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バルドに言われるがまま、ドレスを買いに王都の街に出る。ジーナもはしゃぎながらついてきた。王都のブティックは、私も彼女も初めてだ。その中でも今流行だというお店に連れてきてもらった。
「うわー、随分いっぱいドレスがあるのね!」
「どれでもいいぞ、好きなの買ってやる。」
バルドがふんと胸を張る。
「え?いいの。お小遣いなら余っているし、私、自分で払うわよ。」
「いや、私からプレゼントさせて。これも家庭教師としての必要経費だから。」
「ありがとう。じゃあ遠慮なく選ばせてもらうわ。」
お店のドレスを物色していく。でも流行というものがよく分からないから、どれも一緒にみえてしまう。そうだ。確かガーデンパーティーはお庭の薔薇を愛でる会だ。そう思って黒地に赤い薔薇のコサージュがついたドレスを掴む。
「――これなんかどうかしら?お庭の薔薇が素敵だって聞いたから。」
あ、間違ったとすぐに分かった。だってジーナは大きく眼を見開いているし、バルドはすぐに言葉が思い浮かばないのか、あんぐり口を開けたままだ。
「分かったわ。ダメってことね。」
「いや、その服がダメだというわけではないんだ。ただそれは露出が多いし、多分夜会、それも仮面舞踏会のような大人が楽しむ会に向けたものだ。昼間に行われるガーデンパーティーには不向きじゃないかな?」
「そうなのね。」
「そうです。お嬢様にはもっとかわいらしい洋服が似合います。」
かわいらしい服か。ジーナにそう言われて、ピンク色でフリルがこれでもかとついたドレスを手に取る。これならいいんじゃないかしら?
「――ではこれは?」
バルドたちの沈黙と視線が痛い。また間違えた。
「それは華やかでかわいらしいね。でも君の髪や瞳の色だとこちらのデザインの方が似合うと思うよ。」
バルドが手にしたのは、薄紫色のドレス。首から胸元は透け感のあるレースで、薔薇の刺繍がたっぷりあしらわれている。スカートの裾は大きく広がっていて、まるで花びらみたいにふわりとしていた。
「バルド様、素敵なAラインのドレスですね。お嬢様こちらにしましょう。さあご試着を。」
言われるがまま試着室に入る。思えば、こんな大人っぽいドレス着るのは初めてだ。鏡の中で自分が別人のようで 思わず見とれてしまった。
「――どうかしら?」
「きゃあ!お嬢様の瞳とぴったりの色味で、花の妖精さんみたいです。素敵でございます!決まりですね。バルド様。」
ジーナの叫び声が、店内にこだまする。
「ああ、よく似合っている。」
バルドがはにかむように笑った。よし、これで"婚約者"とドレスは揃った。完璧だ。
ガーデンパーティー当日は、バルドが家まで迎えにきてくれた。この前贈ってもらったドレスに、手持ちのアメジストのイヤリングを合わせる。ジーナも張り切って髪を結いあげてくれた。
「完璧です、お嬢様。行ってらっしゃいませ。」
「きれいだね。お手をどうぞ、我が君。」
「うふふ、ありがとう。」
これこそ"婚約者"というものだ。手を取られて馬車に乗り込んだ。
「今日は向こうから聞かれた時だけ、あなたを"婚約者"として紹介するわ。でもまだ正式に公表していないから内緒にしてほしいって言うから、あなたも口裏をあわせて。」
「ああ、分かった。その通りにするよ。」
会場に足を踏み入れると、人々の視線がこちらに集まるのが分かった。バルドはすらっとしていて、よく目立つ。地味と言われる自分が、こんなに人に見られるのは初めてだ。とても緊張してしまう。
「大丈夫?手が震えているよ。」
「バルド様と一緒にいると、皆さんがこちらを振り返るので少し緊張しますわ。」
「ふふ、それは違うな。着飾った君が美しいからだよ。」
視線の先、銀髪ストレート美少女の周りに人だかりができているのを見つけた。主催者のアンナマリア様だ。まず彼女にご挨拶しなければ。
「この度は、ご招待いただきありがとうございます。アンナマリア様。」
「あら、ルチア様。今日のドレスよくお似合いよ。お隣方はもしかして!」
「ええ、私の婚約者のバルド・ロマーノ様ですわ。」
後は、もともと考えていた筋書き通り、バルドが医療師の資格を取るまでは関係を公表できないと口止めした。アンナマリア様は取り巻きが厄介なのだが、本人は案外素直なご令嬢だ。すぐに納得してくれた。
「では、バルド様頑張ってくださいね!」
そう言って、我々を力強く応援してくれた。ガーデンパーティーは他にも同じ年代の令嬢がたくさん招待されている。知り合いの令嬢と話したり、薔薇を愛でたり、食事をつまんだり、とても楽しく過ごせた。以前、婚約のことをつい口走ってしまった他の令嬢にも、彼のことを聞かれたので、アンナマリア様の時と同じように答えた。
無事に最大の試練、ガーデンパーティーを乗り切ることができた。帰りの馬車でやっとバルドと二人きりになった。
「で、どうだった?私の"婚約者"としてのふるまいは?」
「ありがとう。完璧でしたわ。そうだ!確か学園入学後に新入生歓迎パーティーがあるわよね?その時もエスコートをよろしくお願いします。」
「ええ、喜んで。」
馬車に、西日が差し込んで、バルドの頬を赤く染めた。
「うわー、随分いっぱいドレスがあるのね!」
「どれでもいいぞ、好きなの買ってやる。」
バルドがふんと胸を張る。
「え?いいの。お小遣いなら余っているし、私、自分で払うわよ。」
「いや、私からプレゼントさせて。これも家庭教師としての必要経費だから。」
「ありがとう。じゃあ遠慮なく選ばせてもらうわ。」
お店のドレスを物色していく。でも流行というものがよく分からないから、どれも一緒にみえてしまう。そうだ。確かガーデンパーティーはお庭の薔薇を愛でる会だ。そう思って黒地に赤い薔薇のコサージュがついたドレスを掴む。
「――これなんかどうかしら?お庭の薔薇が素敵だって聞いたから。」
あ、間違ったとすぐに分かった。だってジーナは大きく眼を見開いているし、バルドはすぐに言葉が思い浮かばないのか、あんぐり口を開けたままだ。
「分かったわ。ダメってことね。」
「いや、その服がダメだというわけではないんだ。ただそれは露出が多いし、多分夜会、それも仮面舞踏会のような大人が楽しむ会に向けたものだ。昼間に行われるガーデンパーティーには不向きじゃないかな?」
「そうなのね。」
「そうです。お嬢様にはもっとかわいらしい洋服が似合います。」
かわいらしい服か。ジーナにそう言われて、ピンク色でフリルがこれでもかとついたドレスを手に取る。これならいいんじゃないかしら?
