公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

文字の大きさ
33 / 65

〈33〉敬意と決意 3

しおりを挟む
「ここを削る……? ダメですね、先輩の良さが消えてしまう。だったらこっちか……? いや、リリ先輩は要だから……」

 書いては消して、書いては消して……。

 どこからとなく取り出した鉛筆を片手に、ロマーニが長考に入ってしまった。

 時折 漏れ聞こえる  “先輩だから”  “要だから”  なんて声が、リリの不安を煽っていく。

 この子はいったい何を言っているのだろう。 
 そんな思いで、いっぱいだった。

「いや、だからね? 私の家はこのままでいいよ? むしろ大きすぎるくらいだから」

「ダメですよ。全然ダメです。リリ先輩の家は、最重要なんですから。世界最高峰! って感じにしないと!」

 いや、なんでだよ。

 ご主人様の自宅を差し置いて、メイドの家が最重要っておかしくない?

 おかしいよね!?

 この子、常識って文字、どこにおいてきたの!?

「メアリさんも、“リリの家に全ての力注いで欲しいのよ。私のなんて雨がしのげたら良いもの”  って言ってましたし」

「メアリ様まで……」

 誰か! この人たちに、メイドと先輩の正しい意味を教えてあげて!!

 特にメアリ様!
 元凶はやっぱり、あの人だから!

「何かにつけて“賢者の実”をくれるし、メイドに優しすぎでしょ! ほんと、メアリ様ってば、メアリ様なんだから!!」

「あら、呼んだかしら?」

「んふ!?」

「はい、あーん」

 なんて声に続いて、口の中に甘味が溶けていく。

 聞き慣れた声と、優しい香り。

 振り向いた先に見えたのは、噂をしていた雇い主の姿。

「メアリ様!? いつの間に来てたんですか!? と言うか、いつもはお昼過ぎまで寝てますよね!?」

「ええ、でも今日は特別ね。双子王子の仕事をこの目で見たかったのよ」

 いつものように小さく微笑んだメアリが、切れ長の瞳を背後に向ける。

 サラリと流れる髪の向こうに目を向けると、何故かそこに、リリの身長を遙かに越える高い壁があった。

「……え?」

 ガラスか陶磁器のように見えるけど、たぶんどちらでもない。

 建築に詳しいわけじゃないが、少なくとも見たことのある物質じゃなかった。

 1歩、2歩と前に出て、その表面を撫でてみる。

 指先は摩擦すらも感じないうえに、自分の姿がぼんやりと写って見える。

「あっ、襟が曲がってる。いけない、いけない。こんなんじゃメイド失格……、じゃないですよ!! なんですか、これ!!!!」

 まだ造りかけみたいだけど、どうみても、リリの家を囲うように作られていた。

 勢いに任せて表面をペチペチ叩いてみたけど、巨大な岩を叩いているような感覚だった。

 そうしていつの間にか出来ていた壁を見上げていると、キレイな指先が肩に触れる。
 
「リリていの外壁を依頼したの。最終的には、お星様の形になる予定だから安心して良いわ」

「…………」

 髪をポンポンと撫でてくれているけど、意味が全くわからない。

 なぜ、星?

 というか、そもそも、外壁って何で!?

 今の会話のどこに、安心出来る要素があったの!???

「説明してくれますか?」

「なにのかしら?」

「増改築のです!」

 あら? 話してなかったかしら? 

 そういって、メアリが微笑んで見せる。

「リリの家って柵の丁度真ん中でしょ? どの方向から強敵が来ても、リリの家なら避難出来ると思うの。緊急時の避難場所に最適じゃないかしら?」

「あー、なるほど。そう言うことですか」

 メイドの家だから、じゃなくて、避難所としての増改築か。

「それなら納得です。ですけど、維持管理出来る大きさでお願いしますよ?」

 メイドですから、掃除は得意ですけど。

 なんて言葉にしながら、リリがホッと胸をなで下ろす。

(なるほど。先輩には内緒なんですね。確かにそっちの方が面白そう)

 図面に向かって呟いたロマーニの声も、リリの耳には届かなかった。

 改めて凹凸のない壁を見つめたリリが、ステキな壁ですね、なんて言葉と共に心からの笑みを浮かべて見せる。

 そんな彼女と肩を並べていたメアリが、ハッと視線をあげて手を叩いて見せた。

「そういえば、リリに相談があったのを忘れていたわ。聞いてくれるかしら?」

「…………お聞きします」
 
 今回で2回目だけど、メアリの相談なんて、悪い予感しかしない。

 それでも意を決して、リリが上着の裾を握りしめる。



「リリの弟くんを迎えに行こうと思っているのだけれど、どうかしら?」



「えっ……?」


 驚きに目を見開いたリリの前で、メアリが優しい微笑みを浮かべていた。
 
しおりを挟む
感想 176

あなたにおすすめの小説

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

処理中です...