ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編2

デジレの恋1

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 私には母親の違う次兄がいる。
 五歳の時にうちの家に引き取られた、綺麗で賢い次兄のアシル。
 彼は誰にも心を開かない。
 女にだらしのない父親や、次兄に敵対的な母と長兄にはもちろんのこと、彼に友好的に接していた姉と私にも冷めた目を向ける子供だった。

 そんな次兄が初めて心を開いたのが、彼と同い年の友人達である。
 その友人達は、なんと、うちの国の王子様と侯爵令嬢だった。
 侯爵令嬢の方は、次兄に会いに実際にうちの家に遊びに来た。

 私達姉妹はおののいた。侯爵家のお姫様がうちにくるなんて!
 だが、当の侯爵令嬢はとても親しみやすい性格をしており、あの何を考えているのか良く分からない次兄を逆に振り回していた。新鮮な兄が見られて面白い。
 廊下で声をかけられたのが切っ掛けで、私はその侯爵令嬢と仲良くなった。
 今では彼女は私の良い友人だ。

「ちょ……アシル、近いってば!」

 次兄の部屋から件の侯爵令嬢、カミーユの声が聞こえてくる。

「カミーユ、何逃げてんの。まだ宿題の論文が手つかずなんでしょう? ギリギリになって俺に泣き付いて来たのは、どこの誰?」
「わ、私ですっ! うわぁぁぁん」

 この二人は婚約者同士だ。兄の長年の片思いがようやく実り、最近両思いになった。
 姉のデボラが結婚して家からいなくなり寂しくなってしまった今、カミーユが来てくれると私も嬉しい。
 ……彼女はとても賑やかだし。
 夏休みが終わると、二人が学園に戻ってしまうのが残念だ。

 ※

「デボラ……君に会って欲しい人がいるんだ」

 ある日、父が珍しく自分から私に声をかけて来た。
 でも、彼が私に声をかける理由は大体決まっている。いつものパターンなのだ。

「新しい愛人ですね?」
「うん、会ってみてくれるかい?」

 父は女性にだらしがない。
 次兄に似た甘い顔の美形である父は女性に大変モテるし、政略結婚で結ばれた母との夫婦仲は冷めている。
 以前はそんな父に嫌悪感しか抱かなかった私だが、愛人が出来るというこの流れは必然的な物なのかもしれないと最近は思うようになってきた。

 母の方は父のことが嫌いではないと思う。
 でも何かと言うと権力にしがみつき、家の金を無駄遣いし、次期当主である長兄だけを溺愛する彼女に、父はとうの昔に愛想を尽かしていたのかもしれない。
 もともと父は穏やかで温厚な性格なので、苛烈な母の様な女性は好みではないというのもあるのだろう。
 ……だって、父が今まで私に会わせて来た愛人達はどれも皆判を押した様に母と正反対のタイプばかりだったから。

「頼むよ、デジレの人を見る目は信用しているんだ」
「私達には構わず、二人で宜しくやっていれば良いではないですか、お父様」

 私は冷めた目で父を見返した。
 会う前から分かっている。
 どうせ今回も押しが弱くて世間知らずそうな令嬢だろう。それか、似た様なタイプの人妻だ。
 そして、そんな性格の相手なので、毎回長くは続かない。
 不倫に罪悪感を覚えるマトモな彼女達だから、いつも早々に父との愛人関係を絶って逃げて行ってしまうのだ。

「そう言わずにさぁ。今度の女性は子爵邸へ呼ぶつもりなんだ」
「……止めておいた方が良いと思いますけどね」

 うちに呼んだりなんかしたら、母と兄が怒り狂うに決まっている。
 異母兄を引き取った時でさえ、大騒ぎだったのだ。
 いつもの様な気の弱い女性なら、一時間と保たずに逃げ出すだろう。

 それなのに、父はしつこく誘ってくる。

「ねえ、頼むよぉ、デジレ。この通り! この通りだから!」

 鬱陶しい父親のおねだり攻撃に、ついに私は折れた。

「仕方がないので、会うだけなら会いましょう。それで満足ですか?」
「デジレ! ありがとう!」

 この時の私は何も知らなかった。気が付かなかった。
 父の決意も、次兄の怒りも、長兄の隠れた思いにも。
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