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第17話 村人たちの秘密
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夜。ルーデン村の灯りはひとつ、またひとつと消えていった。
その静寂の中で、アレンは卓上に広げられた古文書を見つめていた。
枯れた井戸から救われたリュシアの残滓。その記録を頭の中で繋ぎ合わせ、彼はいまひとつの答えに近づいていた。
「やはり……この村の地脈、異様に素直すぎる。」
呟きと同時に、机の上の蝋燭がふっと揺れた。
アレンは立ち上がり、外套を取る。
小屋を出れば、夜の空気に包まれた静かな村の全景が広がる。
井戸の水は今も澄み、流れ出した水が月光を反射して青く輝いていた。
「地脈が浄化される速度が異常だ。まるで……人の意思が動かしているようだ。」
王都では学問として研究された地脈理論。普通なら長い年月を経て微細に変化するが、この村では一夜で大地が癒え、花が咲く。
まるで誰かが“意図的に”それを制御している。
しかし、それを可能にするほどの魔力量を持つ人間など、この村には――
「……いや、いる。」
アレンは思い出していた。
この村の人々の奇妙な共通点。病に強く、回復も早い。そして、どの家にも古い土器や欠片がある。
その装飾がすべて同じ時代の遺物を模していることに、彼は今ようやく気づいた。
◇
翌朝。
ミーナが家の扉を叩いた。
「アレンさん! ちょっと手伝ってください!」
「どうしました?」
「昨日新しく掘った畑の隅から、変な……光る石が出てきたんです。」
アレンの表情が一瞬で変わる。
「光の色は?」
「青です。触ったら、少し温かくて……それに、私、なんだか懐かしい気持ちになって。」
アレンは急いで現場に向かった。
畑の片隅。掘り返された泥の中に、拳大の青い石がある。
ただの鉱石ではない。確かに脈動していた。
「……これは、神核の欠片。」
「かみかく……?」
「説明が長くなります。要は、この世界の理を支える“最初の魂”の破片です。」
ミーナは不安げに眉を下げた。
「そんなものが、うちの畑に?」
「この地に眠り続けていたのでしょう。そして今、それが反応を始めている。」
アレンはしゃがみ込み、そっと触れた。
瞬間、光が彼の掌から全身に駆け抜ける。
映像が流れ込む。
――幾百年前、この地に神の血を引く民がいた。
その民は、自らの命を糧に世界の封印を維持していた。
滅びを迎えるとき、彼らは“血の誓約”によって、その力を子孫の血に刻んだ。
アレンは息を飲んだ。
血の誓約――つまり、村人たちは神核の守護者の末裔だったのだ。
「この村そのものが……封印の守り手、というわけですか。」
光が収まり、アレンは掌を見つめた。ほんのりと温かさが残っている。
彼の中で何かが確実に組み上がった。
◇
昼過ぎ。
村長の家の戸を叩くと、中からしわがれた声が響いた。
「来たか、アレン殿。」
中には村長と、その側にいた老人たち数名。
皆、異様に真剣な表情をしていた。
「やはり気づいておったか。あの石は、我らの“祈りの核”だ。」
「祈りの核?」
村長は頷く。
「この村には古より、地の神を鎮める血筋が残っておる。王国ができるより前、我らの祖が地を封印し、神の心臓をこの下に眠らせた。」
「心臓……。」
「ふたたびそれが息を吹き返せば、世界は再び“再構築”を始める。”神”が目覚めるのだ。」
アレンの背に重たい汗が伝った。
「それを 王都の者に知られたら?」
「生かしておかんだろうな。」
村長の目が沈んだ光を宿す。
そのとき、外で悲鳴が上がった。
「村長っ、南の畑が……!」
慌てて門番の男が飛び込んできた。
「地が鳴ってます! 青い光が地面から!」
アレンたちは走った。
畑の真ん中で、地面が膨らみ、光の筋が空へ伸びている。
その中心で、リィナが苦しげに膝をついていた。
「リィナ!!」
アレンが駆け寄る。
彼女の身体を通して、大地の魔力が暴走しているのがわかる。
血が、彼女の中の流れがそれを呼び覚ましている。
「やっぱり……あなたも、村の血をひいていたんですね。」
「私が……?」
「君は森の中で“別の存在と融合した”。そのもう一方が、“この地を守る神の血”なんです。」
リィナの瞳が金色に変わる。
髪が風に翻り、光が拡散する。
地面の奥から呻くような声が響いた。
まるで大地そのものが意識を持っているかのように。
「目覚めの儀を止めろ!」
