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第一章
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恭ちゃんと相川さんのツーショット(正確には一緒に小野くんもいたけど)を目の当たりにして少し落ち込んだけど、私はすぐに気を取り直した。
だって身長や顔の作りは変えられないし、あんな噂はいつまでも続くものではない。それに、恭ちゃんに私のどこを好きになったのか聞いた時に、『楽天的なところ』って言ってた。だから、いつも明るくポジティブでいようって決めたんだ。そして、自分に自信がないなら、持てるように努力しようって思った。
ピピピピピピピピ……
ガチャッ
翌日から私はいつもより1時間早く起きることにした。いつも平日の朝ごはんは簡単に済ませてるけど、きちんとした朝食を作りたかったから。恭ちゃんは私の作るご飯を好きだって言ってくれてるし、男の人の胃袋を掴むのは大事だからね!
そしていつもは梳かすだけの髪の毛もしっかりブロウし、軽くしかしていないお化粧も丁寧に施していく。相川さんみたいな美人にはなれないけど、髪型をきちんとして、ちゃんとお化粧すればその分自信が得られるような気がした。
「おはよう…」
「おはよ!朝ごはんできてるよ!」
「…今日は朝からすごいね」
恭ちゃんが眠い目をこすりながらも驚いている。そして私のことをじーっと見つめてきた。
「な、なに?恭ちゃん」
「今日なんかあるの?お化粧も念入りじゃない?」
「別になにもないんだけど…恭ちゃんに少しでも相応しい奥さんになるために、ステップアップキャンペーン中っていうかなんていうか」
「…いつものまんまでいいのに」
「あ、ありがと!でも、これは自分の中の問題だから!納得するまで頑張るね!」
「わかった。でも、気をつけてよ?」
「へ?何を?」
「何かあったら彼氏がいるって言ってってこと」
「???よくわからないけど、万が一何かあったら言うよ」
恭ちゃんがなぜか少し呆れたような顔をしている。恭ちゃんは心配性だ。
焼き鮭、出し巻き卵、ひじきの煮物、豆腐とワカメの味噌汁といういつもよりちょっと豪華な朝ごはんを食べて、ソファーで食後のお茶を飲んでいるときに、私は勇気を出して聞いてみた。
「あの…さ、恭ちゃんの友達に相川さんっている?」
「いるけど、それがどうしたの?」
「ちょっと恭ちゃんと噂になってるのを耳にしまして…」
「はあ?なにそれ。確かに仲のいい友達だけど、あり得ないから。女としてはぜんっぜんタイプじゃない。……ああ、それでか」
恭ちゃんが突然距離を詰めて、少し意地悪そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。
「噂のこと気にして、ちょっと大人っぽいメイクとかしてるんだ?」
「うっ………」
いきなり図星をさされて顔が熱くなる。なんか意識してるみたいで恥ずかしい。みたいというか、意識してるんだけどさ。
「璃子、赤くなっちゃって可愛い。相川なんかよりも璃子の方がずっと可愛いよ」
「うっ……………」
滅多に聞かない恭ちゃんの甘い言葉に顔がますます赤くなる。相川さんより私の方が可愛いという恭ちゃんの美的感覚には少し疑問を覚えたけど、何よりそう言われたことがすごく嬉しくて、目に嬉し涙が溜まっていく。恭ちゃんはこぼれそうになる私の涙を親指で拭って、優しくキスをしてくれた。
「あ、相川といえば、俺今日ゼミの飲み会だわ」
「え、相川さんってゼミも一緒なの?飲み会、来るの?」
「たぶん来るよ。なに、気にしてんの?」
「………ちょっとだけ」
「指輪もしてくし、気にしなくていいよ。他の奴らもたくさんいるしな」
そう言って恭ちゃんは私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。気にならないと言ったら嘘になるけど、恭ちゃんに相川さんのことをちゃんと聞けたおかげで、飲み会のこともゼミの集まりだからしょうがないよねって思うことができた。
***
朝から甘い空気に浸って、そのままイチャイチャしていたかったけど、そうもいかない。今日の1限から授業がある。私が在籍している英文科の必修科目なので、授業をとっているのは同じ学科の人がほとんどだ。朋子や涼太もいるはずだけど、まだ来てないようなので適当な席に座る。カバンからノートや筆記用具を出していると後ろから肩をトントンと叩かれた。
「永井さん、今日雰囲気違うね」
藤川くんだ。藤川くんは英文科のムードメーカーで、よく飲み会の幹事なんかをしてくれる。大して仲良くない私にもフレンドリー…というか、ちょっとチャラい。
「うん、ちょっとイメチェン」
「すごい似合ってるよ!可愛いね」
「あ、ありがと…」
気軽に「可愛い」とか言う藤川くんにちょっと引いていると、朋子がやってきた。これ幸いとばかりに朋子に話しかける。
「朋子、おはよう」
「おはよ。あ、璃子可愛い!…もしかして、永井さんのことと関係ある?」
「ち、違うよ!なんか私今まで地味すぎたじゃん?だからちょっとはオシャレしようと思ってさ…」
さすが朋子、鋭い…。というか私がわかりやすすぎるの?恭ちゃんにもすぐにばれたし。
「もちろん今日の髪やメイクも可愛いけど、璃子はもともと可愛いよ!なんていうか、ほっとけないような、守ってあげたいような可愛さっていうの?だから自信もって!」
「…ありがとう、朋子」
「でさ、せっかく可愛くしてるんだし、今日金曜日だし、ご飯食べに行かない?涼太も誘ってさ」
今日は恭ちゃんも飲み会って言ってたのを思い出し、私は朋子の誘いに二つ返事でオーケーした。涼太には昨日の宿題のお礼もしたかったし、ちょうどいいかなと思ったのだ。
だって身長や顔の作りは変えられないし、あんな噂はいつまでも続くものではない。それに、恭ちゃんに私のどこを好きになったのか聞いた時に、『楽天的なところ』って言ってた。だから、いつも明るくポジティブでいようって決めたんだ。そして、自分に自信がないなら、持てるように努力しようって思った。
ピピピピピピピピ……
ガチャッ
翌日から私はいつもより1時間早く起きることにした。いつも平日の朝ごはんは簡単に済ませてるけど、きちんとした朝食を作りたかったから。恭ちゃんは私の作るご飯を好きだって言ってくれてるし、男の人の胃袋を掴むのは大事だからね!
