ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ

改・子供時代(ハートのJ)5

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「……という訳で、城下町を見てみたいんだ」

 俺達が今日呼ばれた理由は、ロイス殿下のお忍びに付き合うためだったらしい。
 確かに、一人で城下を見て回るよりは、年の近い子供達も同行させた方が彼も楽しめるだろう。
 けれど、この国の王太子が城を出るとなると、色々と問題が発生する。
 城の外に出ることで、殿下に危険が降り掛かることもあるのだ。けれど……

「勿論、護衛だってつけるし父の許可も下りているよ」
「もう決定しているのですよね。だったら僕らは従うのみですよ」

 こちらに話が来る頃には、計画は全て取り決められてしまっているに違いない。
 王太子の外出ということで、それなりの護衛も着く筈だ。
 横目でカミーユを見ると、何も考えていなさそうな顔ではしゃいでいた。

「案内なら任せてください、父や使用人の目を盗んで何度も町に来ていますから有名なお店は全てチェック済みです!」

 胸を張るカミーユに、ロイス殿下は憂いを帯びた目を向けている。

「えーと……今のは、聞かなかったことにするね?」

 これも、殿下なりの優しさである。
 侯爵令嬢が勝手に屋敷を抜け出すなんて、普通ではありえないことだものね。



 昼間の城下町は、とても賑やかだ。
 俺達は、庶民の服に着替えて町へと降り立った。
 俺とカミーユとロイス殿下、そして殿下の護衛の二名が一緒に行動している。
 あまりに大人数では却って目立ってしまうので、残りの護衛達は物陰から俺達を見守っているようだ。

「ロイス様、行きたいところはありますか?」

 カミーユは、得意げにロイス殿下に声を掛ける。
 彼女は、すっかり城下町をマスターしているような口ぶりだが、最初にカミーユに城下街の地理を教えたのは俺である……
 過去にカミーユが一人で街へ繰り出そうとしていた現場に遭遇したため、仕方なく一緒に同行したのだ。
 それ以来、俺はカミーユのお出掛け仲間に認定されている。

「これが、行列のできるパンケーキのお店です」
「これが、私の行きつけの魔法書専門店です」
「これが、私の行きつけのトカゲの干物専門店です」

 地図を指差しながら、カミーユは楽しそうに殿下に説明している。
 彼女の興味は甘い食べ物と魔法のみなので、行く店が偏るのは仕方がない。

「カミーユ、後半が明らかにおかしいよね? 殿下をトカゲの干物店に連れて行ってどうするの?」

 彼女が暴走しないように気を配るのも、俺の仕事だ。
 カミーユは放っておくと、延々と魔法関連の話題を喋り続けるのである。
 しかも、かなり難易度の高い内容を……

「殿下、どこに行きますか? カミーユに任せるのは危険です」

 行きたい場所は、殿下に決めてもらうのが一番良いような気がして来た。

「うーん……普通に市場を見て回りたいかな」

 碧色の瞳を輝かせながら、殿下は地図の中央を指差す。
 無難な回答が返ってきて良かった。流石殿下、良く分かっている。

「それがいいです!」

 すかさず、護衛の一人も口を挟んだ。
 カミーユの所為で雲行きが怪しくなり、ハラハラしていたのだろう。護衛業も大変だな。

「市場だったら沢山の店がまとまっていますし、人々の暮らしも分かりやすいでしょう……スリや引ったくりには気を付けてください」

 護衛の男の誘導で、俺たちは市場へと向かうことになった。
 市場は程よく賑わっている。
 まだ昼間なのでそれほど混雑はしていないが、夕方にはもっと人が集まってくるだろう。
 孤児院時代の俺も、財布をかっぱらう時は夕方を狙ったものだ。
 ロイス殿下は、物珍しげに辺りをキョロキョロ見回していた。城下町の散策が、お気に召したようだ。護衛達に、店に並んでいる商品について色々と質問を投げかけていた。
 殿下の案内役を護衛に取られたカミーユは、勝手に近くの店の商品を物色している。自由な奴だな。

「カミーユ、何を見ているの?」
「あの花……魔法に使えないかなと思って。魔法刺青の染料に使えそうだから……」

 ここでも、彼女の興味は魔法に関することらしい。本当にブレないよね。
 他の貴族令嬢達と違って、カミーユのそういうところは面白くもあるけれど。

 護衛達の案内通りに進んでいると、市場の外れに出た。
 ここは、中古の武器や魔法アイテムを扱う店が並ぶ区域だ。
 今日は休業日なので、どの店も閉まっている。

「おいおい……ここには何も無いみたいだぜ? 来た道を戻るか」

 案内役の護衛に、他の護衛が声を掛けた。彼等も店の休業日までは把握していなかったのだろう。
 しかし、来た道を戻ろうと踵を返す護衛の背に向けて、不意に案内役の護衛が手を振り上げた。
 前を歩いていた護衛の男は、声もなく地面に倒れる。
 その背には、大振りのナイフが深々と突き刺さっていた。彼の上着に、じわりと紅い染みが広がっていく。
 それを見たカミーユが、ロイス殿下を背後に庇って案内役の男から距離を取った。

「大丈夫ですよ、ロイス様。他の護衛がすぐに来てくれるはずで……」

 殿下に向けて励ましの言葉をかけるカミーユの声を、案内役の男の非情な声が遮る。

「残念だったな、助けなら来ない。他の護衛も既に全員事切れているだろうよ」

 俺も、カミーユへ駆け寄って一緒に殿下を守る体制に入る。この場で守られるべき優先順位は、殿下が一番だ。
 敵の手には、護衛の背に刺さっている物と同じ形状のナイフが握られていた。奴は明らかに最初から殿下を狙っていたのだろう。
 その為に、こんな人気のない場所まで俺達を誘い出したのだ。
************************************************
文中で、アシルが「最初にカミーユに城下街の地理を教えたのは俺である」とか言っていますが、二人の初めてのお出掛けは「初めての脱走」(本編完結後番外編…下の方)に載せています。
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