切るし、何より、あそこは心情的に朝倉と近い。
 その朝倉だが、信長の本拠地とも言える尾張、この場合土地では無く斯波家との因縁があった筈。
 それに、信長さんの様に守護でもない人のことを軽く見る傾向もあるから、朝倉とは仲良くはできないだろう。

 正直、近衛関白がこの辺りにちょっかいを掛けて来ると、完全に敵に回る。
 その可能性は大きいから、俺の方でも警戒はしておくが、それよりも信長さんってまだ美濃全土を押さえた訳では無かったよな。
 東美濃はめんどくさいとかで放っておかれていた筈。
 俺からいろんなお願いばかりしていたから頑強に抵抗する東美濃を攻略する時間もなかっただろうに、だとすると拠点はまだ稲葉山か。

 でも、あそこって京から一番遠くなる。
 この場合単に物理的距離という訳でなくいわゆる時間距離っていう奴の場合だが、尾張からなら船を使えばそれこそ翌日には到着できるが、稲葉山は急いだって2日以上はかかる。
 しかも、関ヶ原を抜けた辺りは直ぐ傍まで浅井領が迫っているし、そこを嫌うと伊賀を抜けるしかないが、それだと余裕で3日以上はかかる。

 拠点をまた尾張に戻してくれないかな。
 しかし、俺にとっては今のところ脅威となるものは見つからないが、信長さんはそう考えると敵ばかりだな。
 まだ会ったことは無いが家康さんが味方なのが救いだな。

 尤も国境を接する家康さんが敵ならばとてもじゃないが美濃には出張れなかっただろうが、それにしても敵が多い。
 同様に弾正こと松永さんも決して安泰という訳では無く、未だに四国の三好とは怪しい関係だし、摂津や丹波などの国に対しても警戒を怠る訳にはいかない。

 俺だけが安心安全を謳歌していることが許されても……絶対に無いな。
 あの人たちは何かと俺を巻き込む。
 でなければ俺が京くんだりまで出張る必要も無かった。
 俺は伊勢のあの寺の周辺でゆっくりと商売をしていた筈だが、何が悲しくて京の町で公家のまねごとをしていなければならないのか。

 あ、いかん、また愚痴が出た。

「旦那様。
 それ終わりましたか。
 終わりましたら次これもお願いしますね」

「ああ、悪い。
 直ぐ確認するけど、これって……」

「はい、淀の件です。
 とりあえず、蔵が二つに、町屋が数件、それに砦までが準備できましたから、本格的に使えますね」

「そこが使えるようになったら、次は草津までの船便を考えないとな。
 川筋に道を作らないといけないが」

「そうですね。
 でも、もうあそこは護衛を付けずに工事もできますよね」

「ああ、一応弾正殿と弾正忠殿に許可を取らないといけないだろうが」

「それなら、淀に出向けば一回で済みますね」

「え、淀で?」

「ええ、あそこには、まだ本多様と丹羽様のご家来衆が詰めているはずですから」

「そうだったな。
 でも、今もいるかな。
 あれって、戦前の話だよね。
 当然、本多様も、丹羽様のご家来衆も戦には動員されただろう」

「そうかもしれませんが、どちらにしても一度視察の必要はありますね」

「それもそうか。
 なら、明日にでも出掛けるか。
 張さんも大丈夫なら一緒に来てくれないか。
 あ、珊さんにも声を掛けないとな」

 張さんのお付きとして常に張さんの傍にいた珊さんだったが、俺が色々と仕事を頼んだ関係で、今ではあっちこっちに大忙しだ。
 特に、水軍や水運の関係の仕事を頼んでいる関係でそのとりまとめ役のような感じになっている。
 大名家で考えると立派な侍大将なんかではなく宿老に近い、家老と言ってもいい地位にいる。

 もっと、そう言うと俺が大名の位置づけになるから絶対に認めないが。
 そんなくだらないことを考えながらその日は無事に終わり、翌日に船で淀に向かった。

 久しぶりに懐かしい面々だ。
 俺に張さん、それに珊さん、それと今回は葵と幸も同行させている。
 別に二人を遊ばせるために連れて来た訳では無く、二人にも色々と仕事を割り振る。

 今の二人は立派な戦力だ。
 先の話では無いが、二人とも今では立派な勘定奉行だ。
 商売関係では、欠かすことのできない重要人物となっている。
 なので、驚くことに、ここに居る全員に護衛が就くのだ。

 皆で仲良く川下りを楽しむこと暫し。
 あっという間に淀に着く。
 そこはすっかりと景色を変え、ちょっとした町にも見えた。
 川船の港はすっかりと整備を終えており、更に、別の場所にも湊を作っていた。

 その作りかけの港に陣頭指揮を執っている本多様を見つけたので、俺は声を掛けた。

「本田様。
 こんにちわ」

「おお、空か。
 あ、いや、中将殿か」

「止してくださいよ、本多様。
 空で結構です。
 それよりも、お話がしたいのですが、大丈夫ですか」

「おお、それなら屋敷に向かおう」

 本多様の屋敷には織田方の武将たちも詰めていた。
 あいにく顔見知りとなった木下殿、後の秀吉……この世界で秀吉とはならないだろうが、ややこしい……もおらず、本当に事務方数名が居ただけだが、俺は二勢力に対して、予てからの懸案だった巨椋池と草津までの航路のための道の造営の許可を求めた。

 その場で本多様は条件付きだが直ぐに許可をくれた。
 織田方でも、すぐさま観音寺に詰めている丹羽様に連絡を取るとのことだった。

 ここで本多様から出された条件だが、こちらとしても想定済の件だ。
 大和川を使って奈良盆地ルートの開設と、木津川の調査だ。
 こちらを先にしてくれというのだ。

 俺としては道路普請を端から俺が指揮するつもりはなく、うちのスペシャリストに丸投げのつもりだったので、その場で了解して、葵と幸にうちのスペシャリストである六輔さんと連絡を取ってもらい、直ぐに工事に入ってもらうように頼んでから、本多様を連れて木津川を木津川口方面にむけ船を進めた。

 本多様が望んだ調査だが、果たしてあれは調査と言えるものか、少々巨椋池で迷ったほかは問題無く目的の木津川口までそれこそ数刻で到着した。
 迷わなければ上京まで向かうよりも早く着ける距離だった。

「本多様、こことの航路ですが、ここに湊を作るだけで明日からでも使えますね」

「ああ、そうなると、ここと多門山城との間の道が問題だな。
 直ぐに殿に会って相談してくるが、空はどうするね」

「あいにく会う用事もありませんので、これから堺に向かいたいと思っております」

「それもそうか。
 分かった。
 ではここで別れよう」

 本多様はそう言い残して城に向け歩いて行った。

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