名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
268 / 319
第七章 公家の政

第二百三十七話 関白たちの反撃?

しおりを挟む


 先に、検非違使のお役所内に作ってある陳情などの要件で使っている部屋に、関白とその取り巻きたちを通していた。
 一応、ここにある応接用の部屋の中では一番上の造りではあるが、それでも大名や公卿などをお通しするような部屋ではない。

「殿下、この扱いは酷すぎませんか」

「ああ、わしらを何と心得ている」

「ここは、いっそのこと中将を大宰府に飛ばしましょう」

 などと取り巻きたちは、威勢の良い事で盛り上がっている。
 まあ、陳情用に使っている部屋だ。
 きれいに掃除はされているが、調度品などもほとんどなく、事務的なものばかりで、禅宗的には割と落ちついた良い部屋だとはおもうのだが、まだこの時代の人からは良い評判は聞いていない。

 別に貶める様な造りにはなっていないのだが、格下扱いにされたとでも思っているのだろう。
 格下とは思っていないが、あながち間違いでもない。
 そこなら商人たち位には扱っている。

 商人たちの扱いには、俺は特に気を付けているからある意味感謝してくれてもいいとすら思う。
 敵なのだし、今まで俺に対する扱いを考えれば塩をまかれて玄関先で返されなかっただけましだろう。

 ああ、いかんいかん。
 感情的になっている。
 関白たちからやや遅れて、俺と弾正が部屋に入った。
 ここでもひと悶着があった。

「貴様、関白殿下を何と心得る」

 まあ、そりゃ~そうだ。
 何せ、上座に当たる奥側に俺たちが座ったのだから。
 でも、俺は、あくまで陳情客として扱うと決めていたので、構わず話を進める。

「私は上座に座った訳ではありません。
 ここは検非違使に陳情に来る人たちを出迎える部屋です。
 私はその陳情を聞くお役目が座る場所に着いただけです」

「き、き、貴様~」

 もう取り巻きたちは顔を真っ赤にして怒っているから、話などできそうにない。
 しめた、もうこれでいいよね。

「陳情で無いのなら、申し訳ありませんが、私も主上より頂いているお役目で忙しいのです。
 無駄な時は掛けられませんので、お帰り下さい」

 俺はここまで言うと、流石に横で聞いていた弾正が小声で俺に言ってくる。

「おい、空よ。
 やりすぎではないか。
 これって、まずいぞ」

「大丈夫です。
 関白殿下は、身分を盾にして面会を求めて来た訳ではないのですから、あくまで陳情として扱います」

「おま……ちょっとばかりやり過ぎのような気がするが」

 最後はほとんど独り言だったので、意識を関白たちに戻すと、先ほどから騒いでいたのは関白一派でも下の方の少納言だったようで、同じ一派の大納言が彼を諫めていた。

「これ、少し黙らんか。
 関白殿下の御前だぞ」

「そのお方を、あ奴が……」

「話が進まぬから、少し黙っておれ」

 大納言の諫めをきいて、まだ顔に怒気一杯の表情で俺の方を睨んでいたが、諫めていた大納言が、今度は俺の方に向き直り、話し始めた。

「彼が怒るのも、ご理解してほしいものだな、近衛中将殿。
 だが、我らは貴殿に喧嘩を売りに来た訳ではない。
 先の主上の行幸について話が聞きたかっただけだが、聞かせてもらおうかな」

「それはお役目としての報告を求められているとご理解すればいいのでしょうか、大納言殿」

「もちろん、貴殿の役目上、関白殿下に報告する義務があると、麿は考えるのだが」

「ええ、ですから先ほど来られた方に報告するために御所に上がりますと伝言を頼んだのですが、どうも伝わっていなかったのですね。
 つい先ほどまで私は五宮と一緒に御所に上がっておりました。
 しかし、待てど暮らせどどなたもいらっしゃらなかったもので、かなりお待ちしましたが、引き上げて来たばかりなんです。
 報告なら明日にでもも・う・一・度・御所に上がりますが……」

「一々御所まで行かずとも殿下のお屋敷を訪ねれば良かろう。
 先触れに出した者からもそう聞いているだろう」

「ええ、ですがお役目は私邸でするのは如何なものかと。
 私は、大納言殿もご存じの通り、田舎者の成り上がりです。
 幸い義父の五宮は大学寮の博士のお役を頂くだけあってしきたりには詳しく、報告などのお役目は御所にある溜まりで行われていると聞いております。
 私はしきたりには疎いものですので、五宮に無理を言って御所まで上がったのですがね。
 ただでさえ主上が御所どころか京から行幸に出ている時に、私邸で勝手に公人などが集まりなど、いらぬ誤解を招かないとも限りません」

