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第七章 公家の政
第二百六十九話 学校を作ろう
しおりを挟むしかし、俺はいったいどこに向かっているのだろうか。
若狭での実験は今のところうまくは言っているが、これはあくまで三蔵寺の教育のおかげだ。
本来ならばしっかり教育されている武士階級の者が担わなければならないことなのだが、彼らの常識が俺たちとは違うために、俺たちの考えを教えようとしてもうまくいっていない。
この悩みは京での公家たちにも言えるのだが、あいつらには文化的な仕事を回すということができるので、俺が預かる公家たちには仕事を回せている。
尤も市中の政などは一切無理なようで、五宮までの能力と柔軟性を要求するつもりはないが、せめてもう少しどうにかなればとも思う。
まあ、銭を下品としか思わないうちは無理だろう。
こればかりかは平安の世から続くしきたりというかなんというかだ。
彼らの考えが心から変わらないとこの世が変わることも難しいかもしれない。
まあ、明治維新でできたことだし不可能は無いだろうが、できるだけ血が流れることのないように考えて行く。
俺は京の屋敷に戻ってからも、若狭の件を含めて今後についていろいろと頭を悩ましていた。
最近になって越前の港整備もどうにか終わりが見てきたようで張さんの手も借りずともどうにかなりそうなところまではきているが、その張さんだって暇になるわけでもない。
越前が片付くと今度は珊さんを連れて日本全国とまではいかないが
博多や小浜、それに酒田や蝦夷まで出向き、交易品などの件で交渉している。
俺には途中結果の報告は来るがなかなか会うこともかなわない。
張さんだって俺の嫁さんなんだけどもと文句も言いたかったのだが、結さんやお市さんに対して俺は決して良き夫でもないことを思い出した。
俺が嫁に不満を抱いているなんか知れようならば女性たちが徒党を組んで襲い掛かってくることだろう。
下手をすると一向一揆よりも恐ろしいことになりそうだ。
うん、現実だけに目を向けよう。
幸を京に呼んでいるから、大学について一緒に検討を始める。
幸が川船で屋敷に着いたので、さっそく話し合いを始める。
俺から急な話で戸惑ってはいたようだが、幸も思うところはあったようだ。
幸は勝手に自分が教えていた子供たちを引き抜いて賢島の商館で使っていたようだが、それでも手が足りずに三蔵寺にたびたび訪れて引き抜きをしようとしていた。
なんということをしてくれちゃっているんだ。
流石にそれは勘弁してくれ。
俺はすぐに幸に今の状況を説明しておく。
「葵のところも人手が足りないんだ。
一人でも多く若狭に送らないとそろそろまずい」
「え、そうなの」
幸は割と早くに賢島に籠らせてしまったために、最近になって急に増えた領地の状況など知らない。
幸の言い分では志摩を抑えた時と同じくらいに考えていたようだ。
「幸よ、流石に志摩の時とは状況が違うぞ」
「え、だって空さんが志摩の領地を得た時には忙しそうにはしていたけどどうにかなっていたでしょ」
「幸、それは考え違いだ。
まず、志摩って非常に狭い領地なんだよ。
幸のいる賢島なんか誰も住んでいなかったしな。
それに何より住民の数が違う。
住民が増えればそれだけで大変なんだよ。
伊勢の時の炊き出しを思い出してごらんよ」
「あ、あの時は大変だってね。
私なんか何も知らずに張さんの言われるまま働いていたけど、張さんなんか寝る間もないくらいだったよね」
「ああ、あれでも炊き出しは順番に増えていったから俺たちでもどうにかなったんだよ。
でも今は違う。
若狭一国なんか全部まとめてだからな。
まあ、住民が飢えているわけでもないからすぐにどうこうとはならないけど、放っておくわけにもいかないからな。
それこそ幸の商館の仕事が10個いや100個いっぺんに増えたような感じだと考えてくれ」
「え~~、そんなの無理だよ。
せっかく最近楽になってきたのに」
「楽・に?」
「え、何。
空さん。
