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第七章 公家の政
第二百二十六話 本社移転のお知らせ
しおりを挟む山科卿は太閤殿下とも親しい間柄だが、それ以前に信長さんのところの織田家とも太いパイプを持っており、山科卿との打ち合わせについては船で尾張まで運んでから熱田あたりで行った。
京では、どこで計画が漏れるか分からないが、流石に尾張までは近衛の情報網は伸びていないし、何よりあの信長さんが他国の草(忍者)の侵入をそうそう許すはずもない。
そんなこともあり、今のところは順調だ。
最終的には、春に行われる俺の結婚式で、関係者を一堂に集めて会議を行うことになった。
内輪だけの結婚式だった筈なのに、ごめん、葵に幸。
どうしても政治向きな話が付いて回るようだ。
その後は、割と普通に忙しく生活をしていた。
熱田からの戻りは、一度宇治に寄って、工事の進捗を確認して、その後に淀の開発中の島に寄り、本多様や木下様辺りから近況を聞かされて、京に戻った。
どうも、俺の嫁さんたちの協力もあり、仕事は順調なのだが、意思の疎通がちょっとネックになってきている。
最近工事ばかりを始めているが、ここに来て俺は一つの決断をした。
ここに、三蔵の衆の本社機能を移転させると云うのだ。
本社機能と呼べるような立派なものは今までも作ったことは無かったが、一応各地に散らばった仲間たちの様子は三蔵の村にいればすぐにでも確認ができた。
これは、藤林様のお陰なのだが、藤林の屋敷に情報が集まる仕組みになっている。
今後も、当然情報を集めるのが藤林様の部下たちなのだから、あそこには集まるだろうが、ここに情報を集約させるための仕組みを作る。
今までの三蔵の衆の情報以外での本社機能は全て張さんの頭の中だけど、そこのところはこの際一旦考えずに、俺の屋敷内に新たな事務所棟を作るように手配した。
そこに、俺の嫁さんズ集めて仕事をしていくようにする。
俺としても、あっちこっちからの処理案件も直ぐに対応できるようになるし、何より俺があっちこっちに行かなくてもいい。
俺が京を空ける時間が長いと正直あっちこっちからクレームが来ており、最近少々鬱陶しくなっている。
まあ、俺が京を空けるのは仕事がない訳では無いが、京でのわずらわしさから逃げているという側面もほんの少しはある。
ほんの少しだが、でも最近はそういうわずらわしさも、結さんや市さんが代わりに処理してくれるので、だいぶ楽になっている。
何より、嫁さんズから、なかなか会えないとのクレームと云うか圧が日に日に強くなってきており、最近ではその圧に葵や幸までもが加わっているので、いっそのことここに集めてしまおうと考えた訳だ。
賢島の商館を始め、あっちこっちに散らばった拠点についても、最近の河川交通網の整備のお陰で1日もあれば情報が届く。
今までも、忍びさん達のご尽力で遅くとも2日で俺の元に情報が届いてはいたが、何かあった時に俺たちが現場に向かうのにも1日でだいたいのところには向かうことができる。
これはこの時代では画期的のようだ。
多分時間距離が一番遠くなるのは美濃だろうが、それとて張さんと尾張屋さんが木曽川の河川交通網を準備しているそうで、それが整えば熱田から木曽川を船で上れるので、ずいぶんと楽になる。
当然、今工事中の宇治草津ルートが開通すれば観音寺までも京からは直ぐだ。
今は、いくつもある関を超えないといけないので、距離の割には時間がかかるのだが、それもこれも俺の先見性を褒めてあげたい。
そんな訳ないか。
でも、船での移動ができるようになると、その利便性は計り知れない。
とりあえず木曽川と草津ルートの整備で、河川交通網の整備は一旦落ち着く。
信長さんとしては岐阜から観音寺までのルートに不満は残りそうだが、あ、まだこの時代だと岐阜ではなく井ノ口の町、もしくは稲葉山城から南近江までは陸路となり、ちょっと面倒がある。
いくつかの道も整備は進んではいるが、東山道が北近江にいる浅井の影響で、大々的に整備がしにくくなっており、あまり使い勝手がいいとは言えない。
そんなこともあるが、俺達の間での情報交換に要する時間は他のどの大名家や商家と比べても引けを取らないだろう。
俺の最近の仕事と言えば、例の計画と、流通網の整備にかかりきりとなっている。
