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第七章 公家の政
第二百二十五話 新たな企み
しおりを挟む正月のバタバタも終わり、俺の生活は日常に戻った。
しかし、日常に戻ったとはいえ、決して暇になったわけではない。
ある意味正月以上に忙しくしている。
なにせ、知らないうちに俺の活動する拠点が増えており、それらを回るだけでも正月の騒ぎの比ではない。
まず向かったのは、宇治の工事事務所だ。
さすがに、最後に訪れたのは昨年の暮れだったから、あれから一月もたっていないので、工事そのものに変化はそれほど見えていない。
俺が気にしたのは、工事作業者の作業環境についてだ。
この寒い中、どうしても川の中での作業があるために、体調を崩して疫病などが広がっていないかの確認だ。
とにかく、体が冷えすぎないように現場を監督している六輔さんには十分に気を付けてもらっている。
六輔さん自身も川の中に入り工事を監督することもあるようで、そのあたりはしっかりと管理していてくれた。
本当に正月も十分に楽しめなかったのに申し訳なく、正月に続き、十分なごちそうと酒を工事事務所に届けさせて、俺は次の目的地である賢島に向かい、商館の状況の確認を行った。
紅梅屋さんから状況の説明を受けた後、ここに幸を置いて、その後の商館については幸に任せて、豊田さんのところに向かう。
こちらは、政の報告を受けたが、これはおまけだ。
そもそもこの辺りの政は九鬼さんの管轄だ。
俺は、最大の関心事である外国からの訪問者などについての報告を受け、次に向かう。
次の訪問地は三蔵村だ。
そこで、村の状況の確認を行った。
最近三蔵村はほとんど放っておいたので、正直、現状がどうなっているのか怖かったが、正月に来た時の感じでは大丈夫そうだったので、一度確認に来たのだ。
もし、正月の時に状況が酷そうに感じていたら、張さんに丸投げするつもりだった。
しかし、流石は張さん。
今までも商売関係を完全に任せきりになっているが、商売の中心である三蔵の衆の管理は完ぺきだった。
俺は三蔵村で村長の龍造さんから近況を聞くだけの簡単なお仕事だった。
俺は数ある拠点を一通り回ってから京に戻る。
ここでは、全体の管理だけでなく、貴族としてというより京の治安管理者としての仕事が待っている。
その他に今年から新たに密かなプロジェクトが始まった。
京から近衛関白とその一派を追い出して、主上の権威を取り戻すことだ。
まず考えないといけないのは、主上のお住いのことだ。
前にも太閤殿下や山科卿との話し合いでもあったように、俺たちが直接御所の修繕は出来ない。
なら他のことを考えるしかないが、そう簡単にはいかない。
幸いなことに、俺の嫁さんが増えたことによりルーチンの仕事は嫁さんたちが手分けしてこなしてくれる。
本当に助かる。
京では座の管理や地侍関係の仕事はお市さんが一手に引き受けてくれ、治安関連や公家の対応などは結さんが担当してくれている。
それ以外でも商売全般や、俺たちの予算関連全般を張さん、その補佐としてあっちこっちを回り管理してくれるのが葵、それに重要拠点の賢島の商館の責任者として今年から幸がつく。
それだけでも、本当に助かる。
こういった内助の功のおかげもあり、俺は新たなことに挑戦できるのだ。
しかし、これを内助の功といって良いものか。
完全に公の仕事を俺に代わりしてもらっている。
気にしたら負けか。
俺は宇治、草津間の河川関連工事の進捗を見ながら、主上のお住まい改善計画について山科卿や太閤殿下と根回しを続けている。
方針として御所の修繕ができないのなら、主上のお住まいを変えてしまえという俺の案に大筋で、お二人は合意してくれている。
簡単なことではないが、俺としては上賀茂神社周辺か伏見や淀辺りに仮御所でもと考えているが、仮御所の仮とはいえ、御所はまずいらしい。
ということで、御所がだめなら御旅行での宿ではどうかと、その方向で話を進めている。
主上ともなると簡単に旅行にも出れないらしいが、今まで前例が無くもない。
そもそも室町幕府の初期には吉野に南朝すらあったのだ。
かなりの無理は出来なくもないが、近衛関白一派の妨害をどう防ぐかに俺たちの計画の成否がかかっている。