アレンの叫びと同時に、村長が諦めたように呟く。
「……間に合わん。“封印”が自ら開こうとしておる。」
轟音。
畑の土が爆ぜ、青白い光が奔る。
その中心に、巨大な石柱が突き出した。
表面には数えきれない古代文字。
その上に、白い小さな石――いや、“心臓”のかけらが鼓動していた。
「これが……神核の心臓。」
「アレンさんっ、どうすればいいの!?」ミーナが叫ぶ。
「封印を逆再構築します! リィナ、君の力を貸してください!」
「でも……私、自分を制御できない……!」
「いい、僕が制御します!」
彼はリィナの背に手を当て、魔力を流した。
二人の力が混ざり、黄金と青の光が絡み合う。
暴れる大地の脈動を押さえ込み、神核の鼓動をゆっくりと眠らせる。
「落ち着け……戻れ、眠りなさい――」
やがて光が収まり、地面のうねりが止まった。
リィナの身体から力が抜け、彼の腕の中に静かに倒れ込む。
「よく頑張りました。」
アレンが優しく頭を撫でると、リィナは疲れ切ったように微笑んだ。
「これで……終わり?」
「一時的に。ですが……王都がこの反応を見逃すはずがない。」
◇
その夜。
村長の屋敷では、老人たちが集まり、密やかな議論が始まっていた。
「王都が反応を探知したのは確実だ。もう隠しきれまい。」
「奴らが来れば、また“封印戦争”の再来だ。」
「……アレン殿はどう動くと思う?」
問われた村長は長い沈黙のあと、答えた。
「彼は我々よりも強く、賢しい。だが――あの男の願いは、“平穏”だ。ゆえに、争いを嫌うだろう。だがもし、誰かがそれを壊すならば……。」
老人たちは息を呑む。
「彼は、“神をも討つ”。」
静かな声が響く。
◇
一方、王都。
神殿の塔でハイゼルは報告を受けていた。
「観測部隊より報告! 北辺地区にて神性波が再活性化! 座標、ルーデン村!」
彼は立ち上がり、外套を握りしめた。
「やはり、動き出したか……。アレン、貴様、どこまで行く気だ。」
窓の外、夜空に無数の光が走る。転移術式の発動。
王都から辺境へ、神殿部隊が続々と転送されていく。
「神の血を継ぐ村……君が守ろうとした平穏は、今まさに燃え上がるぞ。」
低く呟いた声が塔の石壁に反響し、続く沈黙を破った。
そして、夜を切り裂く雷光が遥か東の空を照らす。
嵐の始まりを、誰もが直感していた。
その静寂の中で、アレンは卓上に広げられた古文書を見つめていた。
枯れた井戸から救われたリュシアの残滓。その記録を頭の中で繋ぎ合わせ、彼はいまひとつの答えに近づいていた。
「やはり……この村の地脈、異様に素直すぎる。」
呟きと同時に、机の上の蝋燭がふっと揺れた。
アレンは立ち上がり、外套を取る。
小屋を出れば、夜の空気に包まれた静かな村の全景が広がる。
井戸の水は今も澄み、流れ出した水が月光を反射して青く輝いていた。
「地脈が浄化される速度が異常だ。まるで……人の意思が動かしているようだ。」
王都では学問として研究された地脈理論。普通なら長い年月を経て微細に変化するが、この村では一夜で大地が癒え、花が咲く。
まるで誰かが“意図的に”それを制御している。
しかし、それを可能にするほどの魔力量を持つ人間など、この村には――
「……いや、いる。」
アレンは思い出していた。
この村の人々の奇妙な共通点。病に強く、回復も早い。そして、どの家にも古い土器や欠片がある。
その装飾がすべて同じ時代の遺物を模していることに、彼は今ようやく気づいた。
◇
翌朝。
ミーナが家の扉を叩いた。
「アレンさん! ちょっと手伝ってください!」
「どうしました?」
「昨日新しく掘った畑の隅から、変な……光る石が出てきたんです。」
アレンの表情が一瞬で変わる。
「光の色は?」
「青です。触ったら、少し温かくて……それに、私、なんだか懐かしい気持ちになって。」
アレンは急いで現場に向かった。
畑の片隅。掘り返された泥の中に、拳大の青い石がある。
ただの鉱石ではない。確かに脈動していた。
「……これは、神核の欠片。」
「かみかく……?」
「説明が長くなります。要は、この世界の理を支える“最初の魂”の破片です。」
ミーナは不安げに眉を下げた。
「そんなものが、うちの畑に?」
「この地に眠り続けていたのでしょう。そして今、それが反応を始めている。」
アレンはしゃがみ込み、そっと触れた。
瞬間、光が彼の掌から全身に駆け抜ける。
映像が流れ込む。
――幾百年前、この地に神の血を引く民がいた。
その民は、自らの命を糧に世界の封印を維持していた。
