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5日目
〝まんぷく亭〟おまけ
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クレエンside
『マジで美味いですから、クレエンさんも食べてみてくださいよ』
若い奴らに〝まんぷく亭〟の料理を絶賛され、気になっていたとこだった。
どういう経緯があったのか、バルトがその店を借り切って仲間内で集まっていると、ギルドの受付――アネスから聞かされ、俺は眉間に皺を寄せる。
アネスの妹、イモールも参加してるっていうのに、なんで俺に誘いがないんだ?
腑に落ちずイラつく。
身内同然の俺をハブにするたあ、上等だ。
遠慮しねえで、邪魔させてもらおうじゃねえか。
ニヤリと笑った俺の顔を見て、そそくさと距離を取ろうとする小心者たちを鼻で笑い、ギルドを出た。
〝まんぷく亭〟は客の出入りが激しい。そういう店では長居する客は歓迎されない。
時間を気にせず飲み食いしたい俺のような奴は、疎遠になるはずだ。
バルトも、そう頻繁に通っているようではなかったと思うんだが……
懇意にしている者か、よほど金を積まないかぎり、稼ぎどきのこんな時間帯の店を貸し切るなんてできねえだろうに、バルトの奴……何を考えているんだか。
これまでのバルトではありえない行動に首を傾げつつ、久しぶりに訪れた〝まんぷく亭〟。
貸し切りなだけあって、見知った顔ぶれに懐かしくなる。つい笑みが漏れた。
せっかくだから、大々的に人を集めて騒いでいるかと思ったんだが……総勢5人とか、小ぢんまりしすぎじゃねえか?
俺を入れたら6人になるが、この店の規模なら倍に増えても余裕だろう。
何もったいないことをしてるんだと、ますます腑に落ちない気持ちになった。
俺を見るなり苦虫を噛み潰したような顔で突っかかってきたバルトを適当にいなし、和やかな雰囲気に割って入るようにして強引に居座る。
料理はどれも見たことがないもので驚いたが、見た目だけじゃなく味や食感も大いに楽しめた。
まさか、あれらや若い奴らが噂していた料理がユーチによるものだとは思わなかったが……
なんでも〝改めてユーチにお礼がしたいから気心の知れた仲間と食べに来てくれ〟と、店側からの申し出で今日の催しが決まったのだとか、そういうことなら貸し切り費用がいくらかかかるかなんてことを俺があれこれ気にする必要はなかったわけだ。
だが、この街に来て間もないユーチじゃあ、知り合いもそういなかったんだろう。
寄せ集めのような、あの場に居合わせたちぐはぐなメンバーを思い出し、苦笑する。
年齢も様々だが――ゴミが好きすぎて埋め立て場で寝起きしだした爺と、一流の腕があるくせに仕事をしたがらない、腑抜けた引きこもり鍛冶師、おまけに好みの異性が強面バルトだとのたまう妄想(?)少女だからな。
変わり種ばかりがよく揃ったもんだと、呆れる。
〝類は友を呼ぶ〟っていうから、バルトとユーチもその仲間ってことか?
不機嫌なバルト顔を思い浮かべニヤニヤ笑うも、ふと気付く。
まさか、俺もあの中に違和感なく交ざっていたなんてことはないよな?
美味い料理のおかげが思いのほか居心地が良かったのは認めるが……俺はいたってまともだ。
あの場に馴染んではいなかったはず……
「……いい子でしたね」
「あ~?」
突然、横から声をかけられ息を呑む。
そういえば〝まんぷく亭〟の宴会がお開きになり、成り行きでイモールを家の近くまで送ることになったのだったと、今の状況を思い出す。
「ユーチのことか?」
イモールの姉――アネスも気にしていたようだったが、こいつとユーチ……何かあったのか?
