55 / 101
子供編・学園編(一年目一学期)まとめ
改・子供時代(ハートのJ)2
しおりを挟む城の魔法棟は、この国屈指の魔法使い達が働いている場所で、父の職場でもある。
そんな魔法棟で俺を出迎えたのは、お花畑のようなピンク色の頭の小柄な少女だった。
どうせ、脳みその中もお花畑なのだろう。デボラとデジレやその取り巻きの少女達のように。
俺は、甘ったれた貴族の子供というものが総じて大嫌いだ。
「はじめまして、カミーユ様。アシル・ジェイドと申します」
彼女に視線を合わせて、義姉妹達の時と同じようにニッコリと微笑んでやる。
俺の姉妹よりもカミーユのほうが断然美少女だし、役に立ちそうなら多少は遊んでやってもいい。
それに、今仲良くなっておけば、将来的に侯爵家を継げるようになるかもしれない。
それなのに……
目の前の女は、真っ赤になるどころか、興味深そうに俺を観察しだした。
なんなんだ、この女。
「はじめまして、カミーユ・ロードライトと申します」
カミーユは、何事もなかったかのようにスカートの裾を摘んで、ちょこんと貴族令嬢のお辞儀をする。
父から、「仕事をして来る間、カミーユと二人で遊んでいなさい」と言われた。折角なので、この機会を活用させてもらおう。
「カミーユ様は、魔法が得意だと父から聞きました。もう中級魔法まで進んでいるとか……」
とりあえず、知っている情報でカミーユを煽ててみる。褒められて気を悪くする人間はいないだろう。
だが、彼女は俺の思惑から外れた回答を寄越してきた。
「カミーユでいいよ。同じ年だし、あなたの態度云々で騒ぎ立てたりしないから気を使わないで」
カミーユは、急にくだけた口調になると、俺にも同じように振る舞えと要求してくる。
正直、堅苦しいのは好きではないので、その方がありがたいのだが……
侯爵令嬢である彼女が、このようなくだけた話し方をするのは意外だった。
貴族の令嬢って言うのは、ウチの義姉妹みたいにもっと気取っているものかと思っていたんだけど。
「私は、アシルはとても頭が良いってソレイユに聞いたよ。勉強が好きなの?」
あの父親は他所の家の子供にまでそんなことを言って回っているのか。
恥ずかしくていたたまれない。
俺は、動揺を顔に出さない様に、表情筋に力を入れた。
「ああ、勉強くらいしかすることがないんだ。あまり部屋を出るなと言われているから……」
主に義母に。
カミーユは俺の境遇に同情してくれるだろうか、もし俺に同情して手を差し伸べてくれたなら……こっちのものだ。
しかし、やはり彼女は、俺の思い通りに動いてはくれなかった。
「せっかく、久々に外出できたんだしパーッと遊ばない?」
何を思ったのか……
カミーユは急に部屋に置いてあった箒に跨がり、俺に箒の後ろに乗れと言ってくる。
彼女の思考回路が全く分からない。
渋っていると、カミーユが俺の手を取って無理矢理箒の後ろに乗せる。
俺が跨った途端に、箒がフワリと浮き上がった。
カミーユと俺を乗せた箒は、窓から勢いよく外へと飛び出す。
箒に跨がるカミーユは、遠慮なしにぐんぐん高度を上げた。
彼女が、魔法が得意というのは本当のようだ。
けれど、俺を巻き込まないで欲しい。
慣れない浮遊する感覚には、流石の俺も戸惑ってしまう。
それに、カミーユに翻弄されっぱなしというのは、ちょっと悔しい……
「アシル、しっかり箒につかまっていてね!」
「……」
カミーユは箒につかまれと言ったけれど、急に飛び立った彼女への意趣返しの意味も込めて彼女の腰に腕をまわしてみた。別に変じゃないよね?