ちょっと怖いけど」
俺は幸の楽・という言葉に異様に反応してしまったようだ。
聞いているのが幸い俺だけだからいいようなものの、半兵衛さんや藤林さんが聞いたら激怒はしないけど絶対にジト目はしただろう。
その後は俺に嫌味をたらたらと……俺が悪い訳ではないのだが、あ、いや、幸の行動の監視を怠るという責任というか職務怠慢というかってどないせいっというんか。
落ち着いて、きちんと話さないといけないな。
ちょうどそんなときになって結さんとお市さんが部屋に入ってきた。
「幸さんがいらしていると聞いたものですから」
「幸さん、いらっしゃい」
「あ、結様とお市様。
ご無沙汰しております」
「そんな他人行儀に」
「それで、今日いらしたのはやや子でもおつくりに」
「やや子なんて……」
恥ずかしそうにしている幸を見て、こいつら何を言い始めるんだという気持ちがわいてきたけど、そういえばお世継ぎがどうとか最近周りから言われ始めている。
子作りも真剣に考えないといけない時期になってきてはいるが、それ以上に俺の周りをどうにかしないと本気で爆ぜる。
「ちょうどよかった。
結や市にも協力してもらわないとそろそろまずくなってきている」
「空様。
私どもは何を」
「人材不足についてだが」
「知り合いを頼って人を集めろと」
「いや、そもそも武士や公家たちはわれらの統治についてこれないだろう」
「そういわれれば……」
「兄信長の配下を何人も預かってみましたけどうまくいきませんでしたものね」
「空さん。
どうすればいいんですか」
「それを幸が言うのか」
「え~~~~、何を言っているのですか。
わからないよ~~」
「お前、さっき楽になってきたと言っていただろう。
なぜ楽になったか自分でもわかっているんだろう」
「なぜって、三蔵村から前に私が世話していた子らを連れてきたあたりから楽にはなりましたけど……」
「それだよ。
勝手に三蔵村から貴重な人材を連れて行きやがって」
「え、え、玄奘様にはきちんと断りましたよ。
連れて行けるだけ連れて行けとまで言われましたから」
「ああ、今の三蔵寺はパンク寸前なんだよ」
「空さん、なんですか、そのパンクって」
「ああ、悪い。
先にも言ったけど、三蔵寺に預けて教育してもらっているけど、あまりに子供たちを多く送り込んだから、寺でも大変なようで、少し前にも玄奘様からの手紙で文句を言われたばかりだ」
「それなら私が怒られる理由がわかりません」
「あくまで三蔵寺は人が多くて困っているだけで、われらの領内には政をする人が足りないんだよ。
少しでも使えそうなのがいれば葵にでも付けようかと考えていたのに、一番優秀なものを根こそぎ賢島に連れていかれて困っていたんだ」
「え、え、それじゃ~私はあの子たちを空さんに返せばいいのですか」
「それじゃあ、何も変わらないから、そろそろ真剣に対策を考えようかと思ってね」
「それで私たちにも協力をと」
「それで私たちは何を」
俺は色々と脱線していた話を戻して、本格的な人材育成の仕組みについて相談を始めた。
「今までのように志摩や伊勢だけならばそれこそ三蔵寺で教育した子供たちを半兵衛さんや藤林さんに預ければ問題なく、領内の政もはかどっただろう」
「そうですね」
「そうだよね。
あの子たち優秀だから。
張さんに鍛えられなくとも商館の仕事をすぐに覚えて私の手伝いをしてくれますし」
「そういい子供たちをたくさん育てたいんだ」
「それで……」
「賢島に学校を作ろうかと思ってね」
「学校?」
「ああ、学校。
今三蔵寺で教えているようなことをそれ専門に教える場所のことだ」
まだ学校などという言葉はせいぜい足利学校くらいしかない時代だ。
それでもお市さんはその足利学校のことを考えていたようで、すぐに理解してはくれたが。結さんでもわからなそうな顔をしているから、俺は学校の何たるかを説明しながら領内で仕組みつくりについて相談している。
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