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第七章 公家の政
第二百五十六話 京からの応援
しおりを挟む幸いというか、この地には京の戦乱を避けて朝倉に庇護を求めてきた公家もまとまった人数いる。
彼らは朝倉から、悪く言うと飼い殺しにされていた。
あいにく俺には上品な言葉を思いつかないのでそれ以上の表現が見つからない。
あいつらなら飼い殺しでも十分に上品な表現だろうって、いかん少し感情的になっているな。
もともと戦争なんかしたくはなかったのに、近衛とその周りの連中がかき回すからって、もういいか。
早い話が、今のままだとごくつぶしの害虫くらいの存在だが、その公家が先の乱捕り騒ぎでこの朝倉館に続々と集まってきている。
彼らが言うには命からがら逃げてきたというのだ。
大げさだとは思うのだが、命からがらと表現できなくもない。
しかし、大店の商人ではあるが自衛しながら狼藉者から家族や奉公人だけでなく自身の財産を守っているのに、集まったこいつらは、身一つで逃げ込んできているのだ。
しかも今まで雇用?していた下男下女などは誰一人として連れてきていない。
自分の世話をしてきた連中を囮にして逃げてきたと言われても反論できないだろう。
実際に、下女を差し出して逃げてきたものまでいると報告を聞いている。
そんな連中の首を取るわけにもいかないので、保護だけは命じているが、あいつらを使うしか今のところめどは立たない。
俺はすぐに京に使いを出すことにした。
こういう時に頼りになる俺の義父の五宮だ。
彼ならこういう屑連中でも使いこなせるだろうと京から呼んだ。
彼には使えそうな公家を京から連れてこられるだけ連れてきてもらった。
京から朝倉館までは十日もあれば着く。
幸いというか、俺達には水運があり今浜あたりまで船で来させて、信長さんというよりもそこで現場指揮を執っている丹羽さんにはご迷惑をかけてしまうことになったが、今浜から公家たちの護衛を頼んでここまで連れてきてもらった。
ついでに、小谷城や木曽の信玄さんの様子などの情報も頂いた。
まず、小谷城関連の件だが、残してきた大砲を使って簡単に城を落として、現在は丹羽様の部下だけが残り戦後処理をしているらしい。
事前の話し合いの通り、小谷城を落とすのに大活躍をしていた大砲部隊は小谷攻略が終わる前から信玄にあたるべく木曽方面に移動をさせている。
今頃は美濃のどの辺にいるのだろうか。
応援に来ていた徳川さんと一緒に木曽方面に移動しているとか。
徳川さんは木曽でも信長さんの応援に向かうつもりらしい。
まあ、徳川さんからしたら信玄さん対策は他人事ではないので、叩けるうちに叩いておきたいということか。
そんな情報を教えてくれた丹羽さんの部下である木下さんには感謝の手紙を託した。
しかし、初めてゆっくりとお話しさせて貰ったよ、木下小一郎殿に。
彼の兄とはたびたび会うし、その時には雑談も弾むのだが、不思議と弟の小一郎殿とは話す機会がなかった。
ゆっくりと話したことで彼の人となりが見えてきた。
印象を表現すると、こういう雑務に近い仕事でも丁寧にこなす温和な感じのする武将だった。
この人も知名度という面では今一の評判なのだが、歴史好きな人にすれば相当評価の高い武将の一人だ。
戦国のチート武将の一人といっても良いくらいの人で、なんとのちの大和大納言と言われている太閤秀吉の弟だ。
本当に信長さんのそばには戦国のオールスターが集まっているのではといいたいくらいにすごい人ばかりがいる。
そういえば、最近チート武将の一人でもある滝川さんを見ていない気がするが元気にしているのかな。
話がだいぶそれたが、五宮が連れてきた公家たちにここで保護している公家を預けて内政に取り掛かってもらった。
五宮には使えなければここから追い出すから遠慮なく報告しておいてくれと言ってあるので、働いてくれることを彼らのためにも期待している。
