ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編

五年後のその後 ハートのQ(その1)

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「ふんふん~♪ お仕事終了~♪」

 いつものように、ロイス様の護衛を終えて部屋へ向かう。
 薄暗い城内には落ち着いたオレンジ色の灯りが灯っていた。
 過去に一度、この灯りをカラフルな電飾に変えてやったことがある。
 魔法棟の魔法使い達には大好評であったが、アシルによって強制的に元に戻されてしまった。
 ロイス様は、爆笑していた。

 最近のアシルは忙しそうだ。城の中に用意された部屋にも、あんまり戻って来ない。
 ロイス様の片腕として宰相職についた彼は、休む間もなく働き続けている。
 仕事を引き継がれたばかりなので……先任者や補佐もついているとはいえ、覚えることが沢山あるのだろう。

 曲がり角にさしかかった時、不意に横から伸びてきた腕に、物陰に引っ張り込まれる。
 ——し、刺客!?
 攻撃準備をしながら振り返ると、見知った人物が立っていた。

「……あれ、アシル? こんな所で何しているの?」
「カミーユ……やっと会えた」

 無言で、私を羽交い締めにするアシル。
 なんだかちょっと疲れているみたいだ。
 目の下にはクマがあるし……もしかして、徹夜で仕事をしているのかな。

「アシル、お仕事は終わったの?」
「……ちょっと休憩」

 アシルは、そのまま私の唇を指先でなぞり始めた。

「ん……アシル、ここ廊下だよ?」
「人通りが少ない場所だから大丈夫。どうせ、殿下くらいしか通らないよ」
「だ、大問題!」

 焦る私とは反対に、アシルの笑みが深くなった。危険な予感だ!

「ちょっと、アシ……むごむぐ!」

 アシルによって問答無用で壁際に追いやられた私は、そのまま彼に唇を奪われた。
 んんんー! なんか、いつもより激しくない!?

「……っカミーユ」

 慌てる私に構うことなく、アシルは切羽詰まったようなディープなキスをかましてくる。

「——!!」

 ふわわわ、ヤバい……
 何がヤバいって、私の足に力が入らなくなってしまった……
 ズルズルと壁伝いにへたり込んでしまう。

「カミーユ? 大丈夫!?」
「……うう」
「もしかして、腰砕けちゃった?」
「……アシルの馬鹿」

 立てない……どうしよう。
 困っていたら、アシルが私の膝の下に手を入れて横向きに抱き上げた。

「アシル、その、あの」
「部屋まで送っていくよ。こうなったのは、俺のせいだし?」

 アシルは、色っぽく意地悪な目でこちらを見てくる……こうなるって、薄々分かっていたな!?

「アシル……でも、仕事は……?」
「だから、休憩。癒しがないと、これ以上やっていけない」

 かなりお疲れの様子のアシルは、そのまま部屋に私を持ち帰った。



「カミーユ、具合はどう?」
「ロイス様……お構いなく。今日は室内での業務だけですし……羽ペンで移動ができるので、仕事に支障はありません」

 現在、私はロイス様の部屋で羽ペンに寝転がったまま宙に浮いている。
 それもこれも、アシルのせいだ。お恥ずかしいことに、奴のせいで腰が痛くて動けないのだ。

「大変だね、カミーユも」
「ホントですよ。いつも言っているのに、まったく加減をしてくれないんです……アシルは頭はいいはずなんですけど、そういうことに関しては忘れちゃうらしくて」

 何故か、仕事中のロイス様と私との間で、女子のような会話が繰り広げられる。

「……ああ、それは確実にワザとだろうね。今日のアシルは、ものすごく調子が良さそうだよ。昨日の疲れた様子が嘘みたいに、仕事部屋でバリバリ業務をこなしてる」
「うう……アシルめ」

 羽ペンの上で悔しがっていると、ロイス様の部屋とベアトリクスの部屋とを繋ぐ扉から、声が聞こえた。

「お前とそう変わらないじゃないか、なぁロイス?」

 そこには、壁にもたれて恨みがましげにロイス様を見るベアトリクスの姿があった。
 ベアトリクスが、どす黒いオーラを纏っているように見えるのは、気の所為だろうか……

「ふふふ、僕はアシルとは違って紳士的だよ?」
「どこがだ! おまえ、昨日も……!」

 彼女は、真っ赤な顔でなにやら憤慨している。
 それを嬉しそうに宥めるロイス様。今日も二人は仲良しだ。

「ベアトリクス、今日はルイス様は?」
「ああ、ルイスなら、今日もミイのところに遊びに行った」

 ルイスというのは、ロイス様とベアトリクスの間に生まれた男の子だ。
 彼は、ライガとメイの子供であるミイのことを、とても気に入っている。
 人目をはばかることなく、「ミイ! 僕のお嫁さんになって!」と迫るくらいに。
 ……微笑ましい光景だ、たぶん。
 毎回、ミイに逃げられているけれど……

 ロイス様は、顔を出したベアトリクスを捕まえて、執務机の上でイチャイチャし始めた。ベアトリクスは、真っ赤になって抵抗している。
 視線を逸らした私は、二人から少し離れて、影のごとく護衛業務に専念するのだった。
 ベアトリクスが恥ずかしがるので、あまり見てはいけないのである。

「殿下、この書類に目を通してください」

 しばらくすると、仕事中のアシルも現れた。
 仕事柄、彼は毎日のようにロイス様の部屋を訪れる。そして、私にセクハラをして帰っていく。

「カミーユ、まだ歩けないの?」
「……アシルの馬鹿」
「それは、昨日聞いた。ねえ、そろそろ機嫌なおしてよ」

 甘い声で懇願するアシルは、ロイス様やベアトリクスの前だというのに、羽ペンに寝転がった私に口づけた。
 まあ、ロイス様達も私の前でベタベタするから、お互い様のような気もするけれど……

 ロイス様が王様になってから、彼の部屋の中はにぎやかになった。
 私とアシルは日参するし、ライガやメイ、メイに扮したカイもやってくる。
 ちょっと騒がしいけれど、ロイス様が嬉しそうにしているのでなによりだ。彼は、意外と寂しがりやだから。

「アシル、今日は早めにカミーユを解放するから、つれて帰ってあげなよ」
「え、ロイス様!?」

 突然のロイス様の提案に、私は目をむいた。

「僕も、これからベアトリクスとゆっくり過ごそうと思う。今日は、ルイスもいないことだしね」
「ちょ……ロイス様——」
「かしこまりました、陛下。お気遣いありがとうございます」

 ロイス様とアシルは、いい笑顔を浮かべている。
 私とベアトリクスの顔は、きっと青いはずだ。

 その後、私はアシルに部屋に連れ帰られて……
 昨日の二の舞になったのだった。
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