ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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番外編3

○○年後のガーネット(ハートのQ)

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 早いもので、あれから三十年が経過。
 信じられないことに、私にも孫ができていた。

 娘のマリーユと第二王子だったレイスが結婚したのだ。
 レイスの今の地位は公爵で、マリーユは公爵家へ嫁いでいった形になる。
 でも、彼女自身も一人っ子でロードライト侯爵家の跡取りという立ち位置なので、生まれてきた子供が複数いたら、誰かがロードライト侯爵家を継ぐことに決まっていた。
 
 そして今、マリーユの子供は三人。
 ロードライト侯爵家を継ぐのは、二男のジュリアスになりそうだ。

 ジュリアスは、実にロードライト家らしい容姿をしている。
 私と同じ、まっすぐなピンク色の髪。
 瞳は父親に似てエメラルドのような淡い緑色だ。

(ロイス様と一緒の色!)

 ちょっと嬉しい。
 そのロイス様は、王位を王太子のルイスへ譲り、愛する妻と共に悠々自適の隠居生活を送っている。
 ルイスはライガとメイの子供……ミイと結ばれ、国王派と王弟派の争いは、ここへきて完全に終結した。
 
 孫がいる年齢だけれど、私の容姿はあの頃のまま変わらない。
 そういう魔法を使っている。
 学園長と一緒に、若さを制御し、寿命を調整する魔法を開発したのだ。
 今のところ、自分の体で実験中。
 こればかりは、他人に試しても、それより先に自分の寿命が来てしまっては確認できない。
 寿命操作の先輩である学園長は、そこそこ長生きなので、通常寿命より先に死ぬことはないと思う。

 心配なのは、私が過去に様々な魔法を使いすぎたせいで、子孫にその影響が出ているかもしれないことだ。
 特に、ジュリアスは、過去に魔力の暴走を起こしたことがある。
 どうも、体内に宿している魔力が、他人より多いみたいだ。

(フラウを倒すときに使った、ドーピング魔法の影響かも)
 
 直接的な原因はわからないけれど、フラウと同じ魔力過多は時に危険だ。
 私はアシルと相談し、彼に魔力を制御する魔法アイテムを与えた。
 
 マリーユは、あまり魔法を好きではないようだった。
 私がロイス様の護衛で家を空け、マリーユを乳母に任せきりにしていたので、妙な反抗心を抱いた様子。
 結局、魔法棟の魔法使いになってはくれなかった。
 
 彼女は私よりもアシルに懐き、彼と同じ宰相の道へ進んだのだ。
 先日、国内初の女性副宰相になったところである。
 まだ、アシルの指導が入っているけれど。

 ジュリアスはマリーユとは反対で、魔法に並々ならぬ興味を示した。
 ロードライト侯爵家としては、ありがたいけれど、マリーユは不満みたいである。
 魔法棟の後進も育ってきたため、ロイス様が引退すると同時に、私は王の護衛職の最前線を退いた。
 大々的な式典などでは護衛に入るけれど、普段は信用のおける部下に任せている。
 魔法棟長官の仕事だけは、未だ継続中だ。
 
 ジュリアスは研究熱心で、様々な魔法を学んでいるし、才能もある。
 現在は子供ながらに、研究中心の青の魔法使いとして城で働いているのだ。
 子供にしては落ち着きすぎていて、ちょっと心配だけれど、毎日楽しそうに過ごしているので、まあいいかと思った。
 
(最近は外国の魔法や文化に興味を示しているから、折を見て留学させてあげようかなぁ。ついでに、私もついて行こう! なんだかんだで、滞在したことがあるのはトパージェリアくらいだし!)
 
 ロードライト家の屋敷で、旅行……ではなく留学計画を立て始めていると、後ろから馴染みのある気配がした。

「アシル、帰っていたの?」

 振り向くと、夫のアシルが計画表をのぞき込んでいる。
 
(……こっそり行くつもりだったのに、バレてしまった)
 
 案の定、未だ私に対して過保護な彼は、微妙な表情をしている。
 
「カミーユ、ずいぶん面白そうな計画を立てているね?」
「ロイス様の護衛は若い魔法使いに引き継いだし、長官の仕事はあるけど、呼ばれたら転移魔方陣で飛べばいいかなあって。誰もやりたがらないから、私が一応長官を続けているだけだし?」
 
「旅行メンバーにジュリアスが入っていて、俺が抜けているのはなぜ?」
「え、だって。アシルは宰相職が忙しいし」
「なら、マリーユに、そろそろ一人で仕事をさせてみよう。大分慣れてきたし、いつまでも俺が傍にいたら駄目な部分もあるから」
「……そんなものなの?」

 体勢を変えたアシルは、椅子に座る私を抱き上げて言った。
 相変わらず、見かけによらず力持ちだ。
 彼の姿も、私と同じ魔法で若いまま。二十代前半くらいの姿だ。
 二人して、王宮では人外呼ばわりされている。
 
「そうだよ。いつまでも俺が居座っていたら、後進も育たない」
「魔法棟と一緒だね」
「それで? どの国へ行くつもり?」
「まずは、トパージェリアかな。情勢が変わったから、きちんと現地で様子を見ておきたい」