「あらぬ誤解とは、なんぞや」

「謀略や乱などは大げさだとしても、仕来りを無視して私邸で報告など不作法も甚だしいと皆々様から陰口を叩かれるかと思いまして。
 ですので、私に主上から頂いております治安についての報告は明日にでももう一度御所にて行いますが」

「え~い、今ここに殿下もおわすのだ。
 ここでしないでどうする」

「ですから、朝廷の決まりで、できないのでは」

「それくらい融通を利かせないでどうする、使えない田舎者め」

 しめた。
 奴らから融通を利かせるという言質を貰ったぞ。

「ですが……
 そうですね、融通を利かせないと仕事は回りませんよね。
 ですが、私邸での密談はやはり避けるべきかと」

「だから、先ほどから言っておることだが……」

「ですが、唐の国のことわざでしたっけ。
 『李下に冠を正さず』と云うのがあるそうなんですよ。
 これは誤解を招く行いは避けるようにと理解しておりますし、私のような成り上がりはそうでなくとも色々と言われますので」

「だから、そういう心配はいらぬ。
 ここに殿下自らいらっしゃったのだ。
 貴殿にはあり得ないくらいの厚遇と理解されよ」

「ええ、存じております。
 ですから私も融通を利かせようと考えました。
 幸いここでは私が主管する検非違使の仕事しておりまして、殿下には大変失礼かとは思いますが、あくまで融通ということで、検非違使に陳情という扱いにさせていただきます。
 それならば私邸での密談に当たらないかと」

「貴様~~、なんという……」

「ええ、大丈夫です。
 ここでの話はきちんと記録に残しますので。
 あくまでお役目中ということで。
 絶対に密談には当たらないかと」

「もうよい。
 それよりも、あれなんだ。
 貴殿も計画からかかわっていたのだろう」

「あれと申しますのは主上の行幸のことですか」

「ああ、そうだ」

「計画に関わっていると言いますと、主上の移動に際して相談は受けておりましたが」

「理由は聞いてるか」

 今度は先の大納言からの質問だ。
 こちらの非をどうにかして誘いたいらしい。

「ええ、私が聞いていたのは御所での生活があまりに酷いからだとか。
 暑い事ですし、それならどこかに避暑にでもという話が出ていたように思いますが」

 俺の意図を察したのか弾正がここでナイスパスを出してきた。

「失礼します、中将殿」

「弾正殿か。
 そう言えば貴殿は最後まで主上の警備をしていたな。
 何か」

「は、ここに陛下からのお言葉を記した手紙と、同行しております山科卿から朝廷宛てのお手紙を預かっております」

 そう言って、先に話していた例の手紙を俺に差し出してくる。

「朝廷宛ての手紙は、私もその一員になるとは思うが、流石に私がここで読む訳にもいかないだろう。
 幸いここに朝廷の最高責任者であらせられる関白殿下もいることだし、お手紙はそのままお渡ししましょう。
 その前に、一緒に主上のお言葉を頂きましょうか」

 俺はそう言って、関白たちが何かを言い出す前に、あの話をそのまま読みだした。
 正直、俺はまだあのくねくねした文字は読めないのだが、少し前に弾正に読んでもらっているので、まだ覚えている。
 俺は、そのまま声に出して主上のお言葉を皆に伝えた。
 流石にこれを聞いた関白たちは全員が顔色を変えた。
 今回の行幸と云う謀略の全体像がはっきり見えたようだ。

 そう、今俺が主上のお言葉と声に出しているこの状況は、明らかに何かしらの政争だと分かるくらい強引なものだ。
 なので、関白たちは初めから謀略だと決めてかかり、一番政争について弱そうな俺のところに圧をかけて来たのだ。

 まあ、最初から関白たちの行動までもが計画にあったので、俺も慌てることなく対応できたわけだが。
 それに何より、俺の心情的にも関白たちの持つ権威と云うのを正直理解してない。
 ただの偉そうなおっさん程度しか思っていないので、いきなり関白がやってきてもありがたがるとかあり得ない。

 連中は、俺の屋敷にいきなり関白を訪問させることで、これ以上ない厚遇を与えて、心情的に優位に立ち、俺達に対して貸しを作るつもりだったようだが、俺からすれば迷惑以外にない行為だ。

 尤も今回ばかりは手紙を隠蔽できない形で関白に渡すというミッションが急に入ってきたので、正直助かったとは思ったが。

 それでもその程度だ。
 このミッションが無ければ借りどころか、俺の方が迷惑している分関白に対して貸しを作ったと思ったことだろう。

 まあ、今回は手紙を効果的に手渡すことができたので、貸し借りは無しと思ってやる。
 その関白たちはと云うと、山科卿からの手紙を回し読みしている最中で、どんどん顔色が悪くなっている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...