30 / 65
〈30〉新天地のふたり
しおりを挟む
大きなキノコたちに運ばれた先に見えたのは、柵に囲まれた明るい場所。
「今日はもう遅いわね。詳しい話は明日でも良いかしら?」
そう言って微笑むメアリと分かれたロマーニ王子は、寝床として貸し与えられた小屋の扉をくぐっていた。
柵の中心に立つリリの家や、最奥に立つメアリの家に比べると、粗末な物だが、眠れる場所があるだけありがたい。
そんなロマーニ王子の思いとは裏腹に、肩を並べたシラネ王子が、唇をとがらせながら天井の梁を見上げていた。
「ふん! 犬小屋だな。黒木の使い方がなってねぇ。堅い木の良さが全く生かせてねぇ」
苛立たしげに舌打ちをして、悪態を付く。
たぶんだけど、貸してもらっているという立場を理解していない。
それに、
「ねぇ、兄さん。僕らは、黒木で小屋を作るどころか、丸太にすら出来なかったよね? 黒木、切れなかったよね?」
「ふん! そんなことは忘れた!」
いや、忘れたって……。
ドワーフの誇りにかけて切ってやる! って、半日頑張ってたの、兄さんでしょ……。
「俺なら、こんなもったいない使い方はしねぇ! すごい物にしてやれる!」
「……まぁ、そうだね。兄さんなら」
次期国王として認められた兄なら、この難しい木を組み合わせて、最高の物を作れるのだろう。
僕には出来ないけど、兄さんなら。
そんな思いを胸に秘めながら、マローニが敷かれていた布団にポスンと寝転んだ。
疲れがあふれだす体を上向きにして、低い天井目掛けて右手を伸ばす。
「兄さんに助けられてからは、どうなることかと思ったけど。運が、良かったのかな」
森の中を逃げて。
追っ手や、魔物をやり過ごして。
隠れた土の中で、食料が尽きて。
それでもこうして生きている。
「運じゃねぇだろ。実力に決まっている。お前の知恵のおかげだ」
「……そうだね。そうだと良いね」
寝返りを打つように転がって隣を見ると、隣に寝ころんでこちらを向いていた兄が、慌てて背を向けていた。
自分の方が年上だから、立派な漢だからと、常に前を歩いてくれた、小さな背中。
その背中をじっと見詰めていると、不思議な何かが体の中を上がってくる。
「なんで、助けたのさ……」
多分だけど、これで本当に逃げ延びた。
メアリさんもリリさんも、あの大きなキノコたちも、
ここに住む全員が、あり得ないほど強い。
彼女たちの庇護下に入れば、間違いなく生き延びれる。
双子の落ちこぼれだからと殺されるだけだった運命から、本当に逃げ延びてしまった。
ホッとした思いと共に、兄や祖国の未来を邪魔した罪悪感が湧き上がってくる。
嬉しいのか悲しいのかもわからない涙が、視界をゆがませていた。
「兄さんが国王になれば、きっとーー」
「あん? 馬鹿がお前は。別にロマーニを助けた訳じゃねぇよ。あんな馬鹿な奴らの王になるより、お前といた方が100倍楽しいに決まってるだろ」
本音が半分、同情も半分。そんな感じだと思う。
だけど、2人でいた方が楽しい、って言う気持ちは痛いほどわかる。
産まれる前から一緒にいた、双子だから。
「……そっか、そうだね。これから、どうしようか?」
「決まってる。お前が設計して、俺が作る。ずっとそうだ」
「2人で最高位をこえる、か……」
鍛冶や建築の技術は遠く及ばなかったけど、設計だけは兄を越えられた。
たぶんだけど、自惚れじゃない。そのための努力も続けていた。
2人で作り上げれば、2人で一流になれれば。
そんな願いもあったけど、結局、国を認めさせることは叶わなかった。
だけど、まだ遅くない。2人とも、生きている。
「ねぇ、兄さん。僕はメアリさんたちと一緒に、ドワーフを越える国を作ろうと思うんだ。おもしろいと思わない?」
問い掛ける言葉に、小さな肩が揺れる。
顔は見えないけど、何となくわかる。
兄さんは今、漢らしい笑みを浮かべてる。
「たしかに、暇潰しにはなりそうだ」
「でしょ? それにさ。多分だけど、この土地と、リリさんの家の場所は、偶然じゃないと思うんだよ」
「あん? 場所? どういうことだ?」
あぁ、やっぱり気付いてなかった。
でも今は、この気持ちを何かにぶつけたい。
「説明は後で! 先に大まかな設計図を描くよ!」
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出していく。
使い慣れた道具たちを傍らに寄せる。
口元に楽しげな笑みを浮かべて、紙の上に黒い線を走らせた。
