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その後もファウストとの距離は縮まらないまま、日々は淡々と過ぎていった。そして王都の街に木枯らしが吹きはじめ、吐く息が白く染まる季節がやってきた。気づけば、もう私の誕生日が近い。
「はあ、もうすぐ誕生日パーティーか。」
「もう、そんな季節なんですね。準備、気合入れさせて頂きます。」
侍女のジーナは張り切っている。招待状の送付に、パーティーで振舞うケーキの手配。そして当日の衣装。最近はバルドに贈ってもらったドレス以外にも、ジーナと一緒に選んでもらって、手持ちのドレスの種類が増えた。
「ねえ、ジーナ。エスコート、またバルドにお願いしていいかな?」
「一応ご両親のこともありますし、初めにファウスト様に打診された方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうね。少し気が重いけど。まあでも、あんなこと言ったのは向こうだし。普通に断るわよね。」
学園で彼を毎日見かけるが、話しかけない約束になっているので、手紙にしたためる。もちろん、断ってもらって構わないと書き添えた。
「では、この手紙をよろしくね。ジーナ。」
「はい。お嬢様!」
それから、二週間以上経ったが、ファウストから返事はない。さっさと断りの連絡を入れて欲しい。こちらにも準備というものがあるのだ。
今日は、バルドの家庭教師の日だ。初めてのテストで私の成績が学年で10番以内に入ったから、お給金を増やしてもらったそうだ。彼には『レンタル婚約者』としていろいろ手助けをしてもらっているから、本当によかった。
「ねえ、バルド様。誕生日パーティーの件だけど、一応両親のこともあるから、ファウストにエスコートをお願いしたの。でも、ファウストからいつまで経っても返事が来なくて。また、あなたにお願いしてもよろしいかしら?」
「ああ、もちろんだよ。ちゃんとエスコート役に決まったら、君の瞳の色に合わせたジュエリーでも贈ろうかな。私の買えるものだから、ちっちゃいやつだけど。」
「うれしい!男の人にジュエリーもらうの初めてなんです。」
「じゃあ決まり。あ、そういえば、瞳の色で思い出した。この前学園の裏庭で、月光草が咲いているのを見かけたぞ。」
「え!あの薬草って、王都では自生していないんじゃないですか?」
「もしかすると、生徒の誰かが植えたのかもしれないな。便利な薬草だから。」
「私、葉っぱしか見たことないので、花を咲かせている姿を見てみたいです。」
「だったら、急いだほうがいい。1週間も咲かない花だから。知っていると思うけど、月の光で淡く光るのが名前の由来だ。明日はちょうど満月だから、きっときれいだろう。放課後に行ってみたらどうだ?」
「ありがとうございます。見に行ってみます。」
次の日の放課後、早速バルドに教えてもらった学園の裏庭に向かう。日が落ちるのも早くなって、既に辺りは暗かった。
「ふぅ~さむい。確か、花が咲いているのは、ガゼボの先だとバルド様が仰っていたわね。」
歩いていくと、ガゼボの裏の生け垣に隠れるようにして、小さな空き地があった。月灯りにともされて、淡く発光する菫色の花が群生している。
「まぁ、幻想的だわ。」
まるで、秘密の花園に迷い込んだみたいだ。思わずうっとりとして、その場にしゃがみこんで花を眺めた。
「――きれいだな。」
いつの間にか、後ろに誰か立っている。振り返ると、そこにいたのは――ファウストだった。
「はあ、もうすぐ誕生日パーティーか。」
「もう、そんな季節なんですね。準備、気合入れさせて頂きます。」
侍女のジーナは張り切っている。招待状の送付に、パーティーで振舞うケーキの手配。そして当日の衣装。最近はバルドに贈ってもらったドレス以外にも、ジーナと一緒に選んでもらって、手持ちのドレスの種類が増えた。
「ねえ、ジーナ。エスコート、またバルドにお願いしていいかな?」
「一応ご両親のこともありますし、初めにファウスト様に打診された方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうね。少し気が重いけど。まあでも、あんなこと言ったのは向こうだし。普通に断るわよね。」
学園で彼を毎日見かけるが、話しかけない約束になっているので、手紙にしたためる。もちろん、断ってもらって構わないと書き添えた。
「では、この手紙をよろしくね。ジーナ。」
「はい。お嬢様!」
それから、二週間以上経ったが、ファウストから返事はない。さっさと断りの連絡を入れて欲しい。こちらにも準備というものがあるのだ。
今日は、バルドの家庭教師の日だ。初めてのテストで私の成績が学年で10番以内に入ったから、お給金を増やしてもらったそうだ。彼には『レンタル婚約者』としていろいろ手助けをしてもらっているから、本当によかった。
「ねえ、バルド様。誕生日パーティーの件だけど、一応両親のこともあるから、ファウストにエスコートをお願いしたの。でも、ファウストからいつまで経っても返事が来なくて。また、あなたにお願いしてもよろしいかしら?」
「ああ、もちろんだよ。ちゃんとエスコート役に決まったら、君の瞳の色に合わせたジュエリーでも贈ろうかな。私の買えるものだから、ちっちゃいやつだけど。」
「うれしい!男の人にジュエリーもらうの初めてなんです。」
「じゃあ決まり。あ、そういえば、瞳の色で思い出した。この前学園の裏庭で、月光草が咲いているのを見かけたぞ。」
「え!あの薬草って、王都では自生していないんじゃないですか?」
「もしかすると、生徒の誰かが植えたのかもしれないな。便利な薬草だから。」
「私、葉っぱしか見たことないので、花を咲かせている姿を見てみたいです。」
「だったら、急いだほうがいい。1週間も咲かない花だから。知っていると思うけど、月の光で淡く光るのが名前の由来だ。明日はちょうど満月だから、きっときれいだろう。放課後に行ってみたらどうだ?」
「ありがとうございます。見に行ってみます。」
次の日の放課後、早速バルドに教えてもらった学園の裏庭に向かう。日が落ちるのも早くなって、既に辺りは暗かった。
「ふぅ~さむい。確か、花が咲いているのは、ガゼボの先だとバルド様が仰っていたわね。」
歩いていくと、ガゼボの裏の生け垣に隠れるようにして、小さな空き地があった。月灯りにともされて、淡く発光する菫色の花が群生している。
「まぁ、幻想的だわ。」
まるで、秘密の花園に迷い込んだみたいだ。思わずうっとりとして、その場にしゃがみこんで花を眺めた。
「――きれいだな。」
いつの間にか、後ろに誰か立っている。振り返ると、そこにいたのは――ファウストだった。
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