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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ
改・子供時代(ハートのJ)4
しおりを挟む「アシルー! カミーユ様が遊びに来て下さったよ!」
あれから、カミーユが俺の家にちょくちょく顔を出すようになった。
どうやら、父が強引に彼女を家に招き入れているらしい。
父は、母との折り合いが悪く、滅多に子爵家に帰らない。噂では、余所の女の家を渡り歩いているそうだ。
そんな彼は、カミーユを家に招き入れることで普段構ってやれない俺のご機嫌を取っているつもりらしい。
カミーユは、あれでも魔法棟のトップの娘——ロードライト侯爵令嬢様だ。
あの横暴な母親も、カミーユには太刀打ち出来ない。エントランスに現れたドミニクも、デボラとデジレも、驚愕の表情でカミーユを眺めていた。
「こんにちは、アシル」
ミントグリーンの涼しげなドレスを纏ったカミーユが、ちょこんと令嬢のお辞儀をした。彼女も、外では最低限の礼儀を守っている。
しかし、他人の目の届かない俺の部屋に入った瞬間に、それは呆気なく崩壊するのだが。
「ぶっへー、暑いー。このクソ暑い季節にドレスで外出とか……拷問だよ!」
「……とりあえず、ドレスの襟元を掴んでバサバサと扇ぐのをやめてくれる? 目のやり所に困るから」
「お子様のくせに、色気付いちゃって」
「……」
お子様扱いしやがって……自分だってお子様のくせに。
俺が薄らと睨むと、カミーユは慌てて目を逸らした。
「分かったよ。扇ぐのをやめるから、将来破滅させないでね!」
「破滅?」
「こっちの話。アシル、今日は何をして遊ぶの?」
「遊ぶ……? 特に思いつかないな」
孤児院育ちの俺には、令嬢の「遊ぶ」という感覚がよく分からない。デボラやデジレ達と過ごす時のように、茶菓子を用意させて喋る感じでいいのだろうか。
「じゃあ、一緒にこれ見ようよ~! お父様の部屋から持ち出したんだ」
そう言って、カミーユは革製の頑丈そうな鞄の中から、分厚い本を取り出した。
「何これ。『魔法刺青大辞典』……カミーユ、こんな難しい本を読めるの?」
絶対に、五歳児の読み物じゃないと思うんだけど……
やはり、カミーユは普通の貴族令嬢とは何かがズレている。
魔法刺青とは、人間の皮膚に魔法薬の塗料で模様を書くことによって、魔力を強化したり、自動で防御を行ったりする補助魔法の一種である。
描かれる模様は、蔦や花、波など様々だ。描く模様で補助魔法の効果も変わってくる。
「これをね、入れようと思うの」
「……カミーユ、それ本気で言ってる?」
俺の知っている知識では、魔法刺青は主に職業魔法使いの間で行われているものだ。
それ以外の職業に就いている人間の間ではメジャーではない。
しかも、この国——ガーネットでは、むやみに自分の肌に魔法刺青を施すことを良しとしない文化があった。それが、貴族の令嬢であれば尚更である。
過去には、とある令嬢が肌に魔法刺青を入れただけで、嫁の貰い手が一気に減るような事例もあったとか。
「勿論、本気で入れようと思っているよ。今はまだ勉強中だけれど、アシルもどう?」
「……遠慮しとく。カミーユ、そんなことばかりしていると将来結婚出来なくなるよ?」
俺が心配してやっているというのに、カミーユは全く気にしていない様子でヘラヘラと笑っている。
「アシル、心配してくれてありがとう。でもさ、なるようになるよ~。それが、政略結婚ってものでしょう?」
「……まあ、そうだけどさ」
カミーユと結婚するであろう、未来の彼女の夫に少し同情した。
上手く逆玉を狙えた場合は、それが俺になるかもしれないんだけれど……
※
「見て見てー!」
カミーユ達と顔を合わせるようになって、しばらく経ったある日……
俺とカミーユは、ロイス殿下に呼ばれて彼の私室で待機していた。
王子のお気に入りとなった二人は、事あるごとに城へ呼び出されるのだ。
しかし、殿下の部屋で、羽織っていた上着を勢いよく脱ぎ捨てたカミーユを見た俺は、ギョッとした。
「ちょっと、侯爵令嬢がなにしてるんだよ!」
王太子の私室で……というか、異性の前で服を脱ぎ捨てるなんて、正気の沙汰ではない。
慌てて彼女の上着を拾って、肩に掛けてやる。
一体、何を見せようとしたのか定かではないが、心臓に悪いので止めて欲しい。
「全裸になっている訳でもないのに大げさだなあ」
俺の心境を察しないお気楽なカミーユは、またもやズレた発言をしている。
「お願いだから、全裸なんて見せないでよ」
できれば、「全裸」なんて言葉も口にしないで欲しい。
カミーユは、色々と規格外すぎて対応に困る。こんな人間は初めてだ。
「別に露出狂の真似をしている訳じゃないから。お父様とお揃いの魔法刺青を入れたから自慢したかっただけだよ」
そう言うカミーユの左肩には、青い蔦の模様が浮かび上がっていた。
以前言っていた魔法刺青を、この令嬢は本当に自身の体に描いてしまったらしい。
「ねーねー、見てよー」
「寄るな! 変態!」
どうして、そんなにも俺に刺青を見せたがるのか……
俺には、そんなものを見て喜ぶ趣味はない!
しつこく迫ってくるカミーユから、俺は逃げることにした。
不毛な追い掛けっこが始まる。
しばらくして、ようやくロイス殿下が現れた。
「カミーユ、アシル、何やってるの?」
助かった……
もう少しで、カミーユに捕まるところだった。
この女、令嬢のくせにやたらと足が速いのである。
「あ、ロイス様! 見て見て……うぐっ」
殿下に魔法刺青を披露しようとするカミーユを慌てて止める。
「カミーユ、殿下に何てものを見せる気なの?」
「私の傑作魔法刺青を……」
「だから、脱ぐなって!」
王族の前で服を脱ぎ捨てるなんて、不敬罪で捕まっても文句言えないんだからな!
カミーユは渋々上着から手を離す。
どうやら、諦めてくれたようだ。
そんな彼女に向かって、殿下が問いかけた。
「カミーユ、魔法刺青をしたの?」
「はい!」
「女の子なのに、魔法刺青なんてしちゃ駄目でしょう?」
殿下に心配されたカミーユは、頬を染めてモジモジしている。
俺が注意した時とは、えらい違いだな……
なんだか、むしゃくしゃする。
「私は構わないのです。男受けなんて狙ってないし、ロイス様を護ることに青春捧げてますから!」
カミーユは、殿下の前で重い誓いを披露した。殿下は、若干引いている様子である。
何も言わないのは、彼なりの優しさなのだろう……
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