「反則ですよ。小さくて可愛い見た目だけじゃなくて、頑張り屋で気配り上手だなんて……おまけにあんな美味しい料理の知識をポンポンと! 勝てるわけないじゃないですか。……このままバルトさんと一緒に暮らしていたら、手作り料理で『お帰りなさい』って、バルトさんを出迎えるようになるんですよ。おまけに満面の笑みのユーチ君の肩には可愛いホワンちゃんが乗ってるとか! 撃沈です。疲れもどっかに吹っ飛ぶほどの破壊力で、間違いなく落とされちゃいますよ。もうユーチ君にデレてるバルトさんの顔しか浮かばないって、私の頭の中どうしちゃったんでしょう? 壊れてますよね。ポンコツです」
おいおい、珍しく饒舌に話し出したかと思ったら、何わけわからねえことを……
「そりゃあ、どこの新妻の話だ? それに張り合う相手がおかしいだろ? ユーチは男だぞ」
「男も女もないんです。〝可愛いは正義!〟って言葉、クレエンさんは知らないんですか?」
「いや、俺は可愛いより綺麗で凛とした美人の方が好みなんだが?」
「クレエンさんの好みとか、どうでもいいんです。問題は〝小さくて可愛いもの好き〟のバルトさんと一緒にいるのが、ユーチ君とホワンちゃんだってことなんですからっ」
「おい、俺の扱いがひでえな……もしかして酔っぱらってるのか?」
「2人の仲の良いとこを見せられて、勢いでちょっと飲みましたけど……酔っぱらうほど飲むわけないじゃないですか?」
「いや、もう、それ十分酔ってるから。後で恥ずかしくて身悶えするレベルかもだぞ?」
「そんなことないですよ。もう一軒寄ってっても全然大丈夫ですもん。明日はわたし休みですし、どうです? もういっちょ行きますか?」
「行かねえよ。お子さまと2人で飲みに行く趣味はねえ。それに俺は明日からの魔物討伐依頼でがっぽり稼がぐつもりだからな、イモールもまっすぐ帰って、大人しく寝てくれ」
「あっ、そうでした。明日はバルトさんの無事を祈ってお見送りをしないと! 寝不足な顔を見せるわけにはいかないですよね。とっとと帰って準備します。それじゃあ、クレエンさんおやすみなさい」
「あ、はいはい、おやすみ。一応、気をつけて帰れよ」
足早に去って行くイモールの後ろ姿を、呆れ顔で見送る。
酔って赤い顔をしていたが、足取りは問題なさそうだ。
俺も、明日に向けて早めに休むとするかな。
ふと〝まんぷく亭〟の前で別れた、酔いつぶれたガン爺を背負ったカジドワと、ユーチを抱き上げて嬉しそうに笑っているバルトの姿が浮かんだ。
一人暮らしの気ままな暮らしを好んでいたはずだが、幸せそうなバルトを見ると、なぜか気持ちが揺れ落ち着かなくなる。
――まさか、この俺が子持ちを羨ましいと思うとか、ありえねえから。
鼻から勢いよく息を吐き出し、夜空を眺めながら歩き出した。
『マジで美味いですから、クレエンさんも食べてみてくださいよ』
若い奴らに〝まんぷく亭〟の料理を絶賛され、気になっていたとこだった。
どういう経緯があったのか、バルトがその店を借り切って仲間内で集まっていると、ギルドの受付――アネスから聞かされ、俺は眉間に皺を寄せる。
アネスの妹、イモールも参加してるっていうのに、なんで俺に誘いがないんだ?
腑に落ちずイラつく。
身内同然の俺をハブにするたあ、上等だ。
遠慮しねえで、邪魔させてもらおうじゃねえか。
ニヤリと笑った俺の顔を見て、そそくさと距離を取ろうとする小心者たちを鼻で笑い、ギルドを出た。
〝まんぷく亭〟は客の出入りが激しい。そういう店では長居する客は歓迎されない。
時間を気にせず飲み食いしたい俺のような奴は、疎遠になるはずだ。
バルトも、そう頻繁に通っているようではなかったと思うんだが……
懇意にしている者か、よほど金を積まないかぎり、稼ぎどきのこんな時間帯の店を貸し切るなんてできねえだろうに、バルトの奴……何を考えているんだか。
これまでのバルトではありえない行動に首を傾げつつ、久しぶりに訪れた〝まんぷく亭〟。
貸し切りなだけあって、見知った顔ぶれに懐かしくなる。つい笑みが漏れた。
せっかくだから、大々的に人を集めて騒いでいるかと思ったんだが……総勢5人とか、小ぢんまりしすぎじゃねえか?