そんな折に、京の座を通して下京当たりの商人たちからの嘆願が上がってきている。
上京の様に、下京も治安や町の整備を願えないかというのだ。
俺達が、上京に来てから、今までとは見違えるようにまで治安が回復しているし、そこに来て、下京を通り越して淀や伏見の整備を始めたことが知れわたり、下京の商人を始め寺や、庶民までもが焦りを感じているとか無いとか。
下京の商人たちは、上京の座に加わって冥加金を治めるとまで言ってきているが、俺はそれにはちょっと待ったをかけている。
正直、治安維持に関して、いや、町の再開発に関しては町から税を取り、その税金で行いたいと考えている。
使う金額が今までとは格段に違ってくることもあるが、何より、今のこの状況の方が異常だ。
そもそも治安や町の整備は政の範疇であり、政は庶民を始め広く税を取りそれで行うのが自然だと俺は思う。
下京に対して、検非違使の強権を使い税金徴収の仕組みを作れない訳では無いが、そもそも環境が整えば、それを行うつもりなのだが、今はまずい。
税として徴収すれば絶対にあいつら関白一派が出て来る。
そして、町に住む民のために集めた税を自分らの贅沢のために全て持って行ってしまう。
俺には、それを防ぐルールと云うか法律的な意味での裏付けがない。
逆にあいつらには、朝廷という古いにしえからの歴史という裏付けがあるので、かえって厄介だ。
物理的には防ぐことも可能ではあるが、それをやると俺達が横領犯として糾弾されかねない。
横領をしている連中から横領犯として糾弾されるのだ。
面白く無いどころか、多分、いや絶対に我慢できそうにない。
だからこそ、今は税を取らずに任意に集まった連中の上納金として集めた金で運営しているのだ。
これは、あくまで私的財産なので、無理やり朝廷と言えども奪うことはできない。
これに税をかけようにも、今度はあいつらにその裏付けがない。
何せ、私的に集めている金に税をかけるという律令が過去も存在していない。
律令以外に新たな決まりを作ろうにも、今はまともに朝議が開かれていないので無理だ。
そもそも、今の御所では朝議が開けない。
開きたくも、それこそ公家が集まったら床が抜ける。
御所を修理していないからそういうことになるのだが、あいつらはそんなことは一切考えていないからこちらとしては助かる。
それでも、今でもあいつらは色々と言ってくる。
集めた銭を回せと、しつこいくらいに俺に対して言ってきている。
尤もそんなのは全部結さんのところでカットしているので、俺の元までは来ていないが、ああだこうだと難癖を言ってきているようだが、そこは底の浅い連中だ。
結さんには経明博士の五宮という実父を始め復活させた大学寮に詰めている公家たちという心強いブレーンが控えている。
古の習慣からはじめ律令の解釈など、それこそこちらに理の有る言い分で全て撃退しているそうだ。
実に心強い。
なので、下京の人たちには悪いとは思っているが、もう少し待ってもらう。
今進行中の計略であいつらを京から追い出してしまえば、直ぐにでも、取り掛かるつもりだ。
流石に、ただ待たせるだけというのも何なので、今はここ上京から頻繁に淀に向かい、船ではなく地上を本多様のところの武士や、俺のところの検非違使隊を行き来させている。
それも日中目立つようにだ。
それをするだけで、かなり下京の治安も回復していると、俺は聞いている。
元々だが、幕府とつるんだ押し込みがあった上京よりは、それが無かった、もしくは少なかった下京の方が治安は良かったのだ。
俺達が幕府を追い出してから、この辺りの押し込みは格段に減り治安が良くなるきっかけとなったが、下京の人たちは、俺達にそれを期待している。
ここ上京とは違い下京は、何より住んでいる住人の数が違う。
ここと同じようにするには、組織を強化して、大量の人員を投入しないとできない相談だ。
それには、ここで使っている金額の数倍から数十倍の銭が必要になる。
それを商人たちからの冥加金で賄えるかというと、たぶんできない相談では無いだろう、それでもギリギリになる。
町の整備などには一切の銭が回せないのが分かり切っているので、税として徴収できるまでは下京には手を付けない方針だ。
これについては、太閤殿下も、主上も了承してもらっている。
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