名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
301 / 319
第七章 公家の政

第二百七十話 教育って本当に大切だ

しおりを挟む


「読み書きは各地にある寺に協力を仰ぐのですか」

「ああ。僧たちには政には参加させない代わりに教育をしてもらい、その代価としていくばくかの銭などを支払うようにしていきたい」

「それは良きお考えで」

「本当はそろばんなどの計算まで領内でできればいいのだけれど、それは追々として、その代わりに所作などの行儀作法についても簡単に教えてもらおうかと考えている」

「それは思いつきませんでした。
 まこと良きお考えだと思います」

「空さん。
 なぜそろばんはともかく、計算を教えないの」

「幸、良いことに気が付いたな。
 いろいろと理由はあるけど、うちって数字が特殊だろう」

「あ、南蛮数字だったっけ」

「ああ、それが一番の理由かな。
 あの数字で帳簿を付けているから、帳簿のできる人を育てるには一緒に教える方が効率が良い」

「あの面倒くさいお武家様のことを言ってますか」

「とにかく、賢島に学校を作って、領内各地から頭の良さそうな孤児を集めて、将来的には孤児だけでなく、広く子供たちから政だけでなくいろんな方面で活躍できる人材を育てるための学校を作る」

「なぜ、ここ京でなく、賢島なのですか」

「空さん。
 京かもしくは堺や領地内で考えるのならば他にも人の集めやすい場所があるように思いますが」

「場所については将来的には各地に作れればいいけど、初めは賢島が最適だと考えている」

「その理由は何ですか」

「まず他の勢力からの邪魔を排除しやすい。
 まだまだ俺たちには敵が多い。
 俺たちが強くなるための人材を育てているとわかれば誰だって襲ってくるだろう。
 賢島は最初から外からの攻撃を考えて作られた島だ。
 何せ、伊勢から北畠からの攻撃を考えて準備したのが始まりだからな」

「それ以外にも理由がありそうですね」

「ああ、あそこには商館をはじめ数字を使う部署が実際に機能しているし、そのほかには研究のための鍛冶職人も多数いる。
 それに船大工もいるから、政用の人材だけでなく職人たちの養成にも使える。
 まずは集まった子供たちの資質やその子たちの希望を聞いてその方面で教育を強化していく。
 何をするにも数字や計算の能力は必要だから最初はそのあたりから教育を始めて、その後実際にいろんな仕事を経験させながら見極めていこうかなと」

「それを私に」

 俺がここまで話をすると急に幸が怖気ついてきた。
 まあ、そりゃそうだ。
 大学の設立をいきなり高校生になろうかという年ごろの娘にさせるのだから。

 しかし、俺でも正直なところしり込みをしてしまう。
 だが俺は、考えた。
 一番よく知る俺ですら大学で教育は受けていたけど大学の設立どころか日々の運営など全く知らないので、この地に大学の設立を考えると、だれがやっても手探りには変わりがない。

 本当は張さんあたりに任せたかったのだが、あいにく張さんには領地全体の銭管理を任せていくつもりなので、俺の手駒としては幸しかいない。
 それに何より、今の幸は俺たちの中では一番暇なのだ。
 そう、幸が頑張って暇になるようにしてきたことを全く考慮していない訳ではないが、あいにく俺たちにはとにかく余裕がない。

 これもひとえには、各地にいるお武家さんたちが俺の基準で考えれば全く使えない。
 彼らに任せるくらいならば令和の中学生にでもかませた方がはるかに物事はうまくいくと思われる。 
 いや小学生でも小五位ならば十分に使える知識があると思うと、本当に教育の体系って重要だ。

 まあ、令和だからできたとも考えたのだが、そういえば寺子屋での教育でかなりの人が十分な教育をされていたとも聞いたことがある。
 その寺子屋の教育を本当の寺にお願いして、その後の高等教育を幸に任せようとしているのだ。

 俺の方では、結さんとお市さんに、それに五宮を使って暇そうな公家を利用して寺でさせる教育についての指針を作っていく。
 将来的には教科書的な何かもできればと、そのあたりについても相談していった。
 幸が最後には涙目になっていたので、俺は助け船を出しておく。

「何も一人ですることはないのだぞ。
 後で紅谷さんに手紙を出しておくし、時間を見つけて俺の方から直接紅谷さんに協力も依頼しておく。
 当然賢島の政を担っている豊田さんの協力は必須だ。
 政全般の教育については豊田さんに丸投げでもいいくらいだと考えているし、帳簿についての先生などは紅谷さんに相談すれば、誰かしら見繕ってくれるだろう」

「本当に?」

「ああ、大丈夫だ。
 幸は商館の仕事の他に、まずは学校の校舎だな。
 勉強を教えるための専用の建物を手配してくれ」

「うん、わかった」

 話がまとまったようで、この後奥さん方は集まってお茶をしながらおしゃべりをしていく。
 俺も交じりたいとはさすがに思わないが、正直この時間の余裕がうらやましい。
 俺は彼女たちを分かれて、さっそく五宮と相談して公家の選定に入った。

 どうして俺はいつまでたっても暇にならないのかな。
 それこそ伊勢の片隅で細々と商売でもできればと思っていたあの昔が懐かしい。
 まあ、あの時はあの時で、日々生き残れるか心配でそれどころではなかったんだけどもな。
 あ、それは今も変わらないか。

 日々の仕事に加えて、俺の領地となった若狭に越前、それにいまだに問題しかない加賀についてもそろそろ動かないといつまでたっても越前が落ち着かない。
 現状では越前も西半分くらいしか完全に掌握できていないし、東については今のところ積極的に動こうとも思わない。

 とにかくマンパワーが足りない。
 若狭についてはとにかく半兵衛さんの手際の良さに救われて、ほとんど無傷で領地化に成功できた。
 そのおかげもあって、それほど領地も荒れることなく掌握ができたので、半兵衛さんの他には葵だけでもどうにかなっている。

 しかし、越前はそうもいかない。
 まあ、越前国内で派手に戦をしたおかげで、とにかく領地が荒れに荒れている。
 そこにきて一向宗が好き勝手に動き回っているので、とにかく領民を落ち着かせるだけでも大変だ。

 領民たちが落ちつかないと炊き出しすらできずに領民たちはばたばたと死んでいく。
 人がいなければ土地だけあっても荒れるだけだ。

 落ち着きを取り戻せたところから炊き出しを行い、領民たちを基本元の場所へと誘い帰農させていく。
 それが終わったのが西側の半分だ。

 流石に年貢は数年無理なので、その旨は伝えているし、俺たちの方からも積極的に新たな農法も伝えている。
 農法といっても正条植だとか、田植えの基準だとかといった簡単なものばかりなのだが、それでも伊勢では画期的と言える成果を出している。

 伊勢の石高は戦国の世でも上国とされているだけに相当に大きかったのだが、今では下手をすると倍近くまで収穫を上げているのではないだろうか。
 現状の石高を正確には覚えていないが下手をすると100万石以上の収入はあるはずだ。

 それに商売関係も入れると200万石に手が届くくらいではないかと俺は考えている。
 何せ、俺の京での活動費用もほとんど伊勢からの持ち出しだが、それでも伊勢では各地遠征しても戦を仕掛けるだけは余裕でできるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...