 部下を派遣することもできるけれど、一筋縄ではいかない国だ。
 自分で直接見た方が安全だし確実だった。

「あそこは、俺も気になっていたんだよね。王の無計画が原因といえば、それまでだけれど」
「うん、無計画だよね、バシリオ様」
 
 王位に就いたバシリオは女好きで、たくさんの妃を迎え入れた。
 彼の妃に収まりたいという相手は多く、一気にトパージェリア城の後宮が膨れ上がった。
 あの国はお金があるから、維持はできるのだけれど……しばらくすると、別の深刻な問題が発生し始めたのだ。

 妃同士の喧嘩と、子供たちを巻き込んだ王位争いである。
 混沌とした状況の中、一人を残して、王子王女は全滅してしまった。
 
(牢屋にいたため無事だった例外もいるけれど……彼はカウントしない)
 
 前科者の例外さんに王位を継がせるのは駄目だ。
 というわけで、ガーネット側から少し干渉した。
 幸い、長年牢屋生活をしていた例外さんは、いくぶん丸くなっており、自分から神殿に出家してくれた。
 自分の命を脅かす兄がいない今、王位に未練はないらしい。
 名前も神殿風に改めて、毎日真面目にお祈りを捧げて(いるわけがないとは思うが)、静かに暮らしているとのこと。
 
 その兄……バシリオは、王位を狙う妃たちの争いに巻き込まれて自滅していた。
 子供に王位を継がせたがった妃の一人が、暴走したらしい。そう言われている。
 知り合いの、こういうニュースは辛い。
 
 ロイス様が、最後に生き残った王子をトパージェリアの王にし、国が正常に機能するまで手を貸した。
 その王子は、素直かつ真面目な人物で、妃を一人しか持たなかった。
 王家の性質上、子供は何人かいるが、兄弟同士、仲良くするよう教育を徹底していた。
 
 現王に手を貸したことがきっかけで、ガーネットとトパージェリアの関係は良くなり、双方の行き来は盛んになっている。
 現在、魔法学園には、トパージェリアからの留学生をたくさん迎えていた。
 
 留学制度を広める計画は、成長したフラウが発案したものらしい。
 彼女は魔法知識のない他国に魔法学園の分校を建てたり、生活の役に立つ技術を教えたり……引きこもりの学園長に代わって各方面で活躍している。

 アシルと話をしていると、魔法棟からジュリアスが帰ってきた。
 
「ただいま戻りました。お祖父様、お祖母様」
「おかえり、ジュリアス! 今日は、何の研究をしていたの?」
「魔力暴走を抑える魔法アイテムの改良をしていました。限りなく小型化し、量産できないかと思いまして。そうすれば、私のような人間でも安心して暮らせると思うのです」
「なるほど。確かに、魔法知識のない人たちの中で、魔力を暴走させる子が出たら大変だものね」

 でも、量産化はハードルが高い。
 魔力暴走を抑えるような魔法アイテムは、原材料費の価格が高いのだ。
 量産できたとしても、買い手がいない。
 
(そもそも、魔力暴走を起こすような人間は、めったにいないし)

 私が知っている例は、フラウとジュリアスのみ。
 そして、ジュリアスが制御できないほど魔力の多い子になってしまったのは、私のせいかもしれない。
 つまり、血縁の魔法の影響を受けず、普通に暮らしていれば、フラウのような例以外は発現しない可能性が高い。
 ジュリアスの件に、私は責任を感じていた。
 だから、この子には幸せに生きて欲しいのだ。
 
「ところでジュリアス、一緒にトパージェリアへ行かない? 前に、いろいろな国へ行ってみたいと口にしていたでしょう?」
「いいんですか? でも、仕事が……」
「魔法棟には、学習留学制度というものがあるんだよ。私は使えなかったけれど、最近では制度を利用する子も多い。特にあなたと同じ青の魔法使いは」
「そういえば、先輩で留学している人が数人いますね」

 孫を説得した私は、トパージェリアへ家族旅行へ行くことに成功した。
 ジュリアスの実家である公爵家では、父親は騎士団長だし、母親は魔法嫌いの官僚。
 
 魔法に興味があるジュリアスは、肩身の狭い思いをしていた。
 ロードライト家を継ぐ彼には制約もあるけれど、それまではのびのびと自由に生きて欲しい。
 私もアシルも国を立て直すのに精一杯だった。
 その中でも、可能な範囲で好きにやってきたけれど。
 
 自分たちができなかったことなので、余計にそう思うのだ。
 新しい時代、平和な時代……
 ジュリアスにはのびのびと楽しんで欲しい。
 そして、私もまた、目一杯、魔法に囲まれた人生を楽しもうと思う。
 
 
 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

結維
2024.02.25 結維

すいません、レンタルして、とても楽しく呼んでます
無料部分の、ハートのJの4の真ん中あたり?
誤字が…
雨と雷 が 雨と髪なりになってました

2024.02.26 桜あげは

ありがとうございます!

解除
ななし
2024.02.07 ななし

元々のカミーユ正直ウザイ、子供か
現世の親は違和感なかったのかね
子供返りしたとかくらいの認識かな
何くんは元々の本人死亡の元凶だけど?
それなのに普通に幸せになるのはもやる
偽物が甘えて頼ってで元々、好意を寄せてたなら受け入れるだろうけど中身違うやん?顔が一緒ならいいの?
間接的に人殺しな訳だけど
結果的に入れ替わった彼女達は幸せになったけどさ~それはそれ的なもやるのは私だけかな

解除

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