俺を入れたら6人になるが、この店の規模なら倍に増えても余裕だろう。
何もったいないことをしてるんだと、ますます腑に落ちない気持ちになった。
俺を見るなり苦虫を噛み潰したような顔で突っかかってきたバルトを適当にいなし、和やかな雰囲気に割って入るようにして強引に居座る。
料理はどれも見たことがないもので驚いたが、見た目だけじゃなく味や食感も大いに楽しめた。
まさか、あれらや若い奴らが噂していた料理がユーチによるものだとは思わなかったが……
なんでも〝改めてユーチにお礼がしたいから気心の知れた仲間と食べに来てくれ〟と、店側からの申し出で今日の催しが決まったのだとか、そういうことなら貸し切り費用がいくらかかかるかなんてことを俺があれこれ気にする必要はなかったわけだ。
だが、この街に来て間もないユーチじゃあ、知り合いもそういなかったんだろう。
寄せ集めのような、あの場に居合わせたちぐはぐなメンバーを思い出し、苦笑する。
年齢も様々だが――ゴミが好きすぎて埋め立て場で寝起きしだした爺と、一流の腕があるくせに仕事をしたがらない、腑抜けた引きこもり鍛冶師、おまけに好みの異性が強面バルトだとのたまう妄想(?)少女だからな。
変わり種ばかりがよく揃ったもんだと、呆れる。
〝類は友を呼ぶ〟っていうから、バルトとユーチもその仲間ってことか?
不機嫌なバルト顔を思い浮かべニヤニヤ笑うも、ふと気付く。
まさか、俺もあの中に違和感なく交ざっていたなんてことはないよな?
美味い料理のおかげが思いのほか居心地が良かったのは認めるが……俺はいたってまともだ。
あの場に馴染んではいなかったはず……
「……いい子でしたね」
「あ~?」
突然、横から声をかけられ息を呑む。
そういえば〝まんぷく亭〟の宴会がお開きになり、成り行きでイモールを家の近くまで送ることになったのだったと、今の状況を思い出す。
「ユーチのことか?」
イモールの姉――アネスも気にしていたようだったが、こいつとユーチ……何かあったのか?
「反則ですよ。小さくて可愛い見た目だけじゃなくて、頑張り屋で気配り上手だなんて……おまけにあんな美味しい料理の知識をポンポンと! 勝てるわけないじゃないですか。……このままバルトさんと一緒に暮らしていたら、手作り料理で『お帰りなさい』って、バルトさんを出迎えるようになるんですよ。おまけに満面の笑みのユーチ君の肩には可愛いホワンちゃんが乗ってるとか! 撃沈です。疲れもどっかに吹っ飛ぶほどの破壊力で、間違いなく落とされちゃいますよ。もうユーチ君にデレてるバルトさんの顔しか浮かばないって、私の頭の中どうしちゃったんでしょう? 壊れてますよね。ポンコツです」
おいおい、珍しく饒舌に話し出したかと思ったら、何わけわからねえことを……
「そりゃあ、どこの新妻の話だ? それに張り合う相手がおかしいだろ? ユーチは男だぞ」
「男も女もないんです。〝可愛いは正義!〟って言葉、クレエンさんは知らないんですか?」
「いや、俺は可愛いより綺麗で凛とした美人の方が好みなんだが?」
「クレエンさんの好みとか、どうでもいいんです。問題は〝小さくて可愛いもの好き〟のバルトさんと一緒にいるのが、ユーチ君とホワンちゃんだってことなんですからっ」
「おい、俺の扱いがひでえな……もしかして酔っぱらってるのか?」
「2人の仲の良いとこを見せられて、勢いでちょっと飲みましたけど……酔っぱらうほど飲むわけないじゃないですか?」
「いや、もう、それ十分酔ってるから。後で恥ずかしくて身悶えするレベルかもだぞ?」
「そんなことないですよ。もう一軒寄ってっても全然大丈夫ですもん。明日はわたし休みですし、どうです? もういっちょ行きますか?」
「行かねえよ。お子さまと2人で飲みに行く趣味はねえ。それに俺は明日からの魔物討伐依頼でがっぽり稼がぐつもりだからな、イモールもまっすぐ帰って、大人しく寝てくれ」
「あっ、そうでした。明日はバルトさんの無事を祈ってお見送りをしないと! 寝不足な顔を見せるわけにはいかないですよね。とっとと帰って準備します。それじゃあ、クレエンさんおやすみなさい」
「あ、はいはい、おやすみ。一応、気をつけて帰れよ」
足早に去って行くイモールの後ろ姿を、呆れ顔で見送る。
酔って赤い顔をしていたが、足取りは問題なさそうだ。
俺も、明日に向けて早めに休むとするかな。
ふと〝まんぷく亭〟の前で別れた、酔いつぶれたガン爺を背負ったカジドワと、ユーチを抱き上げて嬉しそうに笑っているバルトの姿が浮かんだ。
一人暮らしの気ままな暮らしを好んでいたはずだが、幸せそうなバルトを見ると、なぜか気持ちが揺れ落ち着かなくなる。
――まさか、この俺が子持ちを羨ましいと思うとか、ありえねえから。
鼻から勢いよく息を吐き出し、夜空を眺めながら歩き出した。
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