ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ

改・子供時代(ハートのJ)10

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「……もう、無理だよう。難しいよう」

 予想通り、入学試験用の問題集を睨んでいるカミーユは、ものの数分で挫折しそうになっている……この、根性なしめ。
 頭が良い筈の彼女だが、魔法以外の勉強は、さっぱりだった。

「カミーユ、ロイス様が学園の寮に入ると、三年間会えなくなるけど良いの?」

 ロイス殿下を引き合いに出すなんて、自分で言っていて悲しくなってくる。
 でも、カミーユのやる気を引き出すためには致し方がない。
 俺だって、カミーユと三年間離れて暮らすのは耐えられないのだから。何としても、彼女には合格してもらわねば。
 予想通り、やる気を取り戻したカミーユは、再び無言で問題集を解き始めた。

「終わったら、カミーユが前から行きたがっていたレストランに行こう。予約してあるんだ」
「……! アシル、ありがとう!」

 死んでいたカミーユの目に、光が宿る。これで、あと一時間は大丈夫だろう。

 機嫌良く問題集をやり終えたカミーユと連れ立って街へと降りる。そろそろ夕方だ。
 移動する為の箒は一本で、カミーユを抱えながら俺が操縦した。
 今は季節の変わり目で、以前よりも徐々に気温が下がってきている。カミーユが風邪を引かないように、俺は自分の上着ごと後ろから彼女を覆った。

「……アシル!」

 最近のカミーユは、少しだけ俺を意識してくれているようだ。こうして片手で彼女を抱えていると、真っ赤な顔で困ったようにこちらを振り返ってくる。それが、どうしようもなく可愛い。

「どうしたの、カミーユ?」
「え、と……この姿勢、恥ずかしくて。なんだか、抱き締められているみたいで」
「うん、抱き締めているからね。別におかしくないでしょ? 婚約者同士なんだから」
「……!?」

 そう返すと、カミーユの顔が、更に真っ赤になった。
 これは——脈ありと考えても良いよな?



 慌ただしく残りの数ヶ月が過ぎ、王立魔法学園の入試当日になった。
 春になったものの、まだ寒くて息が白い。
 けれど、流石魔法学園なだけあって、校舎の中は快適な温度に魔法で調整されていた。
 俺と殿下とカミーユは、それぞれ別々の部屋で試験を受ける。魔法学園の試験は二種類だ。筆記試験と魔法試験。
 魔法試験の方は問題ないだろう。そこまでレベルの高い魔法は出ない。問題は、一般教養の試験の方だ。
 カミーユは大丈夫だろうか……

 俺は試験を受けながらも、カミーユが試験問題を解けるか不安で仕方がなかった。あれだけ試験勉強を頑張っていたのだから、報われて欲しいとは思うのだが——
 俺は、余裕で試験問題を解いていく。試験終了よりもだいぶ早くに、全問題を回答し終えてしまい、残り時間が暇である。
 同じ教室に、王弟の息子であるライガ・トランスバールと、その側近のメイ・ザクロの姿があった。
 ライガとメイは、去年正式に婚約した。
 父親である王弟は、不満そうであったが、ライガが押し切ったらしい。
 反抗期なのか、ライガは以前程王弟に従順ではなくなってきている。国王派であるこちらとしては、その方がありがたかった。
 カイ・ザクロは、ある日を境に城から姿を消してしまったようだ。彼については、実家の男爵家に帰ったやら、どこぞへ留学したやら……様々な噂が流れている。

「それでは、試験終了です」

 試験監督の言葉と共に、問題用紙と解答用紙が机の上から消えた。
 ザワザワという話し声と共に、受験生達が席を立つ。俺も同時に席を立った。
 殿下とカミーユを回収しに行こう。取りあえず、二人に「迎えに行く」と伝達魔法を放った。

「殿下!」
「ああ、アシル」

 伝達魔法を受けて、殿下は指定の場所に出て来てくれていた。校舎の外の、中庭の角で佇んでいた彼は、既に数人の女達に囲まれている。相変わらず、凄い人気だ。
 殿下は護衛を連れてはいるが、場所が場所なので、彼等は姿を隠しているようだった。

「カミーユも迎えに行くの?」
「ええ」
「確か……カミーユの受験会場は、少し離れた場所だったよね。早く行こう」

 俺と殿下はカミーユのいる建物を目指したが、女子生徒の妨害の所為で中々前に進めない。
 いつもの貴族令嬢達はもちろんの事、他国の令嬢や富豪の娘、更には遠巻きにだが平民の娘にまで囲まれてしまっていた。
 こんな状況になったら自分でもよく分かるのだが……カミーユは、実は結構イイ仕事をしていたようだ。彼女がいれば、殿下や自分はここまで女達に付き纏われる事はない。

「殿下、空路を行こうと思いますが、ここを突破できますか?」
「うん、大丈夫。ついていくよ」

 俺達は、携帯していた羽ペンを取り出すと、カミーユに教わった魔法を使って巨大化させた。簡易的な箒の出来上がりだ。
 この魔法は、箒に似た形のものなら何にでも使えるのだが、このところ携帯頻度の高い羽ペンが地味に大活躍している。
 殿下と俺は、羽ペンに横向きに腰掛けるとそのまま空中に浮いた。流石に女共も空中までは追いかけて来られないだろう。
 女達は何やら下の方でキャーキャー言っていたが、俺達はそれを無視して、カミーユのいる方向へと向かった。
 カミーユにも伝達魔法を飛ばして、予め待ち合わせ場所を指定してある。
 しばらく飛ぶと、カミーユの試験会場である大きな建物が見えて来た。彼女の試験会場付近は、受験者が多かったらしく混み合っている。
 特に、俺の指定した待ち合わせ場所は混雑していた。

「待ち合わせ場所、ミスったな……そこまで混まないと思っていたのに」
「アシルにしては珍しいね。初めての場所だし、仕方がないと思うけれど……」

 俺と殿下は、人ごみの中からカミーユを探す。

「あ……いた!」

 ふと目に入ったものすごい人だかりの中に、俺はカミーユの姿を発見した。
 ピンク色の髪は珍しいので、他の生徒よりも目立つのだ。けれど……
 人だかりの中に彼女が……というよりは、彼女を中心に人だかりが出来ているようにも感じられる。カミーユは、人々の中心で、戸惑ったような表情で立っていた。
 よく見ると、何人かの男達に声をかけられているではないか……!

「そう言えば、今日のカミーユは、魔法刺青をしていないんだった!」

 カミーユは、今回「不正受験だと言いがかりをつけられない為」だとか言って、魔法刺青を全て消して試験に臨んでいる。
 今の彼女は、どこからどう見ても普通の美少女だ。これはまずい。
 焦った俺は、彼女の元に羽ペンで突っ込もうとしたのだが、それよりも早く人だかりが割れた。

「何だろうね?」

 俺の隣で、殿下が不思議そうにそちらを見る。
 割れた人だかりの中に、見慣れない長髪の男の姿を発見した。
 派手な装飾品まみれの、銅色の髪の男だ。

「あれは……」
「殿下は、あの男が誰だかご存知なのですか?」
「うん、隣の国の第二王子だよ」
「……! トパージェリアの?」

 実際に、件の第二王子を見るのは初めてだった。彼は、舞踏会の日に体調を崩していたらしく、会場に現れなかったのだ。
 トパージェリアの第二王子は、人だかりが割れた道を通り抜けてカミーユの側に立つ。何やら親しげに話をしている様子だ。
 目の前の光景に、俺は焦りを覚えた。
 見た感じ、カミーユ本人は知らないのかもしれないが……あの王子は以前、カミーユに婚約を申し込んでいる。
 どうしたものかと逡巡していると、空に浮かぶ俺達にカミーユが気付いた。

「あ! ロイス様~、アシル~」

 カミーユが、こちらに向かって手を振っている。

「じゃあね、トライア様。お互い受かったら良いね!」

 カミーユは、俺達と同じく羽ペンを取り出すと、慣れた動作で飛び乗った。そのままこちらへ飛んで来る。

「二人共、空から来たんだね」
「うん……女共の追っかけが凄くて、逃げて来た」
「皆元気だよねー、試験の後だって言うのにさ……ところでカミーユ、さっき話していたのは隣国の第二王子だよね? 知り合い?」

 殿下、ナイス質問。
 実は、先程から、とっても気になっていたのだ。

「知り合いというか、彼とは、今日知り合ったんですよ。試験の教室が同じで……」
「そうなんだ。仲良くなったの?」
「はい、色々な魔法に興味があるみたいでした」

 ふうん? 仲良く……?

 俺は、今まで「カミーユに本気で興味を持つ男はいない」と、どこかで安心していた。
 それがどうだ? 刺青をなくした途端に群がる男達に、刺青文化のない隣国の王子。次々に余計な虫が現れる始末だ。
 特に、隣国トパージェリアの第二王子は、要注意人物である。彼とカミーユが婚約することはなくなった筈なのに、まだ接触を図ってくるなんて……彼女のことを、諦めていないのだろうか。

 俺の頭の中は、すぐに試験の出来どころではなくなってしまった。

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だんだん、寒くなってきましたね。
体にお気をつけて、お過ごしくださいませ(*^-^*)ゞ
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