「今日はもう遅いわね。詳しい話は明日でも良いかしら?」
そう言って微笑むメアリと分かれたロマーニ王子は、寝床として貸し与えられた小屋の扉をくぐっていた。
柵の中心に立つリリの家や、最奥に立つメアリの家に比べると、粗末な物だが、眠れる場所があるだけありがたい。
そんなロマーニ王子の思いとは裏腹に、肩を並べたシラネ王子が、唇をとがらせながら天井の梁を見上げていた。
「ふん! 犬小屋だな。黒木の使い方がなってねぇ。堅い木の良さが全く生かせてねぇ」
苛立たしげに舌打ちをして、悪態を付く。
たぶんだけど、貸してもらっているという立場を理解していない。
それに、
「ねぇ、兄さん。僕らは、黒木で小屋を作るどころか、丸太にすら出来なかったよね? 黒木、切れなかったよね?」
「ふん! そんなことは忘れた!」
いや、忘れたって……。
ドワーフの誇りにかけて切ってやる! って、半日頑張ってたの、兄さんでしょ……。
「俺なら、こんなもったいない使い方はしねぇ! すごい物にしてやれる!」
「……まぁ、そうだね。兄さんなら」
次期国王として認められた兄なら、この難しい木を組み合わせて、最高の物を作れるのだろう。
僕には出来ないけど、兄さんなら。
そんな思いを胸に秘めながら、マローニが敷かれていた布団にポスンと寝転んだ。
疲れがあふれだす体を上向きにして、低い天井目掛けて右手を伸ばす。
「兄さんに助けられてからは、どうなることかと思ったけど。運が、良かったのかな」
森の中を逃げて。
追っ手や、魔物をやり過ごして。
隠れた土の中で、食料が尽きて。
それでもこうして生きている。
「運じゃねぇだろ。実力に決まっている。お前の知恵のおかげだ」
「……そうだね。そうだと良いね」
寝返りを打つように転がって隣を見ると、隣に寝ころんでこちらを向いていた兄が、慌てて背を向けていた。
自分の方が年上だから、立派な漢だからと、常に前を歩いてくれた、小さな背中。
その背中をじっと見詰めていると、不思議な何かが体の中を上がってくる。
「なんで、助けたのさ……」
多分だけど、これで本当に逃げ延びた。
メアリさんもリリさんも、あの大きなキノコたちも、
ここに住む全員が、あり得ないほど強い。
彼女たちの庇護下に入れば、間違いなく生き延びれる。
双子の落ちこぼれだからと殺されるだけだった運命から、本当に逃げ延びてしまった。
ホッとした思いと共に、兄や祖国の未来を邪魔した罪悪感が湧き上がってくる。
嬉しいのか悲しいのかもわからない涙が、視界をゆがませていた。
「兄さんが国王になれば、きっとーー」
「あん? 馬鹿がお前は。別にロマーニを助けた訳じゃねぇよ。あんな馬鹿な奴らの王になるより、お前といた方が100倍楽しいに決まってるだろ」
本音が半分、同情も半分。そんな感じだと思う。
だけど、2人でいた方が楽しい、って言う気持ちは痛いほどわかる。
産まれる前から一緒にいた、双子だから。
「……そっか、そうだね。これから、どうしようか?」
「決まってる。お前が設計して、俺が作る。ずっとそうだ」
「2人で最高位をこえる、か……」
鍛冶や建築の技術は遠く及ばなかったけど、設計だけは兄を越えられた。
たぶんだけど、自惚れじゃない。そのための努力も続けていた。
2人で作り上げれば、2人で一流になれれば。
そんな願いもあったけど、結局、国を認めさせることは叶わなかった。
だけど、まだ遅くない。2人とも、生きている。
「ねぇ、兄さん。僕はメアリさんたちと一緒に、ドワーフを越える国を作ろうと思うんだ。おもしろいと思わない?」
問い掛ける言葉に、小さな肩が揺れる。
顔は見えないけど、何となくわかる。
兄さんは今、漢らしい笑みを浮かべてる。
「たしかに、暇潰しにはなりそうだ」
「でしょ? それにさ。多分だけど、この土地と、リリさんの家の場所は、偶然じゃないと思うんだよ」
「あん? 場所? どういうことだ?」
あぁ、やっぱり気付いてなかった。
でも今は、この気持ちを何かにぶつけたい。
「説明は後で! 先に大まかな設計図を描くよ!」
大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出していく。
使い慣れた道具たちを傍らに寄せる。
口元に楽しげな笑みを浮かべて、紙の上に黒い線を走らせた。
35
あなたにおすすめの小説
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる