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第七章 公家の政
第二百五十七話 永禄十二年 正月はいずこに
しおりを挟むふ~、消去法か。
確かにあの時点で北畠は邪魔で、すぐにでも追い出す必要があったし、実際に追い出しもした。
そう考えると、ここでの炊き出しも面倒ごとに……考えるだけ無駄か。
すでに面倒ごとになっているし、今更感半端無い。
ここもそうだけど、連絡のあった若狭も似たような状況なのかもしれないな。
「張さん。
ここが落ち着いてからでいいけど、若狭も確認を頼めないかな。
半兵衛さんが孫一さんを連れて頑張っているからあまり酷くなっていないだろうとは思うけど、確認だけはしておきたいしね」
「はい、私もそう考えておりましたので、珊さんに手紙を託して若狭に送りました。
しかし、越前だけでなく若狭までとなると少々……」
「そうだよね。
九州なら伝があるから、兵糧の安いところを探して買い付けてみるか」
「そうですね。
それくらいなら紅梅屋にでも命じれば問題ないでしょう。
すぐに幸に連絡を取りますね」
本当にナイスなタイミングで張さんが応援に来てくれた。
領内の政だけならば五宮にでも任せておけば問題はないだろうが、今困窮する民に対しての対応については張さんに勝る人はいない。
すでに伊勢で散々経験してきたことでもある。
問題があるとすると、兵糧を含めて銭などは全てを伊勢からの持ち出しになる。
これって、最終的にはどこが持つのだろうかっていうよりもこの地はだれが治めることになるんだ。
結局、九鬼さんは冬前に伊勢に戻れたけど、若狭にいる藤林さん、半兵衛さん、孫一さんはそろって若狭に居残りで、領地を見ている。
そのまま三人で若狭で頑張ってもらうことは可能だろうか。
それよりも問題なのが、俺まで越前で居残り、いや、雪で閉じ込められた。
一乗谷から西側については張さんの大活躍で貧しくとも餓死者を出さずに冬を越せる目途を吹雪で移動が困難になる前に付けることができたのだが、一乗谷から東側では悲惨なことになっているらしい。
それでも寺領は永平寺からの指示でもあったのか餓死するまで酷いことにはっていなさそうなのだが、それ以外では想像すらしたくない状況だとか。
乱取りしたりされたりで、治安何それ、おいしいのって感じで、女子供老人から死んでいく。
本来領主がそうならないように政をしているはずなのだが、まともだったはずの朝倉でも朝倉自身がどこかに雲隠れされれば領地も荒れるか。
結論から言うと、俺たちが治めていない場所はどこも酷い有様だった。
朝倉についていた豪族たちの多くが悲鳴を上げて俺たちに泣きついてきたのは冬も始まる頃だった。
まだ、かろうじて物資の移動ができるときに朝倉を捨てて俺たちに鞍替えをしようと臣従してきた。
正直こいつらを助ける義理も理由もないが、民たちを無駄に殺させる訳にもいかないので、領地をすべて没収の上、改めて銭雇ならばと条件を付けたら半数は怒って帰っていったが、それでも半数が残ってしまった。
せめてもう半分の1/4くらいになると考えていたが、状況はかなり酷いらしい。
とりあえず領民を一乗谷にある寺にすべて避難させてこの冬だけは凌ぐことにした。
ここより離れた村などの援助を雪深い中ではできそうにないためだ。
そんな訳だからこの正月は一乗谷で雪に閉じ込められた状態で迎えた。
例年の年始の挨拶などは夢のまた夢になった。
また俺の顔を知らない住人が増えるのだろうか。
まったく俺の本拠は伊勢の三蔵村のはずなのだが、最近は正月くらいしか帰れていないのに、その正月も今年は帰れそうにない。
文だけは忍びさんたちが頑張ってくれているからどうにか通じているので、村長の龍蔵さんにだけは出しておこう。
まさか龍蔵さんは俺のこと忘れていないよな。
ちょっと心配になるが、ここにいる以上どうしようもない。
俺は冬の間一乗谷の朝倉館にて缶詰め状態になった。
ここに缶詰め状態であっても、暇なことは一つもない。
やることは本当にたくさんある。
ここが誰の領地になるかはまだ不明なのだが、とりあえず民情を落ち着かせなければならない。
少しの油断でもすぐに一向宗が魔の手を差し向けてくる。
忍びさんたちの報告によると俺たちが抑えきれていない東側では、かなりの一向宗が入り込んで混乱をきたしているとか。
朝倉宗滴さんが生涯をかけて頑張って防いでいたのにもかかわらず、豪族たちはやすやすと一向宗の侵入を許していた。
しかし、一向宗がそれら地域を支配下に置いたという訳ではなく、とにかく地元にいる農民たちと一向宗、それに豪族たちが入り乱れての混乱状態だとか。
とにかく食い物が無く、かといって一向宗からの支援もない状態での混乱なのだから、正にこの世の地獄の様相を呈しているらしい。
忍びさんたちが深雪の中調べてもらった情報では、そんな感じだ。
こちらとしても、雪があるから難民たちが暴徒として乗り込んでは来ないが、それでもいくつかの村では村を捨ててこちらに逃げてきている者たちが出始めている。
とにかくその難民たちも保護対象として、伽藍に余裕のある寺に預けている。
当然、彼らの食い物はこちらからの炊き出しだけで賄い、預け先の寺にもいくばくかの寄進もしている。
もっとも銭払いだけで、領地の寄進は一切していない。
それどころか何かと理由を付けて領地の没収も進めている。
まあ、この時代の寺などまともな方を探すのに苦労をするくらい欲にまみれている。
いや、そうでもないと生き残れなくやむを得ない部分もあるのだろうが、どこもかしこも地獄ばかりだ。
領地を没収しても、当然その分の補填として銭で寄進をしていく。
俺の方針としては、とにかく宗教勢力に現生の政治を任せるつもりはない。
宗教は宗教らしく、民の心の救済だけに専念してもらう。
それができる環境を整えていくことこそ俺の仕事だと思っている。
後でこの地を収めることになる人にもその方針を続けてもらおう。
どちらにしても、弾正松永久秀か弾正中織田信長もしくは九鬼さんのところくらいしか候補者はいないのだが。
多分、九鬼さんのところになるか。
南近江は完全に信長さんの領地となることはほぼ決まりだ。
弾正さんのところはどうなるのだろう。
いっそのことここを任せるというのも違うし、難しい。
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