ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

文字の大きさ
83 / 101
番外編2

デジレの恋3

しおりを挟む
「お兄様~、ドミニクお兄様~」
 
 やはり呼んでも部屋から出て来ないか。
 最近の長兄は引きこもりだ。
 
「お姉様の披露宴で何かあったのかしら?」
 
 あの時期を過ぎた頃から、長兄の様子がとてもおかしい。
 そして、次兄の彼を見る目も以前にも増して冷たい気がする。
 
「本当に、何があったのかしら?」

 ※
 
「あ、デジレ。ちょっといい?」
 
 廊下を歩いていると、珍しく次兄が自分から私に声をかけてきた。
 
「アシルお兄様?」
「デジレにお願いがあるんだけどさ」
 
 そう言って悩ましげに髪をかきあげる次兄。
 どうでもいい仕草まで色気満載だ。
 
「何ですの?」
「カミーユがウチに来たら、なるべくドミニクから引き離しといて。万が一にでも会わないように」
「はあ。何故です?」
「馬鹿兄がカミーユに懸想してるから」
「……まさか」
 
 私は、笑い飛ばそうとしたが、ふと以前の長兄の様子を思い出した。
 ウチに遊びに来たカミーユに、ねっとりとした視線を送っていた長兄。

「あの視線って……ま、マジですの?」
「そうだよ。よりによってカミーユに手を出そうとするなんて」
 
 いつの間にそんな修羅場に! 見逃してしまったわ。
 
「分かったわ、アシルお兄様。ドミニクお兄様の部屋には、カミーユを近づけないようにするわ!」
「うん、よろしくね。なるべく早くケリをつけるからさ」
 
 そう言って不敵に笑う次兄。
 何を企んでいるのか知るのが恐ろしい。

 ※
 
「あれ、デジレ様?」
 
 従者達を連れて街を歩いていたら、声をかけられた。
 
「あら、貴方は……偶然ですわね」
 
 そこには父の愛人……の息子のエリクが立っていた。
 
「少しお話しできませんか?」
「いいですけれど。仕事も終わったところですし」
 
 ちょうど、カミーユの新作香水を売り込みに行った帰りなのだ。
 無事に契約も成立した。

「よかった、もう一度貴女とお話ししたいと思っていたのです」
 
 エリクはまたユルい笑みを見せる。
 
「あら、そうなのですね。ちょうど、私も貴女に聞きたいことがあるんですの」
 
 扇を広げて口元を隠す。
 どういう魂胆で父に近づいたのか、全部聞き出さなくては。
 金目当てなだけならば、父を説得して夫人とは別れてもらうつもりだ。
 私の稼ぎまで搾り取られたら大変だものね。

 私がよく利用する店へ、彼を案内する。
 この店には個室があるから、打ち合わせなどに使うのに重宝している。
 
「さて……と、まずは貴方のお母様と父との関係について詳しくお聞きしたいわ。どういうお付き合いをされているのか、ご存知?」
 
 もちろん自分でも調べたが、調べた限りでは夫人が金だけを目当てにしているというようなことはなさそうだった。
 しかし、息子からの視点という点で、新たな発見があるかもしれない。
 
「ああ、よくウチに来ています。というか、入り浸っています」
「なっ……」
 
 あの馬鹿父!
 ウチには滅多に帰って来ないくせに、他所様の家に上がり込んでいたのか!
 
「近々、子爵家に移るという話も出ているみたいですね……ジェイド子爵は本気みたいでした。母も本気で子爵様のことを愛しているみたいです。なんせ、恋も知らないうちに俺を身ごもってしまった母ですから……。勝手な話ですが、そういう事情もあって母には幸せになって欲しいと思っています」
 
 調書とほぼ相違無し。
 毎日のように父が入り浸っているとは知らなかった。
 父が男爵家に泊まっているという報告が上がっていたが、まさか毎日とはね……。

「ご、ご迷惑をおかけしておりまして」
「いいえ、気になさらないで下さい。俺は貴女と接点が持てて嬉しいです」
 
 またそんな思わせぶりなことを言って。

(この人も、アシルお兄様と同類なのかしら) 
 
 こんなときに頼りになる姉は結婚してしまったし、未来の義姉であるカミーユはこういう方面では全く役に立ちそうにない。

「はあ……」
 
 気のない返事をしたら、相手にもそれが伝わってしまったみたいだ。
 エリクが少し困った顔をした。
 
「俺の言葉、信じてないですね?」
 
 そりゃあ、そうでしょうよ。
 その言葉を鵜呑みにする程私は自信家でも純粋でもないですからね。

「ジェイド子爵から貴女の話を聞いて、ずっと興味を持っていたんです」
「私の話?」
 
 私の何が話題に上がったのか大いに疑問だ。
 
「若くして事業を興し子爵家を支えておられるのですよね。格好いいです」
 
 エリクの目がキラキラしている。
 
「え、えっと」

「俺なんかが貴女の眼中にないことは分かっているんです。俺なんて所詮子爵様の愛人の息子でしかないし、貴女みたいな功績も何もない。家は借金塗れだし。でも……」
 
 エリクは大胆にも私の手を取った。
 
「ずっと、陰ながらお慕いしていました。デジレ様」
 
 そう言って、遠慮がちに私の手の甲に口づける。
 慣れていないのか、動作がぎこちない。彼の顔は真っ赤だった。
 
(演技……ではないのかしら……? まさか、本気……?)

 恥ずかしさのあまり、思わず私は固まってしまった。
 
「……っ」
 
 自覚した途端に顔に熱が集まってくる。
 私は生まれて初めて、異性から好意を寄せられ、告白されたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。