「――ではこれは?」
バルドたちの沈黙と視線が痛い。また間違えた。
「それは華やかでかわいらしいね。でも君の髪や瞳の色だとこちらのデザインの方が似合うと思うよ。」
バルドが手にしたのは、薄紫色のドレス。首から胸元は透け感のあるレースで、薔薇の刺繍がたっぷりあしらわれている。スカートの裾は大きく広がっていて、まるで花びらみたいにふわりとしていた。
「バルド様、素敵なAラインのドレスですね。お嬢様こちらにしましょう。さあご試着を。」
言われるがまま試着室に入る。思えば、こんな大人っぽいドレス着るのは初めてだ。鏡の中で自分が別人のようで 思わず見とれてしまった。
「――どうかしら?」
「きゃあ!お嬢様の瞳とぴったりの色味で、花の妖精さんみたいです。素敵でございます!決まりですね。バルド様。」
ジーナの叫び声が、店内にこだまする。
「ああ、よく似合っている。」
バルドがはにかむように笑った。よし、これで"婚約者"とドレスは揃った。完璧だ。
ガーデンパーティー当日は、バルドが家まで迎えにきてくれた。この前贈ってもらったドレスに、手持ちのアメジストのイヤリングを合わせる。ジーナも張り切って髪を結いあげてくれた。
「完璧です、お嬢様。行ってらっしゃいませ。」
「きれいだね。お手をどうぞ、我が君。」
「うふふ、ありがとう。」
これこそ"婚約者"というものだ。手を取られて馬車に乗り込んだ。
「今日は向こうから聞かれた時だけ、あなたを"婚約者"として紹介するわ。でもまだ正式に公表していないから内緒にしてほしいって言うから、あなたも口裏をあわせて。」
「ああ、分かった。その通りにするよ。」
会場に足を踏み入れると、人々の視線がこちらに集まるのが分かった。バルドはすらっとしていて、よく目立つ。地味と言われる自分が、こんなに人に見られるのは初めてだ。とても緊張してしまう。
「大丈夫?手が震えているよ。」
「バルド様と一緒にいると、皆さんがこちらを振り返るので少し緊張しますわ。」
「ふふ、それは違うな。着飾った君が美しいからだよ。」
視線の先、銀髪ストレート美少女の周りに人だかりができているのを見つけた。主催者のアンナマリア様だ。まず彼女にご挨拶しなければ。
「この度は、ご招待いただきありがとうございます。アンナマリア様。」
「あら、ルチア様。今日のドレスよくお似合いよ。お隣方はもしかして!」
「ええ、私の婚約者のバルド・ロマーノ様ですわ。」
後は、もともと考えていた筋書き通り、バルドが医療師の資格を取るまでは関係を公表できないと口止めした。アンナマリア様は取り巻きが厄介なのだが、本人は案外素直なご令嬢だ。すぐに納得してくれた。
「では、バルド様頑張ってくださいね!」
そう言って、我々を力強く応援してくれた。ガーデンパーティーは他にも同じ年代の令嬢がたくさん招待されている。知り合いの令嬢と話したり、薔薇を愛でたり、食事をつまんだり、とても楽しく過ごせた。以前、婚約のことをつい口走ってしまった他の令嬢にも、彼のことを聞かれたので、アンナマリア様の時と同じように答えた。
無事に最大の試練、ガーデンパーティーを乗り切ることができた。帰りの馬車でやっとバルドと二人きりになった。
「で、どうだった?私の"婚約者"としてのふるまいは?」
「ありがとう。完璧でしたわ。そうだ!確か学園入学後に新入生歓迎パーティーがあるわよね?その時もエスコートをよろしくお願いします。」
「ええ、喜んで。」
馬車に、西日が差し込んで、バルドの頬を赤く染めた。
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