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甲斐信濃の国主
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旧織田領各地に武将の配置を終えると、武田家の統治も落ち着きを見せ始めていた。
岐阜城に移転を進める傍ら、義信は領国の地図を広げていた。
「ううむ……」
現在、武田家の領地は西へ西へと拡大しており、それに伴って本拠地も西へと移動していた。
しかし、領地が広くなり遠方になるにつれ、義信の統治が行き届かない地も増えてきた。
「どうしたものか……」
思案する義信の元に、信玄から文が届いた。
曰く、
『信濃の山中に温泉を見つけた。ここを儂の秘湯とするゆえ、家臣にもそのように周知しておくように』
というものだった。
「自由だなぁ、父上は……」
かつては甲斐の虎として辣腕を振るっていた信玄だが、義信に大名の地位を追われたのちはご隠居として君臨していた。
「私はこんなにも忙しい思いをしているというのに……」
と、そこまで考えて気がついた。
そういえば、大名としての雑務は元々信玄がこなしていたな、と。
織田征伐を終え、甲斐信濃の軍を解散させると、信玄は秘湯を探しに信濃の山中を訪れていた。
湯に浸かり、「ふぅ」と息をつく。
「いい湯だわい……」
義信に命じられ、美濃の侵攻から岐阜城の攻略、北伊勢、南近江の制圧と戦続きであった。
「こうやって息抜きの一つでもせねば、やってられんわい」
日頃の疲れを癒やしていると、小姓が駆け寄ってきた。
「ご隠居様、お館様より文が……」
信玄が早馬で岐阜城までやってくると、義信の前に現れた。
「火急の用があると聞いたが、どうした。浅井が攻めてきたのか!?」
「いえ、私に楽を…………父上に仕事を申しつけようと思いましてな」
「なに……?」
「父上には、甲斐と信濃の国主となっていただきます」
「なんじゃと!?」
思わぬ命令に、信玄が目を剥いた。
「私が直接治めようとも思いましたが、やはりここは父上にと」
「いや、しかし……」
義信の言っていることは理解できる。
広大な土地を治めることとなった武田家だが、その扱いに困り、統治のために地方に有力者を配するのもわかる。
わかるのだが、信玄の中で素直に飲み込めないものがあった。
「……儂から甲斐や信濃を取り上げておいて、今さら返すのか? いささか都合が良すぎるのではないか……?」
「私が父上から奪ったのは、武田家の家督です。あくまで甲斐や信濃はそのおまけ。何も問題ありませぬ」
義信の物言いに、信玄が笑った。
なるほど、甲斐信濃は家督のおまけか。
甲斐や信濃に固執していた自分では、その発想はなかった。
「……よかろう。当家の領地も二倍に増えたのだ。その扱い、統治に苦心する息子を助けるのも父の役目……」
「父上……」
「だが、忘れるな。ひとたびお主が腑抜けた姿を見せれば、儂が大名に返り咲いてくれる」
それだけ言い残して、信玄がその場を後にした。
残された義信に、小姓が耳打ちをする。
「よろしいのですか……? 先のご隠居様のお言葉……」
隙あらば独立すると言ってるに等しく、あれでは謀反を公言しているようなものだ。
「気にするな。あれで父上なりの激励なのだ。……言い方は素直ではないがな」
あとがき
明日の投稿はお休みして、次回は1/11に投稿しようと思います。
岐阜城に移転を進める傍ら、義信は領国の地図を広げていた。
「ううむ……」
現在、武田家の領地は西へ西へと拡大しており、それに伴って本拠地も西へと移動していた。
しかし、領地が広くなり遠方になるにつれ、義信の統治が行き届かない地も増えてきた。
「どうしたものか……」
思案する義信の元に、信玄から文が届いた。
曰く、
『信濃の山中に温泉を見つけた。ここを儂の秘湯とするゆえ、家臣にもそのように周知しておくように』
というものだった。
「自由だなぁ、父上は……」
かつては甲斐の虎として辣腕を振るっていた信玄だが、義信に大名の地位を追われたのちはご隠居として君臨していた。
「私はこんなにも忙しい思いをしているというのに……」
と、そこまで考えて気がついた。
そういえば、大名としての雑務は元々信玄がこなしていたな、と。
織田征伐を終え、甲斐信濃の軍を解散させると、信玄は秘湯を探しに信濃の山中を訪れていた。
湯に浸かり、「ふぅ」と息をつく。
「いい湯だわい……」
義信に命じられ、美濃の侵攻から岐阜城の攻略、北伊勢、南近江の制圧と戦続きであった。
「こうやって息抜きの一つでもせねば、やってられんわい」
日頃の疲れを癒やしていると、小姓が駆け寄ってきた。
「ご隠居様、お館様より文が……」
信玄が早馬で岐阜城までやってくると、義信の前に現れた。
「火急の用があると聞いたが、どうした。浅井が攻めてきたのか!?」
「いえ、私に楽を…………父上に仕事を申しつけようと思いましてな」
「なに……?」
「父上には、甲斐と信濃の国主となっていただきます」
「なんじゃと!?」
思わぬ命令に、信玄が目を剥いた。
「私が直接治めようとも思いましたが、やはりここは父上にと」
「いや、しかし……」
義信の言っていることは理解できる。
広大な土地を治めることとなった武田家だが、その扱いに困り、統治のために地方に有力者を配するのもわかる。
わかるのだが、信玄の中で素直に飲み込めないものがあった。
「……儂から甲斐や信濃を取り上げておいて、今さら返すのか? いささか都合が良すぎるのではないか……?」
「私が父上から奪ったのは、武田家の家督です。あくまで甲斐や信濃はそのおまけ。何も問題ありませぬ」
義信の物言いに、信玄が笑った。
なるほど、甲斐信濃は家督のおまけか。
甲斐や信濃に固執していた自分では、その発想はなかった。
「……よかろう。当家の領地も二倍に増えたのだ。その扱い、統治に苦心する息子を助けるのも父の役目……」
「父上……」
「だが、忘れるな。ひとたびお主が腑抜けた姿を見せれば、儂が大名に返り咲いてくれる」
それだけ言い残して、信玄がその場を後にした。
残された義信に、小姓が耳打ちをする。
「よろしいのですか……? 先のご隠居様のお言葉……」
隙あらば独立すると言ってるに等しく、あれでは謀反を公言しているようなものだ。
「気にするな。あれで父上なりの激励なのだ。……言い方は素直ではないがな」
あとがき
明日の投稿はお休みして、次回は1/11に投稿しようと思います。
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