地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう

文字の大きさ
4 / 8

4.

 学園入学後は、新しい友達に、新しい勉強に、新しい遊びで、毎日が楽しかった。バルドは普段は家庭教師らしく、宿題や復習の面倒を見てくれる。まあお金をもらっているから、あんまり私の成績が悪いと困るのだろう。でもとっても分かりやすいので助かっている。

 ファウストはあの宣言通り、女の子をとっかえひっかえだ。毎日違う女子を連れて、こちらに見せつけるように話している。女子たちもまんざらではないようだ。そう、ファウストは私以外の女性には紳士的で優しいのだ。

 そして、遂に新入生歓迎パーティーの日が近づいてきた。なんとバルドからドレスが贈られてきた。この前のドレスと同じような色味だが、少し濃い紫だ。どちらかというと私よりもバルドの瞳の色に近いかも。胸元は少し大胆にハート型にカットされていて、ウエストのリボンがワンポイントになっている。こちらのドレスもお姫様みたいでかわいい。

「確かに、自分の瞳の色と同じドレスなら何着持っていてもいいわね。」

「うふふ。お嬢様。バルド様に大切にされていますね。」

「これが本当の婚約者なら最高なんだけどね。」

 ふとファウストの顔が頭をよぎる。やはり私をエスコートする気はないらしく、入学後一度も連絡を寄こさない。別に構わない。このまま婚約が解消されればいいのに。

 新入生歓迎パーティーでは、予定通りバルドに贈られたドレスを着て、夜会用に髪の毛をアップスタイルにまとめてもらった。

「本当にきれいだね。君にぴったりだと思ったんだ。」

 うれしいことを言ってくれる。「ドレスが前回と同じだ」とお小言を言う誰かさんとは大違いだ。

 パーティー会場は学園の講堂だ。天井には煌めくシャンデリア、床には艶やかな大理石。がっしりと彼の腕を掴んで入場した。この前のガーデンパーティーで会った令嬢たちが、黄色い歓声を上げる。案外バルドは人気のようだ。

 まずは早速ファーストダンスを踊る。初めて一緒に踊るけど、バルドはダンスがあまり得意ではないようだ。少しでも相手が踊りやすいようにリードする。続けてもう一曲。本来、二曲連続で踊るのは婚約者だけと言われているが、彼は何といっても、私のレンタル婚約者なのだ。ちゃんと二曲付き合ってもらう。

「ありがとう。バルド、とっても楽しかったわ。」

「君は大丈夫?疲れていない?私はもうクタクタだ。」

「ふふ。私はこのくらい全然大丈夫よ。自領では一日中狩りしているもの。体力には自信があるわ。まあこれだけ見せつけたら、会場の皆は私とあなたを婚約者、もしくはそれに近い関係だと思うでしょうね。」

 狙い通りと高らかに笑った。地味で婚約者に見向きもされない令嬢なんて絶対に笑い種にされたくない。私だって多少のプライドというものがあるのだ。その時、誰かが後ろから声をかけてきた。

「おい!」

「あら、これはヴェントーラ侯爵令息ではないですか。ごきげんよう。」

 ファウストだ!自分が話しかけるなって言ってたのに。私は嫌味ったらしく、挨拶してやった。

「ごきげんようじゃない。――これはどういうつもりだ?」

 そう言って我々をじろりと見る。にらむその碧眼が、いつになく焦っているように見えた。

「だってそういう『約束』じゃないですか?それこそ、あなたは随分と自由を謳歌されてますよね?それより、よろしいの?先ほどあなたがエスコートされていた金髪のご令嬢、放置されて困ってらっしゃいますよ。」

「俺といない時は、楽しそうにするんだな。で、そいつは誰だ。瞳の色のドレスを纏うとは、恋い慕っているとでも言いたいのか?」

 今までしょっちゅう喧嘩はしてきたが、こんなに怒っているファウストは初めてだ。うむ、この状況をそのまま実家に伝えられると少し分が悪い。できる限り落ち着いて、話をした。

「ドレスは私の瞳の色に合わせて選ばせて頂きました。こちらは、はとこのバルド様。私の兄のような方です。学園で成績がとてもよいので、この度、私の家庭教師をして頂くことになりました。婚約者がいないものが親族にエスコートを頼むのは普通のことでは?」

「では、なぜ二曲踊った?お前だってその意味くらい分かっているだろう?」

 射抜くように鋭くにらまれる。強く握りしめた拳。今にも殴りかかってきそうな形相だ。

「あら、気づきませんでしたわ。バルド様と踊るのが楽しかったので。そもそものお話ですが、学園内で話しかけるなというのは、あなた様が言い出したことです。こちらは今後も守らせて頂きますので、どうぞお声をかけないでくださいまし。」

 バルドは隣で我々の様子をみて、冷や汗をかいてる。巻き込んでしまって申し訳ないが、あなたを家庭教師に推薦したのは、この私。それにこの役割をお願いできるのは、あなたしかいないのだ。医学校の学費のために付き合って頂く。ファウストは、心細そうに迎えに来た金髪の令嬢を連れて、私たちのもとを後にした。

「バルド様、ご迷惑をおかけしました。それにしてもファウストが話しかけてきたのは、想定外です。」

「いや、いいんだ。私はある程度覚悟はしていたから。」

 バルドは何かを悟ったような表情で、ため息をついた。

あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

やっぱりあなたは無理でした

あや乃
恋愛
愛する婚約者とその恋人に嵌められ、断罪された挙句惨めに捨てられた侯爵令嬢フローリア・コーラル。 修道院に向かう途中で不遇の死を遂げた彼女は願った、もう一度人生をやり直したいと―― 目覚めた時彼女の時間は半年前に巻き戻っていた。 今度こそ第一王子ジュリアンの心を取り戻し「愛する人から愛される」というささやかな願いを叶えたいと奮闘するフローリアだが、半年後フローリアが断罪されたあの日が再び訪れてしまう。 同じ光景、同じ台詞、何もかもが同じ……でもたった一つだけ違っていることがあって!? ※「小説家になろう」さまにも掲載中

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

マジメにやってよ!王子様

猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。 エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。 生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。 その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。 ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。 「私は王子のサンドバッグ」 のエリックとローズの別世界バージョン。 登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。

殿下、私以外の誰かを愛してください。

八雲
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

私の婚約者は悪役令嬢になりたいらしい

鳴哉
恋愛
いかにも悪役令嬢な容姿の令嬢 と その婚約者の王子 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、2話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

【完結】馬車の行く先【短編】

青波鳩子
恋愛
王命による婚約を、破棄すると告げられたフェリーネ。 婚約者ヴェッセルから呼び出された学園の予備室で、フェリーネはしばらく動けずにいた。 同級生でありフェリーネの侍女でもあるアマリアと、胸の苦しさが落ち着くまで静かに話をする。 一方、ヴェッセルは連れてきた恋の相手スザンナと、予備室のドアの外で中の様子を伺っている。 フェリーネとアマリアの話を聞いている、ヴェッセルとスザンナは……。 *ハッピーエンドではありません *荒唐無稽の世界観で書いた話ですので、そのようにお読みいただければと思います。 *他サイトでも公開しています