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第七章 公家の政
第二百六十二話 叡山からの使者
しおりを挟むそれで、おとなしくなればその場で取り押さえ検挙していくわけだが、兵士の中には面倒ごとを嫌ってその場で処理するものまで出るが、やむを得ないだろう。
あいつら坂本だけでなく、そこらじゅうで好き勝手してきたわけなので、とにかく庶民からのヘイトの溜まり具合がものすごい。
街中で落ち武者狩りならぬ僧兵狩りがされても俺は驚かないし、そんなのを取り締まる余裕も俺たちには無い。
とにかく先に鉄砲を使って坂本に進軍していったので、坂本の町の被害はものすごいことになったが、それでも半日で坂本の町の解放には成功した。
俺たちが検挙した僧兵たちも一応は治療をしてはある。
前に取り押さえた連中と一緒に京にある検非違使の敷地に仮で造った牢に入れておいた。
この後は一応太閤殿下と相談して、陛下の意向もうかがってから処分していくことになる。
その際、ここでも俺たちの立場を明確にするために五宮には朝廷で管理しているはずの僧籍名簿を調べてもらった。
もうかなり前から改定はされていないが、この国の法律では、僧と呼べるのは叡山などの朝廷が認めた寺で修行後に得度して初めて僧として国の定めた名簿に名が乗ることになっていたはずだ。
そう、それ以外は国としては、少なくとも朝廷は僧として認めていない。
確か歴史の教科書では私度僧とか言っていたけど、あれは違法行為だったはずだ。
ならば、その僧籍名簿に名がないものは僧として扱う道理がない。
念を入れて、俺の方から叡山に対して破戒僧の存在について問い合わせをしてあるが、叡山側からはそんな痴れ者などいないとの返事ももらってある。
戒律を犯すような破戒僧はいないと叡山からお墨付きをもらった訳だ。
そもそも、今まで好き勝手していた僧兵がいきなり酒を飲まない訳もなく、また女を抱かない訳もない。
どちらも立派な戒律に反しているのだから、俺は遠慮なく破戒僧として処分できる。
俺とすれば、戒律を破った証拠さえあれば問題はない。
あ、それに念入りにと、牢に入れている連中には要求があれば可能な限り要求を叶えるように牢番に指示しているから、牢内での食事に肉も酒も出している。
すべてあいつらが要求したものばかりなのだが、それを口にしていた段階で破戒僧の現行犯だ。
叡山には破戒僧はいないと返事ももらっているので、叡山に遠慮なく処分もできるという訳だ。
叡山にいるはずのない破戒僧なんだから、普通の犯罪者として裁けるという寸法だ。
何せこの時代では、犯罪者もその身分で考慮しないといろいろと面倒になるから大変だ。
特に僧兵などは宗教が絡むので本当に厄介だ。
一つ間違えるとすぐに長島のような一揆につながる。
あ、この時代では長島は大したことなく収めたんだったが、三河の本證寺の一揆は史実通りのすごいものだったとか。
とにかく宗教がらみの一揆は規模が違うから、為政者にとってとにかく気を遣う。
罪人をきちんと罪人として裁ける環境を整えてからきちんと裁く。
それが俺たちの方針というよりも俺の考えになる。
もともとあいつらは罪人だ。
しかも凶悪犯だ。
人は攫うは、物は壊す。
テロリストのようにこそこそするのならまだかわいいが、あいつらは日中堂々とそれを行うから、もう人として扱わなくてもいいよねって俺の中ではそう考えていたので、この際だから処分には被害にあった庶民たちにも贖罪方法について決めてもらおう。
これで叡山がおとなしくなればいいが、どうなるのか。
叡山には、まだまだ破戒僧では無く僧兵が残っている。
まだ侮れない勢力はあるから、とにかく坂本だけでも落ち着かせてから考えることにした。
ちなみに今回の坂本のどさくさに紛れて、街道にある関も俺たちが占領してあるので、今後は、人の往来も楽になるだろう。
さすがに京に強訴に来た僧兵に続き坂本にいた僧兵も一斉に検挙したら、叡山も慌てたようだ。
すぐになじみの公家を使い俺たちに接触してきた。
一応、俺も大人だ。
いや、なりは子供か。
そんなことよりも、叡山からの使者を検非違使の政庁舎で迎えた。
どこぞの寺なんかで出迎えるのが礼儀のようだが、そんなのは知らん。
偉そうな僧が従者を引き連れてやってきた。
しょうがないから俺が対応したのだが、端から高飛車の態度で抗議から始まる。
やれ捕まえている僧兵を開放しろだとか、神輿を返せだとか、坂本についての賠償を要求するだとか言ってきたので、俺は計画通りに返事を返した。
「坂本には叡山の僧は誰一人としておりませんでした」
「そんなはずあるか」
お坊さんなのになんという口汚さなんでしょうか。
「いえ、私も鎮護国家のために建立された比叡山には格別の関心を以て対応を心がけております。
間違えて比叡山の僧に手荒な真似をしたらさすがにまずいでしょうから、確認をうちの者に命じて朝廷で管理している僧籍名簿を隅から隅まで調べましたが、誰一人として該当者はおりませんでした。
しかし、それでも行き違いがあれば大変でしたので、私の方から比叡山に対して破戒僧の存在も確認しましたが、こちらの書面にて返事をもらいました」
そういって、比叡山からの書面を使者に見せてから、話を続ける。
「私の方からの問い合わせに対してかなり強い口調で比叡山に所属する僧には、破戒僧などいないとの返事が書かれております。
そうなると、私の方で捕まえている連中が比叡山の僧なれば戒律を破るはずはありませんよね」
「……」
「ですが、連中食事に肉と酒を要求してきております。
うちとしても、もし叡山関係者だったら大変でしたので、牢番たちは連中の要求にできるだけ沿うようにしていたようで、皆食事に酒を飲み肉を食らっておりました。
これは報告がありましたので私自身も確認しております。
ましてや、連中の要求は限度を知りません。
女を抱きたいからと、女性まで要求してきております。
比叡山の戒律ではみな禁止でしたよね」
「……」
「ひょっとして、私の知らないうちに戒律が変わったとかありませんよね」
俺は畳みかけるように念を押していく。
使者は誰一人として口を開かない。
「せっかくご足労頂きましたのに、肝心の関係者は見つかりませんでした」
「そ、そんな……」
「あ、前に強訴で神輿が……」
「ああ、そうでした。
神輿が叡山のものだとか不敬にもうそぶいていた連中もいましたね。
神輿は神様のお乗り物ですよね。
叡山は神域ではなく、仏様にお仕えする寺のはず。
どうして比叡山に神輿があるのか私にはわかりませんし、神職が盗まれたと言ってくるのでしたらまだわかるのですが、ご使者の方たちは皆僧籍であらせられるような」
「……」
「その格好で神職とうそぶくことはないでしょうから。
ええ、私も存じておりますよ。
清水寺にも神社があるように比叡山にも神社はあるのでしょう。
ですが、あれを京に持ち込んだ連中は皆私度僧のようでしたし、正直アレの扱いに困っております。
当分は私どもで保管して、朝廷に扱いを決めてもらう手はずになっております」
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