年下のユニコーン獣人が私の婚活の邪魔をしていたって本当ですか?!

志熊みゅう

文字の大きさ
3 / 35
第一章 5度目の婚約破棄

3. 童話

しおりを挟む
 自室に戻ると、机に置きっぱなしにした童話の翻訳が目に入った。そうだ、内容をまだ確認できていなかった。

 童話の多くは、テリソート王家の血を引くロレンシオに頼んで、翻訳してもらっている。ロレンシオはアルバ公爵家の嫡男だ。本来なら、公爵家のご子息である彼が、私のような下級貴族の娘と親しくするなどあり得ない話だけど、幼い頃に開かれた王宮の茶会で、珍しい蝶を追いかけて、森に迷い込んだ彼を、私が見つけ出したことをきっかけに、不思議なご縁ができた。ロレンシオは私のことを「姉様、姉様」と呼び、実の姉のように慕ってくれている。

 アルバ公爵家はもともと先王の弟が臣籍降下して起こした家で、隣国との友好のため、王弟はテリソートの王女を妻に娶った。だからロレンシオも、獣人のクォーターだ。年は5歳下で最近学園卒業した。学生時代はまだしも、卒業した今は自領の仕事を任せられているはずなのに、この前頼んだユニコーンの童話も、あっという間に翻訳してくれた。私が婚約破棄されるたびに、揶揄ってくる以外は、とってもいい子である。

「"ユニコーンとお姫様"か。」

 翻訳の原稿の一枚目をめくる。物語は、冷遇されたお姫様が森の中の塔に幽閉されるところから始まる。好奇心旺盛なお姫様は、こっそり塔を抜け出しては裏の森を散策していた。ある日、群れからはぐれ衰弱したユニコーンの子どもと出会う。お姫様はユニコーンを塔に連れ帰り、懸命に看病して、やがて元気になった彼を仲間のもとへ送り届けた。

 年月が流れ、大人になったユニコーンは、魔法で人間の姿になって、政略結婚のため隣国に嫁がされそうになったお姫様を助け出す。そして彼女にユニコーンは、自分の番だと告げ、プロポーズする。彼女を冷遇していた王と王妃を倒し、二人は共に王位に就く――そんなおとぎ話だった。

 これは絶対に売れる!

 そうだ絵は、最近仲良くなった絵師のマヌエルにお願いしよう。彼の幻想的なイラストはきっとこの話に合う。わくわくしながら、マヌエルに童話の写しを添えて、依頼を送った。

 もちろん、ロレンシオにも、お礼の手紙をしたためた。そういえば彼とは彼が学園を卒業したお祝いに、王都で会ったきりだ。久しぶりにあった彼は、ぐっと身長が伸びて、すっかり大人の男性になっていた。さらさらの白に近い銀髪がキラキラしていて、澄んだ菫色の瞳によく映えて美しかった。

 子ども時代は、とにかくやんちゃで、よく悪戯しては周りを困らせていたのに、ちょっと不思議な感じがした。――大抵私がそういう昔話をすると、「姉様はもう僕は子どもじゃありません」って怒られてしまうのだけど。

 確かあの時は、5人目の婚約者が決まったという報告をした。私が、やっとまとまった婚約を嬉々として伝えると「……姉様も懲りないですね」といって、彼はうっすら微笑んだのをよく覚えている。そういえば、ロレンシオが婚約したって話、聞かないんだよなあ。イケメンの次期公爵なんて、毎日のように釣り書が押し寄せるだろうに。

 さてと、夜会のドレスはどうしようか。もうこうなったら、みじめな行き遅れ令嬢に見えないように、精一杯着飾ってやろう。私の何の変哲もない焦げ茶の髪と青い瞳だって、盛りに盛ればそれなりに華やかにみえる。ありったけの宝石と、王都で流行の仕立て屋のオートクチュールを身につけてホールで一番目立ってやる。そう心に決めた。

 ――コンコン

「フロレンシア様、ローズヒップティーをお持ちしました。」

「入って」

 侍女のブランカが部屋にハーブティーを差し入れてくれた。彼女は使用人の中でも年が近くて、どこか友達のような存在でもある。

「――クラウディオ様にも婚約破棄されてしまったわ。貧乏伯爵なら、金の力で押せば、浮気も不倫もされないと思ったのに。」

「お嬢様、お話は伺っております。今回の件もお嬢様には全く非がないかと。」

「そう!私には非がないと思うの。でも、こう何度も何度も婚約が破談になると、私の側に問題があるんじゃないかと噂する人もいるのよ。」

「……お嬢様。」

「三人目の方のお母様が、懇意にしていた祈祷師とやらには悪霊がついているって言われたし、私もご祈祷してもらったほうがいいのかも。」

「あれは、悪質な詐欺だと思いますよ。」

「さすがに冗談よ。あの家、祈祷師へ寄進しすぎて財政傾いてるって聞いたし、まあ間違いなく詐欺よね。」

 5回連続で婚約破棄される確率ってどのくらいなんだろう。この身に起きた"不幸"は、呪いか悪霊じゃないと、説明がつかないのでは?20代も後半になるといよいよ貰い手がいなくなる。でももう婚活で疲弊するのはうんざりだと思った。

 ――私は奮起した。見てなさいよ、今までの婚約者たち!結婚相手がいなくても、私は自力で輝いてみせるんだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

政略結婚の作法

夜宮
恋愛
悪女になる。 そして、全てをこの手に。 政略結婚のために身分違いの恋人のいる王太子の婚約者となった公爵令嬢は、妹の囁きを胸に悪女となることを決意した。 悪女と身分違いの恋人、悪女になるはずだった妹の物語。

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...