滅びを迎えるとき、彼らは“血の誓約”によって、その力を子孫の血に刻んだ。
アレンは息を飲んだ。
血の誓約――つまり、村人たちは神核の守護者の末裔だったのだ。
「この村そのものが……封印の守り手、というわけですか。」
光が収まり、アレンは掌を見つめた。ほんのりと温かさが残っている。
彼の中で何かが確実に組み上がった。
◇
昼過ぎ。
村長の家の戸を叩くと、中からしわがれた声が響いた。
「来たか、アレン殿。」
中には村長と、その側にいた老人たち数名。
皆、異様に真剣な表情をしていた。
「やはり気づいておったか。あの石は、我らの“祈りの核”だ。」
「祈りの核?」
村長は頷く。
「この村には古より、地の神を鎮める血筋が残っておる。王国ができるより前、我らの祖が地を封印し、神の心臓をこの下に眠らせた。」
「心臓……。」
「ふたたびそれが息を吹き返せば、世界は再び“再構築”を始める。”神”が目覚めるのだ。」
アレンの背に重たい汗が伝った。
「それを 王都の者に知られたら?」
「生かしておかんだろうな。」
村長の目が沈んだ光を宿す。
そのとき、外で悲鳴が上がった。
「村長っ、南の畑が……!」
慌てて門番の男が飛び込んできた。
「地が鳴ってます! 青い光が地面から!」
アレンたちは走った。
畑の真ん中で、地面が膨らみ、光の筋が空へ伸びている。
その中心で、リィナが苦しげに膝をついていた。
「リィナ!!」
アレンが駆け寄る。
彼女の身体を通して、大地の魔力が暴走しているのがわかる。
血が、彼女の中の流れがそれを呼び覚ましている。
「やっぱり……あなたも、村の血をひいていたんですね。」
「私が……?」
「君は森の中で“別の存在と融合した”。そのもう一方が、“この地を守る神の血”なんです。」
リィナの瞳が金色に変わる。
髪が風に翻り、光が拡散する。
地面の奥から呻くような声が響いた。
まるで大地そのものが意識を持っているかのように。
「目覚めの儀を止めろ!」
アレンの叫びと同時に、村長が諦めたように呟く。
「……間に合わん。“封印”が自ら開こうとしておる。」
轟音。
畑の土が爆ぜ、青白い光が奔る。
その中心に、巨大な石柱が突き出した。
表面には数えきれない古代文字。
その上に、白い小さな石――いや、“心臓”のかけらが鼓動していた。
「これが……神核の心臓。」
「アレンさんっ、どうすればいいの!?」ミーナが叫ぶ。
「封印を逆再構築します! リィナ、君の力を貸してください!」
「でも……私、自分を制御できない……!」
「いい、僕が制御します!」
彼はリィナの背に手を当て、魔力を流した。
二人の力が混ざり、黄金と青の光が絡み合う。
暴れる大地の脈動を押さえ込み、神核の鼓動をゆっくりと眠らせる。
「落ち着け……戻れ、眠りなさい――」
やがて光が収まり、地面のうねりが止まった。
リィナの身体から力が抜け、彼の腕の中に静かに倒れ込む。
「よく頑張りました。」
アレンが優しく頭を撫でると、リィナは疲れ切ったように微笑んだ。
「これで……終わり?」
「一時的に。ですが……王都がこの反応を見逃すはずがない。」
◇
その夜。
村長の屋敷では、老人たちが集まり、密やかな議論が始まっていた。
「王都が反応を探知したのは確実だ。もう隠しきれまい。」
「奴らが来れば、また“封印戦争”の再来だ。」
「……アレン殿はどう動くと思う?」
問われた村長は長い沈黙のあと、答えた。
「彼は我々よりも強く、賢しい。だが――あの男の願いは、“平穏”だ。ゆえに、争いを嫌うだろう。だがもし、誰かがそれを壊すならば……。」
老人たちは息を呑む。
「彼は、“神をも討つ”。」
静かな声が響く。
◇
一方、王都。
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「観測部隊より報告! 北辺地区にて神性波が再活性化! 座標、ルーデン村!」
彼は立ち上がり、外套を握りしめた。
「やはり、動き出したか……。アレン、貴様、どこまで行く気だ。」
窓の外、夜空に無数の光が走る。転移術式の発動。
王都から辺境へ、神殿部隊が続々と転送されていく。
「神の血を継ぐ村……君が守ろうとした平穏は、今まさに燃え上がるぞ。」
低く呟いた声が塔の石壁に反響し、続く沈黙を破った。
そして、夜を切り裂く雷光が遥か東の空を照らす。
嵐の始まりを、誰もが直感していた。
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