名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第七章 公家の政

第二百二十七話 結婚式

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 まあ、そのための準備もそろそろ始めて行かないとまずいので、準備を始めるが、その前に、簡単に済ませようと考えていた俺の結婚式だが、どうも話が大きくなってきているので、そろそろ真剣に考えないと不味くなりだしてきている。

 流石に、こちらは手を抜けない。
 もし、何かあれば……怖くて考えたくない。
 その後の俺の居場所が……

 嫁さんズの目もあるし、きちんと準備を始めた。
 春はもうすぐ傍まで来ている。
 待ったなしだ。

 あの時には、確かに俺はそう考えていた。
 絶対に準備には手を抜かないと。
 時間と云うものは、本当に自分の意思に反して短くも長くもなるものだ。
 嫌なことをしている時には、本当に遅々として進まない時間が、何であれほど早く進むのだ。

 俺には信じられない。
 正月と言えば真冬のさなかである。
 その正月を終えたばかりだというのに、あっという間に世間は春になった。
 ついこの間まで正月だったのに、冬はどこに行ったのだ。

 そう、俺は準備をする暇がなかったのだ。
 いつものように、あっちこっちと動き回り、主に宇治の工事現場などで発生した問題などをかたして行くうちに世間にはあっちこっちから花の開花の便りが届く。

「うん、もう春だな」

 俺はすっかりと忘れていた。
 春には大事な行事が待っているのに。
 俺は京にある屋敷から来た人に無理やり京の屋敷に連れ返された。
 そして今、結さんを筆頭に嫁さんズを前に正座をしている。

「空さん。
 聞いていますか。
 このまま何もしないと云うのはあまりに葵さんや幸さんがかわいそうですよ」

 何故、今のような状態になったかと云うと、葵と幸の結婚式を春にすることになっていた筈なのに、準備ができていない。
 他人事のように云うと更に怒られそうなので正直に話すと、全く準備を俺はしていなかった。
 やばい、非常にヤバイ、どうしよう。
 結さんからの説教で青くなった俺に、張さんが優しく話しかけて来た。

「結さん。
 そろそろお許しになっては。
 空さんだって、故意にやったことではないでしょうし、何より忙しすぎるのがいけないのですから」

「そうですね。
 空さん。
 結婚式の準備は私たちで、済ませておりますから、明日にでも三蔵村に皆さんで向かいますよ」

 俺の嫁さんズは、俺が何もしていないことを分かっていたので、俺に代わり準備を進めていてくれた。
 もうこれには感謝しかない。

 本当は内輪だけの結婚式の予定だったので、それほどの準備は要らない筈だった。
 三蔵寺を借りることは既に正月の段階で約束をしていたし、後は村人を集めて料理をふるまうくらいのつもりだった。
 そこに、まず、信長さんが横やりを入れて来た。
 『俺も参加させろ』と、しかも、公式での参加を望んでいた。

 信長さんはその言動、特に日ごろのあのフットワークの軽さもあって、参加するにしても、ひょいと一人で三蔵村に来ることくらいは想定していたのだが、家臣を引き連れての公式での参加、これは尾張美濃それに南近江を領している大大名の織田家が正式に俺の結婚式に参加することを意味しているから、俺達もそれなりの準備が必要だった。

 滞在先に、俺の三蔵村にある屋敷を開放して、そこに織田家を入れ、当然織田家が参加するならばと、大和の弾正までもが公式での参加を要望してきたので、これも受け入れる。

 ここまでくると、この戦国の世にあって、大大名家同志の政治行事、それもかなり、いや相当大事の行事となる。
 その辺りに采配を結さんや張さんなどが市さんの助けを借りて、すっかり済ませていたのには驚いた。

 正直、俺の嫁さんズには仕事をかなりの部分任せているが、自発的にこれほどのことまでしてもらえるのなんて、『もう俺要らなくない』なんて思ったりもした。
 正座して嫁さんズからのお叱りを受けた翌日には、船で三蔵村に向かった。
 ここ京屋敷からでも、その日のうちに三蔵村に、それも日にあるうちに着けることができるなんて、本当に便利な世になったものだ。

 もっと、この移動を可能とするには、事前に堺での船の手配など、色々と面倒なことがあるが、それでも、京屋敷から伊勢にある三蔵村までもが当日で行けるなんて、凄いと思う。
 夕方になる前に俺たちは、三蔵村の中心である三蔵寺に入る。

