腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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40 訓練場で準備 2

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「レン伍長。作戦は言わずともわかるな?」

「もちろんです!」

 意味ありげに声をかけたが、作戦はもともと1つしかない。

“ 状況に応じて頑張る! ”

「全員、信じているぞ」

「「「はい」」」

 そもそもが、観察眼に秀でた子だけを選んだ隊だ。

 細部まで作戦を決めてしまうと、その長所を潰してしまう。

「突撃!!!!!」

「「「「ぉぉおおおおおおおお!!!!!!」」」」

 子供たちが一斉に、大人たちに向けて走っていく。

 体に纏った魔力の影響で、その速度は並の大人を凌駕している。

 木の剣を握って駆けて、それぞれが正面にいた大人たちを斬りつけた。

「ふむ……」

 速度はまあまあ。

 父の胸に飛び込むように、体ごと木の剣を振り下ろす。

「っ!!!!」

 大きく避けられて、地面をゴロゴロと転がる者が2人。

 鍔迫り合いで受け止められ、弾き返された者が3人。

 小さな体と身軽さ故に、斬り返された者はいない。

 だが、体ごと向かっていった捨て身の攻撃故に、全員が体勢を崩している。

 そんな子供たちに、兵が木刀を向けた。

「……わざとだな?」

「ええ、まあ」

 自分を囮にして、兵の隙を作る。

 棒立ちだったホムンクルスたちが走り出し、一斉に木の小太刀を投げつけた。

 兵の背を狙った動きだったが、すべてが避けられたり弾かれる。

「だが、これで乱戦は確実。数の優位に持ち込んだか」

「いや、奥に転がった者が2人おる。このまま包囲も可能じゃな」

 人間は5対5だが、こちらにはホムンクルスがいる。

 男爵や師匠が言うように、乱戦や包囲戦は、数が多い俺たちが有利だ。

 だけど、

「ここからが本番ですね」

 俺の言葉を待っていたかのように、ホムンクルスたちが予備の小太刀を握る。

 そんなホムンクルスたちを迎え撃つために、兵が木の剣を構えた。

 兵の周囲では、子供たちが慌てて体勢を整えている。

「兵たちよ! 所詮敵は、子供と小さなーー」

「「「!!!!」」」 

「へ……????」

 男爵の檄を遮るように、兵たちが慌てて横に跳ぶ。

 反応が遅れたのは、若い兵が2人。

 逃げ遅れた兵のわき腹に、ホムンクルスが小太刀を当てていた。

「いつのまに……」

 呆然と口にする男爵に向けて、俺は微笑みながら種をあかす。

「飛び込んでいく子供たちの背に、ずっと張り付いていて貰いました」

 小さくて黒くて軽いホムンクルスだから出来る、奇襲作戦。

 防弾チョッキに持ち手を作り、ホムンクルスにしがみついて貰っていた。

 兵の背に兵がいるなんて、普通では絶対に有り得ない状況だろう。

「むしろ、なぜ避けられたのですか?」

 防弾チョッキはホムンクルスと同じ色で、対峙してからは敵に背を見せていない。

 作戦を知る俺が見ていても、気付かなかったくらいだ。

 完全に不意を付けたと思ったが、成果は2人だけ。

「ハッキリとは言えぬが、なにげない違和感じゃな」

「違和感……??」

 子供たちの目つきや視線の動き、服の揺れ。

 足の運び、剣先の揺れなどなと……

「切り結んだ兵であれば、重心位置の変化に気付いたやも知れん」

「……重心が後ろにあったから、背中にホムンクルスがいるかも知れない。そう言うことですか?」

「うむ。少なくとも、何かあるかもと警戒はしておったように見えたわい」

 その結果、3人に避けられたわけか。

 切り結ばずに、初撃を避けた2人が不意打ちを喰らっているしな。

 なるほどね。

「普通の兵であれば、いまので仕舞いじゃろう。じゃが、あやつらは男爵直属の護衛じゃからな」

「……へ????」

 男爵の護衛?

 それって、男爵領でトップレベルに強い集団、ってことじゃないですか??

「なんじゃ? 知らなんだのか?」

「ええ。男爵様からは『森に出られるだけの、最低限の力を持つ者を集める。勝ってみせよ!』と」

「ふむ。あやつらが最低限であれば、誰も街から出られんわい」

 俺や師匠、ミルトのじっとりとした目が、男爵に向けられる。

 男爵は、ばつの悪そうな顔をして、すーっと視線をそらす。 

「あっ、あやつらが最低限水準だ! ミルトレイナを連れて行くためのな!!」

「「「……」」」

「連れて行きたくば、倒して見せよ!!!!」

 うん。

 なにがなんでも、ミルトを危険な目に遭わせたくないらしい。

 気持ちは分からなくもないけど、俺たちも、このまま立ち止まるわけにはいかないからな。

「では、奥の手を使わせていただきます」

「なに!?」

 そっちがその気なら、俺たちも遠慮はしない!!

「5対5の練習試合で、ホムンクルスは人数に含めない。そうですね?」

「あ、ああ。その通りだが……」

 敵は残り3人。

 こちらは、子供たちが5人とホムンクルス25体だ。

 俺は、数の優位を駆使して立ち回る子供たちに視線を向ける。

 堂々と胸を張り、高らかに声を張り上げた。

「全員、一定の距離を保て。援軍を追加する!!」

 俺の言葉を待っていたかのように、周囲から続々とホムンクルスが姿を見せる。

 庭の影や木の裏、訓練用の剣があるテントの中など。

 周囲に隠れていたホムンクルス10体が、訓練場に姿を見せた。

「こやつらは……」

「ルン兄さんに貸し出しているホムンクルスです」

「なんだと!?」

 諜報技術を教えてみたい。

 そう言われて課しているホムンクルスたち。

「これで3対40だ! 状況に応じて、適切に攻撃せよ!!」

 疲れさせるも良し、数で押し込むも良し。

 そう思いながら、俺はミルトから大きな鞄を受け取る。

 中が見えるように開いて、男爵の方に向けた。

「それはーー 」

「ホムンクルスを貸す対価として、ルン兄さんにもらったものです」

 初級の魔石が40個ほど。

 これを使えば、40体のホムンクルスを追加で投入できる。

 倒された瞬間に、こちらで復活させてもいい。

「私の魔力が尽きるのが先か、3人の兵が倒れるのが先か。勝負しましょうか」

 目を見開く男爵を前に、俺はかつてないほどの“いい笑み”を浮かべて見せた。
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