カミーユは、他の貴族令嬢達のように恥ずかしがって真っ赤になってくれるだろうか……
前を見て彼女の反応を伺うが、生憎少しも動揺してくれていない。
面白くないな……
城の庭は、ジェイド子爵邸なんかの比ではないくらい広かった。
上空から見る景色はとても興味深い。
箒の感覚にも、だんだんと体が慣れてきた。
「カミーユ……は、どこへ向かう気なの?」
「んー、決めてない。取りあえずお城の周りを大きく一周しようかな」
無計画なのか……あれだけ威勢良く飛び出しておいて、それはない。
しかし、考えようによっては都合がいい。
折角なので、行き先について俺の希望を言ってみる事にした。
「そっか、じゃあ偉い人が住んでいる近くに寄ってみようよ。近づきすぎると警備の人間に狙われそうだから、少し離れて飛んでね」
「それは面白そう……でもどっちにあるのかな?」
「奥の方じゃない?」
カミーユの誘導に成功した俺は、彼女と共に権力を持っていそうな人間がいそうな方へと向かった。
※
綺麗な庭がある、白い噴水の周りにバラの花が咲き誇っていた。
おそらく、後宮の近くにある中庭に出たのではないだろうか。
ふと、誰かの声が聞こえた気がして下を向くと、同じ年頃の子供の姿が見えた。
金色の綺麗な髪の小柄な子供が、少し年上の子供の集団に囲まれている。仲良く遊んでいる訳ではなさそうだ。子供の一人が、金髪の子供を突き飛ばした。
前を見ると、カミーユが顔を顰めてその様子見ている。
彼女は行動の読めない変人だが、正義感は強いようだ。
「あの子、助けてあげる?」
ワザと耳元で話しかけてみると、カミーユは面白いくらいビクリと反応した。
ヤバイ、奴の意外な弱点を見つけてしまった。
「降りてもいいの? アシルも巻き込んじゃうよ?」
「いいよ? あの金髪、たぶん王家の子供だ……俺にとっても接点を持てるいい機会かも」
明らかに他の子供よりも高級そうな服を着ているし、王太子は確か金髪であのくらいの年頃だったはずだ。助けても損は無い。
それに、巻き込まれるのは俺じゃなくてカミーユの方だ。俺の方は覚悟も出来ている。
王太子を助ければ、彼と対立している王弟派を敵に回す事になる。
この国の二大勢力の問題は子供でも知っていることだ。
……彼女は、何も考えていなさそうだが。
カミーユは、俺の返事を聞くやいなや、倒れた王太子に馬乗りになっている貴族の子供に向かって箒で突っ込んで行った。
箒の柄が見事にソイツの尻に刺さる。
……地味に痛そうだ。
頭に血の上ったカミーユが、王弟派の子供達と言い争いをしている間に、俺は王太子に駆け寄った。
「立てますか?」
「うん、大丈夫……ありがとう」
王太子を助け起こし、彼を虐めていた子供達から距離を取る。
その時、子供のうちの一人がカミーユに殴り掛かろうとしているのが目に入った。
助けようにも、ここからでは間に合わない……!
すると、カミーユは魔法で透明な壁を張り、アッサリとそれを防いでしまう。完璧な防御魔法だ。
その上、攻撃魔法で反撃までするつもりらしい。
「これでもくらえ!」
しかし、王宮には強力な魔法封じの結界が貼られているはずだ。
「あれ? 魔法が出ないよ?」
カミーユは戸惑ったように、キョロキョロと周囲を見回した。
当たり前だ。
「防犯の関係上、ここでは許可された者しか攻撃系の魔法を使うことは出来ないんだ」
王太子がご丁寧にカミーユに説明をしてやっている。
カミーユの防御魔法に唖然としていた王弟派の子供達が、徐々に立ち直りこちらに詰め寄って来ているのが目の端に映った。
それを確認した俺は、カミーユに箒に乗るよう声をかける。
その声にハッとして、カミーユが駆け寄ってきた。急いで王太子も箒に乗せる。
「カミーユ。全員箒に乗れたから、飛んでいいよ!」
「分かった」
カミーユは急速に高度を上げて、貴族の子供達から離れた。
俺は、挑発的に笑いながら、王弟派の子供達の頭上でわざとらしく一周するカミーユに声を掛ける。
「魔法棟に戻ろう……父が戻ってきているかもしれない」
彼女は、子供っぽいところがあるようなので、放っておくといつまでも挑発行為を続けていそうだ。
他の人間が出てくる前にここを離れないといけない。
カミーユは俺の言葉に素直に頷いて、箒の先を魔法棟へと向けた。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。