ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編2

デジレの恋6

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 ある日、珍しく父が早い時間帯に邸に帰って来ていた。
 入り口の扉に近い一角で、次兄と何やらヒソヒソ立ち話をしている。
 
(なんですの? あの二人が肩を並べて話しているなんて不気味だわ)
 
 次兄は笑顔の裏で父を軽蔑しているような節があるのに。

「ああ、デジレ。いいところに来たね」
 
 次兄が私を発見した。
 ここでじっと観察していたのがバレたらしい。

 父も私に向き直って、話しかけてくる。
 おそらく、ロクな話ではないだろうけれど。
 
「デジレ、頼みたいことがあるんだ」
 
 ほら、やっぱり!
 
「何かしら?」

 平静を装って、問い返す。

「シャルロットが君を気に入ったみたいでね、話し相手に是非とご所望だ。悪いけど、一度男爵邸に顔を出してやってくれないかなあ」
 
 どうして、私が父の愛人宅に出向かなければならないのか。
 そんな話を娘に投げかけるなんて……本当に、困った父親だ。

「お断りします」
「まあ、そう言わずにさ。デジレ、最近お姉様もいないし退屈でしょう? ボドワン夫人はそこまで悪い人でもないし、話し相手に丁度いいんじゃないかな」
 
 次兄まで父に同意する。
 もうすぐ学園に戻るからといって、無責任な発言は控えて欲しい。
 
「お願いだよデジレ、一回でもいいから顔を出しておくれよ」
 
 懇願する父を白い目で睨む。

「そういうことだから、ボドワン夫人には俺から連絡を入れておくね」
 
 次兄が勝手に話を進めていく。
 
「ちょっと待ってお兄様!」
「ごめんデジレ。この後、カミーユと会う約束があるんだ。話なら、今度にしてくれる?」
 
 つれない返事を残して去っていく次兄。
 妹の気も知らず、自分だけ恋人といちゃつこうだなんて、なんという身勝手さなの!

 ※

 結局そのまま、私はボドワン男爵未亡人と会うことになってしまった。
 馬車で移動し、門前で初めて訪れる男爵邸を見渡す。
 庭は手入れが行き届いておらず、質素だ。閑散としている。
 そしてなぜか、庭の隅にたくさんの野菜が植えられていた。

「あれを食べているのかしら」
 
 そこまで家計が苦しいとは!

(あれが家庭菜園というものなのね、初めて見たわ)
 
 ジェイド子爵家も裕福ではないけれど、見栄っ張りの母や、最低限のお金は入れてくれる父と兄、プラス私の収入のお陰でそこまでの生活は強いられていない。
 使用人にも余裕がなさそうだ……まだ出迎えが来ないんですけど?
 いつまで私を待たせるのだろう。

「デジレ様!」
 
 唖然としていると、庭の方から全速力で駆けて来る人影が見えた。
 あれは……
 
「……エリク様?」
「っ……お、待たせして、申し訳ありま……せ……」
 
 肩で息をしながら、門を開けてくれるエリク。
 まさか子爵家の長男自ら門を開けてくれるとは思っても見なかった。
 
「デ、ジレ様……っ」
「お、落ち着いて下さい」

 しばらくしたらエリクは落ち着いた。

「驚いたでしょう、この邸に使用人はもう二人しか残っていないんです」
「ええっ、そうなの?」
 
 そこまで追い込まれているの?
 私の驚きの声に、エリクは苦笑した。
 
「無駄な出費は控えようと思って……使用人達には申し訳ないのですが、賃金を支払ってやれる余裕もないので暇を出しました。今残っている使用人は、それでも辞めないと言ってくれた猛者です」
「……猛者」
 
 エリクは私を夫人の元へと案内してくれる。
 邸の中は、家財も少なく慎ましやかだが、綺麗に掃除されていた。
 
「質素な邸ですみません」
「いいえ……」
 
 むしろ、少人数でこれだけの清潔さを維持できている方が奇跡だ。

 エリクが扉を開けると、ボドワン夫人が優雅にソファに腰掛けていた。
 夫人の両隣には幼い男の子と女の子がちょこんと座っている。
 ボドワン夫人は私に気が付くと、慌てて立ち上がって淑女の礼をした。

「まあ、まあ、デジレ様。ようこそいらっしゃいました。貧乏邸でごめんなさいね」
「いいえ、こちらこそ、お招き頂きありがとうございます」
「デジレ様、いらっしゃいませー」
「デジレ様、こんにちはー」
 
 子供達が私に挨拶した。
 
「弟のジルーと妹のネリー。双子なんだ」
 
 エリクが二人を紹介してくれる。随分と、年の離れた兄弟だ。

「どうぞどうぞ、お掛けになって。今お茶をお出ししますわ」
 
 朗らかな笑顔で使用人に指示する夫人。
 
「どうぞ、デジレ様」
 
 エリクも私の手を引いて、ソファに座らせる。
 しかし、私の隣に腰掛けようとしたであろうエリクを押しのけて、双子が私の両隣に陣取った。
 
「デジレ様ー!」
「デジレ様ー?」
 
 可愛らしく響く同じ声に、ささくれ立っていた心がほっこりする。

 こうして私は、来訪早々にボドワンファミリーに囲まれてしまったのだった。
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