 寺の中では、結婚式のために準備で、かなりごたごたとしていた。
 俺達は、まず上人様に今回の件でのお礼にと、挨拶に伺う。
 直ぐに上人様のお部屋に通されたので、葵と幸を前に、上人様に挨拶を始めた。

「上人様。
 上人様より、葵たちをお預かりして、数年が経ちました。
 その間、戦乱を少しでも抑えたいと頑張ってきましたが、未だその目標は達成しておりません。
 そんな折ですが、私が政治的な理由もあり既に結婚をしたことで、葵たちに寂しい思いをさせ申し訳なく思っておりました。
 その葵や幸も大人になったこともあり、この度、俺が娶ることになりました。
 正月にも報告しておりましたが、此度、葵と幸の俺との結婚式に寺をお貸しいただき感謝します」

「空よ。
 わしは空がまさかここまでするとは思ってもおらんかった。
 空に葵と幸を預けたのは、二人には幸わせになってもらいたいという、願いからじゃが、本当に結婚するとは、うれしくてたまらない。
 葵や、今幸わせか」

「はい、結さんを始め皆様は良くしてくださります。
 葵は幸わせいっぱいです」

「幸よ。
 そちはどうか。
 幸わせを感じておるのか」

「はい。
 私たちだけこれほど幸わせになっていいものか心配になるくらい、幸わせにしてもらっております」

「なら、わしから言うことは無い。
 これからも幸わせになるよう頑張るのだぞ」

 上人様は、目に涙を少し浮かべながら俺たちを祝福してくれた。
 思えば、色々と思うところがあるのだろう。
 初めて玄奘様の紹介で会った時から、本当に世話になっている。

 最も厄介ごとも一杯貰ったが、それでも葵や幸を俺に預けてくれたことには感謝しかない。
 俺が上人様と会ってからのことを振り返りながら、それほど時間は経っていないが、多くのことがあり、それをみんなで懐かしみながら少し話をしている。

 願証寺の暴発は結局止めることができず、三河と同様に一揆をおこさせてしまった。
 尤も、寺に流れ込むはずだった、難民たちは俺達が保護して、生活できるようにしていくうちに、どんどん寺にはいつくかなくなり、最後に暴発した時には、考え方が固まった連中しかいなかったのが唯一の救いだ。

 それでも千人にも及ぶ被害は出たが、俺にできたことは、それだけだった。
 上人様もこのことについて、思うところはあるが、あの後何もおっしゃることは無かった。
 悔しいのは俺だけではない。
 上人様や玄奘様は俺以上に思うところはあっただろう。

 なにせ、防ぐことができずに三河に続き暴発させてしまったのだから、それでも未来を信じ、ここ三蔵寺に来てくれ、今では村人だけでなく付近の人たちを導いてくれている。

 俺は、そんな寺で葵と幸との結婚式を行うのだ。
 俺達が着いてから、数日もしないで信長さんの一行や弾正さんの一行が寺に着いた。
 信長さんには、俺の三蔵村屋敷に入ってもらった。
 ほとんど俺は使ったことが無い屋敷だが、ここの迎賓館の役割をしているので、信長さん一行をお迎えするにも問題は無かった。

 また、弾正さんたちは俺の屋敷の隣にある藤林さんの屋敷に入ってもらった。
 俺がまだこの村を中心に活動してきたときに、藤林さんの屋敷を迎賓館扱いしていたくらいだったから、これも問題は無いだろう。

 まあ、あんな大大名がこんな辺鄙な村に来る方がおかしいのだ。
 屋敷について文句なんかを言われても俺は取り合うつもりはない。
 尤も文句を言われなかったが、九鬼さん達は、昔使っていた屋敷にそれぞれの部下たちを連れて入ったようだ。

 みんなが三蔵村に集まってすぐに、俺達の結婚式を寺で行った。
 俺達の結婚を祝うために来て下さった大名の皆さんは、暇ではない。
 そもそも大名本人が来れるほど大事な行事だとは思えないし、その大名もここで時間を取らせては申し訳ない。

 しかし、あの人たちは一向にお構いなしのようだ。
 本当に楽しそうに上人様たちと話している。

 寺で上人様に祝言を挙げてもらい、村人たちに祝い酒をふるまって、寺では集まった客に料理や酒をふるまい、結婚式は無事に終わった。

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