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第一章

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翌朝。大学に行く用意をしていると、ふと疑問に思う事があった。あれ、どうして恭ちゃんが結婚してること噂になってるんだろう?気になって恭ちゃんに尋ねてみた。

「ああ、女が寄ってくんのがウザいから、結婚してるって言って昨日から指輪つけ始めた」
「………オモテニナルンデスネ」
「別にモテたくないけどな」

やっぱり大学でも恭ちゃんはモテるんだ。わかってはいたけど、やっぱり面白くはない。でも、言い寄ってくる女の人に対して『結婚してる』ってちゃんと言ってくれて嬉しい。二人の関係は秘密にしたいとか言ってるくせに、矛盾してるけど。
っていうか、昨日公表したのに昨日のお昼にはもう噂が広まってるっておかしくない?!私は学内における恭ちゃんへの関心の高さを思い知った。


***


「璃子、おはよー」
「おはよ」

1限は必修の英語。教室に行くとすでに朋子が座っていたので、私は隣の席に座る。そして間も無くして「はよー」と涼太が私たちの前の席に座った。涼太も朋子と同じく大学に入ってから友達になった。

「朋子、宿題やってきたか?璃子はもちろんやってねえよなあ?」
「え!?宿題??!!」
「やっぱり…。私はやってきたよ」
「璃子は期待を裏切らないなあ…」

完全に忘れてた…。私ってどうしてこんなに忘れっぽいわけ?!こんな人が奥さんだなんて恭ちゃんにも申し訳ない…!
私が焦っている間に、涼太と朋子はお互い訳がわからなかったところを確認し合っている。この授業を受け持っている教授は厳しくて、毎回当てられるんだ…。ここは二人に頭を下げて写させてもらうしかない!と思っていると、涼太が「ほらよ」とノートを渡してきた。

「へ、い、いいの?」
「今度昼飯でも奢れよ?」
「うん!ありがとう!!」
「あらあら、涼太は璃子に甘いんだから」
「は?!俺は誰にでも優しいんだよ!」
「はいはい、そういうことにしといてあげるー」

二人は何やら言い争い始めたが、私は必死にノートを写した。朋子もだけど、涼太もなんだかんだで面倒見がいい。私が抜けているせいか、二人はいつも色々とフォローしてくれるのだ。


***


2限は別々の授業を受け、お昼休みにまた朋子と学食で合流する。

「璃子!大変!永井さんの奥さんわかったかも…!」
「え…」

私はびっくりしすぎて頭が真っ白になる。どうしてわかったの?どこからバレた?心臓がバクバクする。

「びっくりしすぎじゃない?やっぱり璃子も永井さんのファンになっちゃった?」

朋子が私の顔を覗き込んで目の前で手を振る。私はぼーっとした頭で咄嗟に「そうみたい」と言った。

「やっぱりー?あんなイケメン滅多にいないもんね!でもダメダメ。あの奥さんじゃうちらに勝ち目ないわ」
「へ?」

勝ち目ないってどういうこと?奥さんって私なんですけど?!

「どうやらお相手は同じ経済学部の相川美琴っていう美女らしいのよね。最近学内でよく一緒にいるらしいし、昨日は一緒に帰ってるとこ見たって人もいるんだって!」
「ええええ?!」
「だから璃子驚きすぎ!どうせ璃子は知らないだろうけど、相川さんってかなり美人でスタイルもいいんだよ。悔しいけど、永井さんとはお似合いって感じ…」

うそ…そんなの知らなかった。学内では恭ちゃんのこと見ないようにしてたし、一緒に帰ったなんて話も聞いてない。う、浮気なんてことはあるわけないって思うけど、相手が美人だと聞けば不安になってしまう。私はちんちくりんだし…。
気になるともう止まらなくて、私は思わず「相川さんを見てみたい」と口に出していた。

「なんか昨日はまるで興味なさそうだったのに、今日は積極的だね…」

朋子は驚いていたが、もう形振りはかまってられない。

そして私たちは3限の授業を少し早めに抜け出して、恭ちゃんと相川さんが授業を受けている教室がある2号館の前のベンチで二人が出てくるのを待つことにした。(ちなみに恭ちゃんが何を履修しているかはファンの間の常識らしい…)

キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴って、あたりがざわめき始める。授業の終わった学生がちらほらと出てきた。私と朋子は不自然にならないように、なるべくさり気なく2号館の扉を見つめていた。

「あ、出てきたよ」

少しすると恭ちゃんが出てきて、心臓がドキっとはねる。隣には小野くんと…相川さんであろう美女がいる。すごくお似合いだった。すらっとした細身の身体も、品よく巻かれた長いこげ茶色の髪も。なんだか仲良さそうに話しているのを見て、胸が苦しくなる。

「うーん、改めて見るとやっぱりお似合いっていうか、勝ち目ないっていうか…。璃子も諦めついた?……って、璃子?!」

私は俯いて泣いていた。自分で恭ちゃんとの関係を秘密にしたいなんて言っておいて、他の人とちょっと噂になっただけで泣いちゃうなんて、自分勝手もいいとこだ。浮気されたわけじゃないし、恭ちゃんはモテるんだから、これくらい我慢しないと…と思うけど涙があふれてくる。たぶん私は自身がないんだ。相川さんは私が思い描く理想像だったから、羨ましくて、悔しくて、涙がでたんだと思う。
いつの間にかえぐえぐ泣いていた私に朋子がハンカチを渡して、肩をポンポンと叩いてくれる。

「璃子が永井さんにこんなにどハマりすると思ってなくて…、ごめんね。まあいい男は他にもたくさんいるしさ、元気だして!」

私が泣いてる理由を少し勘違しながらも朋子は励ましてくれる。こんな優しい友達にも隠し事をしているということが、今更ながら心苦しく感じた。
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