何はともあれ、場所の選定と、主上のご移動、この場合動座とでもいうのか、いや、それよりも抵抗の少ない行幸と表現しておくが、一時的な移動の名目も用意しないといけないらしい。
そういえば京への旅行といえば古刹名刹を回ったり、美味しい京料理など楽しみがいっぱいあったが、今の京には古刹はあっても名刹は無いと言ってもいい。
とにかく荒れている。
酷いもので、とてもじゃないが観光地とは程遠い。
でも、近くとはいえ、主上が動くとなるとそれなりの理由が必要なのだが……『そうだ、京都に行こう』なんてCMがあったが、あのCMには春にはサクラ、秋にはモミジなどの紅葉が驚くほどきれいに映し出されていなっけな。
そうだよ、この時代……より少しばかり後になるが俺の知る歴史では醍醐寺の桜観賞会なんかもあったはず。
なら、お花見で醍醐寺まで……ダメだ。
今から準備しても間に合いそうにない。
そもそも醍醐寺って今あるのか。
だいたいが、京都の観光地って秀吉が整備し直したのが令和に続いていると聞いたことがある。
今の時代の秀吉さん……ダメだな。
まだ、丹羽様のところで雑用をしているくらいだったから、とてもじゃないが京の整備なんかしているはずがないって、ひょっとしてその整備の仕事って俺がしないといけないんじゃないか。
そうだよな。
このままいくと、どう考えても秀吉さんの天下人の目は無いしな。
そもそも今の京において力を持つのって……俺じゃん。
ならできるところから始めるとして、まずは伏見一帯の整備からはじめよう。
幸い、あの辺りは大和の弾正さんの領地となっているし、今淀周辺の開発で、人も集まっているが、治安は多分この付近では一二を争うくらいに良い。
伏見あたりに別邸を作り、そこに主上をお招きして、そこから政を見てもらおう。
名目上では、御所の修理が終わるまで、太閤殿下所縁の屋敷で面倒を見てもらう、うん、これなら筋が通る。
なら、太閤殿下の別邸を作る方向で動こう。
今からなら秋までにはどうにかなるかな。
もし、間に合わなければ来春でも良いけど、とにかく春なら花見で、秋なら紅葉狩りの名目で主上を動かす方向で、根回しを始める。
話を進めていくうち、今ではかなり荒れ果ててしまったが、九条家の菩提を祀るために伏見に東福寺があるということを聞いた。
なんでも、応仁の乱の時にかなりの部分が焼失されて、酷い状況のまま放置されているとか、できれば同族の菩提寺だったこともあり、復興もできないかとの相談を受けたので、一緒に復興と、主上のための仮御所、正式には行幸の際に立ち寄るための御休憩所として、太閤殿下の別邸を作ることになった。
巨椋池にも近い伏見という土地柄もあり、主上のご移動を船に限らせて、太閤殿下の別邸への出入りも直接船で出入りする設計で、伏見に近い宮大工に急ぎ仕事を頼んだ。
太閤殿下曰く、伏見の東福寺付近の紅葉はかなりのものだそうだ。
そう言えば、令和日本の鉄道会社のCMでも一度は行きたいと思わせるくらいに見ごたえのある映像が流れていたことを思い出した。
しかし、流石に今から春の桜には間に合わないので、計画は秋の紅葉狩りへと決まり、屋敷以外の準備にも正式に動きだした。
近衛関白一派には絶対に見つからないよう細心の注意を払い、また、主上の行幸の目的となる紅葉も、付近の剪定も含めて、あたりの整備も行った。
幸い、淀に物流拠点を整備中であることや、宇治に工事事務所までおいての土木工事を行っていることもあり、あの辺りの大規模な整備についても上京には一切聞こえてくることは無かった。
そう、この辺りで商いを営んでいる商人にすらバレていない。
これは、ある意味凄い事だが、考えたら当たり前の話で、工事についてはどこにも主上は出てこない。
せいぜい、金満家の俺が義父に別邸をプレゼントするために工事を開始したことくらいか。
近衛関白たちにはそう見ていることだろう。
後は政治向きの準備だが、こちらの方は相当注意を払わないと計画そのものが頓挫してしまう。
こちらの方は、ほとんど山科卿に丸投げに近い形でお願いしてある。
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