そうでなくとも、あんたらは近衛に近い公家扱いになっているんだ。
ここで頑張らないと、後は無いよ。
朝倉館に五宮たちが来てから一週間が過ぎたころに、藤林さんの伝令として孫一さんが戻ってきた。
無事に若狭を攻略したという。
戦後の処理に人の増援を頼みたいらしい。
朝倉館で、このあたりの戦後処理をしていた半兵衛さんに相談してみると、自分が行くという。
半兵衛さんが言うには、朝倉領の制圧は完全には済んでいないが、少なくとも俺たちが進軍した地域については応急的ではあるが、ひとまず治まっている。
細々とした処理などは随時していくことになるが、そのあたりについては俺が京から呼び寄せた五宮一行が優秀なので、問題ないという。
そうでなくとも俺の行う政治は戦国の世の常識からは甚だしく逸脱しており、俺のやり方に慣れた者しか扱えないとこぼしていたくらいだ。
「それでは、私がそこの孫一殿を連れて若狭を中将のものにするべく仕上げてまいります」
「え、俺も行くのか。
戻ったばかりだぞ。
それに俺は戦人(いくさびと)だ。
政(まつりごと)なんぞで役に立つとは思えないが……」
「何を言いなさる、孫一殿。
某(それがし)は知っておりますぞ。
孫一殿も中将殿のやりように慣れた御仁であると。
それに自身の領地ではすっかりその方法で上手に治めているではないですか。
さしずめ政なんぞ面倒で、こちらに逃げてきたのでは」
「わかっているのなら、そのように俺を使ってくだされ、軍師殿」
「だからなのです。
見ての通り、中将殿の政を理解している人がここには孫一殿しか残っておりません。
それに、これからは戦よりもこういう感じでの政の方が増えますよ。
後でするのか、今するのかの違いですから行きますよ。
よろしいですよね、中将殿」
俺ににこやかに了解を求めてくる半兵衛さんは、にこやかな顔に反して少し怖い。
そうだ、目だ。
目が笑っていない。
さしずめ、何をサボろうとしているんだと孫一さんを叱っているのだろう。
そんな半兵衛さんを前に、俺が孫一さんを庇えるはずもない。
もうこの状況になると、俺には拒否権など与えらないので、頷くしかない。
悲しそうな眼をした孫一さんが、俺の方を見ながら半兵衛さんに連れていかれるが、俺には聞こえないぞドナドナが。
がんばれ孫一さん。
しかし、ここの仕事もなかなか無くならない。
先ほど半兵衛さんが言うように、五宮の大活躍でどうにか収まっているような感じだ。
付近の治安維持のための軍すらまだ出せていないが、もう少ししたら百程度の軍ならばいくつか出せそうな状況までにはなっている。
それに、俺は呼んではいなかったが張さんが珊さんを連れて応援に駆けつけてくれた。
すぐに珊さんは港で軍船を用意して海から警戒に当たってくれた。
そう、富山の港からすぐにでも商いを始めさせている。
そのあたりの調整も兼ねているのだろう。
張さんが応援に来てくれたことで、特に年貢関係を含め数字関連の仕事がはかどるようになってきた。
年貢については、さすがに今年は無理だが、来年はどうだろうか。
俺の抑えている領地でもかなり荒らされた風ではあるので、冬を越すための措置は必要だそうだ。
これは実際にここに来るまでに張さんが自分の目で確かめてきているので、張さん自らすでに伊勢に文を出している。
また、伊勢で行ったような炊き出しをするそうだ。
そういえば、あの炊き出しからめんどくさいことが始まったような気がしてきた。
確かに、志摩は九鬼さんのために協力はしたけど、伊勢までは正直、今思うといらなかったような……しかし、北畠をはじめあの地を治めている連中の出鱈目さ加減はどうにもならなかったし、何よりあの時点では北畠は邪魔だったから。すぐにでも追い出す必要はあった。
でなければ俺たちの安寧は無かったであろう。
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