そしていつもは梳かすだけの髪の毛もしっかりブロウし、軽くしかしていないお化粧も丁寧に施していく。相川さんみたいな美人にはなれないけど、髪型をきちんとして、ちゃんとお化粧すればその分自信が得られるような気がした。
「おはよう…」
「おはよ!朝ごはんできてるよ!」
「…今日は朝からすごいね」
恭ちゃんが眠い目をこすりながらも驚いている。そして私のことをじーっと見つめてきた。
「な、なに?恭ちゃん」
「今日なんかあるの?お化粧も念入りじゃない?」
「別になにもないんだけど…恭ちゃんに少しでも相応しい奥さんになるために、ステップアップキャンペーン中っていうかなんていうか」
「…いつものまんまでいいのに」
「あ、ありがと!でも、これは自分の中の問題だから!納得するまで頑張るね!」
「わかった。でも、気をつけてよ?」
「へ?何を?」
「何かあったら彼氏がいるって言ってってこと」
「???よくわからないけど、万が一何かあったら言うよ」
恭ちゃんがなぜか少し呆れたような顔をしている。恭ちゃんは心配性だ。
焼き鮭、出し巻き卵、ひじきの煮物、豆腐とワカメの味噌汁といういつもよりちょっと豪華な朝ごはんを食べて、ソファーで食後のお茶を飲んでいるときに、私は勇気を出して聞いてみた。
「あの…さ、恭ちゃんの友達に相川さんっている?」
「いるけど、それがどうしたの?」
「ちょっと恭ちゃんと噂になってるのを耳にしまして…」
「はあ?なにそれ。確かに仲のいい友達だけど、あり得ないから。女としてはぜんっぜんタイプじゃない。……ああ、それでか」
恭ちゃんが突然距離を詰めて、少し意地悪そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。
「噂のこと気にして、ちょっと大人っぽいメイクとかしてるんだ?」
「うっ………」
いきなり図星をさされて顔が熱くなる。なんか意識してるみたいで恥ずかしい。みたいというか、意識してるんだけどさ。
「璃子、赤くなっちゃって可愛い。相川なんかよりも璃子の方がずっと可愛いよ」
「うっ……………」
滅多に聞かない恭ちゃんの甘い言葉に顔がますます赤くなる。相川さんより私の方が可愛いという恭ちゃんの美的感覚には少し疑問を覚えたけど、何よりそう言われたことがすごく嬉しくて、目に嬉し涙が溜まっていく。恭ちゃんはこぼれそうになる私の涙を親指で拭って、優しくキスをしてくれた。
「あ、相川といえば、俺今日ゼミの飲み会だわ」
「え、相川さんってゼミも一緒なの?飲み会、来るの?」
「たぶん来るよ。なに、気にしてんの?」
「………ちょっとだけ」
「指輪もしてくし、気にしなくていいよ。他の奴らもたくさんいるしな」
そう言って恭ちゃんは私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。気にならないと言ったら嘘になるけど、恭ちゃんに相川さんのことをちゃんと聞けたおかげで、飲み会のこともゼミの集まりだからしょうがないよねって思うことができた。
***
朝から甘い空気に浸って、そのままイチャイチャしていたかったけど、そうもいかない。今日の1限から授業がある。私が在籍している英文科の必修科目なので、授業をとっているのは同じ学科の人がほとんどだ。朋子や涼太もいるはずだけど、まだ来てないようなので適当な席に座る。カバンからノートや筆記用具を出していると後ろから肩をトントンと叩かれた。
「永井さん、今日雰囲気違うね」
藤川くんだ。藤川くんは英文科のムードメーカーで、よく飲み会の幹事なんかをしてくれる。大して仲良くない私にもフレンドリー…というか、ちょっとチャラい。
「うん、ちょっとイメチェン」
「すごい似合ってるよ!可愛いね」
「あ、ありがと…」
気軽に「可愛い」とか言う藤川くんにちょっと引いていると、朋子がやってきた。これ幸いとばかりに朋子に話しかける。
「朋子、おはよう」
「おはよ。あ、璃子可愛い!…もしかして、永井さんのことと関係ある?」
「ち、違うよ!なんか私今まで地味すぎたじゃん?だからちょっとはオシャレしようと思ってさ…」
さすが朋子、鋭い…。というか私がわかりやすすぎるの?恭ちゃんにもすぐにばれたし。
「もちろん今日の髪やメイクも可愛いけど、璃子はもともと可愛いよ!なんていうか、ほっとけないような、守ってあげたいような可愛さっていうの?だから自信もって!」
「…ありがとう、朋子」
「でさ、せっかく可愛くしてるんだし、今日金曜日だし、ご飯食べに行かない?涼太も誘ってさ」
今日は恭ちゃんも飲み会って言ってたのを思い出し、私は朋子の誘いに二つ返事でオーケーした。涼太には昨日の宿題のお礼もしたかったし、ちょうどいいかなと思ったのだ。
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