ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編2

デジレの恋2

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 父に連れられて、とある会員制のクラブへ足を運んだ私が目にしたのは、黒いドレスに黒いボンネットを被っている地味な装いの婦人だった。
 
「お父様、この方は?」
「シャルロット・ボドワン男爵夫人……今は未亡人だ」
 
 父め、今度は未亡人に手を出したのか。
 私は父の見境無し加減に閉口した。
 婦人の隣には、従者であろうか……見目の良い一人の少年が立っている。

「彼はシャルロットの息子、エリクだよ」
 
 私の視線を追った父が説明してくれる。
 む……息子がいるの?
 シャルロットはとても若い。まだ二十代後半だろう。
 なのに、エリクの年齢は私とそう変わらないような気がした。
 この人、何歳でエリクを産んだのかしら。十代に入ってすぐなのでは?

「こちらはデジレ、私の下の娘だ」
「初めまして、デジレ様」
 
 シャルロットは緊張した面持ちでこちらに顔を向ける。
 緊張してはいるが、今まで会ってきた他の愛人達のようにオドオドした雰囲気は見られない。
 息子まで連れて来ているし……案外図太い神経の持ち主なのかもしれないわね。
 その息子、エリクは照れているのか、ほんのりと赤い顔で私に挨拶する。

「初めまして。お、お会いできて光栄です。デジレ様……」

 彼を見て、私は首を傾げそうになる。
 
(綺麗なお顔なのに、女性慣れしていないのかしら。いつもうちの次兄を見ているから、美形なのに女慣れしていない人物を目にすると、新鮮に思えるわ)
 
 次兄のアシルはハッキリ言って女性慣れしすぎている。
 彼に群がって来る令嬢達が後を絶たないために、ああなってしまったのだろう。
 美形で優秀で、この国の王子に気に入られているからという理由で兄を狙う彼女達は、まるで獰猛な肉食モンスターのようだ。
 たまに私に取り次ぎを求めて来る見当違いな令嬢もいるけれど、私の目の黒いうちはそんなこと、絶対に許さない。
 兄と結ばれるのは、カミーユなのだから!

「デジレ様はお綺麗な方ですね」
 
 エリクがユルい笑顔で笑いかけて来る。
 
(お世辞は結構だわ)

 自分の容姿は、自分で分かっている。
 私はお世辞にも美人とは言えない。
 父譲りの水色の髪に、母譲りの赤みがかった瞳とキツイ顔。
 鶏ガラのようなみすぼらしい体型。
 
 ついでに言えば、長兄のように家を継げる資格もないし、次兄のような頭の良さもない。
 姉のような女性らしい面倒見の良さも皆無だ。
 私には何の取り柄もない。

 でも、いちいち否定するのも面倒だし、大人げない。
 だから、私は曖昧に笑って誤魔化した。

 ※

「デジレ~、新作の香水を持って来たよ」
 
 窓からヒョッコリとカミーユが顔を出した。
 
「あら、助かるわカミーユ。ありがとう」
 
 十四歳の誕生日に彼女に手作りの香水を渡されて以来、私は定期的に彼女に同じものを依頼している。
 自分が使うのはもちろんだが、売り物にするためだ。

 彼女に貰った香水をつけて社交の場に出たところ、思いの外好評だった。
 その控えめで、だけれど好感が持てる香りというのが理由らしい。
 どこで買ったのかと熱心に聞かれ、それならば商品にしてみてはとカミーユにお願いした。
 彼女は快くオーケーしてくれたのだ。
 
(そんな経緯で完成した代物なのだけれど……)
 
 この香水は今も人気で、貴族令嬢達はもちろんのこと、平民達の間でも売り上げが伸びている。
 近頃は国民の多くが知っている有名ブランドとなりつつあった。
 当のカミーユはそういうことに全く興味がないみたいだが。
 
 彼女は気まぐれに香水だけ作って、あとは私に丸投げしている。
 もちろん、売上金はカミーユと折半だ。
 今ではこの香水事業は子爵家の大事な収入源になっていた。

「新作の原料には何を使っているの?」
「んーとね、城の庭から貰って来たハーブとか」
 
 ”とか”の部分が若干気になる。怪しいものは入れていないわよね?
 
「デジレ、何か調べもの?」
「ええ、まあ……」
 
 実は父の愛人の身元を洗っていたのよね。
 シャルロット・ボドワン男爵夫人……確かに男爵家の奥方だった。
 十歳で、約四十歳離れた年の男爵と結婚し、一児をもうけている。
 最近夫である男爵が死亡したのだが、その際に多額の借金が発覚して現在は家が潰れる寸前みたいだ。
 きっと、藁にもすがる思いで父を捕まえたのだろう。
 
 でも、うちにだってそんな余裕はない。
 浪費家の母のお陰で、子爵家の家計は火の車なのだから。
 
「デジレ?」
「あ、ああ。ごめんなさいカミーユ、ちょっと考えごとをしていたわ」

 カミーユが訝しげに私が手にしていた資料を覗き込む。
 
「あ、エリクだ」

 シャルロットの息子の写真を指さし、彼女が言った。

「え? カミーユ、この方を知っているの?」
「知ってるよ? 職場の同僚だったもの。彼は『赤』の魔法使いだよ」
 
 城に働きに出ていたのかしら?

「男爵家での仕事があるからって、魔法使いを辞めちゃったけど……元気かなあ」
 
 意外な接点があったものだ。
 ついでに、彼の人となりについて聞いておこう。

「ちなみに、どんな人なのかしら?」
「良い奴だよ。よくお菓子をくれるし……」

 カミーユのいい人の基準はそれなの?
 お菓子をくれる人だったら、誰にでもついて行きそうだ。
 次兄の苦労が見えた気がした。
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